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銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。(本編完結) 作者:Y.A
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第三十五.五話 家康の思い出と浜名湖の名産品

「西遠江を得たが、これは一時的なものと考えるべきだな」

「今は家臣団が壊滅しておりますが、大殿は信康殿に遠江を与えたいでしょうからな」

 西遠江を得た光輝であったが、これは一時的なものだと考えていた。
 正信も同意見であり、今は浜松城の強化を優先している。

 武田軍のせいで東遠江や駿河から流れてくる流民も多く、光輝はなぜ信長から西遠江を与えられたのか理解できた。
 もし今の徳川家に任せておけば、三河まで崩壊してしまうからだ。

 三河の統治が崩壊すれば、その被害は尾張にまで波及する。
 そして、信玄はそれを狙っている節がある。
 ここは、光輝が何とかしなければいけないというわけだ。

「大赤字でどうにもならんな、これは」

 大量に流れてくる流民に移住先やとりあえずの衣食住を保証しつつ、浜松城と軍備の増強も必要であり、新地家の財政は大赤字の状態であった。
 勿論、表向きの財政はであったが。

「今は、蓄えがあるので何とか……」

 正信としても、ここで光輝に対し信長に文句を言えとは言えなかった。
 伊勢志摩、伊賀、紀伊の領主である光輝に、猜疑の目を向ける織田家家臣は多い。
 武田家なども、積極的に噂などを流して離反工作を行っている可能性が高い。

 信長は信じていないが、いつ気が変わるかもしれない。
 新地家の舵取りは決して楽ではなく、織田家からの猜疑をかわすために、ここは多少の損を切っても仕方がないと正信は思っていたのだ。

「景気の悪い話ばかりしても仕方がないか。飯にしよう」

「そうですね」

 今日は、新地軍の幹部が集まっての食事会であった。

「浜松城のいいところ。それは、浜名湖の豊富な産物」

 今から数十年前は淡水湖であったそうだが、地震と津波により遠州灘と繋がって汽水湖になったと光輝は聞いている。
 汽水湖になった浜名湖は、ウナギ、スズキ、キス、カレイ、カキ、生ノリ、スッポンの漁場として有名で、遠州灘でも豊富な海の幸が獲れる。

 特に有名なのはシラスとハモで、当然光輝は金に物を言わせてすべて取り寄せていた。

「昼はウナギ料理にしたぞ」

「「「「「おおっ!」」」」」

 家臣達への慰労も兼ねて、光輝は昼食にうなぎ料理を出した。
 定番のうな重に、ひつまぶし、肝吸い、骨煎餅と、正信や清興達は美味しそうに食べている。

「大変だとは思うが、頑張ってくれ」

「これほどのご馳走が食べられるのであれば、頑張り甲斐もありますとも」

「そうですな。うな重も美味しいですが、このひつまぶしは熱い出汁をかけるといくらでも食べられそうで」 

「再び気力がみなぎってきましたとも」

 正信達は、大満足で午後からの仕事に向かう。

「夕食にも期待していてくれ」

 夕食にはスズキの洗い、ムニエル、奉書焼、フライ、ソテー、煮物、皮の炙り焼きなどが出た。
 まだ環境破壊が少ない時代なので、スズキは捨てる部分がない優れた食材であった。

「夜も素晴らしい食事ですな」

「俺達は家族とも離れて、浜松城生活だものな。いい物くらい食おうぜ」

 西遠江に、家族を連れてきている家臣や兵はいなかった。
 いつ戦場になるかわからないので、みんな単身赴任状態だったのだ。
 そんな生活なので、光輝はストレスを発散させようと食事をよくしていた。

「今日は、シラス丼とカレイの煮漬けだ」

「「「「「おおっ!」」」」」

「今日は、焼き牡蛎に、牡蛎のフライ、牡蠣の土手鍋、かきめし、カキ入り卵焼き、カキスープを作らせたぞ」

「「「「「美味そうですな!」」」」」

「おやつに、浜名湖焼きを作ってみた」

「シラスと海苔の風味が最高ですな!」

「今夜は、ハモ料理尽しだ! 湯引きに、吸い物、土瓶蒸し、鱧寿司、天ぷら、鱧の蒲焼、唐揚げだ!」

「浜名湖とは最高の漁場なのですな」

 こんな感じで光輝は、数日置きに家臣達に美味しい料理を振る舞い、その士気を落とさないように努力する。
 自分が食べたかったからというのが一番大きいが、家族とも別れて単身浜松城生活なのだ。
 このくらいの贅沢は許されるであろうと思っていた。

 そして、今日は調理人に何を作らせようかと悩んでいると、突然正信が駆け込んできた。

「殿! 大殿がもうすぐここに来られるそうです!」

「えっ? 全然聞いてないけど……」

 いつ武田軍との戦が再開するかもしれない浜松城に、まさか光輝も信長が直接視察に来るとは思わなかったのだ。

「とにかく、お迎えの準備を!」

「わかりました!」

 光輝以下みんなで準備をおこない、何とか信長が到着するまでに最低限の準備を整えるのに成功した。

「殿、突然のお越しに驚きました」

「うむ、我は信康に責任があるからな」

 信長は、三河に出向いたついでに浜松城まで足を延ばしたようだ。
 徳川家の跡を継いだばかりの信康は娘婿であり、手助けをしてあげなければいけないと思っているのであろう。

「我と竹千代……家康は、子供の頃から馬が合っての……」

 そんな二人だからこそ、信長は尾張より西は織田家、三河から東は徳川家という同盟を結んだのだと、しみじみとした表情で話す。

「我が天下を統一した暁には、家康に東国を任せようと思っていたのだがな……よもや、焦りでその才を散らすとは……いや、もう終わった事だな。此度の敗戦の責任に信盛がいる以上は、我は信康の面倒を見てやらねばならない。対等な関係は無理だが、三河と遠江、最低でもこの二か国は保証してやらねば。それが、我が家康にしてやれる責任でもあるのだ」

「そうですね」

 将来的に新地家から西遠江を没収するという事だが、光輝はそれに異を唱えなかった。

「すまぬな」

「いえ、お気になさらずに」

 信長は、光輝に理不尽を強いている事がわかっているから、予定を変更してわざわざ光輝に会いに来たようであった。
 光輝は、意外といい殿様じゃないかと信長を見直した。

「家康がいない以上は、ミツに東を任せるしかないな。あくまでも予定だが……」

 どうやら、新地家は将来東国を任されるようだ。
 光輝は、将来の引っ越しを覚悟する。

「と、難しい話はここまでだ。ところで、噂によるとミツは正信や清興達と共に毎日浜名湖の産物を大いに楽しんでいると聞く。我は、三日ほど滞在するからな」

「わかりました(やっぱり……)」

 光輝は感動して損をしたと思いつつも、信長は悪い人ではないのだと思い直す。

 その後信長は本当に浜松城に三日間も滞在し、その間、光輝達が食べた様々な浜名湖産の食品を使った料理やデザートを堪能してから安土へと戻るのであった。




「貞勝、戻ったぞ」

「ご無事のお着きでよろしゅうございました(大殿、浜名湖には、それほどまでに美味しい産物が……)」

 安土で留守番をしていた村井貞勝は、半月ぶりほどに見る信長が少し太っているのに気がつき、自分も付いて行きたかったと思ってしまう。

「貞勝、ミツからの土産だ」

「私にですか?」

 別に貞勝が信長から心の内を読まれたわけではなく、信長が留守の間、貞勝が色々と大変であろうなと思った光輝からの心遣いであった。

「我ももらったが、この牡蛎とあさりと鰻の佃煮の美味さは格別だぞ。湯漬けに入れると最高に美味い」

「ありがとうございます! 大殿!」

 貞勝は明日からも頑張れると、信長から嬉しそうにお土産を受け取るのであった。
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