王女様が招きました
穴埋めエピソード、2話目は学院長代理として働くアイナの話です。
ちょっと短めになっています。
エルシュタット魔法学院の学院長室にて。
アイナは、教員からの要望書に目を通していた。
「教員の数を増やしてほしい……ですか」
エルシュタット魔法学院の教員採用試験は狭き門だ。
毎年多くの志願者がいるが、そのほとんどは書類選考で落とされている。
たとえばエルシュタット魔法学院の生徒が教員になろうとしても、一度も上級クラスになったことがなければ書類選考で落ちるのだ。
だが、そうした厳しい選考基準では教員の数が不足してしまうし、なにより学歴のないシャルムのような人物を落としてしまうことになる。
「シャルムさんの授業はたいへん好評だと聞いてますし、このまま教員になっていただきたいのですが……」
いまは昇級試験の真っ最中だ。
シャルムは試験監督で忙しいだろうし、試験が終わったあとに教員になる気はないか聞いてみよう。
「とにかく、これは保留ですわね」
採用試験の内容を見直す必要性は感じるが、いますぐに結論は出せない。
要望書を『保留』の箱に移したアイナは、次の書類に目を通す。
「学院の施設と備品をもっと頑丈にしてほしい……ですか」
学院施設はフィリップの硬化魔法で絶対に壊れないように作られているはずだ。
これ以上頑丈にする必要はないと思うのだが……。
そう思いつつ要望書を読み進めていき、アイナは納得した。
「なるほど。アッシュさんが壊してしまうのですね」
アッシュの手によって第三闘技場は半壊状態となり、さらに体育の授業の際に使用するボールやゴールポストなどの備品が破壊されることがあるらしい。
そしてそのたびにアッシュは申し訳なさそうにしているのだとか。
「どうにかしてあげたいですが……アッシュさんがその気になれば、どんなものでも壊れてしまいますわ」
頑丈にしても意味はなさそうだし、アッシュに『壊れた建物はすぐに修繕できるので罪悪感を抱く必要はない』と伝えたほうがよさそうだ。
「となると、これは否認ですわね」
要望書を『否認』の箱に移し、アイナは次の書類に目を通す。
「3年生のために合宿を実施してほしい……ですか」
1年生にはコミュニケーション能力を鍛えるための親睦合宿に、2年生には見識を広めるための修学旅行に参加してもらっている。
すでに充分な実力を身につけている3年生に合宿の必要性は感じないが……たとえば他校との強化合宿を実現できれば、さらなる実力を身につけることができるかもしれない。
そのためにも、まずは他校の教師陣と話し合いの場を設けなければ。
「とりあえず保留ですわね。さて、お次は……」
そんな調子でアイナはさくさくと要望書に目を通していく。
そして最後の要望書を手に取った、まさにそのときだ。
『全人類に告ぐ! 我が名は《水の帝王》――魔王である!!』
頭のなかにしわがれた声が響いたのである。
「ま、魔王ですの!? ――し、しかも2体同時ですの!?」
連続して魔王が現れ、アイナはパニック状態に陥る。
魔王の言葉通りに目を瞑り、魔王の力を目の当たりにしたアイナは、恐怖に震えてしまった。
『だが、我らとて暇ではない。いちいち弱者を殺すのは面倒なのでな、強者の居場所に心当たりがある者は念じるがよい。我らは優先してその場へ赴くのでな』
その言葉に、アイナはハッと我に返った。
国民に怖い思いをさせてしまうが、必ずアッシュが魔王を倒してくれる。
そう信じ、アイナは強く念じるのだった。
(私、《闇の帝王》を倒した人物に心当たりがありますわ!!)
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次で穴埋めエピソードは終わりとなります。