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銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。(本編完結) 作者:Y.A
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第十三話 一向宗対策開始

「キヨマロ、作戦開始だ」

「派手に燃やしますか」

「ひゃっはーーー! 汚物は消毒だぜぇーーー!」

「寒いですね……」

「お前なぁ……そこは流れ的に乗っておけよ……」

「アンドロイドだから無理です」

 清輝から強く要請されたせいだけではないが、新地家は勢力を広げるために伊勢長島に謀略を仕掛ける事にした。
 この地には願証寺があり、伊勢、尾張、美濃にある一向宗の寺と信徒達を纏めている存在だ。

 長島自体も木曽川、揖斐川、長良川の河口で土砂が堆積して作られた輪中地帯の中にあって、一向宗の自治領化していた。
 門徒である国人達も多く、僧侶自体も武装して武士と変わらない。

 世間の印象でいうと、坊主はお経を読んだり、説教をしたり、葬式や法事を取り仕切るくらいなのであろうが、この時代の寺は武装勢力でもある。

 敵対する勢力には武力行使も辞さず、むしろ仏の名の元に信徒達を熱狂的に戦わせるので、国人や大名よりも性質が悪いかもしれない。

 光輝達のいた時代にも、性質の悪い新興宗教などは多かった。
 原理主義に傾倒してテロに走った者も少なくない。

 だから、その力を落とす行為に躊躇はなかった。
 バレて争いになると困るので、当然そっと悪事を働くわけだが。

「『天罰作戦』スタート!」

「安易なネーミングですね」

「何でキヨマロがそんな事を気にするんだよ……」

「それは、私は優秀なアンドロイドだからです」

「言ってろ……」

「言っています」

 キヨマロに、光輝の皮肉は通じなかった。
 夜陰の中、小型潜水艦と化したシャトルで長島に到着した光輝とキヨマロ以下のロボット達は、ある装置を動かす。
 蓄電池を動力にした、見た目が派手な雷を発生させる装置だ。

「ポチっとな」

「社長、静かにした方がいいのでは?」

「お前、ノリが悪い……」

「アンドロイドですから」

 光輝が装置のスイッチを入れると雷が派手に鳴り、願証寺の支部である寺を照らす。
 突然の雷の轟音に、近隣の信徒達が起き出して不安を口にし始める。
 雲もないのに、突然寺だけに雷が走ったので不気味さを感じたからだ。

「何か、嫌な事でもなければいいな」

「お寺さんに何でこんな不吉な……」

 自然災害の原因すらよくわかっていない時代だ。
 寺に集まった信徒達は、屋根に連続して落ちる雷を見ながら不安そうに話し始める。

 続けて、寺の屋根から出火して炎があがり恐ろしい勢いで派手に燃えあがった。

「火を消せ!」

 寺にいた坊主達が信徒達にも命じて火を消そうとするが、もう全焼は避けられないほど燃え広がっている。
 なぜなら、事前にキヨマロ達が屋根に燃えやすい薬品を撒いていたからだ。

「何てこったぁ、急に雷と火があがって寺が燃えてしまっただ」

「何かバチが当たるような事があったんだか?」

 迷信が当たり前のように信じられていた時代である。
 突然燃えた寺を見て、信徒達は『一向宗が、何か罰当たりな事をしたのでは?』と考えた。

 結局火災は、寺を全焼させてから収まった。

「ようやく火が消えただ」

 近隣の信徒達はえらそうな坊主達に命令されて火を消したが、その中の一人が燃えがらの中から何かを発見する。

「これは……」

 焦げた石板が見つかり、そこには『俗に塗れた一向宗に天罰』と書かれていた。

「こんな物に惑わされるな!」

 石板は慌てた坊主達によってすぐに回収されたが、それからも騒動は続いた。
 一週間で長島やその周辺にある一向宗の寺や道場が、次々と雷の落下による火災で焼失したのだ。
 何者かの謀略だと一向宗側は説明したが、残念ながら一向宗側はその証拠を掴めなかった。
 火災に遭ったすべての寺の燃え跡に『俗に塗れた一向宗に天罰』の石板が置かれていて、長島周辺で無事な寺は願証寺だけとなっていた。

 更に続けて、熱心な門徒信者達にも不幸が襲う。
 彼らが所有する畑や田んぼが直径一メートル範囲で焼かれ、その燃え跡に『俗に塗れた一向宗に天罰』の石板が残っていたのだ。

 一向宗側は慌てて回収するが、それは一般門徒達の不信感を煽るだけであった。

「何者の仕業なのだ?」

「新地家の連中に違いない!」

 主だった坊主や有力な信徒が集まった席で、長島城城代の服部左京進が吠える。
 これら一連の騒ぎは、あの憎っくき新地家の仕業であると。

「領地を奪われた服部殿が疑うのはわかるが、証拠もないし、新地家の連中は長島には手を出しておらぬ」

 長島周辺で捕まった不審者に、新地家の者など一人もいない。
 全員が勘違いで捕まえてしまっただけで、火災には何の関係もなかった。
 第一、今回の火災は雷が原因であるという目撃者が多い。
 怪しげな連中など一人も目撃されていないのだ。

「密かに、新地家の連中がやったのだ!」

「まあまあ、服部殿」

 一向宗の新地家に対するスタンスは、お互いに干渉しないである。
 彼らの領地で辻説法をしても誰も聞いてくれず、信徒の大半が新地家が招いた臨済宗などに改宗してしまった。
 だが、彼らとは干し椎茸、ハチミツ、中国磁器の売買のみならず、集めたビタ銭を永楽通宝に交換する事業などでも関係があった。

 下手に突くなというのが、一向宗の本部がある石山からの指示なのだ。
 そもそも、これら一連の寺院と畑の火災の原因が新地家の仕業という証拠もない。

 坊主達も、多くの信徒達も、雷が落ちて火災が発生している場面を目撃しているのだ。
 雷を落とす人間など、今までに聞いた事がなかった。

「誰の犯行かなど今はいい。寺院と道場の再建をしないと」

「木材はどうする?」

「買うしかあるまいて」

「資金が厳しいな」

 火災で焼失した寺が多過ぎるのだ。
 木材を大量に集めるのも大変だし、商人が目をつけて価格を釣り上げる可能性があった。

「それでも、再建を急がないと」

 『俗に塗れた一向宗に天罰』の石板で、回収が遅れたものがある。
 これが長島やその周辺で噂として広がり、門徒達の間に不安が広がっていた。

「門徒達の不安を解消するためにも、寺院と道場の再建は不可欠だ」

 というわけで、一向宗は焼けた寺院の再建を開始する。
 だが、それには多くの木材が必要で、長島は川に囲まれている。

 当然、それで利益を得る者も多かった。

「小六どん、木材の運搬が忙しいと聞いたが」

「大殿が美濃を獲ると、我らの仕事もどうなるかわからない。稼げる内に稼いでおくさ」

 木下藤吉郎の家臣になった蜂須賀正勝は、長島向けの木材を長良川の上流から運搬して莫大な利益をあげた。
 そして、それが墨俣の強化にも繋がる。

「あのような天罰とやらに負けないためにも、前よりも素晴らしい寺を作るのだ」

 俗世に塗れた一向宗の坊主達は、門徒達を安心させようと前よりも豪華で大きな寺の建立を計画する。
 当然、負担は多くの一般門徒達へも向かう。

「そんなに寄付を払えねえよ」

「俺達も生活があるってのにな……」

「一向宗のおかげで商売させてもらっているが、商人で稼いでいるのだから寄付を多く出せと言われても……」

 一般門徒達に負担が増し、かと言ってそれを表立っては批判できず、水面下で一向宗への不満が溜まっていく。

「これだけ素晴らしい寺院ならば、天罰にも負けないはずだ!」

 突貫工事でも一年ほどかかったが火災で燃えた寺院の再建は終了し、その出来を喜ぶ坊主達であったが、それから一か月もしない内に、再び謎の雷によって寺院は燃えてしまった。
 再び『俗に塗れた一向宗に天罰』の石板も置かれていて、一向宗はそれに対抗すべく更に立派な寺院を建設しと、徐々に経済力と門徒達の信用を失う事になる。

「殿……いくら愛姫様が可愛いと言っても、新地家の当主である殿が子守りなどしないでください。周囲の目というものがあるのです」

「歴史上初の、育児をおこなう大名というのも悪くないと思うけど」

「軟弱な当主と侮られてしまうのです。止めてください!」

 これら悪事を主催した張本人は、生まれたばかりの娘愛姫をおんぶしながら執務室で書状を書いていて、泰晴から怒られていた。





「木下藤吉郎の妻ねねです。婚礼の際には、とても素晴らしいお祝いをいただきまして。美濃でも夫が大変にお世話になったそうで、感謝の言葉もございません」

 一向宗が燃えた寺院の再建に奔走している頃、新地を一人の女性が訪ねていた。
 木下藤吉郎の妻ねねである。

 彼女は清須の武家長屋から、大分強化された墨俣城に引っ越す事になり、その前にお礼を言いにきたのだ。

「これはご丁寧に、本日はゆっくりとしていってください」

 出迎えた光輝達は、まだねねが幼い事に驚いた。
 この時代では普通とはいえ、十四~五歳で藤吉郎の正妻として彼を支えているのだから。

「若い女性だから、同じ女性同士という事で今日子に任せるよ」

「それがいいかもね」

 向こうも緊張するだろうと、光輝と清輝は挨拶だけをしてから、あとの対応は今日子に任せた。
 彼女は自ら紅茶を淹れ、クッキーやケーキを振る舞い、食事も作り、女性同士で色々な話に花を咲かせる。
 産まれたばかりの娘愛を抱かせて貰ったりして、楽しい時間を過ごしたねねであった。

「南蛮には、このような美味しい物があるのですね。今日子様は海外でご活躍されていたそうで……」

「ねねさん、夫と木下様は同じ主君に仕える同輩同士、私に様なんて付けなくてもいいのよ」

「はいっ! 今日子さん」

 ねねは、初めて出会った今日子に一瞬で心を奪われた。
 身長は百七十七センチと高く、長く伸ばした髪の手入れも行き届いてる。
 女性としての嗜みだけでなく、武芸や兵の指揮まで行え、知識も豊富で話題も様々、医術の心得まであると聞いて、尊敬の眼差しを向けたのだ。

「私も、今日子さんのようになりたいです」

 翌日、墨俣城へと向かうために新地を離れるねねは、目を輝かせながら今日子に話しかけていた。
 わずか一日で、今日子はねねに大分好かれたようだ。

「義姉さん、相変わらず女性にモテるなぁ……」

 孤児から軍の士官学校へと進学した今日子は、喪女だったので勉学や様々な技能の習得に全力を傾けた。
 いわゆる近寄りがたい人だったのだが、背が高くてモデル張りのスタイルに美人だったので、そこがいいと物凄く女性にモテた。

 男性の主席生徒よりも、バレンタインで貰ったチョコレートが多いくらいなのだから。

「男性は、兄貴『だけ』にしか相手にされなかったけど、女性にはモテモテだね。義姉さん」

 ねねが帰った後、余計な事を口走った清輝は、静かに怒る今日子によって首を締め落とされて意識を失った。




「今日子様は素晴らしい方でした」

「そうか、それはよかったな、ねね」

 墨俣城へと到着したねねは、ちゃんと新地家にお礼を行った事を藤吉郎に報告する。
 だが、話す内容は光輝の妻今日子の素晴らしさばかりであった。

「夫の新地殿はどうだった?」

「ええと……お優しそうな方でした」

「そうか……」

 お礼に行ったはずなのに、ねねにあまり覚えてもらえなかった光輝に対し、藤吉郎は心から彼に同情するのであった。
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