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超電脳のユニバック 作者:@IngaSakimori

第四章『ノイマン型の王』

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第三話『圧倒する"始祖の力"』(3/6)

「なんだか、また斜に構えた奴が出てきたなあ……」
「んっふっふっ、現人さん、すこし食傷気味みたいですねえ」

 闇の中から現れた夜制の男子生徒。
 そんな彼に挨拶を返すこともなく、露骨にいやそうな顔をする現人に、ニューニはニヤニヤと笑っている。

「む……」

 予想外の反応━━とでも言うように、エドサックはいささか鼻白んだ様子で、言葉に詰まる。
 くすり、と微かに。だが、場にいる全員に聞こえるように、フェランティ・マーク・ワンが笑った。

「これは……君の差しがねか?」
「いいや、津瀬現人くん」

 そんなフェランティの方を向いて、疑問の視線を向ける現人。
 だが、英国の顕現存在セオファナイズドは。ユニバックやバイナックと並ぶ世界で最初の商用コンピューターが一、フェランティ・マーク・ワンはおどけた表情で肩をすくめて見せた。

「確かに僕は彼と君を会わせるつもりだった━━けれど、もっと後だ。
 じっくりと事態の説明をして、『委員会』側の事情もわかってもらった上で話し合ってもらえたら、と思っていた。
 けれど、どうやら向こうが我慢できなかったらしい」
「本当かどうか……」
「ははは、信用がないなあ」
「恩人じゃなかったら━━」
「庶民の日本人」

 自分を無視して会話が続く気配を察したのか、エドサックはいささか乱暴に現人の声をさえぎって割り込んだ。

「日本の庶民は礼儀を知らないのですか?
 名を聞いたなら、己の名を告げるものです。私は寛大です。一度までは許しましょう。
 我が名はモーリス・ホイーラー・エドサック。あなたの名を聞かせなさい」
「………………津瀬現人」

 嫌みという段階を通り越して、高慢を極めたような尊大な口調のエドサックに、現人は目を合わせずに自らの名を名乗る。

(何が庶民だか……こっちが礼儀知らずなら、そっちは時代錯誤に偉ぶってるだけじゃないか)

 フェランティ・マーク・ワンにからかわれている時とは全く違う純粋な怒りと敵意がふつふつとわき上がってくる。

 相手の素性はわかっている。顕現存在セオファナイズドだ。詳しいことが不明だとしても、現人にとってはそれで十分だ。

(最初から……()るか?)

 それはつまり、相手を丸裸にし、強みも欠点もさらけ出してやろうということだ。

 無礼には報復を。高慢には制裁を。

 ただ、その対象がヒトならざる相手━━つまり、顕現存在セオファナイズドであり。
 そして、現人には右眼の『計算する宇宙』━━つまり、すべてを丸裸にする異能があり。

(調子に乗るなら……)

 報復といっても。
 制裁といっても。

(報いを受けさせてやる)

 それはこの宇宙で津瀬現人たった1人にだけ可能な方法だった。

「ほう! あなたがあの津瀬現人!!」

 だが、意外なことに敵意の対象たるエドサックは、敬意すら感じられるような驚きの声をあげた。

「あなたのことは聞いていますよ。
 なんでもヒトの身でありながら、世界で最初期(・・・)のコンピューターであるユニバック・ワンと深い契りを結んだ存在だとか」
「深い……契り?」
「ええ、それはもう。
 ヒトの身にあてはめるならば、不純異性交遊どころか退学処分も免れないような、モノスゴイ段階まで到達したと聞いていますが」
「………………ほう」
「や、待ってください、現人さん! 情報源はワタシじゃありませんって!!」

 ぎろり、と現人の凶悪な視線が向けられると、ニューニは無実を訴える詐欺師のように、ぷるぷると首を振った。
 ついでにたわわに実った巨乳もよく揺れた。

「ワタシが思いますにですねえ……こんな嘘をばらまいたのは、フェランティ・マーク・ワン! あなたですね!」
「あ、ひどいなー、ユニバック・(ツー)。僕を売るんだ?」
「売るも何も、あなたはもともとそっち側の英国面でしょーがー!
 ほぉらどうです、現人さん? これでワタシの無実が証明されましたね!!」
「まったく疑いは晴れていないけど、あのエドサックとかいう男がフェランティと同じ英国の顕現存在セオファナイズドってことは分かった」

 不起訴と無実は違うからな、証拠が集まらなかっただけだからな、とでも言うように。

 現人は念押しするような鋭い視線をニューニにむけると、エドサックと名乗った顕現存在セオファナイズドをみた。
 ちなみにニューニは明後日の方向をむいて、口笛を吹くような表情だった。

「英国の顕現存在セオファナイズドと会うのはあなたで2人目だ、エドサック。フェランティと同時代なのか?」
「同時代━━そうですね、2085年というこの年代からみれば、同じ時代でしょうね。
 君たち日本人が敗戦の惨禍にあえぎ、食べるものにも困窮していた時代に、私もフェランティも生まれましたよ」

 敗北したお前たちより、我々は優れているのだ。
 そんな意識を強く表情に宿して、エドサックは言った。

(何言ってるんだ……?)

 一方、その罵倒にも近い優越感の表明は、現人の心にまったく響かなかった。

 敗戦(・・)という単語が140年前のそれを指していることはわかったものの、そんな歴史の一ページでしかない時代を、まるでリアルタイムに体験した過去のように語られても、なんと反応していいものか。

(ほんと時代錯誤だな、こいつ……)

 何はともあれ、エドサックの罵倒は2085年の現代を生きる15才の少年に対して、罵倒として伝わらなかった。

「ちっ」

 現人の感情はいささかタイムラグを置いて、エドサックにも伝わったようで、あまり上品とは言えない舌打ちが聞こえてくる。

「わかっちゃいない。教養がない。
 まったく、これだから、この時代のヒトは……」
「いやいや、僕としても君の論法はどうかと思うけどね、エドサック」
「フェランティ。
 あなたは大戦の余韻が落ち着いた頃に生まれたから、そんなことが言えるのです。
 あの大戦で我らブリテンがどれほどの犠牲を払ったことか……しかしそれゆえにこそ、ナチを打倒する主力となり得たことか……おお、栄光のバトルオブブリテン。
 そしてUボートの暗号を解読し、我々は━━」
「え~~~~~~? でも、アメリカの力がなかったら、ぶっちゃけ負けてましたよね~、ブリテン」
「……新大陸の下賤な輩は黙ってもらいたいですね!!」

 とうとうと誇り高き英国の歴史を語ろうとしたそのタイミングで、絶妙の横やりを入れたニューニに、エドサックは明確な憎悪をむける。

「フムン……そうか。あなたがそうか。
 あなたがユニバック・(ツー)か。なるほど、ニューニという名の教師。New ユニバックでニューニというわけですな」
「気づくのが遅いですよ、エドサックさん。
 フェランティが名前を出してくれるまで、私が誰だか疑問に思わなかったんですか?」
「ふん、誰だとてかまいはしない。
 ユニバック以前の存在であったならば、問題だったかもしれない。
 だが、ユニバックの一族ならば問題はない━━そう、ないのだ」
「………………?」

 その物言いは、さすがのニューニにも理解しかねたのか。

「一体、何を言っているのやら━━」

 挑発するように肩をすくめて、ニューニが言いかけたその刹那。

『始祖の力』パワー・オブ・オリジンよ!!」
「っっっっっ!?」

 ビーバー・ハットを手にしてエドサックが一声吠えると、帽子の中の空間から、鋼線のような何かが飛び出した。
 反応する暇を与えず、それはニューニの体に巻き付くと、容赦なく肉体を締め付け、食い込む。

「な……ぁ……!」
「ニューニ!?」

 屋上のコンクリートに倒れ込むニューニ。
 巻き付いた鋼線のような何かによって、卒倒しそうなほど魅惑的な肉のラインが露わになり強調されているが、現人にとってはそれどころではない。

「どうです? まったく動けないでしょう、ユニバック・(ツー)?」
「っ……た、ただの英国面かと思いきや……手品師だったとは驚きましたねえ!」
「強がるのは結構ですが、どれだけ力を込めてもその線は切れませんよ」

 優越を確信した顔でエドサックは笑った。だが、ニューニも負けじと笑い返す。
 それは挑発しているというよりは、獲物への殺意をむき出しにした野獣のような笑顔だった。

「どうせ縛られるなら、あなたなんかじゃなくユニ姉様に縛っていただきたいところですよ……!!」
「くだらないことを。まあ、いい。
 あなたをここで葬っておけば、他の顕現存在セオファナイズド━━もちろん、昼制・生徒会の面々に対しても良い警告となりましょう。
 すぐに楽にしてあげますから、無駄な抵抗はしないことです」
「……待った」
「なんですか、フェランティ」

 とどめを刺すつもりなのだろうか。顕現存在セオファナイズドとしてのニューニを抹殺するつもりなのだろうか。

 エドサックは食後の散歩にでも向かおうとするような足取りで、まったく動けないままでいるニューニに歩み寄ろうとした。しかし、そんな彼を制したのがフェランティ・マーク・ワンである。

「彼女を殺す必要はないと思う」
「甘い。温い。そして、思慮が浅い。
 フェランティ、我々にとってユニバックの一族はどうあれ打倒することになる相手です。ここで各個撃破しておくことに何のためらいがあるというのです」
「警告は十分に与えた。考える時間は必要だ」
「しかし、ここで彼女を━━ユニバック・(ツー)を逃せば、今度はユニバック・ワンと連合してやってくるでしょう」
「なるほど。そうなったら、君と言えどもかなわないと」
「馬鹿な……」

 あり得ない。そう言うように、エドサックは瞑目して首を振る。

「………………」
(……え?)

 だが、その一瞬のタイミングで、フェランティ・マーク・ワンはじっと津瀬現人を見た。
 明らかに意味のある視線だった。15才の少年がその意味を解するまで、数秒の思考時間が必要だった。

(今の内に逃げろってことか……?)

 しかし、それだけではないように現人には思えた。

「ユニバックが1人だろうと2人だろうと、私にとっては何の変わりもありません」
「だったら、いいじゃないか。ひょっとしたら彼女たちが考え直して、味方についてくれるかもしれないよ」
「……あなたがそれを言うとは。
 あなた自身はどうなんです、フェランティ。我々、夜制・委員会に対して態度をはっきりさせていない顕現存在セオファナイズドは、もはやあなただけだ」
「僕としてはまだ考えたいことがあってね……」

 エドサックと会話を続けながら、再びフェランティ・マーク・ワンは一瞬だけ津瀬現人をみた。

(分かった……そういうことか)

 とにかく動け、とフェランティ・マーク・ワンは言っているのだ。
 そして、今、このとき津瀬現人が動いて出来ることは━━たった1つしかない。

「ニューニ!!」

 少年はユニバック・(ツー)の元に走り寄る。ふん、と鼻を鳴らすエドサックの声が聞こえた気がする。
 だが、気にかけている暇はなかった。まずはニューニを連れて逃げるなり、拘束を解くなり、手助けをしなければならない。

「なんだこれ……糸? 紐? 針金……なのか?」
「っ……痛ぅ……現人さん、単眼鏡モノクルを外して見てください……」
「あ、ああ……」

 巻き付いた鋼線のような何か。その下からむっちりとしたニューニの肉体が浮き上がっている。
 女体ボンレムハム……そんな表現が脳裏に浮かんだが、あわてて消し飛ばしながら現人は右眼の単眼鏡モノクルを外した。

(……これは)

 そして、ニューニの体を縛り付ける『線』を()た。
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