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超電脳のユニバック 作者:@IngaSakimori

第三章『世界で最初、と呼ばれなかった者たち』

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第五話『ユニバック vs バイナック』(4/6)

「ユニサーボ・ドライブ!!」
「な!?」
「なんだこれは!?」

 2人のバイナックが事態を認識するよりも、ユニの左手へ青い光が集まり、膨大な金属磁気テープが出現する方が速かった。

 リン青銅の鈍い輝きを放ちながら、そのテープの束は━━否、奔流はたちまち2人のバイナックへと巻き付き、縛り上げた。
 その様子を見つめるユニの瞳はやはり、あわれみに満ちていた。

「何をする気だ、ユニバック!」
「何をした、ユニバック!」
「あなたの攻撃を、あえて受けてあげたけれど」

 淡々と。スペックシートを読み上げるように。あるいは死刑執行命令を読み上げるようにユニは言った。
 2人のバイナックはユニサーボの金属磁気テープによる束縛から逃れようと、必死で身をよじっている。
 だが、子供でも引きちぎれそうな薄いテープはびくともしない。

(このテープっ……それ自体が外部記憶装置なのか!?)
(アタシ達が脱出しようとする処理を封じるように命令が、データが記録されている!!)

 Binary Automatic Computer━━略してBINAC(バイナック)
 それはユニバック・ワンに先立つ製品であり、見方によっては世界で最初の商用コンピューターと称して差し支えない存在である。

 だが、その機能には二つの大きな違いがある。
 一つ目。バイナックでは実装されつつも、うまく動作しなかった二重化機能がユニバック・ワンでは省かれている。
 二つ目。バイナックには━━ユニバック・ワンに実装された画期的な外部記憶装置である、金属磁気テープのユニサーボが存在しない。

(アタシにあるのは、ひどく原始的なテープデバイスだけだった……こんなものがアタシの後につくられていたのか……!!)

 バイナックのA-CPUはようやく自分たちを束縛するものが、後発の新技術であることを理解していた。
 顕現存在セオファナイズドの強さは、単なる処理性能や真空管、あるいはトランジスタの個数では決まらない。

(新技術……新製品……つまり、偉大であるということ!!)

 バイナックのB-CPUは戦慄していた。

顕現存在セオファナイズドの強さ。
それは究極的には偉大さである。ただ大きければ良いわけではない。ただ能力が高ければ良いわけではない。
 コンピューターの偉大さは、そんなものでは決まらない。

(栄光……名声、評価!!)
(そして技術的な尊さ!!)

 バイナックのA-CPUもB-CPUもそれを知っている。

 だから、それが顕現存在セオファナイズドという形を取っている限り、たとえ21世紀の製品であろうとも、どこにでも転がっているような大量生産・超高性能プロセッサは、原初の真空管式商用コンピューターにも劣るのだ。

「バイナック」

 ユニバック・ワンは、あくまでも落ち着き払っていた。

「ハ……ハア、ア……!」
「はああ……!」

 対するバイナックは、2人とも。つまり、A-CPUもB-CPUも息を乱し、大汗を額に浮かべ、今にも後ずさりそうなほど腰が引けている。

「私はいま……私にあって、あなたにはないモノで、あなたを捕らえている。それがどういうことか分かる?」
「「………………」」
「それはつまり、あなたには対抗手段がないということ」

 ぞっとするほど、冷たい処刑宣告だった。

「そして、さらに!!」

 ユニはその細い人差し指を天井にかざした。
 青い光が粒のように広がって、ガラスの小さな『管』(チューブ)が出現する。
 それは数本の電極を備えており、鈍くも暖かいフィラメントの輝きがその円筒形のガラス内にあった。

「あなたがこの攻撃に対抗しようとするならば!!」
「っ……!!」
「くそっ!!」

 ユニの一声に反応して、彼女の上に浮かぶ真空管(チューブ)の数は何十、何百倍にも増えた。
 応じるようにバイナック『達』の周囲にも無数の真空管が出現する。だが、その数は明らかに少ない。

「突き刺さり、弾けよ!」
「「防ぎ、撃ち貫け!」」

 双方が顕現させた無数の真空管は、ユニとバイナック『達』の中間点で激突した。
 ガキン、という金属の衝突音とガラス管の弾ける小さな爆砕音が聞こえる。だが、それでいて周囲に金属片もガラスの欠片も散らばるわけではない。

 それはユニバック・ワンとバイナックが備えていた、回路(サーキット)の根幹である真空管同士の戦いだった。
 顕現存在セオファナイズドの持つ武装の戦いだった。さながら、矢と矢の応酬であった。

 ━━だが、それは唐突に停止する。

「そう……つまり、こうなる」

 ユニは未だ大量の真空管を周囲に顕現させたまま、冷酷に告げた。
 対するバイナックには何もない。彼女は自らが持つ真空管、それぞれのCPUごとに700本━━つまり1400本を使い果たしていた。

「私にはまだ3800本の真空管がある。
 それでも戦う? あなたに戦う手段がある?」
「ぐっ……くそおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!」

 5200本の真空管のうち、1400本を使ったに過ぎないユニはそう問いかけた。バイナックのA-CPUは地獄につながれた獣のような絶望と苦悶の叫びを響かせる。

「私はあなたを拘束しているユニサーボを、消去モードで動かすことも出来る。
 それでも戦う? あなたに抗う手段がある?」
「なぜなんだ……なぜこんなことに!! なったんだああああああああああああっっっっ!!」

 バイナックの持ち得ない、新型の金属磁気テープ装置という絶対優位を突きつけながら、ユニは訊ねた。
 バイナックのB-CPUは天運に見放されたことを呪う宗教者のように、虚空を仰ぎながら目を血走らせた。

「もう……」
「おわりだ……」

 そして━━2人だったバイナックは1人に戻った。

「あ」

 まるでアニメーションのように、2人分の姿だったバイナックが、1人に融合する様子を見て、津瀬現人はユニの勝利を確信した。
 バイナックは諦めたのだ。彼も、そして彼と共に体育館の外周回廊から見守るIβM 704も、System/360もそう判断していた。

「……ん」

 ユニバック・ワンは少し意外げに眉をひそめ。

「………………うん」

 そして、どこか誇らしげに口元をゆるめると、くるりと津瀬現人にむかって振り向いた。

「ユニ……」
「えへ……ウツヒト」

 15才の少年からほっとしたような笑顔が返ってくる。ユニはすこし照れくさそうに、はにかむように笑った。

 しかし、その時だった。

「ああ、そうさ……もう正面から戦うのは、終わりだ!!」

 バイナックが通信端末を取り出すと、場の空気は一変した。
 彼女はどこへ電話をかけるでもない。メールを送るでもない。ただ、時刻を見ていた。

「5秒……3秒……さあ、時間だ!!」
「一体、何を━━」

 ユニが今度こそ悪あがきを警戒して、本気で眉をひそめたとき。
 すべての者が体育館の外から━━つまり、廊下から向かってくる駆け足の音に気づいた。

「はーい!!」

 そして、勢いよくドアが開き、ユニと現人にとっては聞き慣れた声が。
 この場では絶対に聞きたくない声が響き渡った。

「もう~! 現人ったら、こんな時間に大事な話があるだなんて!
 志保様ちゃんも期待しちゃうんだからね?
 って……あれ? なんでユニちゃんがここに━━」
「シ、ホ………………」

 愕然とするユニの瞳が、体育館に飛び込んできた志保を見たとき。

「志保っ!!」

 そして、外周回廊から現人が絶叫したとき。

「BANG、だ」

 バイナックは懐で、一つのスイッチを押した。

(あっ……)

 その光景はスローモーションにもならなかったし、ほんの一瞬の出来事だった。

 ただ、鼓膜だけが響き渡る轟音をとらえていた。

 ぽかんとする志保に向けて、天井から照明機材がいくつも降り注いだ。
 衝撃音が響き、埃が舞い、破片が散乱した。薄煙のように立ちこめる灰色は、津瀬現人の精神状態そのものだった。

「なんということを!!」
「下劣な……!」

 704と360の怒号も耳を通り抜けていく。
 体がぐらりと揺れて、手すりにもたれかかる。足から力が抜けて、外周回廊の床に膝をつく。

 それが、津瀬現人の現状だった。

「シホ━━シホ、シホがなんでここに私のせいでシホがシホがバイナックにシホ、シホがシホがウツヒトの大切なシホ、シホ私シホにシホが私のせいでシホが━━」

 ユニバック・ワンはというと、虚ろな目で自分を責めるような言葉を繰り返したまま、がくがくと震えているだけだった。

「あははははははははははははあ!!」

 バイナックは何の妨害も受けることなく、その顔面に拳を叩き込んだ。
 何かを顕現させることもなく、彼女自身の握り拳でユニバック・ワンを殴りつけた。

「最高だ!! なんて脆い……脆い心だ!
 それがお前の弱さだ、ユニバック!!」
「シホ……シホ、シホシホ、ウツヒトになんて……私は、なんて━━わた、私、は!!」
「このまま死ね、ユニバック!!」

 膝を突いたユニを正面から、側面から、背中から。
 一通り、肉弾で打ち据えると、バイナックは水銀遅延マーキュリー・ディレイ・線記憶装置ライン・レジスターを顕現させ、打ち下ろし始めた。

 鈍い音が響き、ユニバック・ワンの細い肢体が吹き飛んだ。床に転がった。

「まだまだぁ!!」

 狂気。しかし狂喜。
 尋常でない凄絶な笑顔を口元に浮かべながら、バイナックはユニを攻撃し続ける。
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