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銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。(本編完結) 作者:Y.A
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第六十.五話 孫とハタハタ

 本日、光輝は出羽酒田を訪ねていた。
 酒田は、出羽織田家の本拠地が置かれている場所である。
 少し出羽の中心点からは外れているが、やはり酒田港の影響力は侮れない。

 沿海州、蝦夷、酒田、直江津、敦賀という日本海側の交易ルートの構築に、光輝は奔走する事となった。
 信長による朝鮮侵攻に端を発し、日の本と明との交易は大きく減ってしまった。
 今までは密貿易の見逃しなどで明が必要な物を輸入していたのだが、明側は朝鮮を攻めている日の本の経済力を落とすために、その密貿易の取り締まりを強化している。

 琉球、ルソン経由の貿易もあり、明もすべての貿易を物理的に止められるはずはないので交易は続いていたが、取引量の減少と交易コストの上昇は続いていた。

 西日本で打撃を受けた商人は多かったが、その代わりに浮上したのが沿海州を経由した朝貢貿易であった。

 沿海州は明に朝貢しているので、最初はその王である伊達政宗に朝鮮半島にいる織田軍の撃滅を命じている。
 だが、それを本当に実行できるかどうかは別だ。
 日の本の朝鮮侵攻により、中国東北部の女真族がざわついてきた。
 政宗が下手に朝鮮に兵を送ると、女真族が沿海州に雪崩れ込むという可能性が増してしまうのだ。

 本当にそうなるかは知らないが、政宗は明に対しそのように事情を説明した。
 実際に、明は女真族の部族抗争をコントロールできていない。
 朝鮮の混乱で、余計にコントロールが甘くなっている。

 明はじきに女真族を朝鮮へ援軍として派遣する計画を立てているが、それにすべての女真族が従うかも不透明だ。

 もう一つ、明の権力者達を困らせている事案がある。

 それは、津田領産の毛皮製品、真珠宝石製品、干物、高級生活用品などの贅沢品が入ってこなくなる事だ。
 それらを愛用している明の金持ちや権力者達は、その可能性を危惧した。
 そこで政宗に、津田領や日の本との交易を維持するようにと明が命令している。
 沿海州を挟んでおけば直接交易ではないという、半ば屁理屈な解決案というわけだ。

 戦争をしている時に不謹慎であるが、政治と経済は別と考えられる明が大人なのか? 
 それとも、明の腐敗が深刻化しているのか?

 光輝にはわからないが、津田家も経済を維持していかねばならない。
 政宗を通じての対明貿易の増強のため、荷揚げに使う酒田港を訪ねていたのだ。

『もし西日本と明の交易が回復しても、酒田は北方開拓と交易の拠点になるから損はないよね』

 そんな理由で光輝は、酒田の開発を援助していたのだ。

「ジジ」

「そうだよぉ! ジジだよぉ!」

「ジジ」

「坊丸は賢いなぁもう!」

 光輝の一番の目的は、酒田に建築された新酒田城にいる娘の愛と、彼女が産んだ孫坊丸の顔を見るためであった。
 坊丸は、父信房と同じ幼名を与えられていた。
 まだ二歳にもなっていないが、光輝を『ジジ』と呼んで彼を大喜びさせていた。

「坊丸に三輪車をもってきたぞ。これで存分に遊ぶのだ。他にも色々とあるぞ」

 子供用の三輪車は、光輝が工房に試作をさせていたものであった。
 このところ孫が次々と生まれているので、孫達にプレゼントをするためだ。
 自転車などの試作もしているのだが、問題はタイヤのパンクへの対処と、ある程度道を整備しないと乗り心地に問題が出てしまう事であろう。
 その問題が解決されるまでは、まだ試作品の域を出ていなかった。

 他にも、積木、クレヨン、手押し車、パズルなど玩具の試作品を多数持ってきている。
 これらは順次、量産して販売する予定であった。

「父上、まだ坊丸には早いですよ」

「しかしだな、愛。子供とは、親が思ったよりも早く大きくなるんだ。愛もそうだった」

 光輝は坊丸を膝に載せながら、愛姫と話をする。

「今度は、女の子もいいな」

「さあ? どちらでしょうか?」

 愛姫は、二人目を妊娠中であった。

「もし女の子なら、今日子が気合を入れて服を縫うそうだ」

 今日子は自分も女なので、女の子用の服を多数試作して次々と生まれる孫に対処していた。
 可愛らしいワンピースや、スカート、ジーンズ、Tシャツ、帽子、靴下、スニーカーなど、子供服を多数準備している。
 自分も孫が産まれた井伊直虎も、今日子に協力していた。

「父上、そろそろお時間ですよ」

「仕事の話か……坊丸、あとで一緒に夕食を食べような」

「あいーーー」

「坊丸はいい子だな」

 光輝は後ろ髪引かれる思いで、織田信房と堀秀政のいる評定の間へと急ぐ。
 そこで、出羽の統治や交易に関する報告を聞かないといけなかったからだ。

「という具合です……」

 出羽織田家は、当初の予想よりも上手く治まっていた。
 光輝の手助けも少なくて済み大変に結構なのだが、それに貢献しているのは出羽織田家の筆頭家老である堀秀政の存在であった。
 彼は名人というあだ名に相応しく、出羽を大した混乱もなく上手く統治している。
 統治が大変であろうと信長から朝鮮への出兵を免除されている点も大きかったが、庄内地方の開墾や最上川などの治水、酒田港の拡張、庄内柿、ブルーベリー、サクランボ、だだちゃ豆の栽培、鉱山開発など獅子奮迅の働きをしている。

 秀政は、光輝からの無茶振りと、信長からの期待に大きく答えていた。

「(というか、久太郎を引き抜きたいな……無理だけど……)」

 光輝は、秀政がいたらもっと楽ができるのにと内心で思った。
 もし堀尾泰晴がその話を聞いたら、『我々はもっと忙しいのですが……』と光輝が怒られてしまうであろうが。

「義父上、朝鮮の戦況はどうなのですか?」

「芳しくはないな……」

 戦線の膠着と、九州がまだ不安定なために何か少しでも混乱すると派遣軍の補給が途切れる可能性があるなど、決して楽観できる状況ではないと信房に説明した。

「実は、信孝兄からたまに文が来るのですが、最近は愚痴も多いですね」

 信孝は、最初の朝鮮派遣軍の総大将であった。
 今は自分の領地に戻って統治や開発を行っているが、家臣に兵を預けて朝鮮に送り出してるので余裕がない。
 それなのに、弟である信勝の死と、今総大将をしている兄信雄に問題がありすぎて、再び総大将になってほしいと信長から打診を受けているそうだ。
 打診を受けたという時点で信長の肉親への甘さが出ているが、当然断れるはずがない。
 よくて延期くらいであり、その間に何とか領地をもっと安定させようと信孝には忙しい状況が続いていた。

 そして、いくら努力してもどうにもならない朝鮮との戦に、次第に嫌気が差し始めてもいる。
 手紙の内容を見ればわかると、信房は光輝に説明する。

「信孝兄は真面目ですから……」

 本当は信雄よりも早生まれなのに、母親の身分が低いために信雄の弟にされてしまった信孝。
 彼は、兄信雄を見返そうと子供の頃から努力を続けた。
 ライバルがあまりにアレなので光輝に言わせると頑張り甲斐もないような気がするが、それでも信孝は立派な若者になった。
 信忠よりは劣るが、兄を支えられる有力な一門衆と見なされるようになったのだ。

 比較対象の信雄がアレなので、余計に。

 彼は真面目な努力タイプの秀才である。
 このような状況には弱いのかもしれないと、光輝は思った。

「だが、それを大殿に言うわけにもいくまい」

「そうですね……」

 今の信長に意見できる者は少ない。
 丹羽長秀、滝川一益くらいであろうが、一益はもうこの世にいない。
 彼らも、朝鮮侵攻を止めた方がいいのではないかと意見した事があったが、それは信長からやんわりと拒絶された。
 この二人だからそれで済むわけで、他の者が意見するとどうなるかわからないというのが現状であった。

 織田信長という人物は、今までに大した失敗をしていない。
 だから余計に、初めての失敗であろう朝鮮出兵を指摘するのが怖いというのが現実であった。

「義父上は、絶対に何も仰ってはいけません」

「だろうな……」

 強すぎるナンバー2である光輝が信長に物申せば、それは織田政権が分裂寸前だと世間から受け取られかねない。
 反津田家を標榜する織田家家臣が多い以上、光輝は黙って僻地である関東、東北、蝦夷、樺太などの開発に傾注しなければいけないのだ。

「もう少しすれば、明との停戦交渉が始まるかもしれません」

 五男とはいえ、信長の息子である信房には独自に信長とのパイプがある。
 信長もさすがに朝鮮での戦況に危機感を抱いたようで、水面下で一時的にでもと講和を模索し始めた。

「それに期待するしかないか……」

「はい」

 仕事の話はそれで終わったので、光輝は久しぶりに愛姫や坊丸と共に食事を取る事になった。
 メニューは、光輝が準備したハタハタ料理の数々であった。

「久太郎、出羽酒田と言えば……」

「酒田と言えば?」

「ハタハタだな」

「ハタハタですか?」

「ああ、他には候補が上がらないくらいだ。塩焼き、干物、味醂干し、田楽、ハタハタ汁、甘露煮、飯寿司に、塩漬けにして発酵させて魚醤を作り、それで鍋を作ると最高なのさ」

 やはり、酒田に来たらハタハタを食べなければいけないであろう。
 光輝の中では、惑星ネオヤマガタにある新酒田の思い出だったので、正確にはこの酒田ではなかったが。

「うま」

「そうか、美味いか」

 光輝は、ハタハタの身をむしって坊丸に食べさせていた。

「あとでプリンもあるからな」

「あいーーー」

 光輝は、再び坊丸を膝に載せてご機嫌でハタハタ料理を堪能していた。

「ただ、いくら豊富に獲れるとは言ってもだ。わかるな? 久太郎」

「漁獲制限なども必要ですね。漁師達に指導しておきます」

「産卵期の漁獲は制限するくらいしないと、すぐに獲りすぎでいなくなってしまうからな」

 さすがは、名人と呼ばれるだけの事はある。
 秀政は光輝の意図を読み、すぐにそれを行うと断言した。

「坊丸、美味いか?」

「あいーーー」

「そうか、坊丸」

 光輝は、普段会えない外孫と出羽滞在中はなるべく一緒にいようとした。
 暇さえあれば膝に載せ、ご飯を食べさせたり、一緒に庭で遊んだりと猫かわいがりしている。

「おおっ! 坊丸が立ったぞ!」

「ジジ」

「坊丸は天才だな!」

 光輝は、爺バカを炸裂させていた。

「私が嫁いだ時はあんなに寂しそうだったのに、坊丸が産まれたら、私はかなり蔑ろにされているような……」

 愛姫は、娘の自分ではなく、孫である坊丸ばかり可愛がる父光輝に少し寂しさを感じていた。

「それは、うちの父も同じだから。信忠兄のところの三法師を、『信忠の次の織田家の棟梁ぞ!』と物凄く可愛がっているらしいし。子と孫は別なのかもしれない」

 信房と愛姫はそんな話をしながら、孫を可愛がる事に夢中な光輝を眺めていた。
 そして、すべての日程が終了して光輝が江戸に帰還する事になるのだが……。

「坊丸ぅーーー! 俺は出羽に残るぞぉーーー!」

「大殿、無茶を仰らないでください! 江戸でも予定は詰まっているのですから!」

「坊丸ぅーーー!」

「ええいっ! ごめん!」

 光輝は数名の家臣によって抱えられ、強引に江戸への帰路につかされた。

「お前ら! 俺は主君なんだぞ!」

「これも津田家のためです! 我慢してください!」

「坊丸ぅーーー!」

「わかりましたから! 大殿、また出羽に来ましょうね?」

 光輝は孫の坊丸と別れたくないと駄々をこね、御付きの家臣達によって強制的に江戸へと連行されて行った。

「義父上、江戸にも沢山孫がいるのに……」

「坊丸は普段会えないから、余計に執着したのかも……」

 信房と愛姫は、体が大きな光輝を数名の家臣達が強引に抱えて酒田城から離れていく光景を、半ば呆れながら見つめ続けるのであった。
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