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銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。(本編完結) 作者:Y.A
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第二十二話 上洛

「織田殿のお力により、三好三人衆を京から追放していただきたいのです」

 永禄九年の秋、岐阜に足利義輝の弟一乗院覚慶が数名の幕臣と共に姿を現した。
 義輝暗殺後、三好三人衆と松永久秀が第十四代将軍として義輝の従弟足利義栄を傀儡として擁立したので、覚慶は邪魔だと思われて暗殺されかけたからだ。

 覚慶はからくもそこから逃れ、正当な征夷大将軍となるのを助けて欲しいと信長に頼んだ。
 信長は、彼らからの要請を受け入れた。

 その前に覚慶一行は朝倉義景にも同じ要請をしたそうだが、これは断られてしまったそうだ。
 光輝は内心、『足利将軍家はもうオワコンなんだろうな』と思っているが、零細でも社長をしていた人物だ。 
 空気は読んで、決して口には出さないようにしている。

「新地殿、貴殿の名に関して義秋公はお構いなしとの仰せである。伊勢志摩守護職も与えるとの仰せ、織田殿に従い京に軍勢を出すべし」

 信長が要請を受諾した以上、家臣である光輝が拒否する理由などない。
 特に欲しいとか思わないが伊勢志摩の守護職ももらえるそうで、でも赤字だよなと思いながら兵を集めに新地に戻った。

 信長と光輝の助けが得られると事が決まると、一乗院覚慶は還俗して義秋と名を変えた。
 岐阜に到着した彼に、多くの幕臣達が集まってくる。
 義秋を三好三人衆の魔の手から救い、彼の逃亡に付き従った者も多いが、義輝暗殺後に逃げていたが復権のチャンスとばかりに集まってきた者も多い。

 細川藤孝という有能そうな男が光輝にも参加を促すのだが、どうもいい印象を抱かない。
 幕臣なので名門の出なのであろうが、なぜここまで上から目線なのだと光輝は思ってしまうのだ。

『ミツ、頼りにしているぞ』

『殿、伊勢志摩の守護職は必ず必要になりますぞ』

 信長に気を使われ、泰晴にも参加を促されたので、新地軍は織田家と共に義秋を奉じて上洛を開始する。
 これには、同盟を結んでいる浅井長政も参加した。

 両軍は合流して、昨日の敵は今日の友とばかりに三好三人衆と結んだ六角家の居城観音寺城が落とし、南近江の豪族達を滅ぼしたり降伏させた。
 浅井家からすれば、六角家は不倶戴天の敵である。
 奮戦して多くの豪族を討ち、降し、城を落としていく。

「浅井家如きが! 信長の威を借る狐ではないか!」

 本拠地を落とされた六角義賢、義治、義定他一族と一部家臣は、甲賀郡に逃げ込んで織田軍に対抗しようとした。
 南近江は代々六角家の縄張り、ゲリラ戦に徹すれば抵抗可能だと判断しての逃亡だ。
 過去にもそうやって甲賀郡に逃げ込み、そこから復権した祖先もいたので、六角家の常套手段というわけだ。

 ところが、甲賀郡についた三人は新地軍によって捕われる事となる。

「残念でした、新地軍は伊賀越えで別行動だったのさ」

 上洛に伴い、信長は光輝の対伊賀工作を真似て、甲賀五十三家を織田家直属の忍び軍団として使う決断をした。
 多くの者が織田家に雇われる事となり、彼らは美濃の山奥に住処を移す事となる。
 残された者達も、足利義秋に従う和田惟政が甲賀郡の郷士出身なのでその統率を任される事となる。

 六角親子が逃げ込む前に、甲賀郡は織田家に降っていたのだ。

「首を刎ねよ!」

 信長が取り成す間もまく、義秋は六角親子三人の首を刎ねるにように命令する。
 兄を討った三好義継、三好三人衆、松永久秀と内通して自分の上洛を阻止した彼らを許せなかったのであろう。

 語気を荒げながら、信長に命令した。

「上様の命により、お覚悟を」

 信長は使い道があるので赦免してもいいと思っていたが、義秋が赦さないので仕方がない。
 三人は首を刎ねられ、後に京で『反逆者』として首を曝された。

「先を急ぐぞ」

 ここで甲賀軍を落とした新地軍一万人とも合流し、織田、浅井連合軍は山城へと向かう。
 新地軍は光輝を大将に、本多正信、正重兄弟、堀尾方泰、日根野弘就親子、島清興などが参加している。
 清輝は相変わらずのヒキコモリで、今日子は三人目を、お市ももうすぐ出産なのでついて来なかった。

「ミツ、浅井長政殿だ」

「新地光輝と申します」

「浅井長政です。伊勢の覇者の噂はかねがね」

 光輝は、生まれもわからぬ身で弟と共に短期間で伊勢志摩を完全掌握した事から、世間からそのようなあだ名で呼ばれていた。
 厨二病である清輝なら喜んだかもしれないが、光輝は正直気に入っていない。
 そう呼ばれると恥ずかしくなってしまうからだ。

「家臣の皆が頑張ってくれたのです。俺は軽い神輿ですから」

「伊勢の覇者殿は謙虚なのですな」

 年齢も近く優し気な若者である長政に、光輝は好印象を抱いた。

「近いうちに、ミツの義弟にもなる」

 信長は、長政に自分の妹を嫁がせる事を決めた。
 長政は二十一歳で、お市の妹でもある乃夫(のふは十五歳。
 年齢的にもちょうどいいと、信長は判断したようだ。

「共に、これからも義兄である我を支えてくれよ」

「「ははっ!」」

「では、京に参るとするか」

 織田、新地、浅井連合軍七万人が山城へと向かう。
 三好、松永連合の動きが気になるところであったが、彼らは可能な限りの軍勢を集め、近江と山城の間で待ち構えていた。

 その数四万八千人、数の少なさは防戦戦であるという事と、地理に詳しい点も生かして何とかするらしい。

「家康殿が率いる三河衆の助けは借りられなかったが、二人の頼もしい義弟がいる。かかれや!」

 信長の合図で、三好・松永連合軍と織田・新地・浅井連合軍の両軍が激突する。
 織田方が攻め、三好方が防戦しながら、三好・松永連合軍は織田方の損害を蓄積させて撤退させようとする。

「信長殿! 本当に勝てるのか?」

「安心めされよ、義秋殿」

 義秋は、同行していた家臣団に、南近江で合流した者達も加えて二百名ほどの小勢を編成、だが戦闘には参加せずに信長のいる本陣に詰めている。
 元々僧籍にいて戦に慣れていないようで、自分が直接戦闘に巻き込まれないか不安らしい。
 声を上ずらせながら、信長に声をかけた。

「(将軍の器にあらず)」

 武家の棟梁である征夷大将軍になろうとする者が、この程度の事で動揺する。
 信長は、先代義輝と比べて義秋が劣っていると判断した。

「戦況!」

「はっ! 我が軍が有利です」

「左翼か……」

 信長は、左翼に配置した新地軍に視線を送る。
 新地軍が主に戦っているのは、大和に拠点を置く松永久秀であった。

「猿芝居であるな」

 実は、松永家はとっくに織田方に降っている。
 久秀が中国磁器の取り引きで光輝と懇意であり、その縁で信長に降伏したのだ。
 その時に名茶器である九十九髪茄子を信長に渡したため、久秀の降伏と大和一国安堵が認められている。

「決戦かと思いきや、既に勝敗は決まっているわけだ」

 対面した松永軍八千人に対し、新地軍はまばらに空砲と訓練用の矢を飛ばし、向こうも同じ事をした。
 新地軍は余力で、久秀の隣に陣を張る岩成友通の軍勢には激しく鉄砲と矢を撃ちかけている。

 数で勝る上に、松永軍が裏切っているのでは勝ち目などあるわけがない。
 徐々に三好軍の損害が蓄積されていき、止めで松永軍が返り忠を打って岩成軍へと攻撃を開始した。

「裏切ったか! 弾正!」

「これも乱世の定め、悪く思わないでくれ、友通殿」

 戦力差が広がり、正面と左側の二方面から攻められた三好軍は徐々に崩壊し、戦場を離脱する国人衆が増えていく。

「撤退だ!」

 三好義継が、本軍を撤退させる決断をする。
 それに三好三人衆の軍勢も続くが、信長は更なる追撃を命じた。

「討てる時に討つのだ」

「信長殿、無理に追わずとも今は京に入る方が優先であろう?」

「後の安全のためです」

 信長は、戦に疎い義秋に内心で舌打ちする。
 知らぬなら、せめて口は出すなと思ったからだ。

「追撃は、山城の平定も同時に行えますので」

 松永軍も加えた織田軍は、三好義継の降伏と、三好三人衆が船で四国に敗走するまで追撃を続け、畿内の要所を落とし続けた。
 山城に戻ると、信長は木下藤吉郎に荒れ果てた京の掃除や整備を命じ、朝廷に献金をおこない、義昭と改名した義秋を足利幕府第十五代将軍に据える。

「信長殿は、父にも等しい存在ぞ」

 これに喜んだ義昭は、信長に管領斯波家の家督継承、もしくは管領代・副将軍の地位などを勧めたが彼はこれを断り、和泉一国と堺の支配権のみを得ると、新しく迎えた家臣明智光秀を京に置いて岐阜へと帰還する。

「弘就、伊勢に戻るか?」

「そうですな。どうせまたすぐに上京する羽目になりますけど……」

 義昭を将軍にしたから、もうお仕事は終わりのわけがない。
 三好三人衆は、三好家の本拠地である阿波、讃岐からいつでも軍勢を引き連れて畿内に入れるからだ。
 今回は簡単に降せた摂津などは国人衆の力が強く、彼らはその時に応じて簡単に従う相手を変えてしまう。
 油断はできないというわけだ。

「長政殿、一旦岐阜に戻るが何かあったら頼むぞ」

「お任せ下さい」

 信長は岐阜に戻り、光輝も軍勢を伊勢に戻す事になる。

「お主は北畠伊勢国司家を潰した成り上がりだが、現状を認めないほど余は狭量ではないぞ」

 光輝が早く帰ろうと思ったのは、伊勢志摩守護職をもらうために義昭に謁見した席でこう言われたからだ、

「兄を殺した松永ずれは打ち首が適当だと思うのだが、信長殿が頼むからの。反省して、余のために尽くせよ」

 降伏した松永久秀にもこのような態度であり、二人は共に不機嫌になりながら帰国する事となる。



「あのバカ将軍め!」

「せめて、そういう事を表立って言わぬ分別はないのか!」

 元々交流があり、共に義昭が嫌いになったので帰りに二人は仲良くなった。
 これ以降、光輝は久秀とは共に茶会を催したりして年齢の離れた友人同士となっていく。
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