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超電脳のユニバック 作者:@IngaSakimori

第一章『顕現存在━セオファナイズド━』

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第三話『水銀遅延線記憶装置はFORTRANソードと戦う』

「なあ志保しほ。だから、誤解なんだって」
現人うつひとのばか」
「僕だって何がなんだかわからないんだからさ……」
「現人の裏切り者。浮気者。二股。色欲魔」
「……そこまで言わなくてもいいじゃないか」
「ウツヒト。すごくいい匂いがしてきた。私はとてもうきうきしている」

 夕飯のメニューを伝えようと部屋に入ったら、見知らぬ女が幼なじみの少年を押し倒しているという、衝撃的な光景を初敷志保はつしき しほが目の当たりにしてから、数十分後。

 リビングのテーブルに座らされたまま、津瀬現人つぜうつひととユニバック・ワンと名乗った少女は、無言で肉と野菜の下ごしらえをし、鍋からアクを取り去るエプロン姿を眺めることになっていた。

「……納得いきません」

 そして、鍋に蓋をし、あとは弱火で煮込むだけ━━そんな段階になってから、はじめて志保はまっすぐに現人の目を見た。

「なんでだよ」
「納得いきませんったらいきません!
 この志保様ちゃんに相談もなく、知らない女を家に連れ込むなんて! 現人ったら信じらんない!!」

「べっ、別に連れ込んだわけじゃないぞ……」
「私も連れ込まれた覚えは特にない。私はこの国で拠点になる場所を探しているだけ」
「あたしだってあんなふうにしたことないのに、納得いきません!」
「ウツヒト。シホの言葉は支離滅裂で、つながっていない。補足を求める」
「あー、えーと。まったく……そうだな、どう言えばいいのか……」

 どうして、自分がこんなことで悩まされなければならないのか━━
 なんて理不尽なことだ。津瀬現人つぜうつひとは必死で考える。そして、選んだ逃げ道は安易なものだった。
 すなわち、その場しのぎの言い訳である。

「……なあ、志保。この子はホームステイに来たんだ」
「は? ホームステイ?」
「ほーむすていってなに。ウツヒト」
「あ、ああ、気にしなくていいぞ志保。彼女はアメリカ人で日本語がまだよく分からないから」
「でも、ホームステイって英語じゃない」
「和製英語だ。実はアメリカでは通じないんだ」

 なるべくきっぱりとした口調を意識して、現人はそう言い切った。傍らの少女は何かを言いたそうにしていたが、意外にも口を挟むことはなかった。

「というわけで、別にやましいことはないんだよ」
「……でも、さっきベッドの上であんなふうに……」
「あれは部屋を案内していたら、物につまずいただけだ」
「……ほんと?」
「本当だよ。僕が志保を騙したことなんてあるか?」
「………………」

 初敷志保は捨てられた子犬のように。あるいは、救いをもとめる信徒のように、津瀬現人を見た。

「……ううん、そんなことなんて、ない」
「じゃ、そういうことだ。
 信じろよ」
「……わかった。現人のこと、信じるね」

 そう言いながら、志保は立ち上がった。
 ほどけかけたエプロンの紐を締め直すと、コンロの前へ向かう。

「さあっ! そうだとわかったら、三人分のおいしいご飯、作らなくっちゃね!」
「ああ、期待してるぞ」
「うんっ、この志保様ちゃんがつくるご飯に、いっぱい期待してていいんだからね?」

 満面の笑みをみせて、志保は米を仕込みにかかっている。鼻歌まで聞こえてくるのは、完全にいつもの調子を取り戻している証拠だった。

「この手に限るな」
「……ひとつ分かった。ウツヒトは女たらし」
「……ふざけるな。誰のせいだよ。そもそも、ええと、君が、ユニバックが━━」
「ユニ」

 志保に聞こえないように、小声で言い合っている飯待ち組の二人。
 そのうちの一人。ユニバック・ワンことユニは、頬づえをつきながら銀の瞳で、現人を見つめていた。

「私のことはユニでかまわない」
「……分かった。
 それにしても、君は外国人なのに空気とか読めるんだな。すこし以外だった」
「……日本人は雰囲気をとても大切にする。何事も周囲に気をつけて予測するように、と。妹から教わった」
「妹、ね。
 その妹さんも日本に?」
「……アメリカにいる、はず。私を逃がしてくれたあとのことは、分からない」
「………………」

 それ以降、現人は何も言わず、夕食ができあがるのを待っていた。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

「━━以上のように、目標の選定は終わっています。
 セキュリティとシステムの構成、コードの解読も完了。あとは決行するだけです」
「ご苦労様。さすがに偉大なる青の者は、基幹の把握がうまい」
「我々の時代と比較するのは、無意味なことですよ。ハジメ様」

 津瀬現人とユニバック、そして初敷志保が絶品のビーフシチューに舌鼓を打っている頃。

 南多磨高校の校舎には、皓々と灯りがともっていた。
 そこにいるのは、夜制の生徒達である。遠い昔、定時制と呼ばれていたシステムは、2085年の今もまだ継承されており、昼間と大して変わらない数の生徒がおり、そして教える者達がいた。

 ━━とはいえ、久礼一くれい はじめ古毛仁直こもに なおしも、夜制の生徒ではない。
 それでありながら、その一室は彼らが独占する空間だった。昼間はC型の円卓に見えたその中心には、巨大な『何か』がそびえ立っている。

「これがあなたの顕現ですか、ハジメ様」
「なあに、ささやかなものだよ」

 幻影のように、しかし栄光の王国のように、その虚像はある。久礼一くれい はじめがゆっくり手を当てると、巨獣のうなり声にも似た動作音が響きわたった。

「二人だけというのは、寂しいものだね」
「しかし単純です。単純であることこそ、力です。
 単純なものはムダがない。単純であるからこそ、速い。あなたの姉はそれを証明しています」
「6600の時代にはRISC(リスク)などという言葉はなかったけれどね」

 耳を澄ませば、廊下からは笑い声がする。夜制の授業、その合間の休み時間である。そこにあるのは日常そのものだった。
 歴史をひもとけば、この国は実に100年以上の平和を謳歌していると言う。
 赤い大国と生存を賭けて対峙していた、己の時代を思い返すと、久礼一くれい はじめは不思議な気持ちになる。

「ところで、彼女が来るのは来週で確定だね?」
「ええ。
 転入の手続きは問題ありません。ただ、第一バッチの実行には間に合わないでしょう」
「問題はないだろう。
 誰に止められるはずもない……僕たちは綿密に定められた計画通りのことをする。ずっと昔からそうしてきた」

「しかし、夜制の連中がおかしな動きをしています」
「コロッサスやエドサックのことを言っているのなら、彼らは選挙に勝つためにそうしているのさ」

 久礼一くれい はじめはどこかあざけるように、口元を笑わせた。机の上にある薄っぺらい端末へ指で触れると、校内新聞の一ページが現れる。

「生徒会選挙の投票も来週だ」
「はい……」
 会長候補として久礼一の名前は載っている。対立候補としてコロッサスという名前がある……書記には古毛仁直こもに なおしも名を連ねており、やはり対抗馬としてエドサックという名前があった。

(……競争相手ではあっても、対立する存在ではなかったはずだが。
 それもまた、時代が変わったということかな?)

 久礼一は夜の闇をみる。まるで真月の海のような暗闇を。彼が見ているのは大西洋だった。荒い海を挟んで存在する、島国だった。

「彼らは自分に勝ち目があると思っているのでしょうか」
「勝算がなければ立候補はしないし、ここ数日でずいぶん巻き返していると聞く」
「ですが、間に合うはずもありません。
 紙テープの代わりに紅茶でも流し込んだのでしょうか」
「それは確かにひどいアウトプットが生まれてきそうだね」

 けらけらと。童女のように無垢な顔で、久礼一は笑った。

「……そろそろ時間です」
「うん」

 そして、彼らは窓から八王子の町並みを見た。

 夜でも皓々と灯る文明の火。
 しかし、それらが一瞬だけ消え失せ、原初の暗闇が現れる。二人のマークIアイボールは、その刹那、空に浮かんだ天の川をはっきりと認識していた。

「問題ありません━━テストは成功です」
「うん、まったくもってすべて順調だ」

 日常の口調で彼らがそう言い合ったその時、街はすでに電気の輝きを取り戻していた。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

「あれっ……どうしたのかしら? 停電?」
「いや、だって電気ついてるぞ」
「でも、一瞬暗くなったわよ?」

 八王子市を中心として、多磨地域全体に1秒ほどの瞬停が起こったその時、初敷志保はつしき しほは夕飯の後片付けを終え、津瀬現人つぜ うつひと宅の玄関から出るところだった。

「ま、いいわ。
 それじゃあね、現人。あったかくして寝るのよ。ガスの元栓はちゃんと閉めてね。エアコンつけっぱなしはダメよ。小腹が空いたら、棚にクッキーが……」
「わかったわかった。何もかもわかった。だから、お前も早く帰って寝ろ」
「うんっ、たっぷり寝るわ。
 あしたも早起きして、現人のこと起こさなくちゃいけないからね!」
「………………」

 両親が仕事で海外に出てからというもの━━
 数えるのもばかばかしいほど繰り返したやりとりだった。いつしか現人は感謝よりも、恩着せがましさよりも、ただ諦めだけを胸に、初敷志保の言葉を受け止めるようになっている。

「ああ、頼む」
「うんっ!!」

 そして、棒のような口調の少年に対し、少女はとびきりの笑顔をみせて、すぐ隣にある自分の家へ帰っていった。

「はあっ……ったく、あいつはどうしてこうなんだか……」
「ウツヒトはジゴロ」
「……待て待て。今のやりとりを見ていてそう思ったなら、理由が知りたいくらいだぞ」

 半眼で振り返ると、そこにはすまし顔のユニがいる。どこから調達してきたのか、かわいらしいピンク色のパジャマを着ていた。

「シホはウツヒトに好意をもっている。
 ウツヒトはそれを知らないふりをしているけど、受け止めるのも怖く拒絶するのはもっと怖いので、態度を曖昧にしたまま、ただイエスという。
 よって、シホはウツヒトにますます依存する。これはウツヒトがすべて原因。
 だから、ジゴロ」
「あー。僕は何も聞いてないからな。意味もわからないし。理解なんてしない」
「……知りたいっていうから、教えてあげたのに。
 ウツヒトはひどい」

「ひどいって言うなら、いきなり僕の家にあがりこんで、成り行きにまかせてホームステイっていうことにした君の方がひどいだろ」
「その場しのぎでホームステイと言い出したのはウツヒト。
 それに私は君じゃない。
 私はユニバック━━ユニバック・ワン。
 だから、ユニと呼んでほしい」
「……悪いけど信用できるようになるまでは、君、だよ」

 少し強気に過ぎたかな、と津瀬現人は心の中で自問する。今はもう夜で、ここには自分とユニバックと名乗った少女しかいないのに。
 もし、彼女がとてつもない力持ちで、自分など組み伏せ、縛り上げられるとしたら、どうなるだろう。

(バカなことを考えてるよな、僕も。こんな見た目の強盗なんているもんか)

 夕飯を一緒に食べてから、強盗されるというなら、むしろ一生ものの語りぐさになるかもしれない。そんなことすら、考える。

「むう、それなら仕方ない。ウツヒトが信用してくれるようにがんばる」

 とはいえ、眼前の少女が返した言葉は、現人の思考にかすりもしなかったが。

「とにかく、この国での拠点ができたのはよかった」
「拠点?……寝泊まりするところ、って言う意味かい?
 まあ、今夜くらいは泊めてあげるけどさ」
「今夜くらい? あしたは? ダメ?」
「ダメ━━とは言わないけど、少しは自分で何とかしなさい」
「かなしい」

 しゅん、という効果音が聞こえてきそうなほど、ぐったりと肩を落としてユニバックは言った。
 津瀬現人つぜうつひとは溜息をつく。
 今日は何もかもがおかしい。昼休みに裸の彼女と出会って、見知らぬ男に剣で刺され、その傷は何ともなく、夕暮れには服を着た彼女に押し倒され、その様子を志保に見られ、結局三人でビーフシチューを食べた。

(それに比べたら、さっきの停電なんてどうでもいいか……)

 そもそも停電であるかどうかも怪しい。
 家の配電盤が調子悪いだけかもしれないからだ。

「僕はもう寝る」
「ウツヒト。私はどうすればいい」
「ソファがあるだろ……毛布は貸すから、それを使ってくれ」
「こたつ。こたつがいい。日本のこたつは素晴らしいと妹から聞いた。こたつ。ウツヒト、こたつ出して」
「確かにあるにはあるけど、なんでもう4月なのに出さないといけないんだ」
「こたつ! こたつを出してくれないと、私はウツヒトを寝かさない」
「………………」

 この先は一歩も通さない。そう誇示するかのように、ユニは現人の自室がある二階へつづく階段の前に立ちふさがる。

「さあ、観念してこたつを出して、ウツヒト」
「……まあ、毛布一枚で風邪ひかれても困るけど……」
「やったー! こたつー!!」
(……何で僕はこんなことをしているんだろう)

 現人は押し入れを開け、折りたたまれたこたつを引っ張り出す。家族四人で使うことを想定しているそのサイズは、決して軽くない。

「こたつこたつ。早くスイッチを入れて、ウツヒト」
「……少しは手伝ってくれよ」
「コンセントさした。電気なら任せてほしい。えっへん」
「そんなの誰でも出来るだろ……」

 電源コードを豚の鼻に差し込んだだけで、働いたあとの顔をしているユニバックに、非難の視線を向けながら、現人はこたつに毛布をかけて、天板を載せる。

(本当に……なんなんだ、今日は)
 ああ、これは現実なのだろう。幻覚でもなく、白昼夢でもなく、確かなリアルなのだろう。
 それにしても━━あまりに支離滅裂ではないか? と。

「……ハプニングはもう少し順序よく来てほしいよな」
「こたつ。あったかい。ありがとう、ウツヒト。おやすみ」
 幸せそうに目を閉じるユニバック・ワンのぷくぷくとした頬に、氷の一つも落としてやりたいと津瀬現人は考えていた。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

「ふむう」
「なんだよ、朝から人の顔をじろじろ見て」
「いや、なんの。少しな」

 翌日。いつもの通学路に並ぶ背中は三つ。
 小さな志保しほと、平均的より少しだけ高い現人うつひとと、そしてはっきり長身といってよいけい
 それはごくありふれた親友同士がつくる横並びの階段だった。

「現人に何かが起こった……変わった……そんな表情だったのだが。
 俺の見込み違いだったようだ」
「そ、そりゃあ、間違いなく錯覚だな……」

 あきれかえった声で応えてみせながら、現人は背筋に冷たい汗が流れ落ちるのを感じる。
 京の人物観察眼。それは単純に鋭い、というよりは霊感とかそういったものに近いのではないかと彼は思っている。

「いやいや、しかしだな……たとえばだ、現人よ。
 空から女の子が降ってきたとか、運命の剣を抜いてしまったとか、伝説のかなえを持ち上げてみせたとか、そういうイベントはなかったか?」
「京くん、カナエってなに? 誰かの名前?」
「よき質問だ、志保殿。
 言うなれば、足の付いた鍋か、どんぶりのようなものだ。遠い昔に使われていた食器の一種だな」

 ばさり。器用に手首のスナップをきかせて扇子を開きながら、京は言った。

「へ~、さっすが京くんはよく知ってるね。ねっ、現人」
「頭のいい同級生を見たときの母親みたいな言い方するな」
「やだもう、母親だなんて! 現人のお母さんはちゃんといるじゃない!
 あ……でも、甘えたくなったら、別にいいのよ?」
「………………お前なあ」
「~♪」

 ぱんぱんと自分の太ももを叩いてみせる志保に、現人は激しい頭痛を覚えた。そして茶化すように口笛を吹き始める、京の脇腹に肘をいれる。

「ぐふっ」
「……とにかくだ。僕には何も変わったことなんてないよ。少し変わったお客さんが、家に来たくらいだ」
「ふ~む。客、とな?」
「そ、そうだ」

 なぜか動揺している自分に現人は気づく。京と会話していると、隠し事すべてを見抜かれてしまう━━そんな気持ちになる。

「ホームステイの外人さんなんだよ。ねー、現人」

 異常の動揺に襲われかけた現人を、日常に引き戻したのは志保の笑顔だった。

「あ、ああ……そうだな」
「ほう、志保殿とはもう面識があるわけか。
 ならば……この俺にもく紹介してほしいものだな? 我が親友殿?」
「お前に紹介するのは、落ち着いてからだ。
 いや、紹介しないかもしれない。いろいろ問題がありそうだし……」
「信用のないことで残念至極」
「男ならともかく、相手は女の子だからな」

 ━━自分に関する限りお前を信用しているが、他人に関しては信用していない。
 そんな半二重の不信をこめた視線で、現人が京をみると、彼はにんまりと笑ってみせた。

「別に取りゃせん」
「……アホ」
「えへへ~」

 傍目からはまったくかみ合っていないように見える現人と京の会話を、志保だけが楽しそうに眺めていた。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

(あっ……昨日のあれは本当に停電だったんだな……)

 いつもの朝。いつもの学舎。高校生が見ても特に差し障りのないニュースだけが、生徒用玄関を抜けた先にあるディスプレイに毎朝表示されている。
 そこには『多磨地域で一斉に瞬間停電。交通の混乱も』というヘッドラインが流れていた。

「どうした、現人よ」
「あれだよ」
「あっ、昨日現人の家から出るときのやつね! 停電なんて珍しいよね。ニュースになったりするんだ」
「それはまあ、一斉停電とあれば当然だろうな」

 困ったような。あるいは、遠慮しているような。
 自分は当たり前のごとく知っているけれど、目の前の友人達は知らない。そんな態度をはかりかねているような口調で、京は言った。

「電気は言うまでもなく社会の根幹だ。こいつがなくては、全てが止まる」
「でも、電気が切れても生活はできるじゃない」
「そう思うのは、志保殿が現人の家にいたからだ。
 街中にいたとしよう……信号もとまるし、電灯も消える。
 もちろん買い物もできなくなるし、クルマの充電もできん。我々の授業も紙のノートだけが頼りになるな。教科書は使えなくなる」
「……それは分かるけど、あれって一瞬のことだったろ?」
「一瞬でも電気が切れれば、機器は立ち上げなおしだからな。
 一秒の停電で、十秒……モノによっては何分も使えなくなるというわけだ」

 津瀬現人には、親友がなるべく気楽な口調を装っているように聞こえた。
 本当は大変な事件がおこっているのに、あえて自分たちには関係ないさ、と安心させようとしているのではないかと思えた。

「ま……原因は知らんが、優秀な大人たちがしかと対策するだろうさ」
「優秀な大人たち、ね。たとえば、安澄ねえみたいな?」
「我が姉上殿は……ちと分野が違うがな」

 ぶるり、と京は身を震わせる。
 彼に言わせれば、弟という生命体は、幼少期から姉への服従と恐怖を叩き込まれて育つものらしいが、一人っ子の現人にはさっぱり分からない話だった。
 チャイムが鳴り、午前の授業が始まる。日常がやってくる。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

 そして、昼休み。

「……こんなところに何か捜し物でもあるのか?」
「んっ。ウツヒト」

 志保や京との食事を早々に切り上げて、校舎裏にやってきた現人がみたのは、地面の一点を見つめつづけているユニの姿だった。

「私服のままで入り込んで……ここは学校なんだからさ、制服着てないやつがうろついてたら、怒られるぞ」
「大丈夫。
 夜制は私服おっけーって聞いた。何か言われたら夜制生徒のふりをする」
「……そんなことよく知ってるな」

 平然と、平坦な胸を張ってみせるユニに、現人は在校生である自分自身も気づかなかった盲点を突かれた思いだった。

「まあ……そういう説明なら筋は通るけど。
 でも、先生にクラスとか聞かれたら、どう答えるつもりなんだ?」
「そこはそれ。ウツヒトが適当に話を合わせてくれれば、だいじょうぶ」
「僕も一緒にいるのが前提かよ。
 話を合わせてやる義理がないだろ」
「義理はなくても、借りはあるはず。
 ウツヒトはその場しのぎの嘘で、シホに私がホームステイに来たと言った。私は話をあわせて、ウツヒトの嘘に付き合ってあげた」
「……別に今から本当のことを志保に言って、君を追い出してもいいんだぞ」
「そうなると、ウツヒトは夕暮れのベッドで私に押し倒されていたことになる。
 シホはとても悲しむ。たぶん、泣く。大泣きする。
 それだけじゃなくて━━」
「わかった。僕は義理堅い人間だし、借りはちゃんと返す。だからあいつに変なことを言うのはやめてくれ」
「ウツヒトはシホのことをとても大切にしているね?」

 疑問形のイントネーションでユニは言った。津瀬現人は反射的にむっとしてしまった自分に違和感を覚える。
 なぜだろう? ただ、イエスかノーか答えればいいだけのことだ。感情を乱す言葉ではないはずだった。

「そりゃまあ……幼なじみだからだよ」
「幼なじみ。子供の頃からの馴染み。家が隣だったから?」
「それもあるかな。
 でも、それ以上にあいつは昔からお節介を焼くんだよ……僕の部屋へ勝手にあがりこんで、それはもう好き放題……」
「とても不思議。ウツヒトの言葉は不満をあらわしているテキスト。
 それなのに、とても優しい」
「……不満は不満。それだけだよ」
「やっぱり、嫌がっていない」
「だからなっ、幼なじみはそういうものなんだよ」
「んー」
「君、体柔らかいな……」

 ぐんにょりとユニは首を捻ってみせる。その角度は現人がおもわずぎょっとするほどのものだった。

「ウツヒト」
「なんだよ」
「ウツヒトは何も感じない?
 ここにはまだウツヒトから欠損した情報がすこし残っている。私はそれを集めていた。ほんの僅かだけど、これはもともとウツヒトのものだった情報。
 あとで返したい」
「情報、って━━」

 その瞬間、津瀬現人の胸に嫌な感覚が戻ってきた。
 金属ではない。しかし、たしかに鋭利な何かが突き刺さった感覚。しかし、血も出ない。熱くはない。ただ、冷たく、何かが失われていった……嫌な感覚。

「……っぷ」
「吐き気がするなら薬を飲んだ方がいい」
「いや……大丈夫だ。なあ、アレって本当に現実だったのか?」
「アレ、とは?」
「僕は剣で刺されて……君は……そ、その、裸で」
「………………」

 いささか頬を赤らめてそう言った現人を、ユニはじっと見つめる。
 光ファイバーほどに透明なその長髪は、白く。
 月の砂ほどに煌めくその瞳もまた、しろく。

(……すごいよな)

 相手が日本人でないと分かっていても、見とれずにはいられない美がそこにはあった。

「……ウツヒトは女たらしなだけじゃなく、えっち」
「いや、そういうことを言ってるんじゃなくて!
 あのさ……あまりにも現実離れしていたもんだから。今でも夢とか幻覚じゃないかと思っているんだよ」
「アレは確かに現実」
「じゃあ、なんで僕は無傷なんだよ? それが一番納得いかない」

 抗議するように現人は自分の胸を指さしてみせた。
 校庭の方から生徒達の笑い声が聞こえた。風は暖かく、鳥のさえずりが耳に届いた。ひどく平和な昼休みだった。

(それなのに……)

 津瀬現人は。まだ15歳の少年は、その若さからもっとも遠い表現を口にしようとしている。

「あのとき━━これで死ぬんだって、思ったんだ」
「………………」

 ユニは理解に余る異国の表現を聞かされたときのような顔で、少し考え込む。
 そして、ゆっくりと口を開いた。

「たしかに情報としては、完全なロスト……死んでもおかしくない傷だった」
「情報としては……なんだって?」
「この宇宙に存在するすべては、本質的に情報として記述が可能」

 突拍子もないことを言い出すな、と現人は思った。
 だが、なぜかその表現を遠い昔にどこかで聞いたような気がした。

「私も、ウツヒトも、シホもおなじ。
 私たちすべては情報として定義し、記述することが可能。 
 そして、ウツヒトがあのとき受けた傷は、肉体ではなく情報の傷。
 もし、あのまま放置していたなら、ウツヒトを構成する情報は損なわれ、この宇宙に存在できなくなっていた。
 それはつまり━━死ぬのをおなじこと」
「……すまない。
 一瞬だけ理解できそうな気がしたんだけど、勘違いだったみたいだ。
 もう一回、最初から言い直してくれ。僕にもわかるように、とてもとても簡潔に、だ」

「ウツヒトはHPでもMPでもなく、IPを攻撃された」
「ああ、なるほど。
 なんだか分かったようなつもりになれた。絶対に錯覚だとおもうけど、そう信じ込んでおくとするよ」
「えっへん」

 磁気ディスクのように平坦な胸を張りながら、少女はご満悦だった。

「あのとき、704は私を狙っていた」
「704?」
「704と書いて、『なおし』と読む。この学校の生徒としてそう名乗っている」
「僕を刺したのは、同じ学校の生徒━━っていうことか?
 そりゃあ制服着ていたから、そうなんだろうけど……」
「あれは完璧な奇襲だった。
 私は……この学校で捜し物をしていた……そのために、私自身を一度、分解して、再構成している途中だった。
 ウツヒトがかばってくれなかったら、私はここにいないと思う」

 ユニは現人を見つめる瞳に、不安定な揺らぎを映してみせた。そこには負い目が感じられた。もっとも、それこそ津瀬現人の錯覚かもしれなかったが。

「ありがとう、ウツヒト」
「……そう言ってもらえると嬉しいけど、やっぱり現実味がないんだよな。
 そもそも、あの剣は何なんだ。魔法の武器……いや、すまない。自分で言っててあほらしくなった。今のは忘れて━━」
顕現存在セオファナイズド

 ユニバック・ワン。自らをそう名乗った少女は。
 津瀬現人が聴いたことのない響きの単語を口にした。それが英語圏の言葉であることは、理解できた。しかし、いかんせん高校生の脳内辞書には、該当する答えが存在しない。

「私も。ウツヒトへ打ち込んだ水銀遅延マーキュリー・ディレイ・線記憶装置ライン・レジスターも。
 704も。あのFORTRAN(フォートラン)ソードも。
 みんなみんな同じもの」
「……なあ、日本語で頼む。
 できるだけ端的に。わかりやすく。小学生でもわかるくらいに」
「本質が情報によって記述されているこの宇宙に、肉と魂を得て『顕現』した情報を元とする『存在』。
 それが私たち顕現存在セオファナイズド。私たちは宇宙的な次元で計算され、記述され、シミュレーションされ、実在している」
「………………」
「これはとても分かりやすい説明。えっへん」
「わからん。カケラほども、だ」
「むう」

 銀河の背景から放射される電波が届くのです、といきなり天文家から説明を受けた素人のような顔で、津瀬現人はユニの言葉に落第点をつけた。

 宇宙。情報。顕現。それらのすべてがつながらない。
 ひょっとしたら、この少女はかなり深刻なレベルで頭がかわいそうなことになっており、『それっぽい』言葉を連ねているだけなのかもしれない。
 さもなくば、自分も共同幻覚の類いを見ているのかもしれない。

「ウツヒトの欠点は疑り深いこと」
「でも、昨日は学術的態度だとか言ってよな」
「……むうむう」

 どうやらこの少女は、不満が抑えがたいレベルに達すると、地団駄を踏むくせがあるらしかった。地面のあるところでやってもらう分にはどうでもいいか、と現人は思う。
 何より、どこか嗜虐的な勝利感をおぼえさせる仕草だった。

「っと━━予鈴だ」

 キンと鳴り、コンと響き渡る。一体、どれほどの昔から変わらぬメロディなのだろう。そんなことを現人は思う。

「じゃあ、僕は行くから」
「ん。また、あとで。ばいばいウツヒト」
「……授業中に校内うろつくなよ」
「問題ない。見つからないように動く」

 平然と言い切るユニに呆れつつ、津瀬現人は校舎へ戻り、階段をあがる。
 いったいどこへ行っていたのか、と。
 志保から説教するように、京からはからかわれるように問われるだろうと、考えながら。

(……本当に、これ現実だよな)
 それでもまだ、少年は疑いを解いていなかった。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

 午後の授業が始まる。
 2085年の日本・東京都における南多磨高校は、たとえ一年生であろうとも、選択授業が大量に用意されていた。

(こうやって、毎日おなじようなことを繰り返して……あっという間に卒業していくのかな……)

『コンピューティング史』および『デジタル物理学』が重点選択。それが津瀬現人つぜうつひとの登録上のデータである。

(父さんと母さんも……昔はこういう授業を受けたのかな)

 選択の理由はじつにシンプルだ。
 父と母が修め、その仕事にしている学問を自分も学んでみたい。ただそれだけのことだった。同級生たちは往々にして、つまらない理由だという顔をし、教師と彼の親友ふたりは素晴らしい理由だと言ってくれた。

(まあ、志保と京のやつは慰めで言ってくれてるのかもな)

 それでも、京もまた同じ『コンピューティング史』を重点選択にしていることは、事実なのだが━━

「一般的に世界初のデジタルコンピューターとされているENIACが製作されたのは、1946年のことです。この年は、第二次世界大戦が終了した翌年であり、東西冷戦をひかえて、弾道計算や核爆弾の研究などに……」
「………………ふぁ」

 春眠━━なんとか。そんなことを中学の授業でやったな、と。

 津瀬現人はゆらゆらと波間に漂うような、ひどい眠気の中でそんなことを考える。
 カリキュラムによれば、今年はまる一年『コンピューティング史』━━つまり、コンピューターの発展とそれが与えた影響を学び、翌年からは『デジタル物理学』という、よくわからない学問も平行して教えてもらうことになっている。

(こんなものをどうやって仕事にするんだろう……)

 一日も早く社会に出たい、というほど青い衝動を持てあましているわけではない。
 さりとて、勉学に価値がないと思えるほど、未熟を晒しているわけでもない。

(見えない、よな……)

 15才の少年、津瀬現人にとって、未来とは晴れ渡った青空ではなく、濃い霧のむこうにある何かだった。

 それが絶望とは思わないし、暗黒とも考えていない。
 けれど、片鱗も見えない。正体がわからない。
 恐怖ではなかった。ただ、倦怠があった。現人は親友たる志保と京をうらやましいと思っている。きっと、二人には確固たる将来のビジョンがあると思っている。

(それに比べて、僕はこんなふうにぐだぐだしているから……)

 だから、あんな幻覚とも現実ともつかない代物を見ているのか。
 そう思う。

(自分が見ているものすら、本当かどうか自信が持てない奴なんて、最低だよな)

 単眼鏡モノクルの鎖がチリ、と鳴った気がした。
 案外、このレンズを外したときに見る数字の羅列こそが、世界の真実かもしれない。
 自嘲にするように現人が笑ったとき、担当教師である里沙が京を指名して、質問をした。現人の親友は扇子を仰ぎながら、完璧な答えを口にしてみせる。

 まったく羨ましい。津瀬現人は、心からそう思っていた。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

「う~ん、いい出来♪ ますます志保様ちゃんの料理の腕があがっちゃったかも~」

 夜が来て、ヒトが皆、食事を取る時間が来た。
 当たり前のように夕飯の食材をぶらさげてやって来た志保が、キッチンに立っている。毎日、色違いのエプロンしているのが、彼女なりのおしゃれなのだと津瀬現人は気づいてはいたが、口には出さない。
 そもそも、そんなもので誰が得をするのだろうとも考える。

「……まあ、あいつなりの自己満足なのかもな」
「ふんふん♪ ふふん、ふ~ん♪」

 不協和音に限りなく近い鼻歌にまじって、液体が煮える音がする。
 料理酒を使っているのだろうか。ほのかにアルコールの香りが届くと、現人の隣に座って待機しているユニが目を輝かせた。

「とてもおいしそうな匂い……しゅごい」
「よだれ拭け。君、ひょっとして食い意地張ってる方か?」
「ウツヒトは女性に対してとても失礼。
 私はユニなのに、君と呼ぶし、シホはあいつとか呼ぶ」
「別にいいだろ……君はともかくとして、志保のやつはいいんだよ。
『あいつ』で」
「他の友人は名前で呼ばない?」
「そうだな、一人ほどアホとかバカとかよく呼んでるやつがいる」
「ウツヒトは悪辣外道の暴虐大魔王」
「そこまで言われるほどじゃないだろ……」
「はーい! 今日もおいしく出来ましたー!!」

 仔牛の肉の赤ワインソース煮込みに、つけあわせの温野菜。ライスよりはパンの方が似合いそうなディナーである。もっとも、グラスに満たされるのはシャンパンでもなく、烏龍茶であり、食卓に並んでいるのは箸とスプーンだった。

「実に日本的……しゅごい。ウツヒト、ひょっとしてシホは料理の天才?」
「だからよだれを垂らすな。いつもこんな感じだよ」
「ユニちゃんにも喜んでもらえて、うれしいわ!
 やっぱり、食べてくれる人が多い方が作りがいがあるわよね。現人、ねっ?」
「僕は料理できないから、同意を求められても困るぞ」
「も~う、現人ったら、それじゃあ毎日、あたしがご飯をつくるしかないじゃない! 仕方ないなあ……期待してていいんだからね?」
「………………」
「もぐもぐ。おいしい。しゅごい」

 なぜか最大級の賛辞を送られたときのように、頬をほんのり染め、身をくねらせる志保。
 呆れたような現人の視線はまったく届いていなかった。ユニに至っては、いただきますも言わずに食べ始めていた。

「……別に、さ。志保」
「え? なあに、現人」
「あのさ、大変だったら無理して作りに来なくてもいいんだぞ。お前だって自分の時間はほしいだろうし」
「もぐもぐ。ごっくん。もぐもぐ。しゅごい。じゅごい」
「インスタントでも食事はできるからさ」
「ばっかねえ!
 現人はインスタントでもまともに作れないじゃない! 焼きそばはシンクに落とすし! ラーメンは最初から液体スープいれちゃうし!」
「うるさい黙れ言うなちくしょう。やっぱりお前なんかあいつとかで十分だ」
「へ? どういうこと? 現人があたしのことお前とか呼んでくれるの?
 やたっ! ねっ、ね、現人! それじゃあ、あたしも現人のこと、あなたとか呼んでもいい!?」
「っ……や、やかましい! お前なんてアホだ。お前なんてバカだ。京とおんなじだ、くそっ」
「きゃー! きゃー! もっと呼んで! お前ってもっともっと! ねえ、現人ってばー!!」
「……ごっくん。ウツヒトはインスタントもまともに作れない。シホは料理の天才。
 よく分かった。しゅごい」
 顔を赤らめて頬をひくひくと震わせる現人と、幸せ絶頂の黄色い悲鳴をあげる志保。
 そんな二人を交互に見つめながら、夕飯を完食したユニバック・ワンは神妙な顔で言うのだった。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

「ん、また停電のニュースか……?」

 翌日。
 いつもの三人で登校した現人たちが校舎玄関で見たのは、隣県で大規模な停電が発生したというニュースのヘッドラインだった。

 一時期、八王子の南のある市の編入を主張して、東京都と争ったこともある県である。首都ではないといっても、関東の一県が大規模停電となれば、その影響は非常に大きいようで、事故件数や損害額の数字がディスプレイには踊っている。

「………………ち」
「京、どうした?」
「いや、何でもない。少し気になっただけだ」

 そのニュースを京はじっと凝視していた。手にした扇子を開くこともなく。いつになく真剣な瞳だった。

(こいつは社会情勢とか興味あるし、何か思うところがあるんだろうな……)

 遠い国で起こっている、理由も背景もわからない紛争の一つ一つまでそらんじているような親友である。津瀬現人にとって、京のそうした側面は敬意に値し、そして友人として誇りに思えることだった。

「へ~、また停電だったんだ。大変ね~」
「あまり……笑ってはいられんかもな」
「京?」
「何でもない。
 はっはっはっ! 今日も快晴開闢、天地明朗にして、運気は高し! 頑張って一日を過ごそうぞ!」

 そう言って、わざとらしいほどの笑顔を見せる親友は、どこかぎこちなく思えた。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

「……やっぱり今日もいた。って、なんだその服?」
「んっ。ウツヒト」

 昼休み。
 うららかな春の日差しの中、トイレついでに校舎裏へ足を運んだ津瀬現人が見たのは、なぜか南多磨高校の制服を着ているユニの姿だった。

「今日は手続きをしにきた」
「君、転校生だったのか?」
「転校生だったのか、という表現はすこし違う。
 私は今日、転校生になった。この学校は随時入学を受け付けているから、生徒のデータベースにアクセスできれば、特に問題はなかった」
「……? よくわからないけど、ここの生徒になるんだろ?」
「正規のやり方ではないけれど、そういうことになる」

 まじめな顔をしてうなずくユニに、現人はおもわず笑ってしまった。
 正規ではないとは、どういう意味なのだろう。きっと、ユニにとっては4月に入学することが正規で、中途の転入はどんな理由があろうと、非正規になるのだろう。

「……ウツヒト。そこは笑うところじゃない」
「いや、ごめんごめん。なんだか言い方が面白かったからさ。
 今日が手続きっていうことは、来週あたりから転入してくるのか? クラスはこれから決まるのか」
「その辺りはうまく処理する」
「処理するのは君じゃなくて、学校の先生だろ」
「とりあえず、今はそういうことでいい━━けれど」
「驚いたぞ」

 その声を発した男は、津瀬現人ではない。

 背筋にぞくり、としたものを感じて、現人は振り返った。
 そこには一人の男子生徒が立っている。見覚えのある顔だった。いや、たとえ現人が一日ごとに全てを忘れてしまうような呪いにかかっていたとしても、その顔を忘れることはなかっただろう。

(……何しろ、一度殺されかけた相手だもんな)

 勝手に震えだそうとする両足を軽く叩く。それはまだ15歳の少年にできる、恐怖へのささやかな抵抗だった。

「久しぶり、と言えばいいのか? そこの二人には」
「……まだ何日も経ってないだろ」
「ははははははははははははっ!」
 男は突如笑う。哄笑する。
 それまで男の視線は、現人ではなく、傍らにいるユニに向いていた。まさか現人が第一声を返してくるとは、夢にも思ってもいなかったようだった。

「少年少年! ずいぶん気丈だな!
 その顔からすると、あの時のことはしっかり覚えているようだが、ただの人間が無理をして喋らなくてもいいのだぞ?」

 その言葉は高圧的だった。決して一年生の現人に対して、先輩風を吹かしているのではなかった。

「黙りこくっていればよいのだ」

 獅子が野ウサギに対するように。あるいは、隼が雀に対するように。

「震えおののいていればいいのだ」

 根本的にして、絶対的。生まれながらの優位。

「何となれば、お前はただの人間だ」

 そんなものを背負っているかのような態度だった。

「ただの人間……って。あんただって同じ人間だろ」
「ふん、なんだそれは?
 ━━おい、ユニバック。まさかお前、何も説明していないのか?」
「もちろん説明はした。ウツヒトが理解していないだけ」
「……説明? いつの話だよ?」
「昨日。ここで。
 とっても分かりやすかった。でも、ウツヒトの理解力が足りなかった。すごくざんねん」
「僕のせいにするなっ。……そうか、あのとき言ってた704━━ナオシとかいうのが、あんたの名前だな」
「なんとも歪でグロテスクな理解だな、少年。
 まあ……こちらとしてはそれでもかまわんがな」

 ━━魔法の武器、と。
 昨日、現人自身が口にして、直後に馬鹿馬鹿しくなってしまった、そんな表現。

 だが、男の右手にあらわれた一振りの剣は、まさにそう形容するのがふさわしい代物だった。何もない場所から、光を伴って幻出する西洋風の剣。これを魔法という言葉を使わず、いかように表現しろというのだろう。

「私は古毛仁直こもに なおしだ。この学校ではその名で登録されている」
「……その名前。あんた、生徒会の選挙に立候補してないか?」
「ふむ、記憶力は人並みにあるようだな。
 だが、少年。お前には関係のないことだ」
「なんでだよ……僕にだって、投票権があるだぞ」」
「その通り。選挙には投票があり、当落選がある。
 しかし、お前はそのいずれも見ることはない。
 今日ここで━━お前という情報は、この宇宙から消え去るからだ」

 悠然となおしは剣を構える。銀に光る鋭い切っ先が、津瀬現人の胸へむけられる。

 ぞくり、と冷たいものが心臓の奥でうごめいたように思う。また刺される。あの剣で突き刺されるのだ。そう思うと、現人は再び足が震えそうになる。

「僕を……こ、殺すつもりなのかっ」

 その声は乾いている。喉も。肺から引きずりだされる空気も、また。

「端的に言えばそうなるな。
 そこにいるユニバックがなんと説明したかはともかく、我ら顕現存在セオファナイズドを、ただの人間に知られては面倒な事態になる」
「セオファナイズド……?」
「遠い過去から、我々はこの時代に顕現した。
 つまり、そういうことだ」

 ああ、その響きは昨日、ここで聞いた。ユニバックが説明してくれた。
 だが、意味は片鱗すらも理解できてはいない。
 このなおしという男の言葉もまた、津瀬現人にとっては異国語にも等しい意味不明な単語の羅列にすぎない。

「何も分かっていないという顔だ。ユニバックの言っていることは、本当のようだな」
「……当たり前だろ。
 何なんだ。一体、なんだって言うんだ。あんたは。
 僕にもわかるように話せ。そのくらいの権利はこっちにもあるはずだ!」
「悲しい苛立ちだな。
 だが問うならば、あんた『達』とつけるべきだと思うぞ?
 少年……お前は今、私と対峙したつもりになっているだろう。ユニバックと共に。二人と一人。それが立ち位置だと思っているだろう」
「……だから、どうしたって言うんだ」
「だが、それは錯覚だ。
 誤謬だ。お前は一人なのだ。私とユニバックはもとより━━『こちら側』だ。お前だけがただの人間なのだ」
「そんなの、信じるかよ」
「フン」

 古毛仁直こもに なおしと名乗った男は、現人が最初に抱いたイメージよりも、饒舌なようだった。
 そして、いささか嗜虐的らしい。抵抗しようにも抵抗し得ない現人の反応を見て、直はなんとも楽しそうに笑っている。
 足を傷つけられて、よたよたともがくウサギに、とどめの一矢を打ち込もうとする狩人のように彼は笑っている。

「哀れなことだ……何の理解も及ばぬまま、消え去っていくとはな」

 ━━あるいは、異教徒に対する暗黒時代の西洋騎士だろうか。
 剣の切っ先を現人へ向けたまま、なおしはわずかな憐憫を声にこめてみせた。
 校舎裏を眺めているものがいれば、自分の姿は隠すこともできないというのに、不思議なほどに彼は堂々としていた。

(刃物を持ったやばい奴がいる……って、大声でもあげたら、何とかなるのかな)

 一つ。二つ。生ぬるい汗が現人の頬をしたたり落ちる。
 だが、津瀬現人の淡い期待はあっさりと打ち砕かれた。視界の向こう━━ひとりの女子生徒が通りかかる。

 名前も知らない、すれ違ったこともない生徒だった。彼女はこちらを一瞥すると、何の疑問も覚えていない様子で、通り過ぎていく。

「え!?……なっ、なん、で……!?」
「言っただろう、お前は一人だと」

 背中に目がついているかのように、なおしは当然の口調で言った。

「あの女に我々━━つまり、私とユニバックはそもそも見えていない」
「は……」
「当然、このFORTRAN(フォートラン)ソードも、だ。
 そして、お前はただ顔色を悪くして、立ち尽くしているたった一人の男子生徒に過ぎない。
 つまり、そういうことだ……ここに今、見えているのはお前ひとりだけだ」
「う、そっ……そ、んな……嘘だ……」

 絶望を声色に宿して、津瀬現人は黙りこくるユニを見た。
 救いを請うように。あるいは、介錯を願うように。
 光ファイバーほどに透明なその長い白髪を見た。月の砂ほどに煌めく銀の瞳も見つめた。

「704の言っていることは、ほんとう」

 ユニバック・ワンはそう答えた。津瀬現人の脳内でカーン、という金属質の音が鳴り響く。倒れてしまいたくなるような強いめまいが、襲いかかる。

「でも、すこし違う」

 現人が意識を失わなかったのは、震える右手を少女がぎゅっと握りしめたから。
 そこに熱を感じたからだった。

「704も私もたしかに同じ顕現存在セオファナイズドで、ウツヒトは人間。
 でも、私は704と同じじゃない。
 私は━━704、あなた達を止めるために日本へ来た」
「まだそんな寝言をいっているのか。お前たち姉妹はまるで変わらんな」
「わかり合えるとは、もう思っていない」

 ユニは握りしめていた手を離すと、近くを飛んでいた一匹の蝶をつかみとった。

「━━顕現せよ」

 いや、それは蝶ではなかった。
 それは白い光だった。光がユニの手にふれた瞬間、少女の手にはあまるほど太い『柄』と化した。

「マーキュリー・ディレイ・ライン・レジスター!!」

 津瀬現人はその時、はじめてユニの叫びを聞いた。少女が怒り以外の感情をともなってあげる叫び声だった。

 光は『柄』の先に何かを形作っていく。
 歴史の彼方へ消え去った『情報』がユニバック・ワンの存在を中継地点にして、『顕現』していく。

 ユニの叫びは呪文だった。あるいは、祝詞であり聖歌だった。
 そこに幻出するものは、純粋に科学的な存在であり、往事の技術的結晶だった。

「偉大なるかな偉大なるかな」

 しかし、2085年の現在となっては、明らかに過去の遺物であり、失われた技術であり。

「私はモークリーとエッカートによって造り出され、歴史の舞台で踊り、今、ここに蘇る」

 そして━━時間と追憶の蓄積がもたらした、宗教的要素がそれには伴っていた。

(なんだ……これ……!?)

 津瀬現人はユニバック・ワンが握りしめた異形に目を奪われる。巨大なドラム状の円筒に突き刺さった、無数の管。それを保持する太い『柄』。
 管の内部には、何か液体らしいものが満たされていた。
 無数の電気的配線が接続され、鼓膜にはけっして届かない音が、その周囲には満ちているように思える。

「よくぞ見せたり、水銀遅延線記憶装置!!」

 なおしが叫ぶ。

(記憶? 記憶装置だって!?)

 これが記憶装置というのだろうか。
 まるで地獄の鬼がもつ棍棒ではないか。あるいは、おぞましい人々の持つ釘バットではないか。そんなものしか連想できない外観のそれが、少女の細い腕で軽々と保持される物体が━━記憶装置だと言うのか?

「き、君っ……きみ、き、きみ……は……」
「君じゃなくてユニ。私の名前はユニバック・ワン」

 微かな不満をこめて、淡々とユニは抗議する。視線はまっすぐに直を見つめている。FORTRAN(フォートラン)ソード。そう呼ばれた剣の切っ先を睨んでいる。

「私は世界で最初の商用コンピューター、ユニバック・ワン。
 その顕現存在セオファナイズド。それが私」
「世界で……最初の商用コンピューター?
 なんだよ、それ……何言ってるんだよ……」
「今から135年前。
 1950年に、エッカートとモークリーによって造られ、私はこの世界に現れた。
 私は与えられた問題を解き、世界に貢献した。私の名前は、コンピューターそのものだった」
「フン、そんなものはまぐれ当たりのほんの僅かな成功に過ぎん」
「そんなことはない。私は栄光の時を知っている!」

 それは現人が思わず後ずさってしまうほど、力強い声だった。

 ユニの周囲にふたたび光の粒が舞い、どこか硬質なテープが現れた。
 空間そのものを取り巻こうとするように、長く、長く、リン青銅の鈍い輝きと共に、その金属磁気テープは浮かんでいる。

「ユニサーボか」

 リン青銅でつくられた金属磁気テープの名を、直は正確に答えてみせた。20世紀末に生きた人々が、もっとも標準的に使っていた音楽用カセットテープよりも、さらに記録密度の低い原初の磁気記録テープ。その名前だった。

「704、私はここであなたを打ち倒す」
「その言葉がどれだけ滑稽かわかっているのか?
 お前はただのユニバックに過ぎない。ユニバックが偉大なる青を倒すというのか?
 戯れ言を! 痴れ言を!
 調子に乗るなよ、成り上がりが。モークリーとエッカートはたまたま電子計算機の黎明に立ち会っただけだ。
 我が偉大なる青は、そんなものがなかった時から、膨大なデータを処理タビュレートしてきたのだ!」

 なおしの左手に一枚のカードが幻出した。カードといっても、その大きさはむしろ紙幣に近い。横幅は187.325mm。縦に82.55mm。

 津瀬現人が目をこらすと、そのカードには非常に細かい穴が規則的に開けられていることがわかった。
 古の試験で使われたマークシートのように、縦長な区画がずらりと並び、そして試験問題の解答ほどにまばらな間隔で、穴が空いている。

「……パンチカード?」

 その名を現人も知っていた。
 コンピューティング史の授業で習ったから。遙か昔、まだコンピューターと称される計算機械すらなかった時代から、一定のデータを表現するために用いられていた、非効率で、しかし革命的な万能性をもった記録媒体だった。

「ホレリスの偉業を、我が偉大なる青は、正しく継承する!!」

 なおしの言葉と共に、放り投げられた一枚のパンチカードは、無限倍に増殖した。
 否、正確には2048枚。
 まるで重力から介抱されたように、無数のパンチカードが宙を舞う。金属の磁気テープと、紙の記録カードがにらみ合う。

「一応、最後に確認しておく……ユニバック、我らと共に歩む気はあるか?
 コンピューティングに尊厳を取り戻す気はあるか?」
「その問いに答える言葉を、私は持たない。
 704、あなた達のやり方はコンピューティングに尊厳を取り戻すことにはならない」
「交渉決裂だな」
「とっくに道は分かたれている」
「確かに。135年前のあの日から」

 ユニは表情を変えず、直は軽く肩をすくめてみせ━━

『アキュムレイト!!』

 そして、戦闘開始の合図は双方で一致した。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

 獲物を狙う蛇の速度で、リン青銅の金属テープが飛ぶ。投げナイフの勢いで、無数のパンチカードが疾走する。
 両者は空中で激しくぶつかりあった。重装歩兵同士が盾を押し合うように。波と波が打ち消しあうように。衝突し、激突し、干渉し、そして消滅していく。

「ここから消え去れ、ユニバック・ワン!!」

 FORTRAN(フォートラン)ソードをふりかざし、古毛仁直こもに なおしは走った。縦一文字の斬撃を、ユニは手にしたマーキュリー・ディレイ・ライン・レジスター、すなわち水銀遅延マーキュリー・ディレイ・線記憶装置ライン・レジスターで受け止める。

 明らかな無機質。明らかな金属質。明らかな重量感を伴う水銀遅延マーキュリー・ディレイ・線記憶装置ライン・レジスターを、ユニは軽々と振るっていた。
 荷物ひとつ持ち上げられそうにないその細腕で、なおしの斬撃を受け止めていた。

(なんだよ、これ……)

 その光景をみつめながら、津瀬現人は思わず目をこすっていた。あり得ない光景がそこにある。だが、あり得ない光景の中に、さらなる異様が彼には見えていた。

「……やっぱり」

 右眼の単眼鏡モノクルを外すと、それはますます明瞭となる。
 つばぜり合いのように、押し合い、あるいは打ち合う水銀遅延マーキュリー・ディレイ・線記憶装置ライン・レジスターFORTRAN(フォートラン)ソードの間で、膨大な量の数字が踊っているのが、彼の右眼には見えていた。

 その数字はそれぞれを打倒しようと、戦っていた。
 10や100といった次元ではない。マイクロ秒単位で、膨大な加算が行われては、ユニと直。互いの体に吸い込まれていく。そして、さらに数字がはき出され、ぶつかり合う。

 現人にはその光景が見えていた。
 彼が今、目にしているのは棍棒を持った少女と、剣を持った男の決闘ではなく、数字と数字、すなわち、計算機と計算機が、お互いの存在を否定しようと、激しく激突している光景だった。

(なんなんだ)

 何が起こっているのだ。なぜこんなことが起こりえるのだ。

 これは現実なのだろうか━━ユニと出会ってから、何度繰り返したかわからない問いが、現人の脳裏に浮かぶ。自分はひどく長い夢をみていて、今がそのクライマックスなのではないか、と。

「お前ひとりで何ができるのというだ、ユニバック!!
 我らは既に行動を起こした。はじまってしまったこのバッチは、何人にも止めることはできん!!」
「何人に止められないとしても、私が止めてみせる!」
 数百キロはあるのではないかと思える、巨大な水銀遅延マーキュリー・ディレイ・線記憶装置ライン・レジスターをユニは右手だけで振り上げた。
 なおしは受け止めない。結果として空振りになった一撃は、大地へ突き刺さるが、草の一本すらも揺らすことはない。地面に跡が残るわけでもない。

(なるほど、これは……夢だ)

 津瀬現人はその光景を見て、自らが現実の世界にはいないと判断した。
 ならばどうするか。傷つくことも、恐れることもないと知ったならば、歩み寄って二人の戦いを止めさせるか。
 いや、そもそもこの二人は他人だ。しかも夢の中で出会った他人に過ぎない。現実の彼には何の関係もない。

(そうだ)

 帰ろう、と現人は思った。こんなところへいても仕方がない。現実へ帰ればいいのだ。自分が眠っているのなら、今はきっと夢だ。時期に朝がきて、彼を起こす声がする。

「っほ……ひと……うつひとー……!」

 そう、その声は毎朝聞いているものだった。彼女は太陽のような笑顔で言う。おはよう、と。あるいは、まだ寝ているの? と。

 その声の主は━━

「……あ」
「やっほー!! もうっ、現人ったらこんなところで時間潰してるんだから!
 お昼休みにこの志保様ちゃんを放っておくなんて、どういう了見してるのかしら!」
「志保……逃げ━━!」
「あれっ、ユニちゃんじゃない。こんなところで何してるの?」
「………………え?」

 驚いたような顔で、小走りに歩み寄ってくるのは、初敷志保はつしき しほだった。

 現人はもう一度、「逃げろ」と口にしかけて声帯から音が出る寸前で押しとどめた。
 何かがおかしい。この志保は、何かおかしなことを言っている。まずはそれを確かめなければならない。

「志保……お前、本物の志保か?」
「は? ひっどーい! 現人ったら、この志保様ちゃんの美貌を忘れちゃったの?」
「モデルみたいに髪かきあげても似合わないからな。あと、美貌とか僕以外のやつに言ってもドン引きされるからな。言うなよ」
「え~、そんなことないと思うんだけど……で、現人。
 なんでユニちゃん、制服着てるの?」
「………………」

 その時、現人はようやく自分が間違った思い込みをしているかもしれない、と気づいた。
 まず大きく息を吸った。
 そして、振り返ると水銀遅延マーキュリー・ディレイ・線記憶装置ライン・レジスターFORTRAN(フォートラン)ソードを振りかぶった姿勢のままで、硬直してこちらを見ているユニとなおしがいた。

「バカな……ユニバック、どういうことだ?」
「……知らない。どちらにしても、これは予定外」
「ちっ」

 舌打ちすると、なおしは大きく後方へ飛んだ。
 そして、宙に舞うパンチカードと手にしたFORTRAN(フォートラン)ソードが、魔法が解けたときの鮮やかさで消え失せる。

「邪魔が入ったことは確かだ……続きは日を改めるとしよう」
「私もそれに同意する」
「ふえ? ね、現人。ユニちゃん何もないところに話しかけてるんだけど、あれ何? 変なポーズ取ってるし、演劇のお稽古?」
「……そういうふうに見えるんだったら、きっとそういうことにしておいた方がいいんだろうな」

 ぐったりと溜息をつきながら、津瀬現人は胃袋がきりきりと痛む思いだった。
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