挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
超電脳のユニバック 作者:@IngaSakimori

第四章『ノイマン型の王』

46/49

第三話『圧倒する"始祖の力"』(1/6)

『ようやく完成━━か』

 1951年当時、およそコンピューターなる存在が一般に広まっていたとは言い難い時代に、それは完成した。

 知らない者が見たら、成人男性の背丈よりも少し高い程度のロッカーラックが並んでいる……おや、いくつかのロッカー扉にはスイッチやボタンがついているぞ、などと。

(そんな程度に思えるだろうな……)

 名を語られぬ彼を、ここでは責任者(・・・)と呼ぶとしよう。

『やっとですね』

 そして、責任者へ話しかけるもう1人の人物を、ここでは助手(・・)と呼ぼう。

『そうだな。しかし、とても喜べる気持ちではない。
 こいつがこの場所……つまり、我が国の弾道(Ballistics)学研(Research)究所(Laboratory)へ運び込まれてから、もう2年になる。開発契約からは5年も経っている。
 私は海軍に友人がいるんだがね、彼になんと説明すればいいのか分からないよ。自分の仕事は……アイオワ級戦艦と同じくらい時間がかかって、やっと完成した、などとね』
『は、はあ……』

 かの大戦において、軍役についたことのない若き助手は、責任者の悩みがいささか理解できないようだった。

(そうとも……こいつは本来、5年もかかる代物ではなかったんだ)

 おそらく名誉よりは不名誉として記録されるだろう、その開発期間の長さ。それが自分の評価としてのしかかってくるのではないかと、責任者は危惧していた。

(違う!!)

 自分のせいではないのだ。そう叫びたい気分だった。

(だが、不名誉だけでもない……!!)

 けれど、逃げ出したいわけではない。そう確信を持って彼は言えた。

『本当にずいぶんと時間がかかった……だが、こいつは素晴らしい代物だ。真のコンピューターだ。
 ノイマンが理論立て、エッカートとモークリーが形にした……3人の大天才によるジャズ・セッションなんだ』
『ノイマン氏といえば、ここに設置される別のコンピューターにも関わっているそうですね』
『ああ、ORDVAC(オードバック)のことだな。あれも本質的なところはこいつと同じだ。
 そして━━これからのコンピューターは、皆、同じになるんだ』

 時はまだ1951年である。

 世界にコンピューターなる存在がまだまだ希であった時代。
 巨大電子頭脳ENIACのみが辛うじて、世間的な認知を受けていた程度の揺籃期である。

(だが、私には確信できる。このコンピューターを設計したのは私ではない。理論立てたのも私ではない。
 私は……引き継いで、苦労しながら何とか完成させただけだ。ジョーカーを引かされてしまっただけだ。
 けれど、それだからこそ……このコンピューターに対して、第三者だからこそ確信できるのだ)

 これこそがコンピューターのスタンダードである。
 これこそがコンピューターの基本形態である。

『惜しむらくは……同じ理論による設計なのに他国に先を越されてしまったことですね……』
『ケンブリッジ大学のことかね』
『はい、1949年に完成したEDSACのことです。既にかなりの成果を出していると聞きます』
『我々が足踏みさえしていなければ、同じ頃には出来上がっていたんだろうがなあ……』

 責任者は深いため息をついて。
 それでも嫌悪感でも失望感でもなく、希望と愛着をもって、目の前に立つコンピューターを見た。

『我々のEDVACこそが……理論上も、完成も、最初のはずだったんだが……』

 そして、今はここにいないジョン・エッカートを。ジョン・モークリーを。
 彼らについて行った元・開発チームの素晴らしい人々を思い起こした。

(……我々は大切なコンピューターの揺籃期に、あまりにも長い年数を無駄にしてしまったのかもしれない……)

 それから弾道(Ballistics)学研(Research)究所(Laboratory)において、最初のノイマン型コンピューターとなるはずだった(・・・・・)存在は。

 すなわち、Electronic Discrete Variable Automatioc Computer━━EDVACは10年という長きに渡って、アップグレードを繰り返しつつ、稼働し続けた。

 日進月歩の進歩が続いたコンピューターの揺籃期に、それだけの長期間運用されるということは、設計と理論の優秀性を示すものであり。

 そして……それだけの年数を共に過ごし、支え続けた運用責任者(・・・)とその仲間たちの有能さを示すものであった。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~ 

 時は舞い戻って2085年の週末土曜日。

 すなわち、未だお台場のデータセンターでは苦闘が続いていた、昼前の津瀬宅である。

「おっはよーございまーす。ちょっとちょっと現人さーん。
『今夜…会いたい』って言われてるんですけどねえ? これ、どうします? ねえねえねえ?」
「誰とだよ。どこでだよ。なんでかっこいい俳優みたいな声出してるんだよ。
 それにもうお昼だよ……っていうか、いたのかよ、お前。とっくに帰ってたのかと思ったよ」

 昨日の夜はともかく、少なくとも朝は姿を見せていなかったはずのニューニが、当たり前のように2階から降りてきたことに、現人はあきれ果てながらため息をついた。

「教師をお前とは何ですか! あー、さては不良生徒ですね!
 さあ、土下座して靴をお舐め下さい、現人さん!!」
「ああもう、そういうのいいから……今日はなんか朝から疲れてるんだよ……」

 頭にがんがんと響くニューニの叫び声。二日酔いの後というのは、こんな具合なのだろうか。そんなことを考えながら現人は頭を抱える。

「で? なんだって?」
「主語その他もろもろ省略しまくったその聞き方! ワタシは現人さんのお母さんでもなければ嫁でもありませんよ! 正しい日本語ぷりーず」
「『今夜会いたい』と言われたとのご申告ですが、どこのどなたから誰へ向けての言葉でしょうか。僕は知りたいですニューニ先生」
「いえーす、ナイス日本語!
 つまりですねー、こういうメールが届きましてね。あ、ユニ姉様はお休み中ですから、見ても驚いて叫んだりしないでくださいね?」

 こたつにこもってぬくぬくと眠りを楽しんでいるユニを見ながら、端末の画面を見せるニューニ。
 絶対に突っ込まないぞ。うるさいのはお前だって。そんな強い意志を込めて、津瀬現人はその画面を見た。

(……へえ)

 そして、口から声が出るほどではないにせよ、確かな驚きを覚えた。

 まず、その内容。
 ニューニの言う通り『今夜会いたい』とテキストが表示されているだけである。

(そして差出人は……)

 現人が驚いたのは、むしろそちらであった。

「フェランティ・マーク・ワン、からか」
「そーなんですよ。
 昨日の深夜、目を覚ますとユニ姉様が部屋にいないじゃないですか。ワタシはチャンス!!……と思いましてねえ。
 ダイヴ・とぅー・ユニ姉様が普段使っているベッド! そこにはかぐわしい香りがあふれ、ワタシは目を閉じるだけで幸せな眠りに━━」
「……そ、そうか。
 ユニのことだから、今みたいにコタツで寝ちゃったのかもな」

 まさか自分の部屋で同衾していたなどとは言い出せず、現人はうわずった声で言う。

「でも、朝はどうして降りてこなかったんだ。
 気をつかって顔を出さなかったのか? そりゃ志保もいたから、教師のお前がいるとやりにくかったかもしれないけど」
「はっはっはっ!
 ワタシがそんなこと気にするわけないじゃないですかー!!」
 深夜にユニ姉様のベッドに潜り込みますね? 高ぶるハート! 萌え上がる愛!
 ああん、でもここでユニ姉様が戻ってきたら、どうなるでしょう!? そのまま一緒に? それともお仕置き? どっちもワタシ得うううううううううううう!!
 という感じで興奮して! 発憤して! 大変なことになりまして!!
 えー、それで眠れず寝付けずに、やっとウトウトし始めたのが朝方なんですよねー」
「……要するに徹夜状態で朝は爆睡していたわけか」
「そうなんです!
 そしてこのメールの通知音で起こされたというわけですよ」

 とても役に立つ情報を開陳したかのように、ニューニは凄まじいドヤ顔でその豊満な胸を張りに張ってみせる。

「ああ、そうかい……すごくどうでもいい経緯をありがとう。
 もう金輪際、お前のことをプラスに評価するのはやめたからな」
「はー、それはいいことですね。
 まあ恋人でも家族でもない他人は、ニュートラルに見ないといけませんよ。
 そうしないと騙されたり、見誤ったり。いろいろ仕事で困りますから。これ社会のセンパイからの助言です。就職しても思い出してくださいね?」
「……あと、口車でお前に勝とうとするのも止めるよ。
 で、そのフェランティ・マーク・ワンからのメールだな」
「はい。つまり『今夜会いたい』です」
「………………んにゅ」

 ニューニの大声で起こされてしまったのか。
 あるいは、妹が核心に触れる話題を切り出したことを察知したのか。

「……おはようございます」
「おはようございます、愛しのユニ姉様!」
「おはよう、ユニ。コーヒー牛乳でも飲むか?」
「だいじょうぶ~」

 もそもそとこたつから這いだすと、ユニはソファに腰掛けた。
 正確には既にソファに座っている現人に対して、上半身をぐっとりと預ける形になった。

(このままもう一度、寝落ちしそうな顔だな……)

 重そうな瞼をなんとかこじ開けているようなその表情は、しかしあくまでも可憐の一言に尽きる。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ