挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
超電脳のユニバック 作者:@IngaSakimori

第四章『ノイマン型の王』

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

50/61

第三話『圧倒する"始祖の力"』(5/6)

 明けて日曜日。

「さてさて、昨日、ユニ姉様にはお話した通りですが……今回の相手はかなり手強いと言ってよいです」

 前日に志保が作り置きしてくれた朝食をぱくつきながら、津瀬家の食卓に座っているニューニ。

「………………」
「ああっ、真剣な目でワタシを見ているユニ姉様、すばらしいっ。尊いっ!!」
「いや、どう見ても睨んでいるだろ」

 だが、和やかな朝食と行かない理由はシンプルだった。
 志保が作り置きしてくれたのは、あくまでも2人ぶんの朝食であり、それを3人で食べれば、1人あたりの分量は盛大に目減りする。

 初敷志保の作る食事を聖なるものと信仰しているユニバック・ワンが、実の妹?に対して険悪な視線を向けるには十分過ぎる理由である。

「ニューニもだな……予告なしで朝飯に混じってくるくらいなら、パンの一つも持ってこいよ」
「むむむっ、現人さんの鋭い抗議っ!
 ですが、その真意はわかってますよ! 正妻である志保さんの手料理をワタシに食べさせたくないという独占欲ですね!?」
「正さっ……そ、そういう意味じゃない!
 僕たちが料理できないことは知ってるだろ。昨日は泊まってたわけじゃないんだし、自分の家で済ませてくるとか……」
「いやですいやです! いーやーでーすぅー!
 ユニ姉様と囲む食卓が良かったんですー!」
「子供かお前は!!」
「……せい……さい……」

 呆然としたように。
 あるいは、その意味がわからないとでも言うように、ユニが呟いたその声は、現人の呆れ果てた抗議にかき消された。

「えー、こほん。
 先ほど、津瀬選手によるクレームがありましたがー。審判団の判断としては、ニューニ選手のプレイはセーフ。セーフとします」
「野球かよ……まあいい加減、真面目に話すけどさ。
 確かにニューニの言うように、昨日の相手は……エドサックは手強かった。これまでの相手とはちょっと方向性の違う手強さっていうか……ってユニ、聞いてるか?」
「え、あ。あ……う、うん。ウツヒト。
 聞いてる。私もがんばる。せいさいめざす」
「何をがんばるのかよく分からないけど……とにかく。
 ニューニがほとんど何もできなかったんだ」

 なぜか頬を赤らめて、胸の前でぐっと拳を握りしめてみせるユニ。

(……なんで赤くなるんだ?)

 津瀬現人にとって、その仕草はどこか疑問を覚えるものではあったが、声に出して確かめるほど大きな問題でもない。

「それで、あのエドサックは『始祖の力』とか言っていたけど……なんなんだ?」
「そうですねえ。始祖と言いますから、きっとアダムとかイヴとか吸血鬼とかそういう系統でしょうね!!
 いやーん、異能! 超能力! 伝奇!」
「真面目にやれ。二度とうちで食事させないぞ」
「やーやー、すいません! そればかりは勘弁を。
 え~……こほん。真面目な話をすると、あれは恐らくノイマン型の『始祖』としての力だと思われますね」
「………………」

 ノイマン型の『始祖』。
 その単語を聞いた瞬間、ユニの表情から日常の気配が消えた。

「ニューニ。
 エドサック(・・・・・)って……あのエドサック(EDSAC)?」
「ええ、そうですユニ姉様。
 思いっきり英国の顕現存在セオファナイズドでしたからね。となると、もうアレしかありません」
「……出来れば僕にも分かるように説明してほしいんだけど」
「ウツヒト、ノイマン型コンピューターっていうのは、わかる?」
「概略なら……」

 ━━真剣な目をしている時のユニは。

(……そんな目で僕を見ている時のユニは)

 魅惑。魔性。呪力。
 そんな表現がふさわしいのではないかと思うほど、息をのむような魅力がある。

(目と目をあわせるだけで……頭が変になりそうだ)

 自分は今、とてつもなく神聖な、あらゆる意味で無垢なものと対峙してているのではないかと。
 まるでヒトたる自分が顕現存在セオファナイズドという汚れない存在に対して、何か罪を犯してしまっているのではないかと。

(そんな……いけない気分になる)

 ごくり、と津瀬現人は唾を飲み込む。
 快感と共に。

「ノイマン型っていうのは、事実上、一般的なコンピューターのすべて……よっぽど特殊なコンピューターでない限り、現存するほとんどのコンピューターはノイマン型に分類される。
 一応、そう習ったけど」
「ん。ウツヒト、それで合ってる」
「それじゃあ、現人さん。
 ノイマン型の『ノイマン』って何のことだと思います?」
「……えーと。
 作者の名前? 大統領? 学者?」
「そんなところです。ノイマン型の基礎的なアイディアを生み出したのは、フォン・ノイマンという人物です。
 まあ、なんていうか、人類史レベルの超天才と言っていいでしょうねえ」

 人類史レベル。超天才。
 あまりにも大げさだ。そう考えて現人は苦笑してしまったが、ユニは一切表情を変えなかった。

「ノイマン型コンピューターとは、このフォン・ノイマンが構想した概念を元にして実装されたコンピューターを言います」
「概念を元にして実装……っていうと、System/360の『アーキテクチャ』みたいな?」
「それよりもっと原始的で根本的なもの。
 ウツヒトが今、イメージしているのはコンピューターがプログラムやデータをどんなふうに取り扱うか。
 それがSystem/360の『アーキテクチャ』」
「そうだよな。そのおかげで、コンピューターに初めて互換性らしいものが生まれて……今でもずっと続いてるんだって。
 360はそう言ってたよな……」

 この時代を生きる現人からすれば、120年前のプログラム・コードが今でも現役で生産されているコンピューターでそのまま動作する━━つまり、互換性が保たれ続けているという事実は、ほとんど伝統芸能の次元である。

(エミュレーションとか……そういうので動かせる大昔のプログラムはいくらでもあるらしいけど、それは違うんだよな。
 生の互換性っていうか……)

 だが、System/360よりさらに以前に確立された『ノイマン型』という概念は、その『互換性』よりもっと根本的なもの。

 2085年の現在も、ほぼすべてのコンピューターに受け継がれている基礎の基礎であると、ユニ達は言っているのだ。

「ノイマン型の概念は『アーキテクチャ』としての実装に先立つもの。
 つまり『コンピューターとしての仕組み』そのもの。
 たとえばプログラムやデータをどこに置くか。どうやって実行するか。そういう低レベルな話」
「低レベル……」
「あー、っと。
 ここで言う低レベルは拙いとか、そういう意味とは逆ですからね、現人さん」

 ニューニはより機械としてのコンピューターに近い領域を、低レベルと言うのだと付け加えた。

「現人さんがちょっとかじっているユニバック・ショート・コードなんかは低レベル言語と言っていいでしょうね」
「ちょっとって何だよ……今でも勉強し続けてるんだぞ。
 要するに、ああいうほとんど数字の羅列みたいな━━えっと、機械語? だっけ? そういうのがコンピューターの世界で言う低レベルで、人間にわかりやすい……C? とかJava? なんか昔、とても普及してたっていうプログラムは高レベルになるのか?」
「そんな理解でいい。ウツヒトはよくわかってる。ほめてあげます。ぱちぱちぱち」
「……そりゃどうも」
「おっほん。それで、話を戻しますが」

 ぱふぱふと手を叩いたあと、なぜか現人の頭に手を伸ばそうとしたユニを制止するように、ニューニはわざとらしい咳払いをひとつ。

「先ほどユニ姉様が、ノイマン型の概念は『コンピューターとしての仕組み』そのものだとおっしゃいましたね。
 その内容ですが、一言でいうと『プログラムを主記憶(メインメモリ)に置いて実行時に読み込む』こと。
 これだけです」
「……ん? たったそれだけ?」
「ええ。たったそれだけです。|『プログラム実行方式』《ストアード・プログラム》とも言います。
 ですが、このたったそれだけがその後すべてを決定づけたんです。
 なぜなら以後のコンピューターは、アーキテクチャも違えば命令も回路の設計も何もかも違うのに、ノイマン型で定義された『プログラム実行方式』だけは共通ですからね」
「『ハーバードアーキテクチャ』と言われる方式もあるけれど、本質的には変わらない。
 ウツヒト。
 私もニューニも採用している、動作プログラムを主記憶(メインメモリ)に置いて、読み込みながら実行するという方式は。
 ウツヒトが見たエドサックが。あのイギリスのコンピューターであるEDSACが世界ではじめて実装したもの」
「……なるほど。
 それで『始祖』っていうわけか……」

 現人の言葉にユニは。そして、ニューニすらも深刻さを隠さない表情でうなずいた。

 いつの間にか、3人で分け合っていたスープは冷めていた。
 マグのカフォオレもまた、人肌よりも低い温度になっている。

「ちょっと暖め直しますか……ノイマン型の誕生について説明しながら」

 ニューニが立ち上がると、キッチンへ向かう。ユニは重い表情でうつむき続けている。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ