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銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。(本編完結) 作者:Y.A
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第二十話 対朝廷工作、貴族貧乏すぎだろう……。

 伊賀と紀伊での戦いが終わった直後、光輝の秘書をしている正信は、突然彼の弟である清輝に呼び出された。
 実は正信は、清輝の事をよく知らなかった。

 新地家の財務を一手に引き受け、他にも金稼ぎや領内の開発、新技術による生産と機密保持を行っている優秀な人物だと聞いているが、ほとんどその顔を見た事がなかったのだ。
 他の家臣達も似たような状態で、一番顔を合せているのは内政を担当する堀尾泰晴と、その補佐をしている山内康豊だと聞いている。

 そんな清輝に、正信は呼び出された。
 正信は、大いに興味をそそられる。
 自分はどのような用事で呼び出されたのであろうかと。

「そろそろ僕も結婚しないとね、義姉さんや泰晴もうるさくなってきたし」

「それは結構な事ですな」

 清輝が独身という事実を、多くの家臣達が心配していた。
 生まれた子供に新地家の分家を立てさせて財務を継がせ、今の恵まれた状態を維持して欲しいからだ。

 家臣達だって、子供達の将来が心配なのだから。

「僕が思うに、武家から嫁を取ると面倒だと思うんだ」

「それはありますな」

 手をあげる家は多いと思うが、織田家からだと光輝との力関係に問題が発生する可能性がある。
 光輝と清輝の対立を織田家が煽って、その隙に新地家の経済力と技術を奪うかもしれない。
 疑いすぎかもしれないが、今はこんな時代だ。
 警戒するに越した事はないと、正信は考えた。

 次に、家臣から嫁を迎え入れるとなると外戚の専横という危険性が増す。
 そう考えると、武家の娘は候補から外した方がいいと正信も思った。

「そこで、貴族の娘を嫁にしようかと」

「貴族ですか……」

 悪くはないと思うが、如何せん新地家は出自が怪しい。
 蛇の道は蛇で方法はあるのだが、色々と工作が必要なのだ。

「正信に任せるから、貴族対策というやつを」

「つまり、私に京に行けと?」

「もう一つ、兄貴の任官の件もある」

 ここで光輝が正式に伊勢守の官位を受け、この地の支配を正当化したい。
 そうすれば、争わないで従ってくれる人も多いであろうと。

「朝廷への献金に、協力者への報酬も準備したから」

「ならば、必ず成功させますとも」

 順調に出世はしているが、これを成功させれば自分の外交官としての名声も上がるはず。
 正信は、頑張ろうと決意した。

「それで、どのような家の娘を?」

「あまり位が高い貴族の家は面倒だから、下級貴族でいいんじゃないの?」

 あくまでも、貴種を受け入れたという事実のみが必要というわけだ。

「他に条件などは?」

「容姿はこれで」

 と言いながら、清輝は正信に一枚の絵を渡す。

「清輝様、これは?」

「僕の好みの女性」

 そこには、珍奇な衣装と髪型をした目の大きな少女が描かれていた。
 正信は初めて見る画風に驚くが、これは前に光輝と今日子が見て呆れた『魔法少女メルティークィーン』のメルちゃんのイラストだ。
 こことは流れが違う超未来において、小さな女の子達と大きなお友達に大人気な魔法少女アニメの主人公であった。

「随分と斬新な画風の姿絵ですな……」

 超未来で流行している萌え系イラストに、泰晴に続き正信も大きな衝撃を受ける。
 今まで見た事もない画風なので、そのショックは大きかった。

「前に泰晴が探すって言ってたんだけど、彼は忙しいしね」

 泰晴は新地家で内政を担当する家臣のトップであり、戦の度に領地が増えるので大忙しであった。
 とても、清輝の嫁を探すどころではないのだ。

 正信の目から見ても泰晴は色々と大変そうで、彼に任せると罪悪感を覚えてしまいそうだ。

「というわけだから、この件は正信の担当という事で」

「誠意、努力してみます……」

 この絵に似た貴族の女性、物凄く無茶な命令であったが、それでも今の自分は光輝の秘書、諜報部門の元締め、時に外交官としても活躍して幹部の一人と目されるようになった。
 その恩に報いるため、主君の弟の好みに合う女性を探すくらいは、大した問題ではないと思う事にする。

「(こんな女性、本当に存在するのであろうか?)」

 内心で思う疑問はとりあえず捨てて、正信は新地水軍が出した船でまずは堺へと向かうのであった。





「本多正信様ですね? 新地様にはお世話になっておりまして」

 堺に到着すると、正信は堺会合衆の一人天王寺屋の主津田宗及を訪ねた。
 来訪を告げると宗及はすぐに姿を見せ、正信に挨拶をする。

「織田様より、新地様の任官を手助けするようにと頼まれておりますので」

 織田家は天王寺屋と取引があった。
 その縁で、光輝の任官を助けて欲しいと頼んでくれたようだ。

 義理の弟であり、家臣以上同盟相手以下の存在に成長した光輝に信長は気を使っているわけだ。

「こちらといたしましても、新地様の任官を是非にお助けしたく」

 中国磁器のオークション以降、天王寺屋は新地家との取引を開始した。
 特に大取引となっているのは、京を含む堺周辺の寺院に卸す干し椎茸とハチミツ、ビタ銭を永楽通宝に交換する事業の委託であろう。

 おかげで、天王寺屋の備蓄銅銭は全て永楽通宝となり、取引きでこれほどの信用度はないという評価を受けている。
 その評価を得るのを助けてくれた新地家の願いなら、よほど無茶でなければ叶えて当然というわけだ。

「懇意にしている貴族の方々に少々のお礼を出し、朝廷への献金を行えば官位は確実に貰えましょう」

「それはよかった」

 正信は、新地家の出自の怪しさから『もしかすると駄目なのでは?』と思っていた。

「新地様の出自は不詳、不詳ならいくらでもやり方はあるのですよ」

 宗及は、既に懇意にしている貴族に依頼して家系図の改ざんを頼んでいるそうだ。

「その地に覇を唱えた方が、名門の傍流やご落胤を名乗る。珍しいお話ではありません。実際にその地を得てお力のある方なのですから、ある程度のお目こぼしはありますよ。加えて、貴種にご用命があれば、それは貴族の生活の種というわけです。彼らも、霞を食べて生きているわけではありませんからな」

 この時代の、貴族と朝廷の困窮ぶりは酷い。
 地方の荘園が横領されて収入がなく、副業に精を出してる者も多かった。

「本多様、ご一緒に京に参りましょうか?」

 天下の大豪商である宗及と共に京に向かうと、話はとんとん拍子に進んだ。
 幾人かの貴族を訪ね、宗及がご挨拶と贈り物をすると彼らはニコニコしながら正信を歓迎する。

「新地殿の朝廷に対する篤志の志、我ら感動の極みですな」

 全て永楽通宝で一万貫という朝廷への献金に、仲介した貴族達にも合計二千貫の献金を行っている。
 機嫌がよくて当然であろう。

「従六位上伊勢守への任官が決まりましたぞ」

「ありがたき幸せ」

 家系図をでっちあげて、源氏の傍流の傍流、織田家よりも少し家格が低い設定にして、同じく朝廷に多額の献金をしている信長に気を使った。
 貴族らしい配慮である。

 階位が従五位下よりも低いのは、血筋の怪しい光輝を貴族にしないためである。
 同時に伊勢国司職も兼任とされ、これを所持している北畠具教、具房親子のために、前よりも高い官位を与えてもらうための工作も、金を渡された貴族が勝手にやってくれた。

「万事、順調に終わっておりますれば」

 あとは、朝廷からの使者が新地に向かう予定だと貴族は説明する。

「公方の方は残念でしたな」

 念のために足利幕府の方にも守護職任命を求めて活動したのだが、こちらは失敗に終わっている。
 将軍義輝が、北畠家に伊勢を返還せよと命じたからだ。

 これには、北畠具教、具房親子親子も困惑した。
 彼らは貴族扱いで京に屋敷を構え、伊勢時代に築いた資産、光輝からの旅費に、京の情勢を新地家に伝えると季節の送り物が届くようになったので、ある程度の家臣を抱えても悠々自適の生活が送れた。

 具教は剣術道場も開いて弟子を集め、貴族とも交流があるので既に伊勢に野心などなくしていたのだ。
 むしろ、既に家臣団が崩壊しているので伊勢に戻っても統治など出来ない。

 義輝の言い分に、北畠親子は逆に迷惑していた。

「新地殿のお名前が気に入らんそうでして」

 勝手に自分の名を使うなという事らしい。
 と言われても、光輝も弟の清輝も、昔からこの名前である。

 更に二人は、本来の姓である足利を遠慮して使っていない。
 せっかく気を使っているのに、気を使った相手からそんな事を言われれば腹も立つ。
 みんな光輝達の本来の姓など知らないので、その配慮は理解してもらえないが、だから余計に義輝の言い分に腹が立った。

「この件に関しては、上総介様も仲介に入ったのですが駄目でしたな」

 上京して義輝に出仕した事もある信長が間に入ったのだが、どうも上手くいかなかったらしい。

「官位をいただけただけで十分です」

 下手に守護職などもらうと、恩着せがましく言われて無茶な頼みをされかねない。
 正信は清輝から、守護職の方は無理をしなくてもいいと言われていた。

「そう言っていただけると。次に、これもある意味厄介ですか……」

 もう一つの案件とは、清輝の嫁取りの話である。

「やはり、困難でしょうか?」

「いえ、正信殿もおわかりのとおり、貴族はみな困窮しておりますからな。下級貴族の娘でいいのですから、希望者は殺到しましたよ」

 みんな、大金持ちである新地家からの仕送りに期待しているというわけだ。

「ですが、このような風体の娘ですか……」

 貴族の手には、例の『魔法少女メルティークィーン』のメルちゃんのイラストがあった。
 さすがの宗及も、萌え系イラストには困惑している。
 困惑程度で済んでいるのは、宗及が凄腕の大商人だからであろう。
 貴族達も、太っ腹なスポンサーの無茶な要求を受け流すくらいの事は慣れていた。

「今までに色々と依頼を受けて骨を折りましたが、別の意味で難題ですな」

 そう言いながら、正信の前で溜息をつく貴族。
 正信もそれは十分承知しているが、これは主命である。
 何とか解決しなければと思うが、同時に清輝が新地家の当主でない事に心から安堵するのであった。
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