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超電脳のユニバック 作者:@IngaSakimori

第四章『ノイマン型の王』

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第四話『敵の敵。心の内。想いの先』(2/4)

 危うくつかみ合いの喧嘩になりかけたところで、ようやく偉大なる青の2人は我に返った。

「しかし、ユニバック・ワンよ。仮に我々がお前たちに協力するとして、あんな相手をどうするつもりだ?」
「言っておくが、たとえ偉大なる青のメインフレームであろうとも、『ノイマン型』であることの呪縛からは逃れられんぞ、津瀬現人くん」

 704はユニを、360は現人を見つめながら。
 そして、704は現人を、360はユニを視界から外した状態で、そう訊ねた。

(……視線がまるで十字砲火だ)

 現人がテーブル正面をみると、それぞれはす向かいに会話している相手がいる状態だった。
 すなわち、現人の正面には704がいて、その隣に360がいる。ユニの正面は逆に360であり、704は隣である。
 従って、偉大なる青の二人の視線は鮮やかに交錯する十字を描いていた。

(まあ、僕は普通に話せばいいか……)

 そんなことを思いながらユニはどうなのだろう、と隣へ視線を投げると、彼女はじっと現人を見ていた。

(気にせず行こう)

 ちなみにニューニはあっちへこちらへと落ち着かないので、確認するだけ無駄だった。

「えっと、その口振りだと、2人はエドサックの力を知っているみたいだけど」
「フン。知っているも、我々は見ていたからな、津瀬現人よ。
 お前と……そこの女教師が何の対抗手段も示せずに、離脱するだけの戦いを、な」
「っ」

 ━━あの屋上での戦いを見ていた。

 古毛仁直にそう告げられた現人は、恥ずかしさにも近い感情を覚えて、息をのむ。

(いや……違うぞ)

 だが、すぐに心の中で否定の声が響く。
 あれは仕方のないことだった。むしろ最善手を打ったと言ってよかった。

(でも、こいつには……IβM 704には知られたくなかった)

 しかし、逃げは逃げである。
 その事実を面白くない感情を抱いている相手に知られてしまって、隠したい恥部を暴かれたように思っているだけだ。

「……ああ、そうだ。あの時は負けた。
 だから、次は負けないようにお前たちに協力してもらうんだ、704」
「フン、強気なことだな。
 やれやれ、ユニバック・ワンの頼みでなければ、誰がお前などのために……」
「言うな、イトコ殿。
 津瀬現人くんも恥を忍んでというところだろう……その忍耐、私は好ましく思うぞ」
「あ、ありがとう、360。いや……弥勒零みろくれい先輩」
「!!」

 思わぬ助け船に、現人は笑顔でそう言った。
 だが、360にとっては、その笑顔が不意打ちだった。

(せ、先輩……弥勒零『先輩』だと!)

 そればかりか、敬称がついた。

 すなわち、笑顔と敬称の複合カットイン攻撃だった。System/360の多層セキュリティはあっさりと破られたと言って良かった。

「はあっ! はあっ……はあ……!!……はふー。
 ふう……そ、その、だな。今、なんと言ったかな、津瀬現人くん」
「? いや、その。
 一応、上級生なんだし、いつまでもタメ口もどうかな、って思ったから、先輩って……」
「リピート」
「……先輩?」
「フルネームをつけて! リピート!」
「み、弥勒零みろくれい先輩……?」
「ほおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
 聞いたか、イトコ殿! 録音機材とか持ってるか!?」
「あるわけがなかろう!」

 突然、興奮しだしたSystem/360にIβM 704は苛立ちを隠さない口調で、そう吐き捨てた。

「……言っておくがな、津瀬現人。
 我々とおまえ達は基本的に敵同士なのだ。そして、顕現存在セオファナイズドとヒトとの間柄につまらぬ上下関係など不要だ。先輩も後輩もない」
「そうか……確かにそうだよな。お前と僕は敵同士だ、704」
「フン。強気な顔をするようになったものだ。
 まあ、すり寄られるよりは、そのくらいで良い……おい、何を真っ白になっている、360」
「うるさい。この馬鹿者。千載一遇のチャンスを台無しにしたな。UNIX TIMEがリセットされるまで恨むからな」
「32bitUNIX時間のリセット(2038年1月19日)ならとっくに過ぎているがな……」
「ところで~。ワタシ、素朴な疑問があるんですけど、古毛仁直さん?
 顕現存在セオファナイズド顕現存在セオファナイズドの間なら、目上格上その他もろもろ、普通にアリですよねえ?」
「それはもちろんのことだが━━はっ!!」

 ニューニの言葉に返答しながら、稲妻に打たれたようになおしは身を震わすと、いきなり立ち上がった。

「つまり、ユニバック・ワンがこの私を『先輩♪』と呼ぶシナリオも……!!」
「我々と君たちは敵同士なので、そんな気遣いは当然不要だぞ、ユニバック・ワン」
「わかった、360」
「360、貴様ああああああああああ!!」
「目には目を! 歯には歯をだ!!」
「ああ、わかったから! いや、さっぱりわからないけど! とにかく喧嘩するのはやめてくれ!
 僕たちの頼みを聞いてくれるのか、聞いてくれないのか、どっちなんだ?」
「むっ……」
「うむ……」

 現人の言葉に、古毛仁直と弥勒零はどこか決まりが悪そうに顔を見合わせた後。
 ほぼ同時にうなずきながら、こう言った。

「今回だけだ」
「今回だけなら」
「ありがとう。とても助かるよ」
「私からもお礼を言う。すごく助かる。ぺこり」 
「商談成立ってところですね~。いやー、良かった良かった~」

 再び場を茶化そうとするようなニューニの声に、現人はじろりと一睨み。
 わざとらしく視線を逸らしながら、ユニバック・(ツー)はアイスコーヒーを口元に運んだ。

「それで、少し話は戻るけど……昨日、僕とニューニが屋上でエドサックと戦っていたところを、704と360の2人は見ていたのか?」
「その答えはイエスだな」
「いささか事情の説明が必要だろう」

 他人事のように言う704と、こほんとわざとらしい咳払いをしてから現人の目をじっと見る360。

(うっ……)

 ユニとも。志保とも。
 あるいはニューニとも性質の違う、凛とした瞳がまっすぐに15才の少年を見る。

(この人も……やっぱり……もの凄い美人だよな……)

 思わず思考が別次元へ飛翔してしまいそうになるが、現人はなんとか意識の芯を定めると、弥勒零をじっと見つめ返した。

「いい表情だ」

 ふ━━と、System/360は軽く微笑んで、言葉を続ける。

「昨日の夜、我々2人は夜制の生徒に……フェランティ・マーク・ワンに手引きされて、君たちの戦いを見ていたのだ」
「フェランティが?」
「ああ、そうだ、ユニバック・ワン。
 何か奴としては思惑があるのだろう……我々にもエドサックの持つ『始祖の力』とやらを見せておきたい理由がな」

 ちらりちらりと自慢するような視線を現人に送りながら、なおしは言うが、あくまでその視界の中心にはユニがいる。

(こいつ、ほんとやな奴だな……)

 それはまるで、お前は気づいていない真相をこれからユニバック・ワンに説明してやるぞ、とでも言うような視線であった。

 そして、現人が明らかに不機嫌そうに眉をひそめると、704は満足げに微笑んだ。

「とはいえ、見たからと言ってどうなるものではない。
 モーリス・ホイーラー・エドサック……フン、ただでさえいけ好かない性格のようだが、あの『始祖の力』はノイマン型コンピューターである限り、あらがえないものだ」
「ノイマン型コンピューターである限り……か」
「あの~、それって、ユニ姉様もワタシも。そして、あなた達も対抗手段がないという結論になっちゃうんですかね?」
「いや、必ずしもそうとは言い切れないな」

 弥勒零みろくれいは形の良い━━色っぽいと言ってもよい自らの顎を撫でた。
 溶け始めたアイスコーヒーの氷がカチリ、と鈴のように音を立てる。

「あれは日本の宗教で言うところの『結界』や『聖域』とはいささか異なる。
 ノイマン型コンピューターの始祖として、その支配力を一定の対象に志向しているだけだ」
「支配力を……一定の対象に?」
「たとえば、だ。津瀬現人くん。君が縄のようなものを持って、私達を縛るとして」

 じっ、とSystem/360は現人をみた。

(変な例えをするんだな……)

 15才の少年はそう考えただけだったが、弥勒零は。そして、ユニはほんの僅かに頬を赤くしていた。
 もっとも、なおしとニューニはまずいものでも口にしてしまったように、苦い顔をしていたが。

「君は一度に何人を縛れる?」
「縛れるって……縄でだろ? そりゃ、普通は1人……せいぜい2人じゃないかな。
 だって、僕の手は2本しかないんだし」
「そうだな。
 君がセンジュカンノンであれば別だろうが、その手は2本しかない。同時に動かせる限界があるわけだ。
 つまり━━そこが狙い目だ。
 あの『始祖の力』は強力無比だが、恐らくあまり同時多数相手には展開できないはずだ。あるいは……とてもつなく強力な顕現存在セオファナイズド相手では、効果が薄い……そんなシナリオもあり得るだろう」
「フン、なるほどな」

 360がそう言うと、704は挑発的な瞳でニューニを見た。

「とすると、ユニバックシリーズの一台に過ぎないこの女には通じても……歴史に名を残すユニバック・ワンには通じない可能性もあるというわけだ」
「ワタシはユニ姉様の妹であることを誇りに思ってるからいいんですー。べーだべーだ」
「704、私の妹を悪く言うならそれは私を悪く言ってるのと同じこと」
「なっ!? ご、誤解だ、ユニバック・ワン! そのようなつもりはない!」
「あぁん、なんてお優しいユニ姉様! とても自重できません! ほっぺすりすりすりぃ!!」
「……360。つまり、あなたの言っているのは」

 死刑宣告を受けたような顔の704と、激しく頬をすり付けてくるニューニの存在を鮮やかにスルーして。
 世界で最初の商用コンピューターは、自らの正面に座る世界でもっとも成功したメインフレームを見た。

「私達全員が一斉に戦いを挑めば、エドサックに対しても勝機はある。
 そういうこと?」
「……推測を大いに含むがな。
 なにより、私のような━━あるいは、ユニバック・ワン。お前のようなレベルの顕現存在セオファナイズドを『ノイマン型』の始祖だからといって、どれだけ支配できるかはやってみなければ分からんだろう。
 たとえるなら、これは大河と山脈が戦うようなものだ。前例もなければ、データもない。我々コンピューターといえども、すべてを予測することはできないだろうさ」
「でもそれだけだと……少し理由が弱いと思うけど。360、本当にそれだけ?」
「ほう、さすがに鋭いなユニバック・ワン。
 ならば、言おう。
 私がエドサックの持つ『始祖の力』が完全でないと思う理由はもう1つある。絶対無比の支配を及ぼす力であるならば……奴はあの男を最初にねらっているはずだからだ」

 その時、弥勒零みろくれいはにやり、と笑った。
 楽しそうな笑み。愉悦の笑み。あまり女性的とはいえない笑い方だった。

「エドサックの奴はな、私に言ったのさ。
『昼制・生徒会の行動は遅々として進まない。だから、夜制・委員会が独自に行動する』と。
 ならば、どうだ? 生徒会のトップである、あの男を最初に狙うと思わないか?」
「でも、それは━━」
「………………?」

 現人はその時、ユニと弥勒零みろくれいの交わしている言葉の意味が分からなかった。

(生徒会の……トップを狙う? 360と704の2人は確かに生徒会のメンバーだけど、会長はまた別人だったはずだよな……それが何の関係があるんだ?)

 深く追求することはできた。だが、今はその時ではないとも思えた。

「エドサックは生徒会長を狙う様子はない。そうした行動に出ていない。
 ……『始祖の力』が完全無欠であるならば、あの男ですら圧倒できるにもかかわらず、だ。
 それ自体が私の仮説の証明だ」
「よく分かった。説得力のある、とても確からしい(・・・・・)説だと思う」
「ふふふ、偉大なる青の仮説にユニバックの一族が太鼓判を押してくれるとはな。
 不思議な時代だ」

 遠い昔から戦い続け、幾度も転生を繰り返してきた物語のライバルのように、360とユニバック・ワンは視線を交わし合い、そして微かにほほえんだ。

(……これで本当に大丈夫なのか)

 どうやらユニと360の間では何らかの納得いくやりとりがあったらしい。
 対してどこか不安を拭いきれずにいるのが現人である。

(『始祖の力』は完全じゃない……か)

 ユニが言うように、説得力はあるかもしれない。蓋然性が高い(確からしい)かもしれない。

(その隙を突くっていうのは……)

 きっと恐らく今の時点で考えられる戦術としては、妥当なものなのだろう。

(だけど……)

 それでもし、ダメだった時はどうするのか。
 ユニとニューニ、さらに古毛仁直に弥勒零。実に4人がかりでエドサックに挑んで、それでも及ばなかった時はどうするのか。

(……たぶん今度はうまく逃げられないだろうし)

 一度逃がした。そして、二度目も逃がしてくれる。
 そんな甘い男には見えなかった。ひょっとすると、今度はまず退路をふさぐことから始めるのかもしれない。そんな神経質で周到な男として、津瀬現人の目にエドサックは映ったのだ。

(……目? そうか、目か?)

 ふと、右目の単眼鏡モノクルに手を当てて、15才の少年は━━

「みんな僕に提案が━━」
「いやー! これで万全必然大勝利確定の布陣ですね!!
 もうこうなったら、勝ちに勝ちまくっちゃいましょー! なにげに米国vs英国の構図でもありますしー!!」
「………………」

 ━━自分の右目を使え。
 ━━『計算する(Rechnender)宇宙(Raum)』を使え。

 少年がそう言おうとしたその時、傍らのユニバック・(ツー)は、ひときわ大きな声で彼の提案をかき消した。

「おい、ニュ━━」
「━━ストーップ、ですよ現人さん」

 さすがに文句の一つも言おうとしたそのとき。
 ふと耳元に唇を近づけて、ぞくりとするような甘い声でユニバック・(ツー)はそう言った。

「あなたは最後の切り札です。あとで話しますから、今は黙っててください」
「………………?」

 その言葉は男の脳髄を溶かすような酔甘のメロディで。
 しかし、あらがうこと許さない、ひどく断定的なものだった。

 モーリス・ホイーラー・エドサックを今夜、南多磨高校に呼び出すことは簡単だった。
 世界の金融市場が動き出すまで、およそ6時間。
 深夜10時の学び舎に、幾人もの顕現存在セオファナイズドと、1人の少年が集う。
+注意+
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