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銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。(本編完結) 作者:Y.A
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第四十六話 遠征、津田水軍

「弾正、大和から領地を動かすぞ」

「はい、できれば関東に近い方がいいですな」

 降伏した久秀に対し、信長は大和からの移封を命じた。
 これは大和が山城に近く、畿内において重要な位置にあったからである。

 信長は久秀が反発すると思ったのだが、逆に遠方への転封を希望する始末であった。

「奥州でも構いません」

「そんな場所で大丈夫なのか?」

 信長は、久秀の意図がわからなかった。
 この国の中心地である畿内から、好き好んで大田舎の関東や、僻地である奥州への転封を希望するのだから。

「実は、大切な事に気がついたのです」

「大切な事とは?」

「津田殿からこーひー豆を定期的に仕入れねばならないのですが、焙煎したあとの豆は香りが飛びやすい。津田殿の領地に近い方が仕入れが楽ですから。じきに自分で焙煎の方を何とかしなければいけないのですが」

「そうなのか」

 信長はコーヒー狂いになってしまった久秀に驚きつつも、大和を織田家の影響下に置けるので、彼の希望を叶える事にするのであった




「やはりこーひーは、水出しで湯煎が一番ですな。茶道と同じく、相手に最高の物を出してもてなすという事が大切なのです。水出し焙煎器を、茶室に相応しい形に改良する必要が……」

 江戸城内において、光輝に挨拶に来た久秀は嬉しそうにコーヒー談義を続けていた。
 結局、松永家は駿河に転封になった。
 光輝は領地を減らされた形になったが、さすがに今回は信長も悪いと思ったようで、代わりに上野が与えられている。
 上野の前領主であった一益は大和に移動し、これで石山包囲に集中できるようになった。

 だが、それでも石山は落ちない。
 相当な犠牲が出ているはずなのだが、相手は宗教組織なので犠牲を屁とも思っていないのだ。
 毛利水軍からの補給も続いていて、それを阻止する九鬼水軍と泥沼の消耗戦になっている。
 状況を打開すべく信長は新しい船の建造を進めていたが、これの完成にはもう一年ほどかかる予定であった。

 津田水軍は、石山戦に忙しい九鬼水軍の代わりに支配領域の通商護衛、ルソン、マカオ、蝦夷などとの貿易、津田領開発のための物資輸送などで忙しくなっている。

「もし再び松永家が謀反を起こしても、徳川家、津田家に挟まれて何もできないというわけですか。越後の龍への対処もあるか」

 関東全域を支配する光輝であったが、一番の懸念は上杉謙信の存在であった。
 彼は関東管領の職にあるので、いつそれを大義名分に南下してくるか信長は心配していたのだ。

「古河公方との連携はないと思いますが」

 古河公方足利義助は、古河城で討ち死にを遂げた。
 この件で光輝は義昭に叱責されたのだが、元はといえば義助が上杉景虎と組んで反乱を起こすのが悪いのだ。
 そう信長から言われ、義昭にも後ろ暗い面も多かったのでそれ以上は何も言えず、光輝は処分を受けなかった。

 義昭は、すぐに新しい古河公方を送ってきた。
 だが、新しい古河公方が連れてきた数名の家臣のみでは何もできない。
 関東にいた家臣団は、反乱に参加して討たれるか、三淵藤英のように津田家に仕官してしまった者が多く、新古河公方もわずかな金銭だけ与えられて前以上に飼い殺しにされていた。
 何とかその状況を打破しようとしても、関東の民は長年続いた戦乱が消え、大規模な開発で豊かになっている今を好ましいと思っている。
 それを成した光輝を支持し、古河公方の存在を完全に忘れ去ってしまった。

「謙信は、壮健とは言い難いですからな。自分の死後の事を考えているのでしょう」

 どこから仕入れたのか?
 久秀は、謙信の健康状態を掴んでいるようであった。
 実は、前に今日子の検診を受け、散々に生活習慣の悪さを指摘されていたのだ。

「塩分の取り過ぎ、酒の飲み過ぎ。典型的な若死にする事例ですね。痛風の症状もありと」

「どうすればいいのだ?」

「禁酒! 塩分の量を抑えた食事に切り替える! このままだと、寒い季節に風呂か厠で突然死ですよ! 今この瞬間にそうなっても不思議ではないですね」

「それは困るのだが……」

「困るのなら、節制してもらいませんと」

 光輝にとっては寡黙で怖いオジさんなのだが、今日子に叱られると謙信はしょんぼりとしてしまう。
 相手が女性なので、怒るわけにはいかないと思っているのかもしれない。

 光輝は『毘沙門天の化身、生活習慣の悪さを指摘される』と自分でタイトルを考え、おかしくなってしまった。

『謙信が……ぷぷっ!』

『清輝、お前は人の事を言えない』

 光輝は知っていた。
 自分が結婚する直前、清輝は休日にも部屋から一歩も外に出ずにジャンクフードばかり食べていたので、謙信と同じく今日子から生活習慣の悪さを指摘され、ある程度時間をかけてそれを直されていたのを。

『厨二病患者って、売れないロックンローラーみたいに生活習慣が悪いと格好いいと思っているのか?』

『兄貴、その妙な例えは何よ?』

 光輝から奇妙な指摘をされ、清輝は顔を顰めさせていた

「推奨する食事の献立や、生活習慣での注意事項です。景勝様に迷惑をかけないよう健康に留意するように」

「承知した」

 謙信は、今日子からもらった注意事項の書かれた紙を大切そうに越後に持ち帰った。
 上杉家は佐渡と出羽への出兵を終えると、津田家のように得た領地の大規模な開発を始めたようだ。
 資金は金銀が豊富にあるので、それで関東から食料を購入し、開発に参加した領民達に配って働かせていると報告が入ってきた。

「今日子殿の言うとおりです。健康には留意しませんと」

 とうに六十を超えている久秀は、今も健康そのものであった。
 独自の健康法を実践しているそうだが、これに今日子からのアドバイスも加えてパワーアップさせているらしい。

「暫くは死ねませんからな」

 という久秀であったが、光輝には久秀が死ぬというイメージが思い浮かばなかった。




 そして、天正五年の末。
 信長の命令で十隻の鉄張り大安宅船を建造した九鬼嘉隆は、それらを先頭に石山沖へと突入した。
 石山付近の海域にいた毛利水軍が防戦を行うが、大筒と大鉄砲によって指揮官の乗る船が狙われて沈められてしまう。

 これにより指揮の統一が乱れた毛利水軍は撤退を開始するが、彼らには更なる不幸が訪れた。

「しかし不思議だ。この船は木でもなく、鉄でもなく……」

 この戦いに参加すべく津田水軍を指揮している九鬼澄隆は、炭素繊維強化プラスチック製新造船への疑問が尽きなかった。
 新地から江戸へと移動した、津田家の奥の院で主君光輝の弟と謎の奏者キヨマロ達が提供する謎の船だが、丈夫で使い勝手はいい。

 木造船の建造も続いていたが、これに生産が拡大している鉄を用いた船も試作が始まっていた。
 輸送、交易用の大小の船に、様々な用途に応じた軍船も多数建造され、澄隆は指揮下に組み込んだ旧熊野、武田、北条、里見他水軍衆だけで足りず、新たに人を教育してその規模の拡大を図っている。

「交易が拡大し、その護衛用の艦船の戦力化も忙しく、殿が将来的には水軍の方が主力になると仰っていたのは本当だったな」

「はい、我ら津田水軍拡大のためにも、今回の作戦は成功させませんと」

 澄隆に従って志摩九鬼本家を抜けてきた老臣が、澄隆と話を続ける。

「本家を継ぎ、織田水軍を任された嘉隆様よりも、こちらの方が面白いですな」

「面白いが、大胆不敵な作戦だな」

 表向きは沿岸警備と貿易で忙しくて石山に兵を出していなかった津田水軍であったが、実は密かに豊後水道から瀬戸内海に入り、石山へと向かっていた。
 毛利水軍を挟み撃ちにして壊滅させる作戦である。

 途中、残存していた村上水軍以下、毛利方の水軍が邪魔をしてきたが、すべて大筒、鉄砲、簡易ナパーム壺で撃沈、撃退している。

 簡易ナパームは石油を元に精製して素焼きの壺に入れた物で、原料の石油は信濃、越後、遠江から購入していた。

 徳川家や上杉家では油の代わりにする以外使い道がわからないらしく、採掘を頼むと安価で売ってくれた。
 壺の中にゼリー状のナパームの元が入っており、壺に付いている紐で敵の船に投げ入れてから火矢を使って着火する。
 一度着火すると水をかけても消えないので、津田水軍を迎撃した敵船の多くは燃えて沈んでしまった。

 港の岸壁に停泊している船も津田水軍の小型快速船が容赦なく焼き払い、瀬戸内海の水軍衆で津田水軍に立ち向かった者達に多くの犠牲が出た。

 小早川、塩飽、児島、乃美の毛利指揮下の水軍は、このままでは石山に出撃した村上武吉指揮下の水軍が挟み撃ちになるからと応戦し、余計に損害を増やしている。

 無事に瀬戸内海を突破した津田水軍は、小豆島付近で石山から撤退してきた毛利水軍を発見する。

「一隻も生かして帰すな!」

 澄隆の命令で、津田水軍は敗走中の毛利水軍に襲いかかる。

「バカな! なぜ瀬戸内海を抜けてこられたのだ!」

 まさか留守部隊が壊滅したとも知らず、村上武吉は津田水軍の攻撃に味方を個々に応戦させるのが精一杯であった。
 生き残った毛利水軍の船は大量の鉄砲と大筒によって多くの犠牲者と損害を出し、簡易ナパーム壺によって次々と火をかけられて沈んでいく。

「澄隆、挟み撃ちなどと無謀な策を思ったが成功させたか!」

 敗走する毛利水軍を追撃してきた嘉隆指揮の九鬼水軍も攻撃に加わり、その損害が鰻登りに増えていく。
 もはや村上武吉でも、自分だけが逃げるので精一杯の状態だ。

「今は生き延びる方が優先だ! 捲土重来、ここは逃げるぞ!」

 壊滅した毛利水軍は出発時は六百隻以上あったが、何とか逃げ帰れたのは二十隻ほど、それも小型船ばかりであった。
 生存者も少なく、生き延びた彼らは留守部隊も大損害を受けていた事を知る。
 港や船の修理設備なども焼かれ、再建すら困難な状態になっていた。

「お頭は戻らぬのか……これから村上水軍はどうなるのだ……」

 生存者の中に村上武吉はおらず、毛利水軍は人も船も失ってその力を大きく落とす事となった。
 石山の制海権の保持も困難で、遂に石山は完全に孤立する事となる。
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