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超電脳のユニバック 作者:@IngaSakimori

第四章『ノイマン型の王』

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第五話『ノイマン型ではないモノ』(2/6)

磁器(マグネテイック)・コア・ネットぉぉぉぉぉぉ!!」

 ニューニの左手から、まるでクモ男が放つ糸のような(ネット)が伸びた。
 それはユニの顕現武装とぶつかり合っている、エドサックの水銀遅延マーキュリー・ディレイ・線記憶装置ライン・レジスターを包み込むように広がる。

「ぐ……!!」

 そして、電撃でも流されたかのように、エドサックの顔がゆがんだ。

(効いた……!?)

 それは津瀬現人にとって意外なことだった。

「ユニバック・(ツー)、貴様ぁ!!」
「いえーい、初ダメージ!!」

 当のニューニはふざけたようにガッツポーズを取ってみせる。
 挑発的な赤髪の彼女に一同の視線が集中している中で、ユニがうっすらと━━けれど、何とも満足げで、そして戦闘的な笑みを浮かべていることに気づいたのは、IβM 704だけであった。

「っ━━は!!」

 エドサックのステッキが一閃した。
 それはニューニの放った磁器(マグネテイック)・コア・ネットを鋭利な刃物のように切断する。

「おのれ……おのれ、おのれ!!」

 そして、彼は大きく後退する。
 明らかに警戒心をむき出しにした顔で、ニューニを睨みつけながら息を荒げるモーリス・ホイーラー・エドサック。
 その表情には全く思わぬところから奇襲を食らった、紳士の屈辱があふれていた。

「へいへいへーい、エドサックさん。いくらワタシがこの中では格下だからって、甘く見過ぎていませんか?
 ワタシも! いちおう! ユニバックの一族!
 ……そしてぇ! 偉大な偉大なユニ姉様の妹です! 姉妹の合体攻撃とか、あまりにもふつーすぎて予想して当たり前でしょう?」
「……殺す前に一応、聞いてやる。今、何をしたユニバック・(ツー)!?」
「いやー、ほら。ワタシって、あなたより後の世代ですし。
 あなたにない革新で~、ワタシにある革新っていうのも~、一応あったりしますし~」

 へらへらと笑いながら、ニューニは自分を髪を指でくるくるといじってみせる。
 ぐったりと肩から力が抜けていく感覚に襲われつつ、現人は思う。こいつは敵をいらだたせることにかけては、全顕現存在セオファナイズドの中でも最強なのではないか、と。

「貴様ごときが……革新だと……?」
「あんまし増長しすぎちゃいけませんよ、エドサックさん。
 ワタシの磁気コアメモリの方が、ユニ姉様やあなたの水銀遅延マーキュリー・ディレイ・線記憶装置ライン・レジスターより、世代が新しいんです。
 ユニサーボ━━つまり、磁気テープとあなたの鑽孔テープは同じ補助(・・)記憶装置。
 そして、ユニ姉様とあなたの水銀遅延マーキュリー・ディレイ・線記憶装置ライン・レジスター()記憶装置。
 さてさて、それらががっぷり四つに組み合ってるところに、世代の新しい主記憶(磁気コアメモリ)をぶつけたらどうなりますか?
 これはそういう話ですよ」
「……なるほど。一杯食わされた、というわけですか」

 そして、ふとエドサックの口調が和らいだ。

(……冷静になった)

 それは現人にも分かるほどドラスティックな変化だった。
 激高をむき出しにしていた敵が、冷静さを取り戻してしまったのだ。

(これは、たぶん……)

 現人にはあまりいい展開とは思えなかった。そして、やはり一筋縄ではいかない相手だと、考えざるをえなかった。

「見くびっていましたよ、ユニバック・(ツー)

 ぱちぱちぱち、と。
 拍手の音が鳴り響く。鋭い視線で睨み付けながら、エドサックは手を叩いてみせていた。忌々しい、けれど認めざるを得ない賞賛だった。

「なかなか侮れない女ですね。敬服に値する」
「やーっははははは!! そ~れ~ほ~ど~でも~!!
 まあ、何はなくともワタシと! ユニ姉様の!
 愛の! 繰り返しますが、ご町内の皆様ー! 繰り返しまくりますが、愛の連携あってのことですからー!」
「………………」

 ほんの数秒だけ、ぷるぷるとエドサックは肩をふるわせて。

「いいえ━━もう、通じませんよ」

 けれど、冷たい声でそう言った。

(……ニューニの挑発はもう通じない)

 津瀬現人はそこから一つの変化を察する。
 すなわち、この戦いのステージは一次元上へとあがったのだ。

(お互いに本気になった……)

 ここからが本当の勝負と言ってもいいかもしれない。
 これまでの戦いなど小手調べでしかない。

(そのとき、僕に何ができる?)

 今はまだ安全圏で形勢をうかがうことしかできない非力な自分が恨めしかった。
 悩み、悩んで、せめて言の葉の1つも飛ばそうと━━そう思った瞬間、現人のすぐ隣を美しい風が通り抜けた。

「それでは、真打ち登場と行かせてもらおうか」

 長いポニーテールを揺らして、堂々と立つその後ろ姿。
 すなわち、世界でもっとも成功した偉大なる青のメインフレーム。
 IβM System/360。

「━━アーキテクチャの大剣」

 その神聖なる言葉は、ごく小さな声で発せられた。

 だが、その及ぼした影響は劇的である。視界が埋め尽くされるのではないかと思えるほどの莫大な青い光の粒が幻出すると、System/360━━すなわち、弥勒零みろくれいの右手に集まって、巨大な剣の形を成した。

「白旗をあげるならば、受け入れる」

 分厚く、硬く、長く。
 そして、恐ろしく重く見える『アーキテクチャの大剣』。その切っ先を大きく距離をとったエドサックへ向けると、360は淡々と降伏を勧告した。

「偉大なる青の名において、名誉ある扱いを保証するが……どうだ? モーリス・ホイーラー・エドサック」
「逆に質問しましょう。フランスの町でナチに包囲された時、あなた方アメリカの軍人は何と言いましたか、System/360」
Nuts(ふざけるな)

 うっすらと。
 しかし獰猛な笑みを浮かべながら、360は即答した。

「それが答えです」

 やんわりと。
 だが断じての拒絶を示しながら、エドサックは一礼してみせた。

「惜しいな……だが、嬉しいぞ、エドサック。
 この私、System/360が本気で戦う相手として、お前は申し分のない『格』を持っているからな」
「『格』、ですか」
「そうだ、『格』だ。
 それこそは顕現存在セオファナイズドとしての力の根底にあるものだ。
『格』を持たないコンピューターは、そもそも顕現存在セオファナイズドとしてこの時代に(あらわ)れることすら出来ない」

 見た目にはトンクラスの重さがあるのではないかと思える大剣を、System/360は軽々と上段に構えた。

(……System/360、この女だけは油断なりませんね)

 エドサックの視線が鋭くなる。

(『コンピューターアーキテクチャー』……それは私の時代には、まだ存在しなかった概念です)

 計算機としての仕様を定め、たとえ実装が異なろうと同じプログラムが動作し、同じ結果を返す。
 遠い昔から東洋で使われていた珠算(ソロバン)でいうならば、四つ玉ソロバンも五つ玉ソロバンも、最終的な計算結果は同じになる。

(それをコンピューターの世界ではじめて実現させたのが彼女━━System/360です)

 2085年の現在からすれば、当たり前のことである。
 いや、20世紀末ですら当たり前のことである。

 だが、System/360以前に、そんなコンピューターアーキテクチャによる『互換性』を実現したシリーズはほぼ存在しなかった。
 同じプログラムが流用できたとしても、それは設計の段階からたまたま似通っていたり、意図的なものであった。
 それは過去、あるいは現在を見て実現された互換性でしかなかった。

(ですが、System/360が見たものは未来でした)

 未来といっても漠然とした夢のような概念ではない。

 ユニバックシリーズがそうであるように、商用コンピューターは民間組織に販売されて、使われるものである。
 しかし、使い続けた製品は古くなる。新製品の性能は向上する。
 当たり前の話だが、買い換えの時期がいつかやってくる。

(それはごく当然のこと……)

 70万km走ったフォードや50万km走ったトヨタ・クラウン、あるいは40万km走ったホンダ・CBRなどは、個人の情熱と幸運が生んだ例外でしかない。

(いつか必ず来る買い換え(リプレイスメント)の時……System/360だけはプログラムを書き直す必要がなかった……)

 偉大なる青という企業は、まさにその偉大さにかけて、そうすることを保証した。
 メインフレームシリーズ・System/360は後継機に買い換えても、まったく同じプログラムが動きますと保証した。
 顧客は未来(・・)を見て、買い換え(リプレイスメント)の際にも無駄な工数がかからないSystem/360を選んだ。

(かくして、彼女は……時のコンピューター市場を支配しました)

 NECがかつて日本のパソコン市場を支配していたように、偉大なる青は商用コンピューター市場で圧倒的なシェアを占めた。

 その成功の秘訣こそが、コンピューターアーキテクチャ。
 その後の世に受け継がれた革新こそが、互換性。

「………………」
「………………」

 熟練の剣士のごとく、すり足。じわりじわりと弥勒零みろくれいが距離を詰める。
 エドサックは極端に小さい歩幅で、少しでも距離を取ろうとする。だが、その背後にはまもなく屋上設備の検査室が迫る。

(……あの位置までだ)

 津瀬現人は張りつめた糸が切れる瞬間を予想する。
 エドサックの背中に検査室の壁がぶつかったその時。

 その時に両者は動く、と。

「━━━━━━ぅ、す」

 エドサックの背後に撤退余地がゼロとなるその瞬間……よりも、コンマ1秒ほど前。
 弥勒零みろくれいは開戦時期を完璧に予測していたかのように、大きく息を吸い込んだ。
+注意+
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