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Left Alone の別の一面になります。単独で読める構成になっています。
また文中未成年の飲酒についての記載が有りますが法律で禁止されています。
最初から言っときます。BL では有りません。勇利は女性です。
Pain
作:廣瀬 流が留



第一話 唯一無二なるもの


 ドア近くに片膝で座っていた彼女は扉を開けた俺と視線が合った瞬間、手にしていた缶酎ハイをひょいと持ち上げ口の端をつり上げた。艶めいた微笑み。下からすくいあげるような眼差しに、ゆっくりと瞬く長い睫毛。日焼けした肌に白い歯が映える。短く切った髪型、その額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
「俺に惚れんなよ。」
その言葉の意味さえ分からないほど、俺は阿呆みたいに見蕩れていた。
 それが出会いだった。

 8年も昔になる。
その日も写真部の笹川さんに振り回され、何時間も同じ様な写真とにらめっこしていた。彼女はいわゆる天才肌の写真家で、入社一年目の俺にはついていけるはずも無く、おかげで体というより頭の中が疲れきっていた。
  記者というのは何でもできなければいけない仕事らしい。
“見極める力をつける”
そんな、言葉で説明なんか出来ない究極のお題にぶちぎれそうだった。しかも今年の残暑は厳しく、社内の冷房もダウン寸前。全員が全員イライラと殺気立っていた。そんな気分を救ってくれたのは1本の電話だった。
「兄貴、新人戦、準優勝決めたぜ。」
弟のもときの弾んだ声。ボクシングの地区大会で勝ったらしい事は分かった。俺も昔運動をやった口だから、その歓びはなじみが有る。
「おめでとう。よくやったな。なに、家で打ち上げやるのか?差し入れ持っていくから楽しみにしていなさい。」
10時前に帰宅すると言う我ながら根性を見せて早めに退社し、やってきた弟の部屋に彼はいた。いい加減出来上がっているうら若き高校2年生の男どもはお決まりのおふざけではしゃいでいて、家に入る前お隣さんに折り菓子を持っていっといてよかったと思う。

 『写真に限らず何でもそうだけど、同じように見えて微妙な違いが有るの。でもその違いは微妙なように見えて、歴然としているものなの。“オンリーワン”ってヤツ。それを感じる力がセンスってヤツなのよ。はっきりとそれだけは違うの。他の追随を許さないもの。それ以外に絶対にあり得ないもの。唯一無二なるもの。早くその意味が分かるようにならなきゃね。はじめちゃん。』

 俺はこの一ヶ月笹川さんから耳にタコができるほど聞かされた声を再び聞いた気がする。
 なぜならその答えが目の前にいたからだ。
 この時の俺は彼女を男だと信じていた。それでも、目を離す事ができなかった。

 少年達がどっと笑い、俺は笑われた事に気づく。ああ、何だってんだ。
「兄貴、弟の女房に手ぇ出すなよぉ。」
土産を受け取りながらの基の声にまたもや笑い。
 その子が勇利君だと言う事はすぐに分かった。高校入学以来基が頻回に口にする噂の美少年。絵に描いた様な小柄の美少年。面白くって、格好良くって、魅力的。その実先輩も頭が上がらないほどボクシングに詳しい敏腕マネージャー。選手と同じ量のトレーニングを平気でこなせる体育会系。大親友で有り、この春からは基の事実上の相棒。つまりボクサーとそのトレーナーだ。

「マジで、俺達夫婦みたいなんだぜ。」
お互い“だんはん(旦那様)”“女房殿”(基が旦那らしい)と呼び合うおしどり偽夫婦は学校一有名な祝福されたカップルらしい。とはいっても、もちろんそれは言葉遊びで、基が本気で男に興味が有るとその時はみじんも考えてもいなかった。

 後ろ手にドアを閉めながら心臓がばくばくした。あんな子供に見蕩れるなんて俺らしくもない。仕事柄綺麗な子なら見慣れているのに。
 俺は相当疲れているらしい。一緒に食べるつもりだった寿司を諦め、熱帯夜に備えシャワーを浴びた。

 それ以来彼の顔が俺の頭の奥底に染み付いて離れなかった。そして俺は、
“唯一無二なるもの”
の意味を知る事になっていく。
  
                Pain    つづく


BLには非ず、です。彼の勘違いっぷりだけ読んでいくと、シリアスがギャグに変わります。






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