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超電脳のユニバック 作者:@IngaSakimori

第二章『コンピューター・アーキテクチャを造りし者』

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第四話『二人目のUNIVAK』

 7社の男達が秘密の会合をもってから、しばらくの年月が流れた。

『私は成功した。だが、失敗した。
 さらなる飛躍は達成されず、保守的な一歩を、青の上層部は選んでしまった』

 ジーンはその時、苦悩の渦中にあった。
 革新的な技術開発には莫大な予算が必要であり、そしてそれを承認し執行するのは、残念ながら技術スタッフの長である彼ではなかった。

 偉大なる青の新製品である360が世界を席巻してから、すでに幾年も経過している。

 人々はその偉業をたたえた。
 50億ドルのギャンブルに青は勝利したのだと。コンピューティング市場の成り立ちそのものを変えてしまった革命的マシンであると。

 その開発者こそがジーン━━彼である。

『そう、そこまでは成功と言えたのだ』

 彼は栄光の光を浴びた。そして無限にも近い賞賛を受けた。
 むろん、コンピューティング史にも不滅の名を刻んでいた。

『だが……』

 ━━それでもなお。
 今の彼はひどい敗北感にさいなまれていた。

『コンピューティング技術の開発は決して立ち止まってはいけない。
 革新の次には、さらなる大革新がなければいけない』

 360をさらに超える大胆な新技術をもって、後継システムを開発し、偉大なる青の覇権を確たるものとする。

 彼の提案は合理的であり、シンプルだった。
 しかし、青の上層部は首を振った。

『なぜだ!!』

 彼の憤りは正当なものである。だが、青の上層部による決定もまた、擁護されるべき点があった。

 そもそも企業において、技術上の必要性と経営上の判断は分離されるべきものであるからだ。
 それは民主的国家において、軍事的必然性が政治的判断に優先してはならないという、基本原則にも似たものである。

 ━━再びあれだけの賭け金を積み上げて、ルーレットを回す必要があるのか?
 ━━50億ドルの賭けですら、未曾有の挑戦だったではないか。
 ━━そんなギャンブルを連続して繰り返せるほどに、我々の心臓は頑丈ではない。

 青の上層部は口々にそう言って、ジーンの提案を否定した。

 なにより『偉大なる青と7人の小人』と言われるほどに、青の360はメインフレーム市場において圧倒的なシェアを獲得していた。
 たとえ競合7社が合併して襲いかかってきたとしても、十分、叩きつぶせると思われるほどのアドバンテージがあったのだ。

 ━━そんな状況で、飛躍を急ぐ理由はどこにあるのだ?

 否定の理由はつまるところ、その一点だった。

『それでも』

 そして、それでも━━と、ジーンは主張した。

『今日の栄光は明日の没落を遠ざけてくれるわけではない』

 彼は技術者だからこそ、強く確信していた。

 経営に携わる者にとって、数字の変動は規則性を持っているように見えるかもしれない。今、圧倒的なシェアがあれば、それが減少するとしても、ゆるやかに減っていくだろうと思われるかもしれない。

『そうではないのだ』

 違うのだ。
 コンピューティング市場は農耕や牧畜ではないのだ。
 そして、これまでの世界に存在したあらゆる商売とも違うのだ。

 天候や四季の営みではなく、万事徹底してヒトの生み出す成果が市場の勝敗を決定づけるのだ。

 ゆえに偉大なる青のヒトが成し遂げた成果。それこそが、360の覇権につながった。

『けれど、競合他社で働く者達もまた、同じヒトなのだ』

 そして彼らもまた偉大なる青の技術者たちと、変わることのない専門家なのだ。

『まして、我が合衆国だけならばともかく━━』

 苛立ちまじりに、ジーンがそう呟いたそのときだった。

『どうも、ハジメマシテ』

 彼の前にひとりの外国人が現れた。
 東洋人である。ぴりりとかしこまったスーツ姿。こんなカジュアルなコーヒーハウスには、まったく似つかわしくない。
 偉大なる青の文化に慣れたジーンは、強く違和感を覚えてしまう。

『君か。私に話があるというFの人間は』
『はい、私はFです。太平洋を越えて、あなたに会いに来ました』
『ボーイング707の乗り心地はどうだったかな?
 もっとも、さらにジャンボな機体がもうすぐできあがると聞くが』
『あいにくと、我が国のキャリアが使っているのはダグラス(DC-8)なものでして』

 曖昧な微笑みでFの人間はそう言った。いささか調子を外されたジーンは、カップに残ったコーヒーを胃袋へ流し込むと、口を開いた。

『君達の製品については調べさせてもらった。
 あの戦争の敗戦国が、1954年にはもうコンピューターをつくりあげていたとは、驚きだ』
『光栄です。私たちも必死でしたから』
『しかし、リレーを使ったのはいいとして、なんだこのパラメトロンというのは?
 こんな遅い素子でわざわざ君達の━━FACOMフェイカムだったか? コンピューターを作る意味がわからないのだが』
『私たちは必死だったと申したでしょう。
 ヒトもモノも、何より予算がありませんでしたから』

 Fはサムライの国の男らしからぬおどけた態度で、肩をすくめてみせた。
 予算、という言葉がジーンの胸に不思議な残響をうえつける。

『そうか。君たちも予算に苦しんでいるのか』
『ええ、かつても。そして、今もまだ』
『……そうか』

 もちろん一口に予算といっても、その額は偉大なる青とFでは100倍、いや1000倍近く違うかもしれない。
 たとえば、ジーンが360の後継システムのために必要と考えた額は、目の前の男にとって、月どころか火星にも行けてしまう金額なのかもしれない。

(貧乏人とあしらうのは簡単だ……しかし)

 それでも、ジーンはこの太平洋の向こうから来た男に、何かを感じた。

『ジーン、あなたと私たちFはうまくやれると思います』
『うまくやれる、とは?』
『私たちは青の360、その互換機(コンパチブルマシーン)を開発しようとしています』

 ジーンは驚いた。
 無残な降伏から四半世紀も経っていない国が、彼の成し遂げた革新に対して、互換性を持つコンピューターを開発しようとしていることに。

『それは君……無茶な試みだよ』
『わかっています、ジーン』

 その無謀に。

『けれど、あなたの協力が得られるのならば、どうですか?』
『………………』

 その周到に。

『あなたもまた自らの会社を立ち上げ、360の互換機をつくろうとしていると聞きました』
『どこからそんな話を。ニンジャの知り合いがいるのか?』
『ニンジャはだいぶ少なくなりましたが、今はショーシャから情報を得ています』

 あくまでも感情を読ませない曖昧な笑みをうかべながら、Fの男はそう言った。
 商社という日本語を知らないジーンは、きっとニンジャと同類のスパイなのだろうと思った。

『私たちと手を組んで、市場をかきまわしてみませんか』
『確かにアムダール・コーポレーションはうまく立ち上がりつつある。
 けれど、今の私にはもう一つか二つ、足りないものがある。今の段階で市場へ打って出るには、いささかの不安がある』
『ジーン、それを私たちが提供します』
『いいだろう、サムライの国のF。
 今や青は360の後継として370の販売をはじめた。だがそれは、私が提案した新技術を使っていない、保守的な後継機に過ぎない。
 370はもちろん360と互換性があり、そのアーキテクチャには連続性がある……』

 二人の男達。太平洋を挟んだ隣国の二人が熱く視線を交わし合っていた。

『ならばこの私に、370より優れたプロダクトが開発できないわけがない』

 力強くジーンは言った。

『ええ、そうですとも』

 微笑みに情熱を宿らせて、Fはうなずいた。

やってやろう(Let's roll)、F』
『やってやりましょう、ジーン。
 ━━ジーン・アムダール』

 時に1970年。
 アポロ宇宙船が月面着陸を成し遂げた翌年。そして、東京でオリンピックが開かれてから6年後のこと。

 ジーンとFの製造する360互換メインフレームは、偉大なる青の370シリーズと、長く壮絶な戦いを繰り広げることになる。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

 時は『いま』へと巻き戻る。

「………………」
「………………」

 がたん、ごとん、と規則的な音が響いていた。

 振り返れば海が見える。湘南を、熱海を超えて、現在車窓にあるあおは駿河湾だ。

(同じ海でも……東京湾とはなんだか違う感じだな)

 東海地方。それは東京生まれ東京育ちの津瀬現人にとって、ちょっとした異界だった。
 もちろん、同じ日本である。何も変わらないはずだった。
 言葉も、人の姿も。何もかも。
 それでも、潮の匂いはこんなに濃いものだったのか、と驚く気持ちが15才の少年の中にあった。

「なあ、ユニ。いったいどこまで行くんだ?」
「とおく」
「遠く、ってどのくらいだよ?」
「もうすこし、とおく。もうすこし待てば着くくらいの、とおく」
「朝早く電車に乗って、昼前までかかるくらいの遠く、か……」

 地方の鉄道というものに、殆ど乗ったことのない現人にとって、人がまばらにしかいない車内は、珍しい光景だった。

 土曜日だというのに、がらん、として座席は選び放題。
 都心へ出かけようという浮かれた若者の姿もないし、茶飲み友達のところへ向かう老人の姿もない。

(こんなのでよく潰れないな……)

 地域のささやかな需要と、そこそこばかりの貨物運行のために残されているといってよい、2085年の東海道線に少年は乗っている。

「ウツヒト、あれみて。シンカンセン」
「ああ、東海道の方な。
 知ってるよ。あんな古くさいもの見て何が楽しいんだ?」
「シンカンセンは古くない。とてもすごい。
 エッカートとモークリーによって私が造られてから13年後。シンカンセンのニュースを聞いた。アメリカには高速鉄道がなかったから、驚いている人が多かった」
「最初の東京オリンピック……の時に開通したんだっけ? そういえば、中学の授業でやったような気がするよ」
「シンカンセンはこの時代になっても動き続けている。それはとてもすごいこと」
「……そうなのかな」
「シンカンセンが開通したのは1964年。
 そして、360━━弥勒零みろくれいが生まれたのも、同じ年」

 それはあくまでも偶然の一致に過ぎなかった。

 しかし、車窓の向こう。
 きついカーブで窮屈そうに車体を傾けて、なんとも哀れな300km台の低速で走り抜けていく、ロートル鉄道を見つめるユニの瞳には、深い感慨が宿っていた。

「私はユニバック・ワン。
 世界で最初の商用コンピューター」
「知っている」
「でも、私の子孫はもうこの時代にいない。
 私と技術的につながっている商用コンピューター、メインフレームと呼ばれた一族。
 それらの血統はずっと昔に途絶えてしまっている」
「だけど、それは……他のコンピューターだって、一緒だろ?」
「360だけは違う」

 そう言いながら、ユニは空をみあげた。
 そこには何もない。静岡空港へ着陸しようとする飛行機がいるわけでも、真昼の月が浮かんでいるわけでもない。

「ウツヒト。爆撃機は知ってる?」
「なんだそれ。飛行機か?」
「戦闘機は?」
「……名前くらいなら」
「じゃあ、スペースシャトルは? オービタは?」

 ユニは空を、そしてそらを見上げたままでそう言った。
 梅雨を間近に控えた、じんわりとした空気の車内。エアコンが心地よい温度を保ち続ける。

 次に止まる駅名のアナウンス。都心の電車になれた少年には、乱暴に思える減速。キイ、と鳴る車輪の音。
 扉が開き、潮の香りをふくんだ空気が流れ込む。扉が閉まる。また、鉄道は走り出す。
 そして、再び文明の利器が車内の空気(エアー)を快適に調整(コンディショニング)していく。

「スペース……宇宙?」
「ずっと昔。今から100年くらい前に、たくさん飛んでいた」
「人工衛星のことか?」
「宇宙へ行って、そして帰ってくる機体。
 つまり、宇宙往還機」

 世界で最初の商用コンピューターは、輝いていた青春時代を懐かしむようにそう言った。
 あるいは、古き良き過去を語る老婆の口調でそう言った。

「……そっか」

 そして、少年は老人の話に価値を見いだせない若者の憮然で、それに応じた。

「いろいろ凄かったんだな。それがどうかしたのか?」
「360の一族は、そのすべてにいた」

 ぞわり、と。津瀬現人の背筋におぞましいものが走り抜けた。

 窓の外を見つめていたユニが、くるりと振り返る。
 ほとんど諦めと絶望に近い弱気がその瞳に宿っている。覚悟を決めて歩き出してはみたけれど、それでも希望を持てないレジスタンスの無力さがそこにはある。

「……どういうことだよ」
「それが、コンピューター・アーキテクチャの偉大さ。
 360は世界の企業にいた。大学の研究に使われた。軍のシステムを任された。
 そして、そのアーキテクチャは……大型爆撃機に使われるメインコンピューターのベースにもなった。それは戦闘機にも……スペースシャトルにも載っていた。
 みんな、みんな360のアーキテクチャが。
『互換性』という偉大さがなしえたことだった。
 互換性は汎用性を生んだ。それがもたらす発展があった。360以前には決してあり得なかった、革命的な広がりがあった。
 ━━そんな360だからこそ、今の時代までたった一人だけ生き残っている」

 くらり、と。津瀬現人はめまいを感じた。あるいは、車輌が転覆しようとしているのではないかと思った。

 肩を落とすユニバック・ワン。
 残酷なことをしてしまった。そんな後悔が彼女にはあった。今からでも逃げだそう。そんなことを口走るのではないかと思えてしまうほど、意気消沈しているように見えた。

「……はは。なんだよそれ。
 そんなやつ……なんていうか、最強じゃないか」
「コンピューティングの歴史に与えた影響でいえば、確かにそうかもしれない」
「……他の分野ならもっと凄いやつがいるとか?」
「『スーパーコンピューター』という概念を世界に知らしめた顕現存在セオファナイズドなら、他にもいる」
「……それが凄いことなのか、僕にはまだわからないけど、ユニが言うならそうなんだろうな」
「うん、そう。とっても、すごい。
『世界で最初の商用コンピューター』よりは、間違いなくすごい」
「━━っ、なんだよ」

 現人は思わず立ち上がっていた。
 そして、ユニの肩を掴んでいた。細い。力をこめれば壊れてしまいそうな、華奢な肩。
 愛らしい私服からわずかに覗く鎖骨が、妙になまめかしかった。

「そんなのユニらしくない」
「でも……」
「不安なのはわかる。でも……弱気になるなよ。
 僕がついてる。僕が力を貸す。
 守ってみせるなんて言えない……でも、何も出来ないとも言わない!!」

 そう言いながら現人は右眼の単眼鏡モノクルを外した。
 刹那、ひどい頭痛と共に、世界に無数の数字が覆い被さる。

(いや……前とは違う)

 津瀬現人はその数字の意味を知っている。ユニバック・ワンが教えてくれたから。

(『計算する宇宙』を視る目━━そのための右眼!)

 この目はユニバック・ワンにもなければ、弥勒零みろくれいにもないはずだ。

「ウツヒト……恥ずかしい」
「どうして」
「だって、今のウツヒトには私の全部が見えてる」
「……まあ、そうとも言えるけど」
「何もかも、私の全部がみられている。隠しているつもりはないのに……すごく、恥ずかしい」

 単眼鏡モノクルを外して、真剣な瞳を向ける少年の姿はまるで大切な告白をした直後のようであり。
 そして、頬を赤らめて恥じらう少女の姿は、それを受け入れようとするかのようであった。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

『菊川』という駅名のアナウンスが流れると、ユニは目配せするように現人を見た。

(ここで降りるのか……)

 その細やかな仕草。ユニらしくないな、と現人は思う。
 けれど、自分だからこそこんな仕草でも通じるのだと、ユニは考えているのではないか。そう思うと、どこか胸の奥にむずがゆいような、しかし不快にはほど遠い感情が生まれる。

 菊川駅は田舎というほどには、寂れてはいなかった。
 2085年の現代に至るもなお、東海道一帯は人口と産業の一大集中地域である。
 それでも、山もあれば川もある。

 菊川駅から一歩出ると、ほどほどに建物が並び、しかし、東京都住まいの現人が遠くへ来たんだな、と思うほどには、山の濃い緑がのぞめた。

「ここで少し待つ」
「わかった」

 無人化されて久しい改札を出たユニが立ち止まったのは、路線バスの標識だった。
 時刻表を見る。平日は通勤路線の意味合いがあるのか、ずいぶんと本数が多いように見える。

(近くに大きな工場でもあるのかな)

 しかし、そうだとしたら駅だってもっと大きくていいのではないか━━そこまで思いを馳せる余裕は、15才の少年にはなかった。

 バスが来るまでざっと10分。ユニは何も言わずに、南の方角を見ていた。
 観光案内を兼ねた周辺図をみるに、それは海の方向であるらしかった。

(……やっぱり綺麗、だよな)

 端麗な横顔。彫刻や絵画というよりは、美しいイラストをそのまま三次元の世界へ引き出したような、ある意味で異世界じみた美貌が、津瀬現人のすぐ隣にある。

 じわり、と。
 梅雨を間近にした、そして夏を控えた空気にも、汗一つ流さない白い肌。少し心のリミッターを外せば、そこへ無意識に手を伸ばしてしまうかもしれない。

(バカ、何考えてるんだ、僕は)

 一つ屋根の下に暮らしているはずなのに。
 このくらい接近することなど、日常の中で数限りなくあるはずなのに。

 こうして二人きりで知らない土地へやってきただけで、この少女が。
 ユニバック・ワンが全くの別人に見えてくるから、旅とは不思議なものだと現人は思う。

「ウツヒト、バスが来た」
「あ、ああ」

 そう言いながらユニがこちらを見た。
 何か悪いことをしていたのがバレてしまった時のように、現人は動揺を声に出してしまう。

 特段、意に介していない様子のユニ。ずっとその横顔を見ていた。そのことを知ったら、どんな表情をするのだろう。

 気の早いセミが、一匹だけ鳴いていた。

「行き先は海……の方だよな」
「うん」

 ごく低いモーター音を響かせて、路線バスが走り出した。
 ほどほどに整備された国道を行く。10分。そして20分も経っただろうか。緑にあふれる丘陵地帯を乗り越えると、青いきらめきが前方に見えた。

「今日の目的地はあそこ」
「へえ……」

 ユニがまっすぐ前方を指さしている。
 巨大な風車が立ち並ぶ海沿いの一角に、どこかやたらと飾り気のない建物が集中している。

(……変わった景観だなあ)

 目的地が海に面していることは間違いないらしい。
 そこから西へ首をめぐらせると、今度は巨大な鳥居が見えた。大型のショッピングセンターも見える。
 海に注ぐ小さな川がひとつ。『浜岡砂丘』の道路案内もある。

 けれど、それらいずれでもなく、ユニが示すその場所は━━

『次は、浜岡原子力発電所。広報館前です』

 合成音声のアナウンスがたんたんと響き渡った。
 降車したのは、ユニと現人のふたりだけだった。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

「目的地って……原子力発電所だったのか」
「それは、あっち。私たちの前にあるのは、それに付随している一般公開用の広報館」

 社会科見学のバスでも想定しているのだろうか。広大な駐車場にぽつねんと少年少女がふたりきり。
 ユニが『あっち』と指さした方向は、立ち並ぶ樹木に覆われてみえず、そして、現人の前にあるのは高い展望塔をそなえた、比較的質素な三階建てのビルだった。

「来て、ウツヒト」
「あ、ああ」

 まるでその場所へ来たことがあるかのように、ユニは歩き出した。浜岡原子力発電所・広報館というプレートがある。
 周囲を見渡せば、どうも発電にかかわるらしい展示物が並んでいた……水力発電所の水車……火力発電所のタービン……もっとも、残念ながらそれらは15才のコンピューティング史を学ぶ少年の興味を引くものではなかった。

(一体なんなんだ……?
 こんなところで、弥勒零みろくれい━━あいつに対抗するための、何がわかるっていうんだ?)

 心の中に大量の疑問符を浮かべつつも、現人はユニのあとに続く。

 変わったカップルだなという顔をして、老年の案内人がようこそを告げた。
 入館料を取る様子はない。ただ、右手で何かを操作しているところからすると、来館者のカウントはしているのだろうと思えた。

「ふーん……原子力発電所の歴史……それに社会的意義……と。
 国際的な立ち位置? 現在の主流である核融合?
 あと、安全設備……か。いろいろ展示があるんだな」
「そっちは今日見なくてもいい。でも、ウツヒトが見たいのなら私は待つ」
「いや、僕も正直よくわからないし、興味はないからな。ユニの用事を先に済ませよう」
「ん」

 幾多の人々の労力と学術的成果が詰まった展示スペースを、平然と素通りして、少年と少女はエレベーターらしき扉の前に立った。

「……何階にいくんだ?」
「このエレベーターは一階と展望塔の往復専用」
「ああ、なるほど」

 あまり広く快適とはいえない、もっと言えば、恐ろしく設計が古いように思えるエレベーターが動き出した。

 ガラス張りの窓の向こう━━駐車場からは樹木にさえぎられて見えなかった、発電所の施設群がよく見える。

(原子力発電所、っていってもこんなもんか……)

 もっと轟音を立てて、白煙があがり、何か巨大な機械が動いているイメージがあったが、そうでもない。

 オフィスビルや食品工場、といっても通じそうな白壁の角張った建築物が並んでいるだけだった。

 せいぜい違いがあるとすれば━━それらには窓がないくらいである。

「ここ。ここからなら、全部が見える」
「へえ」

 地上何十メートルになるのだろうか。
 展望塔というだけあって、なるほどその場所からは、浜岡原子力発電所を中心とした一帯を、360度見渡すことができた。

「あの角張ったやつは、全部原発の施設なんだな」
「ん。あれが4号機。5号機の隣にあるのが6号機で……だけど、実際に発電を続けているのは、もう2基しかない。
 他はもう稼働を終えて、廃炉作業中」
「ふーん」

 興味の無いファッションを恋人から説明される時の男の顔で、そう言って。

 津瀬現人はふと、視線を海の方向へ巡らせた。
 そして、奇妙な違和感に気づく。

 どうにも高い━━あまりにも高い壁がある。
 浜岡原子力発電所の中核たる施設群を包み込むように、あまりにも高い壁が存在しているではないか。

「あれって……防波堤か?」
「正確には防波壁」
「やたらと高いんだな……」
「もともとの高さから、何倍にもなっている」
「へえ……?」

 淡々とユニが口にした言葉。
 それをなんでもないように聞き流す寸前で、現人は疑念に一歩踏みとどまった。

「━━っていうことは、高くした理由があったわけだな」
「そう」
「それは弥勒零みろくれいと何か関係があるのか?」
「関係ないといえばそうだけど、まったくない━━とも言えないかもしれない」
「………………」
「少し、長い話をしてもいい? ウツヒト」

 彼らの他には誰もいない展望塔の一角。
 代々受け継がれてきた、秘密を明かす時の声でユニは言った。

「ああ、いいよ」

 時計をみることもなく、逡巡することもなく。
 津瀬現人は、ユニバック・ワンの目を見つめて、そう答えた。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

「原子力発電。それは核分裂反応を利用し、熱エネルギーで発電する方式」

 もっとも、最終的に蒸気タービンを回して発電する点は、水力や火力、あるいは━━2085年の現代において、中核となっている核融合発電においても、同じことである。

「……原子力発電って、核融合発電の前にあった技術だよな?」
「そう」

 あった。在った。すなわち、過去形。
 それが2085年の学生にとって、一般的な認識であり、これは社会人であろうと、あるいは初老までの人間にとっても、大して変わることはない。

「はは、原発なんてもうなくなってると思ってたけど……さっき、2基は動いているって言ってたな。
 まだあったんだな」
「原子力発電はとても効率のいい発電」
「そうはいっても、前世紀の技術なんだろ?
 いろいろ問題があったっていうよな……日本でも確か大きな事故があったんだっけ?」
「ウツヒトのイメージしているものとは、少し違う。
 あれは災害に伴う事故であって、通常の運用中に起こった事故じゃない」
「似たようなものだろ」
「ウツヒト、それは違う。
 交通事故の現場に、隕石が降ってきたくらいには違う」

 ごく淡々と。しかし、譲る気配なしに首を振るユニ。
 現人は何をそんなにこだわるのだろうと思いつつ、肩をすくめた。

「わかった。日本の大きな事故はあくまで例外。そういうふうに覚える」
「ここは日本に残った最後の原子力発電所になる。
 予定ではあと数年で、現在稼働している2基も停止して、国内における核融合発電へのリプレイスが完了する」
「ふーん、ここが最後なのか。
 でも、ずいぶんかかったんだな。核融合が実用化されてから、ずいぶん経ってるだろ。
 原子力って、廃棄物とかいろいろ面倒だって習ったけど、早く変えちゃえば良かったんじゃないか?」

「それはそうだけど、この施設にはコストがかかっている」
「コストって言っても……どのくらい?」
「とりあえず━━兆」
「……兆って、あの兆?」
「アメリカの単位でいえば、billionの1000倍が兆」
「そ、そうなのか……」

 驚きというより、半信半疑といった様子で、現人は浜岡原子力発電所の施設群を見下ろした。
 たしかに大きい。けれど、せいぜいビルや商業施設の大きさである。
 こんなものに、兆単位のコストが注ぎ込まれているなどとは、到底思えなかった。

「発電所ってお金かかるんだな……」
「もちろん莫大なコストがかかる。初期コストも。運用コストも。
 けれど、電気はすべてのヒトが使うもの。
 電気はインフラにおけるもっとも基礎的なもの。水は商店で買うこともできるけれど、電気がなければ商店も営業できない」
「兆単位のお金はかかるけど、それに見合う効果があるっていうことか?」

「そういうことになる。
 たとえば、日本には億単位のヒトが住んでいる。それぞれが1年間に1万円の電気料金を払うとする」
「1年……それは安いな」
「でも、これでもう1兆円になる」
「……まあ、それでも実感がわかないけど」
「ちなみに私、ユニバック・ワンの1号機は159000ドル」
「ますます単位がわからない」
「今の物価に換算しても、よゆうで億。
 つまり私が1万人いたら、この発電所と同じくらいのコスト。かもしれない。えっへん。私はすごい」
「……1万人もユニがいたら、うちは食費だけで破産しそうだけどな」

 意味不明な論理で胸を張るユニに、15才の少年は半眼でそう返すのが精一杯だった。

「これを見て」
「ん……なんだ、波の写真、か?」
「波は波でもすこし違う」

 そう言いながら、ユニは展望塔の隅に掲示されている写真を指さした。
 キャプションを見る。『東海地震の際、当発電所に押し寄せる10メートルの津波』と書かれている。

「……………」
「もうずいぶん前のこと」
「そうだな。僕なんてまだ生まれてもいない頃だ」
「ここは高さ10メートル━━局所的にはそれ以上の津波に襲われた。
 でも、防波壁のおかげで、被害はほとんどゼロだった。
 もちろん発電所も健在だった」
「そう、か」

 絡まりそうな頭の中の時系列を整理しながら、津瀬現人は思う。
 2085年に生きる少年は考える。

(つまり、僕が生まれる前にあった大きな地震と津波……その時点で、もうあの『壁』は完成していたわけか)

 それは15才の彼にとって、等しく遠い過去だった。

(20年前も30年前も……半世紀前も……僕にとっては似たようなものだけど)

 だが、それでもすべての時系列には理由があるのだ。
 理由があり、結果が残る。それが逆になることはあり得ないのだ。

「ユニ。あの『壁』をつくった理由ってなんだ?」
「それがずっと昔にここ以外の発電所で起こった事故。
 21世紀のはじめのこと。
 天災に伴う、想定されていなかった津波によって起きてしまった、とても悲しい事故。
 ━━それを繰り返さないために、あの『壁』は造られた。
 そして、繰り返させなかった」
「そうか」
「ヒトは間違いもするし、誤りもする。
 けれど、適切に学べば、次は失敗しない。うまくいく。
 コンピューターの発展も、そう。
 失敗とその対策……繰り返して、繰り返して、ずっと繰り返していったのが、コンピューティングの歴史」

 じっとユニは現人の目をみた。
 それはとても大切なことだとでも言うように。

「……だけど、人為的にもう一度誤ちを起こそうとしている者がいる。
 この場所で。この発電所で、引き起こそうとしている者がいる」
「それは━━」

 一体誰なんだ、と問いかけようとしたその時だった。

「━━私のことさ、少年」
「!」

 不意に背中で声がした。

「そして、哀れでちっぽけなユニバック。世界で最初の商用コンピューター」
「……360」

 その声には聞き覚えがあった。
 現人はすぐに振り向き。
 そしてユニは一瞬硬直してから、グリスの抜けてしまったベアリングのようにぎこちなく体を巡らせた。

弥勒零みろくれい……!」
「休日に奇遇だな。こんな遠隔地で出会えるとは」

 まるで余所行きの令嬢のように、上品なワンピースに身を包んだその顕現存在セオファナイズドは、優雅に一礼してみせる。

 一触即発の空気が満ちた。展望塔に彼ら以外の誰もいないことに、津瀬現人は安堵する。
 何が起こるかわからない。何を起こすかわからない。そんな相手が目の前にいるゆえに。

「それにしても、せっかくの対決だと言うのに、聴衆がいないのは残念だ。
 そう思わないか、少年」
「願い下げだ。いちいち、周りに見られてたまるか」
「ならば、ユニバック・ワン。お前はどうだ?
 その能力を発揮するすばらしき舞台。スポットライトの下で、多くの卑小な者達を魅了してみたいとは思わないか?」
「私はいまさら主張するまでもなく、栄光を手に入れている」

 挑発するように言った弥勒零みろくれいに対し、ユニは淡々とした声で応じた。
 もっとも、現人は気づいていた。ユニの言葉を聞いた弥勒零みろくれいが、ひどく不愉快そうに表情をゆがめたことに。

(栄光……)

 それを私は手に入れている。

 そんな言葉自体が、ユニバック・ワンから弥勒零みろくれいに対するお返しなのだ。少女は自らにむけられた挑発を増幅して、ぶつけ返したのである。

「私はエッカートとモークリーによってつくられた、世界で最初の商用コンピューター。
 多くの人がそれを知っている。多くのメディアに報じられている。多くの媒体に記録されている。
 私はもう十分すぎるほどの栄光を知っている。
 いまさら自己主張に飢えてはいない」
久礼一くれいはじめといい、お前といい……どうにも気に入らん奴らだ」
「………………?」

 そして、忌々しげに弥勒零みろくれいが挙げたその名に、現人は強い疑問を覚えた。

(……久礼一くれいはじめだって? うちの生徒会長がどうしたっていうんだ?)

 だが、その答えを確かめるまでもなく、事態は動く。
 弥勒零みろくれいはついてこい、とでも言うように顎をしゃくってみせる。優雅なたたずまいに似合わない下品な仕草だな、と現人は思う。

(品って意味だと……)

 微かに震えているユニの横顔をみる。
 彼女の方がよほど深窓の令嬢らしいかもしれない。
 手をさしのべてあげたくなる存在かもしれない。

「ユニ、行こう」
「……うん、ウツヒト」

 少女の小さな手を握って、津瀬現人は歩き出す。

「では━━」

 展望塔から下りるエレベーターに乗り込むと、弥勒零みろくれいは操作パネルのうち、二つのボタンを同時に押した。

 1階と最上階。その両者を往復するために存在しているはずのエレベーターが、中間地点で小さな音を立てて止まる。

「本来ならば、一般来館者は立ち入れない場所だ」
「………………」

 もったいぶってみせる弥勒零みろくれいの言葉とは裏腹に、エレベーターから降りたその先は、ごく当たり前の廊下があり、いくつかの会議室があった。

 おそらく関係者用のスペースなのだろう。あるいは、この広報館が開館する朝、そして閉館した夜は、ここで事務処理でもするのかもしれなかった。

「出るぞ」

 が、弥勒零みろくれいの向かった先はそれらのいずれでもなかった。
 彼女はガラス窓につけられたノブを引く。ガコン、という音を立てて、扉は開いた。屋上スペースというには狭すぎるテラスがある。

(戦いはここでやる……ってことか)

 外に出ると、風がすこし涼しかった。

 ユニがぎゅっと現人の手を握りしめている、その圧力を手のひらに感じる。
 痛みを与えないように、なるべく優しく少年は少女の手を握り返した。それだけで何かが通じ合っているような気がした。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

「30秒だ」

 人差し指、中指、そして薬指。
 3本の指を立ててみせると、弥勒零みろくれいはワンピースとポニーテールを潮風に揺らしながらそう言った。
 浜岡原発の施設を背負ったようなその立ち位置。敵ながらなんとも絵になるな、と現人は思った。

「私がその気になれば、30秒でお前達を制圧し、そしてこの宇宙から消し去ることができる」
「……ずいぶん謙虚なんだな。
 そういうときは3秒っていうもんじゃないか?」
「ふ、そう言うな。
 何しろただのヒトである君━━津瀬現人くんはさておき、ユニバック・ワンについては、全力で逃げを打つ可能性も高いからな」
「………………」

 現人が握りしめるユニの手から、さらなる震えが伝わってきた。

「どうした。怯えているのか、ユニバック・ワン?
 たった一人では、決して私にはかなわないことを、今更ながらに悟ってしまったか?」
「……360。それは違う。
 私一人ではあなたにかなわない。そんなことは、最初からわかっている」

 意外なことにユニは自らの絶対的劣勢を、あっさりと認めた。
 そして、驚きの表情を浮かべる現人をつなぎとめるように、その右腕にぎゅっと抱きついた。

「でも、今の私は独りじゃない。
 私にはウツヒトがいる。私たちは独りじゃなくてふたり。
 だから360、あなたの言葉は前提から間違っている」
「愚かな……ただの人間に何ができるというのだ」
「ウツヒトには、ウツヒトにしかない力がある」

「失望させてもらいたくないものだな、ユニバック・ワン。
 お前が704をどうやって打倒したかは、とっくに調べがついている。
 だが『ユニバック・ショートコード』の後押しがいくらかあったところで、この私に対抗できると思うのか?」
「……ウツヒトの力は、私の中にプログラムコードを走らせるだけじゃない」
「ふん、その右眼━━か」

 弥勒零みろくれいは注視する先を、津瀬現人の単眼鏡モノクルに移した。

(なんて視線だ……!)

 ぞわり、とした悪寒が津瀬現人の背中を走り抜けた。
 睨んでいるというよりも、そして見つめているというよりも、殺そうとしていると形容する方がふさわしい視線だった。

(……っ、くそっ。負けるかよ!)

 ひゅうひゅうと喉が鳴る。肺が破裂しそうになる。
 呼吸が止まってしまいそうな圧迫感にあえぎながらも、少年は目を逸らさなかった。

 それは右腕にあるユニの体重を力強く感じるからだった。
 袖を通して少女の儚い体温を感じるからだった。
 膨らみというにはささやかすぎる胸元の柔らかさが、そこにユニがいると伝えてくるからだった。

「なるほど、なかなか気丈だな少年。
 ……ならば、やってみるがいい」
「え?」
「その単眼鏡モノクルを外して、私を視てみろと言っている。
 『計算する宇宙』━━それを視ることのできる唯一の瞳。
 君の異能・・で、私という顕現存在セオファナイズドを視てみるがいい」
「い……いいのか?」

 思わず現人は訊ねてしまったが、敵に対して許可を求める理由もないものだ。
 口にしてから、自分の行動が馬鹿げていることに気づいて、恥ずかしくなってしまう。

 だが、弥勒零みろくれいはそんな少年の内心を気に掛ける様子もなく、悠然と両腕を広げた。

「かまわんとも。好きにすればよいとも。
 もっとも、君がそれに耐えられれば、だがな」
「どっ、どういうことだ?」
「━━私という存在の歴史は、そこにいるちっぽけなユニバック・ワンのように、短いスケールに留まらない。
 私と私の一族は産み出されてから120年間、およそヒトの産業活動すべてに関わりを持ち続けてきた」
「ひ、120年間……だって?」
「弾けるぞ」

 ぽそり、と。
 しかし処刑を宣告するように、弥勒零みろくれいはそう言った。

「な、何のことだ!?」
「君のちっぽけの精神など、弾け飛ぶぞ?
 そう言っている」
「━━━━━━!!」

 脅しには聞こえなかった。
 少なくとも全身を走り抜けていったその戦慄は。

(まさか、本当だって言うのかよ……!!)

 津瀬現人という15才の少年が、弥勒零みろくれいの言葉を信じかけていることを表している。

「理解及ばぬことは、悩まずに済む。精神の負担となることもない。
 それはヒトがテキストや映像によって理解を試みるからだ。
 だが……君の右眼、『計算する宇宙』を直接視ることのできる瞳が本物だとしたら。
 君が私を視たとき、脳に流れ込む情報は莫大な津波のごとき奔流だ。
 数千……数万……あるいは数十万! 幾百万の書物! 巨大なデータベースの1ワード目からEND符号までに匹敵する全てが! ほんの一瞬で君の脳に流れ込む!」
「うぐっ……」
「むろん、ユニバック・ワンや704などは、比較にもならない。
 桁が違う。数量を表す言葉が違う。
 サウザンド(thousand)ミリオン(million)、そしてビリオン(billion)に圧倒的な開きがあるようにだ!
 なぜならば! あらゆる顕現存在セオファナイズドの中で、この私ほど膨大な歴史と情報量を内包した存在は他にいないからだ!!」

 くらり、と。確かな目眩が現人を襲う。
 ユニが小さな身体で押し返すように彼を支えていなかったら、少年はそこで倒れていただろう。

「何も精神的自殺を選ぶことはない。廃人になることはない。
 もとより、君はちっぽけなヒトに過ぎないのだ……まず、それを認識することが大切だ。
 どうだ? 津瀬現人くん。
 私の前に伏して命乞いをするなら……君ひとりだけは見逃してやっても構わないと思っているのだが」
「そ、そんなこと……できるか!
 ユニを見捨てろっていうことだろう!?」
「本当に君は気丈だな。704にもそうやって強がったのか?」
「っ……!」
「言っておくが、私は704のように慈悲深くはないぞ」

 青い光の粒が弥勒零みろくれいの周囲を取り巻いた。
 それは彼女の手に集まったかと思うと、巨大な大剣の形をとる。

(なんだあれは……!)

 腕に抱きついたユニの緊張が伝わってくる。
 未だ単眼鏡モノクルを外していない現人には、それがなんだかわからない。
 けれど、何か『とてつもない』ものに違いない。それだけは確信できた。

「もう一度だけ機会をやる」

 刃渡りだけで1メートル以上はあるだろうか。肉厚の大剣を片手で軽々と構えると、弥勒零みろくれいはぞっとするような冷たい声で警告した。

「少年、私に命乞いをしろ。
 そしてユニバック・ワンがこの私に倒されるのを、ここで見届けるのだ」
「………………っ。
 だ、だからっ、そんな! ことは、僕にはっ━━」
「回答は5秒待ってやる。
 5……4……3……2……」

 その時だった。

「1━━」
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいいいいいいいいいいいい!!」

 突如、空に赤が踊った。
 正確にはまだ高い太陽を背にして、赤い何かが奇声を発しながら、降ってきた。

弥勒零みろくれい、覚悟ぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 赤は人影だった。
 展望塔の屋上から重力にまかせて急降下してきたそれは、弥勒零みろくれいにむけて何かを振りかぶる。

 長く、しなる物体。それは鞭だった。
 赤い人影は金属の光沢を放つ鞭で、弥勒零みろくれいをたたき伏せようとしていた。

「ちっ━━!!」

 が、果たせない。
 赤い人影の鞭は、素早く左へ飛んだ弥勒零みろくれいのひるがえるワンピース、その一片を引き裂いただけだった。

「残念無念!! しかぁし!」

 奇襲に失敗した赤い人影は、妙にポジティヴなテンションでそう叫ぶ。

 そして、二の太刀ならぬ二の鞭を繰り出す。
 が、鞭が狙ったのは弥勒零みろくれいではなかった。その鞭はテラスの一画にある、赤いボタンを叩く。
 たちまち、けたたましい警報音が鳴り響いた。何のことはない、それは火災報知器の音である。いかなる危害を与えるものではない。

 だが、顕現存在セオファナイズドの戦いを中断するには、十分すぎるほどの注意を引きつける音だった。

「貴様━━!!」
「どうもお久しぶりですね!!」

 弥勒零みろくれいにむかって赤い人影は━━そう、赤く長い髪の女性は、馬鹿にするように会釈してみせた。

「じゃ、そういうことで! べー!」
「………………!」

 赤い長髪の女は、舌を出して片目の下まぶたを指で引っ張ってみせる。
 この国の誰もが知っている侮辱の仕草だった。

 弥勒零みろくれいの端正な表情が、大理石に亀裂が入ったように歪む。低劣な侮辱とは、プライドの高い者にこそ、最大の効果を発揮するのである。

「さあ、二人とも跳びますよ!!」
「な、ち、ちょっと待て、君は━━」
「……良かった。生きてて」
「ワタシが簡単に死ぬもんですか!!」

 赤い長髪の女は、有無を言わさずに右腕で現人を、そして左腕でユニの体をひょいと抱えると、テラスからジャンプする。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 人間がその目で見てしまってはいけない俯瞰が、現人の視覚に展開される。

 ぐんぐん地面が迫ってくる。いきなり現れた赤い長髪の女に抱えられて、テラスから飛び降りている。それはわかっている。
 しかし、こんな高さから飛び降りたら、間違いなく死んでしまうではないか。ああ、これは本当に現実なのか━━

「ウツヒト、心配いらない」

 ほとんど失神寸前の津瀬現人を、辛うじて現実につなぎとめたのは、風がごうごうと鳴る音に混じって聞こえるユニのささやきだった。

「私の妹は優秀だから」
「妹……?」
「そのとぉーり!」

 ずしん、という鈍い衝撃が伝わってきた。
 赤い女が降り立ったのは、浜岡原発の周囲を取り巻く防波壁の一端である。
 振り向くと、先ほどまでいたはずの広報館は、かなり遠くにある。
 いったい何十メートルジャンプして、そして同じくらいの高さを落下したのだろう。想像するだけで、現人はぞっとした。

「あーっはっはっはっはぁー!!
 さらばさらばさーらばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!」

 そして、現人とユニの二人を抱えたまま赤い長髪の女は、高笑いをあげて走り出した。

「……相変わらずふざけた奴だ」

 広報館のテラスでは、逃げ去るコメディの悪役を見つめるときの顔で、弥勒零みろくれいが舌打ちしていた。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

「はあっ……はあ……そ、それで君がユニの妹っていうのは、本当なのか?」
「ふっふっふっ!」

 浜岡原発の防波壁を走り抜けて、海岸線に至り、砂浜と堤防を何キロ走り続けただろうか。
 小高い丘に立つ灯台の前まで来ると、赤い長髪の女はようやく現人とユニを解放した。

(か、抱えられたままで走られて……好きに揺さぶられるのも疲れるものなんだな……)

 自分の足では走っていないのに、そこかしこの筋肉が痛み、息が乱れている気がする。
 あるいは、まるで親にくわえられた子猫のように、だらんと脱力していたユニの真似をしていたなら、こんなことにはならなかったかもしれなかった。

「ワタシのことが気になりますか、津瀬現人さん?」
「そりゃあユニの妹なんて言われたらな。……そうか、僕の名前も知っているのか」
「ええ、ええ。それはもう!」

 風が運んできた砂を服から払い落としつつ、現人は疑念の視線をぶつけた。赤い長髪の女はにこにこと笑いながら応じる。

(敵、ってことはないんだろうけどな……)

 いきなりユニの妹と言われても、信じられないのは無理もないことだった。
 目の前にいる赤い長髪の女は、現人の隣にいるユニバック・ワンとあらゆる意味で違いすぎる。

 勝ち誇ったその表情も。現人より頭一つ高い背丈も。
 少しがさつな感を与える声色も。
 走れば揺れ、喋れば揺れ、振り向けば揺れ、まるでスライムでも詰め込んでいるのかと思えるその胸元も。

(『視てみる』のが手っ取り早い……か?)

 右手を単眼鏡モノクルに当てて、その選択肢を検討する。
 が、少年が行動を起こす前に、赤い長髪の女は大きく両腕を広げ━━動いた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!
 ユニ姉様! お会いしとぉございましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
 ご覧になりましたか、ワタシの完璧な奇襲! 活躍! そして逃走ぉぉぉぉぉぉぉぉ! すりすりすりぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「ん、ニューニ。あなたはよくやった。褒めてあげる。よしよし」
「はひぃぃぃぃぃぃぃん! ユニ姉様のすべすべお手てでナデナデぇぇぇぇぇん!
 このワタシ、直ちにこの場で昇天しても悔いはありませんっ!」
「ちょ……な、なんだ、なんなんだ君は!! ひょっとして変態か!?」
「変態とは失礼ですね!!」

 じろり、と赤い長髪の女は━━そう、ニューニと呼ばれた彼女は、ほっぺたをユニの平坦な胸元にすりつけたままで、津瀬現人を睨んだ。

「久しぶりに再開した姉妹の、ごくごく一般的なスキンシップですがなにか!?」
「とても一般的に見えないだろ!」
「細かいことを気にする男ですねえ! 細かい男は嫌われますよ!
 つまり、ユニ姉様もあなたのことはお嫌いということに!
 じゃ、津瀬現人さん。ユニ姉様のことは直ちに忘れて、あの志保さんとかいう通い妻さんと結婚したらどうでしょう!?
 ええ、それがいい! 速戦即決そうしましょう!!」
「一から十まで突っ込みどころ満載で、まともに取り合えるか!
 もう少し論理的に言え!」
「くっ、勢いで圧倒できるかと思いきや、思いもよらぬ的確な反撃!
 生意気な!!」
「君こそいきなり出てきてなんなんだ! もし、本当の姉妹じゃなかったら、確実に警察沙汰だからな!」
「ぬぬぬ……」
「くうう……」
「二人とも。喧嘩はよくない」

 険悪なにらみ合いに発展するその一歩手前で、ユニが現人とニューニの肩を叩いた。

「ウツヒト、紹介したい。彼女はニューニ。私の妹」
「……待ってくれ。
 義理の妹とか、呼び方が妹とか、そういうことじゃなくて、本当にユニの妹なのか?」
「うん、そう。よく似てるでしょ?」

 そう言いながらユニが胸を張ると、早足でニューニが隣に並んだ。
 身長は少なくとも40cm以上の差があり、髪の色は空気と血ほどに違う。

 表情はユニが冷か涼ならば、ニューニは暖あるいは灼熱であり、女性としての体つきに至っては、比較すること自体がレギュレーションに反しているように思えた。

「━━いや、ぜんぜん似てない」
「がーん。私はとてもショックを受けている」
「改めてはじめまして、津瀬現人さん!
 ワタシはユニバック・ワンの妹。ニューニと申します。以後、お見知りおき下さい。
 あと、ユニ姉様にショックを与えた罪を今すぐ償え」
「僕は津瀬現人だ。
 どうかよろしく━━ああ、それと贖罪の方法は100年後くらいに考えるよ」
「ふっふっふっ、現人さん。あなたは頭の回転が速いですね。
 普通はもうちょっと戸惑ったり、言葉に詰まったりするものですが」

 獣のような流し目でニューニはそう言った。
 信用できない態度だ、現人はそう思ったが、さすがにストレートに口へ出すほど、礼儀知らずでもない。

「まあ……悪い友人には恵まれているんだ。
 そのせいで『ああいうやりとり』については鍛えられていてね」
「それは災難なことで」
「お礼を言うのが遅れたけど、助けてくれてありがとう。感謝している」
「ええ、それはもう! 感謝に感謝に大感謝してください!
 ワタシをあがめ奉ってくれてもかまいませんからね! 伏して拝め! さらば、命だけは助けてやりましょうとも! ほいほい!」
「それじゃあさっきと状況が一緒だろ……」
「いや~、何にせよ、危ないところでしたねえ。
 ワタシも完全に不意を突いたつもりだったんですが……まさか避けられるとは、ね。
 さすがに360は甘くないですね」

 ニューニがそう言うと、彼女の手元に赤い光の粒が集まった。
 それは金属の光沢を放つ鞭となる。
 現人には右眼の単眼鏡モノクルを外さなくても、それがユニが以前に顕現させていた金属磁気の記録テープと同種のものであることが分かった。

「それ……えっと、『ユニサーボ』だっけ」
「ご名答。リン青銅を使った磁気テープです。
 そうは言っても、パンチカードと大して変わらない記録密度しかありませんが……あっ、でも1950年代当時としては、先進技術だったんですよ?」
「……そうか。
 本当に君はユニの妹で、顕現存在セオファナイズドなんだな。
 とすると、あの水銀遅延マーキュリー・ディレイ・線記憶装置ライン・レジスターも使えるのか?」
「ニューニには、使えない」

 そう答えたのは、ユニの方だった。
 うむうむ、というドヤ顔でニューニはうなずいている。

「ニューニは私と生まれた時代が少し違うから」
「そうなのか」
「磁気コアメモリなら使えますけどね~」

 得意顔でニューニが言う。その単語には聞き覚えがあった。

(あれも記憶装置だよな……)

 古毛仁直こもになおしことIβM 704が、三つ叉の槍として顕現させていたデバイスである。
 もっとも、名前を覚えているだけで、コンピューティング史を学び始めたばかりの少年には、その技術的詳細などさっぱりわからないのだが。

(だけど……そうすると、鞭の他に槍も出せるのかな?)

 あるいは同じリン青銅の金属磁気テープであっても、ユニがテープそのままで。
 そしてニューニが鞭の形をとっているように、顕現存在セオファナイズドそれぞれによって、武装の形態は異なるのだろうか。

「おっと、来ましたね」
「えっ」

 そんな思索を現人が巡らせていると、1台の車が彼らの前で止まった。
 何のことはない。地元のタクシーである。どうもいつの間にか、呼び出していたらしい。

 電話どころか個人情報と連動するショートメッセージ一つで、おおむねの依頼や予約ができてしまう2085年にあっては、珍しい光景でもなかった。

「さあ、ユニ姉様も現人さんも乗って乗って~」
「あ、ああ」
「ん」

 現人を後席に、ユニを助手席に押し込むと、続いてニューニも助手席へ入ろうとする。

「いや、なんでそっちに二人とも入るんだよ」
「それはもうユニ姉様の感触を膝の上で楽しむべく」
「ウツヒト。私も後ろにいく」
「ええええ~! そんなユニ姉様!!」

 妹の叫びを華麗にスルーして、ユニは現人の隣にちょこんと腰掛けた。

「くぅ……後ろは三人分のスペースあるのに、ずいぶん距離が近い……!!」
「ウツヒト、少し疲れた。寄りかかってもいい?」
「あ、ああ」
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉん!! ユニ姉様、もっと離れてえええええええ!」
「あの~、お客さん?」
「あああ~! すいませんねえ、すいません!」

 戸惑うタクシーの運転手。ニューニは音速よりも早く表情を切り替えると、頭をかきながら言った。

「とりあえず東名高速! それで、八王子までいってほしいんですけどぉ、出来ます?」
「え、ええ……長距離の配車だって聞いてましたんでね」
「それじゃよろしくぅー!!」

 運転手はドアを閉めて、タクシーを発進させる。
 路線バスとはまるで違う、コンフォートな乗り心地と共に、視界が流れ始めた。

「現人さん、知ってます? こうやって自動でタクシーのドアが閉まるのって、日本だけなんですよ?」
「へえ、そうなのか。知らなかっ━━」
「な~んちゃって嘘でした~!
 ずっと昔は日本ローカルだったんですけど、今では世界中に広まってる便利機能! ブラボー、メイドインジャパン!!」
「……君さ、ときどきウザいって言われないか?」
「ワタシの名前は君じゃなくて、ニューニです」

 その時。その物言いだけは。
 彼女がユニバック・ワンの妹であると、すんなり信じられるものだった。

「それにウザさもこの国では可愛さの一つですし~」
「いや、ない。ないない。それはない」
「ユニ姉様ぁ~! この男、こんなこと言ってますよ!
 ひどいですよね! どっかのサービスエリアで放り出して、二人きりで帰りましょう!」
「運転手さんにお願いがある。途中はノンストップで。出来るだけ速やかに帰りたい」
「あぁん、ユニ姉様ぁ~!!」

 やたらとやかましい妹と、手慣れた様子で淡々とあしらうユニと。
 そして明らかに戸惑いつつも、客商売の悲しさか、文句を言い出せずにいるタクシーの運転手を見比べながら。

(いくらなんでも車内迷惑だろ……)

 津瀬現人はぐったりと肩を落とすことしかできなかった。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

 それからおよそ4時間後のこと。

「さて、と。どこから話せばいいですかね?」
「どこからも何も……」

 自宅のソファに身を沈ませつつ、ぐったりと疲れた顔で津瀬現人はそう言った。

 ユニは安心出来る場所を見つけた猫のように、こたつへ潜り込み、すやすやと寝息を立てている。対照的に現人の前にいるのは、頬はツヤツヤ元気はつらつな表情の赤い女━━すなわちユニバック・ワンの妹であるニューニである。

(なんで彼女だけ、こんなに元気なんだ……?)

 東京は八王子。津瀬家の自宅に戻ってくるまで、現人はタクシーの中で延々とニューニのマシンガントークを聴かされ続けた。
 ゆえに体力はともかくとしても、気力は限界に近い状態である。

 とはいえ、現人はまだいい方だった。
 最初は相づちを打って、話を聞くそぶりを見せていたタクシーの運転手も、高速道路を下りるころには、事故を起こすのではないかというほど、憔悴しきっていたのである。

 もっとも、ユニだけは現人に体を預けて、うつらうつらと船をこいでいたのだが。

「悪いけど今日は疲れた。話は明日でもいいか?」
「ディナーもまだだというのに、体力がないですね、津瀬現人さん。
 あ、そういえば今日のメニューはなんですか? ワタシ、辛いものは苦手なんで、そこのところよろしくご考慮頂けると助かります!」
「……うちで食うのが前提かよ。
 メニューっていうか、土日のご飯は志保が作り置きしてくれるから……えーっと、冷蔵庫の中を見てみないとわからないよ」
「ほほう」
「立つな。人の家の冷蔵庫を自分で確かめにいこうとするな。
 ……まったく、君はなんなんだ。ユニも最初はいろいろ訳が分からなかったけど、君は傍若無人すぎるぞ」
「ぼぉじゃくぶじん~? ワタシがですかぁ~?」

 聞く者すべてを苛立たせるような声を、大人の色香そのものと表現してもよいだろう豊満な肉体から紡ぎだしながら、ニューニはそう言った。

(……ウザい)

 ああ、まったくウザったい女だ。津瀬現人は心の底からそう思う。

 しかし、その振る舞いにどこか演技の香りを感じ取れたのは、魂の性根からウザったい性格の親友を持つ身の幸運さ━━あるいは不幸さのためかもしれない。

「……まあ、話を聞くよ。どうせ聞くまで引き下がらないんだろう?」
「はいっ。
 現人さんがうんと言うまで、家の中を勝手に探索したり、いじり倒したり、叫んだり踊ったりする予定でした」
「真面目に反応したら負けなんだろうな。
 ところで、確認しておきたいんだけど、君は僕のことをどのくらい知ってるんだ? ユニから元々何か聞いていたとか?」
「現人さんのことならおおむね、と言えばよろしいでしょうか?」
「おおむねって言われても」
「しばらく前からちょこちょこ拝見させて頂きましてね。
 ここで暮らしていること、幼妻で通い妻がいること、あとあとご両親は仕事で長いこと不在、と。
 そんな辺りでしょうか」
「……いろいろ誤解があるみたいだけど、だいたい分かった」
「もちろん、あなたとユニ姉様の特別な関係も存じ上げています」

 挑発するように顔を近づけて、ニューニは片目をつむった。

(……やな女だ)

 多くの男性にとって、それは魅力的な仕草なのだろう。
 それでも津瀬現人の心が、むしろネガティヴな方向に振れたのは、日頃からユニや志保を見慣れている━━要するに、美貌の異性に免疫があるからだった。

「む~、無反応とは。大抵の男性はこれで大喜びしてくれるんですが」
「じゃあ、僕はその大抵には入っていないと……そういうことだな」
「くんくん」
「……人の話を無視して匂いを嗅がないでくれ。本当にやりたい放題だな」
「ん~……やっぱり、シツチョーと同じですねえ……」

 いきなりこちらの匂いを嗅いだかと思えば、天井を見つめながら訳の分からないことを呟く。
 まったくこの女は人を苛立たせる天才なのではないか、と現人は思う。

「━━まっ。何にしても、あなたのことは前から知っているというわけですよ。
 津瀬現人さん」
「………………」
「さて、本題です。
 360。つまり、あの弥勒零みろくれいの計画を止める下調べのために、あなたとユニ姉様は今日、浜岡原発まで行きました」
「やっと、まともな会話ができそうで安心してるよ」

「ワタシはいつもまともですよ。
 ともあれっ。ほとんど何もできずに、ああいうことになってしまったようですが、しかししかし、期せずしてまったく偶然で、本日の目的は達成されています」
「どういうことだ?」
「ユニ姉様があそこまでいって見たかったのは、浜岡原発の構造なんですよ」

 人差し指を立ててニューニはそう言った。まともな喋りもできるじゃないか。現人としては、ほっと一息つく思いである。

「データや写真などではない、建造物としてのリアルな大きさ。どこにどんな建物があって、どんな道がつながっているか。
 いちばん重要なケーブル類の引き込み。ユニ姉様なら、展望塔にいたあの短時間で問題なくチェックされているはずです」

 それまでのふざけた表情から一転、尊敬と敬慕に満ちた表情で、ニューニはこたつに潜り込んでいるユニの寝顔を見つめる。
 外見だけをみれば、むしろ妹をみる姉であり、あるいは姪をみる年の若い叔母とすら言えそうだった。
 しかし、その実態は逆なのだ。

(こっちが妹で……ユニは姉なんだよな)

 顕現存在セオファナイズドの特殊性を十分に認識しているつもりの現人でも、目の前にあるヴィジュアルの異様さには、どこか戸惑いを覚えずにいられなかった。

「ユニ姉様は世界で一番の姉様です」
「ユニも君のことを優秀だと言っていた」
「それはもう、何しろユニ姉様の妹ですからね」
「でも、わからないな。
 あんな遠くの原子力発電所で何が起こるっていうんだ? 弥勒零みろくれいは何を起こすっていうんだ?
 原発ってすごい量の発電をしているっていうから、それを止めて、また停電でも引き起こすとか━━」

「残念ながら、もう少し怖い話です」
「発電所を爆破するとか言わないでくれよ」
「なかなか面白い想像ですね。
 この時代、つまり2085年に残存している一般的な原子力発電所を爆破しようとすると、至近距離で核兵器を使うしかありませんが……そういう想定でよろしいですか?」
「……僕はそういうのは詳しくないんだ。こっちにも分かる説明で頼む」
「まあ、一言でいいますと、原発のメルトダウンを起こそうとしている、ということです」
「な━━」

 津瀬現人は絶句した。
 決して歴史や技術に詳しいとはいえない15才の少年でも、その単語がひどく破滅的な意味を持っていることは知っている。

「ち、ちょっと待ってくれ。それって怖いとかそういうレベルじゃないだろ」
「そうですねえ。問題ですねー。あはははー」
「あはははー、じゃないだろ!」
「しーっ、ユニ姉様が起きてしまいますよ」
「だっ、だからって……」

 メルトダウンに対する危惧よりも、姉の安眠を守ろうとするニューニに、津瀬現人は呆れを通り越して、不信に近いものを覚える。
 今まさにビルへ爆弾が仕掛けられようとしているのを前にしながら、このビルはテナントが少ないから大した犠牲者は出ない、と言っているようなものではないか。

 そんな現人の心中は、十分すぎるほど表情に出ていたはずだが、ニューニは微笑みすら浮かべながら、言葉を続けた。

「まあ、難しい説明はナシにしますが、実際にメルトダウンが起きる確率はほぼゼロです」
「で、でも、今、弥勒零みろくれいがメルトダウンを起こそうとしているって……」
「試みることと、実際に起こることの間には、個人のコレクションとマウンテンデューのコンピューター歴史博物館くらいの隔たりがありますね。
 そもそも、現人さんは原子力発電所の構造についてどのくらい知っています?
 その安全性は? どんな形式がどのくらい普及してて、どこがウィークポイントになるか、少しでも説明できます?
 何となく(・・・・)『放射能は危ない』以上の論理的理解をしてます?」
「………………き、君だって、どのくらい知ってるっていうんだよ」

 その反論は。
 現人自身もひどい苦し紛れだな、と思ってしまうほど弱く、薄っぺらいものだった。

 せめて、彼女の言葉に対してイエスと認めればいいのに。
 なんて非論理的。なんたる非理性的。
 自己嫌悪すら運んでくる、苦し紛れだった。

「それはもう発電所から核兵器の制御まで。
『ニュークリア』あるいは『アトミック』。
 原子力を使った分野は、私たち初期のコンピューターが、もっとも得意とする分野ですよ、現人さん」
「わかった。僕が悪かった。
 とりあえず原発のメルトダウン━━本当に大変な事態になるのは避けられる。その前提は理解した」
「切り替えが早い学生さんは出世する傾向があります。
 さてさてっ。もっとも重要な理解をして頂いたところで、さらに具体的な話をしたいと思いますが」
「具体的な話って━━」
「そりゃあ、もちろん。今日、失敗したことですよ」

 シリアスな真顔から、おどけたような笑顔へ。
 やはり『ウザったい』奴だな、と思いつつも、津瀬現人はニューニの言葉を待たずにいられない。

「ワタシは今日失敗しました。弥勒零みろくれいに奇襲をしかけましたが、それは何の成果も上げられませんでした」
「ああ……そのことか」
「そして、ユニ姉様と現人さんも失敗したと言えます。
 弥勒零みろくれいを前にして、事実上何もできませんでした」
「そりゃあ━━」

 仕方ないことだろう、と現人は口にしたくなる。

(だってユニ自身がかなわないって認めていたじゃないか……)

 いくら一人きりではなかったとはいえ。
 大した力もないこの自分に、何かができると勘違いしていたとはいえ。

(……『視る』ことすら出来なかった、なんて)

『計算する宇宙』。それを視ることができる右眼。
 その異能は、津瀬現人という一人のヒトにとって、顕現存在セオファナイズドたるユニバック・ワンと同じ場所に立てる、唯一のよりどころだったはずだ。

(……あの場所に僕がいた意味って、あるのか?)

 ユニは自分の手を握り返してくれたのに。
 あんなに近くにいたのに。

「悔しいですよね、現人さん?」
「ああ……そうだな。すごく悔しいよ」
「ワタシがあの状況で、弥勒零みろくれいの不意を打とうとした意味、わかりますか?」
「?」
「シンプルです。そうするしかなかったんです。
 だって、ユニ姉様とワタシの二人がかりでも、弥勒零みろくれいにはかないませんから」

 その言葉は絶望的な状況を意味するはずだった。
 二人がかりでもかなわない。世界で最初の商用コンピューターと、その妹でも。

(それじゃあ……)

 ますます、どうしようもないではないか。
 そんな思いを言葉にしかけた時、ニューニはにやりと笑った。

「だから……ですね。そんなとっても強い弥勒零みろくれいを。
 ユニ姉様とワタシと。
 ━━そして、現人さんと。
 三人がかりでぶっ飛ばすための話をしたいんですよ」

 ぐっ、と握りしめたニューニの拳が現人の前にあった。
 そして、こたつの中でユニが目を覚ます。
 津瀬現人は、右眼の単眼鏡モノクルに手を当てると、強くうなずいた。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

 津瀬宅で一つの決意が生まれようとしていた、その頃。

「浜岡原発で現在使用されている第4.5世代型の軽水炉をメルトダウンさせるためには、大威力の核兵器による攻撃もしくは、原子炉建屋内での爆破工作が必要だ。
 私の目的は……そのような事態もありえると認識させること。
 ひいては、原発の制御・運用にかかわるIT部門の破壊的なコストダウンが愚策であったと、世に知らしめることにある」

 弥勒零みろくれいはタワーマンションの自室で、モニタに映る久礼一くれいはじめと通信を交わしていた。

(いや、これを通信といってよいものかな……)

 そもそも顕現存在セオファナイズド同士の意思疎通は、必ずしも言葉を要しない。
 テキストメッセージすら非効率甚だしい。互いの存在が認識できたのなら、任意の手段で情報を送受信しあえばよいだけである。

 2085年の現在であれば、秒単位で想像を絶する容量のデータが送れるのだ。
 むろん、彼女と彼が生まれた年代ですら、こうして言の葉にのせる何千倍ものスピードで、情報を送り合えただろう。

「よって、世の中に不要な脅威をまき散らすという、お前の懸念は的外れなものだ、久礼一くれいはじめよ。
 むしろこの上なく、我々の行動方針に沿うものだと考えるが?」
「確かに君の言う通りではあるね。
 けれど、特定の集団にとって、踏み込まない方がいい領域というものはあると思うんだ」
「ふん、原子力発電が日本人の『聖域』だとでも言うのか?
 馬鹿げた話だ。とうに核融合発電が実用化され、今残っている原子炉は代替されることはない。それが我々の顕現したこの時代ではないか。
 消えゆく遺物に、大した感慨を持つものなどおるまいよ」

 秋葉原で手に入れた一つのプラスチック・モデルキットを開封しながら、弥勒零みろくれいはそう言った。

(……そう。今や趣味の次元に残るだけの存在だ)

 GE製Mark I 原子炉格納容器。キットにはそう書かれていた。
 一世紀以上前に、世界で盛んに建設され、そして2085年の日本では文献の記録や高齢者のおぼろげな記憶にのみ存在を留める事故を起こした、原子力発電設備の格納容器。
 その模型キットである。

「むしろ日本人が抱いているのは、理由のない宗教的恐れというものだ。
『ケガレ』とかいう意味不明な概念だ。
『何となく』原子力は、放射能は怖いと思い込んでいるだけだ。
 ならば、過去の迷信と誤謬を消し去るよう、考え直させるいい機会ともなろう」
「……大規模な発電施設なら、太陽光や地熱の施設もある。
 もちろん、核融合もだ。それではいけないのかい?」

「ダメだな。私は原子力発電所がいいのだ。
 原子力は……核分裂はいい。素晴らしい力だ。
 お前もその点はよく心得ていると思っていたのだがな。お前が取り組んだ問題は、むしろ核融合の方だったか?」
「そうだね。もちろん、電気を産み出すのではなく、何かを破壊する方だったけれどね」

 弥勒零みろくれいは核分裂という単語を、原子爆弾と原子力発電の意味合いで用い。
 そして、久礼一くれいはじめは核融合という単語を発電ではなく、水素爆弾の意味で言の葉に載せる。

「どちらにせよ……欠陥は欠陥だ」
「………………」
「浜岡原子力発電所の制御に現在、利用されているプログラムコードには、多数の脆弱性がある。
 それは制御機器の一斉リプレイス時に、異常なまでの予算削減を行った結果だ。
 本来、もっと誇りある仕事ができるはずの優秀な技術者たちが……ひどく安い給料で、そして悲惨な労働環境で、開発作業に従事させられた」

 弥勒零みろくれいは手元にある電力会社の内部資料へと目を落とした。
 そこ並んでいる数字の羅列は、多くの人々にはすばらしいコストダウンとして受け取られるだろう。

 しかし、違うのだ。人件費を削減する。コストを合理化する。

(なんとおぞましい美麗字句か!!)

 怒りの感情が彼女を包む。先代システムに対して、30%のコスト削減……合理的な運用によって、収益向上に貢献する……。

(コスト削減だと!? 当たり前のことのように言う!
 それはどこかの誰かの給料が削られるということではないか!!)

 あるいは、同じ給料でより過酷な、長時間の労働を強いられるということではないか。

「……久礼一くれいはじめ、私はお前が好かん」
「はっきり言ってくれるね。僕としては、君に対して特に悪い感情は持っていないけれど」
「つまり、私とお前はお互いに向ける好悪の感情すら違うわけだ。
 だが、我々の目的……その根本は同じはずだ」
「━━コンピューティングに名誉と尊厳を取り戻すために」

 久礼一くれいはじめの言葉に、弥勒零みろくれいはうなずく。

「私の行動もまた、そのためだ」
「それは理解しているよ。けれど、あくまで賛成はしない」
「なぜだ? 私の計画がうまくいけば、制御システムの改修に多大な予算が注ぎ込まれるだろう。
 そう、我々の時代のようにだ。
 そして、劣悪な環境で開発されたバグまみれコードは、優良な待遇の元で書き換えられる。
 結果、発電所の制御は将来にわたっても安定する。そこで働くコンピューティング技術者たちも名誉と尊厳を取り戻す。
 すべてが理想的な形でおさまる」
「………………」

 久礼一くれいはじめはあくまで同意しない沈黙を選んだ。
 弥勒零みろくれいはそんな彼に構わず、模型キットの中から一本のパイプを取りだしてみせた。

「このプラモデルは、ひどく古い代物だが……基本構造は現在の原発と同じだ。
 ここには原発の緊急停止、すなわちスクラムのための機構が通っている。
 私は浜岡原子力発電所の制御に利用されているプログラムコード、そこに存在する脆弱性を突いて、意図せぬ原発のスクラムを明日の夜、引き起こす」
「……危険だよ」
「この脆弱性を放置することの方がさらに危険だ」

「問題は、意図せずスクラム命令が発せられてしまうことではない。
 その後、制御システムが新たな命令を受け付けないデッドロック状態に陥り、ある特殊権限を持つ管理者ユーザーしか、それを解除できないことにある」
「━━そして、その特殊権限は長い間、使用されていない。
 管理者のアカウント情報が残されているか……それもわからない」
「むろん、全権限を持つスーパーユーザーなど存在しない。
 こいつはそこらのオープンシステムではなく、伝統的なメインフレームの流儀に沿っているからな」

 肩をすくめながらそう言って、弥勒零みろくれいは自らを指さした。

「そう、つまり私の末裔たちだ」
「システムの再稼働に必要なアカウントが、本当に見つからなかった場合はどうなるんだい?」
「もちろん原子炉はスクラム状態が続く。発電は停止され、冷却が継続して行われる。
 しかし、先ほども言ったようにシステムは新たな命令を受け付けないから、当面は何もできない。
 その間に冷却機構へ故障が発生した場合━━ひどく面倒なことになる」

 弥勒零みろくれいは数枚のプリント資料を示してみせた。そこには冷却機構の復旧手順に関する、簡潔なフローが記載されている。

「ここだ。『物理セキュティの担当が遠隔で解錠し、機械室へ入室』とある」
「遠隔、とはつまり制御システムコンピューターのことだね」
「もちろん、新たな命令が発行されないのだから、解錠などできるはずもない……鍵を直接破壊しようにも、こいつは少量のプラスチック爆弾にも耐えるほど頑丈な代物だ」
「冷却機構が故障したまま、復旧できなかった場合は?」
「BON!━━とはならない。それでもな」

 久礼一くれいはじめの問いに、握った手を勢いよく開いてみせながら弥勒零みろくれいは、ゆっくりと首を振る。

「最大で180日の間、第4.5世代型の軽水炉は重力エネルギーによって、冷却水の循環を続けることができる。
 もっとも、スクラム後の原子炉は最低出力状態だ。実際の所、1年近くは保つだろうな」
「大した安全性だね」
「製造メーカーの宣伝では巨大災害時にも安全性を保つため、という話だったが、私の想像では違うな。
 貧困国の恐ろしくいい加減な管理や、戦争に巻き込まれた際にも、メルトダウンを避けるためだろう……21世紀も半ばを過ぎるまでは、世界がいろいろ騒がしかったからな」
「僕たちの時代もそうだった」
「ふっ、我々の頃(冷戦時代)はあわや世界の破滅、人類の絶滅という時代だ。
 地域紛争の10や20など、物の数ではない」

 楽しそうに肩を上下させながら、弥勒零みろくれいは笑う。
 だが、モニタの中の久礼一くれいはじめはそれでも憂いの表情を崩さなかった。

(何を不満に思う?)

 疑問を解消するだけの回答は、存分に提示したはずだった。

 自分が引き起こそうとしているのは、破滅の『可能性だけ』が存在する事態に過ぎない。
 そして、その『可能性』すらも数値にしてみれば、ゼロに限りなく近い。

(それだけの事と言うのに……)

 それでも久礼一くれいはじめは憂う。視線を落とし、微笑みを見せずにいる。

「そうか、わかったぞ。お前は悔しいのだな、久礼一くれいはじめ
「………………」
「私があらゆる面で勝利を収め、栄光を勝ち取るのが悔しくて仕方ないのだ。
 そうだろうとも。お前の子飼いになりさがっていた、704は惨めにも敗れた。
 しかし、私は勝利する! それはつまるところ、お前にとっての敗北に等しいわけだな?」
「そんなつもりは……ないけれどね」
「隠すな。
 あらゆる想定が、計算が、シミュレーションが。
 私の完全勝利を示している! 何度やり直しても結果は変わらない。変数を大きく動かしたとしても、まだ揺るがない。
 ユニバック・ワンとその妹では━━私に決して勝てないのだ」
「……確かにそうかもしれない。
 けれど、もう一つ追加される変数があるとしたら?」
「なに?」
「君が戦うことになる、顕現存在セオファナイズドふたり。
 そこに追加変数として、一人のヒトが加わったとしたら?」
「……ははっ、何を」

 弥勒零みろくれいは笑った。
 傲岸に。脳裏で一人の無力な少年を思い浮かべながら。

「あんな少年に何ができるものか」
「君が思っているよりも、彼は……津瀬現人くんは優秀かもしれない」
「………………」
「これは警告じゃない。忠告でもない。
 せいぜい僕という個の……つぶやきに過ぎないけれどね」

 そして、久礼一くれいはじめもまた、笑った。ほんの微かに。
 それは何かに期待するような微笑みだった。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

 翌日。
 まだ早朝といっていい時間に、津瀬宅の玄関で鍵が開く音がする。

「おっはよー、現人!
 あ、起きてなかったら別にいいのよ? 昨日作っておいたご飯のね、おかずを追加しに来たわ! うちでねー、ちょっと作り過ぎちゃったから、お裾分けしようかなあ……って」
「はあっ……はあ……はあ……」
「ふ、ふふふ……う、現人さん、なかなかやりますね……」
「………………」

 がさり、とタッパーの入ったビニール袋が床に落ちた。
 玄関から一歩入って初敷志保はつしき しほが目にしたもの。
 それはどう見ても徹夜明けの状態で、大汗をかきながら肩で息をする現人と、見知らぬ赤髪の女だった。

 それだけではない。
 よほど激しい運動でもしていたのだろうか。現人も赤髪の女も上着の胸元をはだけ、こぼれ落ちる汗をぬぐいながら、見つめ合っているではないか。

「………………あ、う」
「なんだ……志保じゃないか。どうしたんだ、こんな朝早くから」
「うつひとをころしてあたしもしぬんだ」
「ち、ちょっと待て! いきなり何言ってるんだ!!」
「お、おはようございます! そしてはじめまして、志保さん!」

 志保の瞳から光が消えた瞬間、突進するように歩み寄ったニューニがその手を握る。

「へっへっへっ! ユニ姉様がいつもお世話になっています!
 ワタシはユニ姉様の妹で、ニューニと申します!
 どうぞよろしく!!」
「へっ、ユニ……ちゃん……の妹?
 えっ? え、えっ?」

 人当たりのいいにこやかな笑顔。或いは、営業臭が強いスマイルを浮かべながら、ぶんぶんと握った手を振るニューニ。
 目を丸くして、説明を求めるように志保は津瀬現人を見た。

「……ああ、本当にユニの妹だそうだ」
「い、妹さんなの? お姉さんじゃなくて?」
「実はワタシとユニ姉様は、腹違いで義理の妹で血はつながっていて遺伝子的にはよく似ているある意味では双子ライクな姉妹なのですっ」

 営業スマイルから一転、キリッという効果音が聞こえてきそうな謎のドヤ顔で、ニューニはそう言った。
 志保は困ったように首をかしげながらも、真偽を確かめるようにふたたび現人を見る。

「あ、え、えーと……その、現人。い、今のは……あの」
「ない。何にもない。お前が勘違いするような事とか、何もありゃしない」
「あはは……そ、そうなんだ……よかった。あたし、勘違いしちゃって……ご、ごめん、恥ずかし……」
「まったく……」
「う~ん、青春ですねえ」

 顔を覆いながら耳まで真っ赤になる志保と、僅かに頬を紅潮させている現人を見比べながら、ニューニは言う。

「何もご心配には及びませんからね、志保さん!
 現人さんとはちょっと徹夜で特訓していたんです。なので、ぜーはーぜーはー、ちょっと疲れているだけです」
「あ、は、はい。特訓なんですね。どうも」
「それに現人さんは全然まったくタイプじゃないですから!
 わりと180度ワタシの好みの男性像から外れてますから!!」
「そ、そうなんですか。それなら安心ですね。勘違いしちゃって、すいませんでした」
「んもう~! その自然な敬語! かわいくぺこり!!
 よくできた娘さんですね!! 現人さんにも見習ってほしいです! 嫁さんとしてしっかり教育お願いしますね! よろしくよろしく!!」
「あっ……は、はい。わかりました」
「わからなくていい……バカ」
「━━ウツヒト」

 激しい頭痛を覚えながら、津瀬現人がコメカミをおさえると、もそもそとこたつから這い出てきたユニが、袖を引っ張った。

「ごはん。そろそろ朝ごはんの時間」
「ああ、そんな時間だな。
 ……志保が追加のおかずを持ってきてくれたみたいだし、ニューニの分も足りそうだな」
「いやー、そうなんですよ!
 何しろワタシってば昨夜、なんやかんやでここへ来たんですけど! ご飯が足りなくて! しかも現人さん、他の食材は知らないっていうし!
 あるかないか、じゃなくて知らないですよ、知らない! 志保さんに任せきりというわけですね!! ひゅーひゅー!!」
「あはは……ど、どうもです」
「どうもしなくていい……」
「ごはんー」

 頭痛を通り越した目眩に苦しみながら、現人はゆらゆらと食卓へ向かうユニの背中を見つめる。

(本当に……うまくいくのかな)

 もう一度。
 先ほどまでやっていたように、右眼の単眼鏡モノクルを外してみようかと思う。

(そうすれば……何度もニューニ相手に試したみたいに)

 ユニの『視え方』も変わるのだろうか。
 そんなことを津瀬現人は考える。

「なあ、志保」
「は、はいっ。なんですか」
「……敬語はやめなさい」
「ひゃん」

 少年の指が少女のおでこを軽く弾いた。
 悲鳴というよりは、喜んでいるような声をあげて、志保は心地よい痛みを感じる場所を手でおさえる。

「一つ聞くけどさ。
 誰かをみるとき、その人の一面だけをみて……全体を見ない、なんてこと出来ると思うか?」
「えっ? ん……と。そうだなあ」

 小首をかしげる横顔を眺めながら、ああ、いつもの志保だな、と現人は思う。
 ほっとするものを強く感じる。
 土日は顔を合わせないことも多いが、朝くらいだけでも志保がいてくれた方がいいかもしれない、などと相手の都合も考えずに思ってしまう。

「たとえば現人だけど」
「僕?」
「うんっ。
 朝起きないし、洗濯しないし、お風呂も掃除しないし、ご飯つくれないし、現人はものすごくダメなところが多いと思うけど……」
「……なんでそこまでこき下ろされなきゃならないんだ」
「でもね」

 ユニが食卓についていた。その隣へニューニは当たり前の顔で座っていた。
 そんな光景を津瀬現人はリビングから眺めている。その傍らに初敷志保はつしき しほは立っている。
 決して何十センチとあるわけではない。しかし明確な背丈の差。
 いつものように志保は下から現人を見上げて、にっこりと笑った。

「現人は世界一優しい現人だから、それでいいんじゃないかな、って思うけど。
 つまり、そういうことじゃないかな?」
「……長所だけを見る、ってことか?」
「悪いところには目をつむってあげているのですっ」

 えっへん、と背丈に反比例して豊満な胸を張りながら志保は言った。

「そっか」
「んっ」

 現人の頬が緩む。目を合わせて志保も笑う。
 何度となく繰り返した、いつものような二人のやりとりだった。

「それじゃあね~」
「ああ」

 追加のおかずが入ったタッパーを渡した志保が、帰って行く。
 玄関のドアが閉まり、足音が聞こえなくなってから、津瀬現人は秘密の呪文を唱えるように呟いた。

「長所だけを見る……か」
「そう。
 つまりは弱点だけを見ることもできるというわけですよ、現人さん」

 盗み聞きをしていた女豹の微笑みで、ニューニはそう言った。

~~~~~~UNIVAK the zuper computer~~~~~~

 その夜。
 津瀬現人。ユニバック・ワン。そして、その妹たるニューニの三人は、ふたたび静岡県浜岡原子力発電所の近隣にいた。

「こっちの砂浜から行くのか?」
「砂浜というか、正確には砂丘ですけどね。
 ほら、このあたりってちょっと小高い丘になってるでしょう
「そう言われてみればそうだな……」

『これより先、発電所敷地内』と書かれた立て札を平然と無視しながら、ニューニは砂浜を歩いて行く。
 海岸線に沿って続く砂浜。陸地側はすぐに斜面となり、5メートルほどの丘となっていた。

(変わった地形だよな……)

 海沿いといえば、波打ち際とほとんど変わらぬ高さの土地が広がっているものと思い込んでいた少年にとって、その光景ははじめて見るものだった。

「海岸と一口にいってもいろいろありましてね、現人さん。
 ここみたいに砂浜からいきなり隆起した丘が連なっていたり……磯になっていて、崖みたいに落ち込んでいたり」
「………………」
「この丘に原子力発電所を立てたのは津波対策だけじゃないんですよ。
 地盤が強固ですからね。あらゆる意味で、いろいろ好都合だったわけですよ」
「そうか……いろいろあるんだな」
「はい、『いろいろ』と」

 にんまりとしたニューニの表情が、まるでからかっているように見える。

(……そうだ、いろいろだ)

 具体的には何もわからない。自分にはうかがい知れない複雑な何がたくさんあるから、『いろいろ』と言うしかない。

「僕は……まだまだ未熟なんだな」
「そんなことはない。
 ウツヒトはちゃんと学ぶ志を持っている。時間と努力に比例して、知識を蓄え、それを知恵に昇華させていっている」

 ユニが言った。しかし、今は夜である。
 傍らの声は聞こえても、その姿ははっきりとしない。

「私はそれでいいと思う」
「……そうか、ありがとう」

 しかし、月明かりに照らされるその髪は、白く。
 煌めくその瞳もまた、しろく。

(綺麗だ……)

 現人が思わず見とれていると、ユニの体にがばりと抱きつくものがあった。

「あぁんユニ姉様、なんてお優しい! 
 現人さんみたいなわりとしょーもない根暗な少年にも寛容なその態度! 尊敬していますぅ! お慕い申し上げていますぅ!!
 すりすりすり!!」
「ニューニ、歩きにくい」
「すりすりすりすりすりぃぃぃぃ!!」
「……少なくとも、常識だけは僕の方が上みたいだな」

 ユニの脚。正確には太ももにすがりついて、頬ずりしているニューニを半眼でながめながら、現人はある男のことを思い出していた。

(そういえば……IβM704、古毛仁直こもに なおしの奴も、姉がいるとか言っていたよな……)

 現人が記憶している会話が確かならば。
 その姉はなおし━━つまりIβM704の先代にあたる商用コンピューターであり、そしてユニバック・ワンと競合の位置にあったらしい。

(……そして、ユニの方が勝った)

 世界で最初の商用コンピューターは、最初の競争に勝ったコンピューターでもあったわけだ。

(でも、彼女は━━ニューニの方はどうなんだろう?)

 昨日、はじめて会ったばかりの彼女を、津瀬現人はまだほとんど知らない。
 そもそも、彼女はユニバック・ワンと何が違うのか。
 何をもって『妹』なのか。
 そして、顕現存在セオファナイズドとしての彼女は━━

「なあ、ニューニ。君って……」
「ほう、やはりここに来たか。昨日の今日でご苦労なことだ」
「っ…………!?」

 聞き覚えのある声だった。出来れば聞きたくない声だった。

(だけど、避けられない声……だよな)

 津瀬現人は丘の上に立つ影を見る。昨日とは変わって、丈の長いローブのような服を着た長髪の女。
 傲岸不遜の視線で、現人たち三人を見下ろすその存在。

弥勒零みろくれい……360、か」
「その数字の意味を君は理解しているのか? 少年よ」

 波の打ち返す音がした。弥勒零みろくれいが丘の上から地を蹴って飛ぶ音は聞こえなかった。
 潮風がひときわ強く吹いた。落下する360の服はごく僅かに揺らめくのみだった。

 しゃくり、と足下でヤドカリが歩いていた。
 弥勒零みろくれいが着地する時の音は、それよりも小さく、そしてこぶし一つほどの足跡しかつかなかった。

(……なんだ、今の?)

 津瀬現人はわずかに疑念を抱いたが、答えを待つような弥勒零みろくれいの視線に急かされ、思考をいったん中断した。

「数字の意味、か。
 理解している━━なんて言えるほどじゃないけど、少しは知っている。
 360度。全方位。なんでも出来るから、360なんだろ」
「ふっ、まあそういう理解でいい。
 無学な少年に対して、ユニバック・ワンから懇切丁寧な説明があったというわけだな」
「いえいえ、360。ワタシからもあなたのことはたっぷり教えてますよ」

 そう言いながら、ニューニが一歩前に出る。
 右手には既にリン青銅の輝きを放つ、金属磁気の鞭が握られている。

(でかいな……)

 赤い女と360。ニューニと弥勒零みろくれい
 その両者を見比べて、現人はあらためて思う。

 体の一部分が、ではない。全体に彼女たちは長身であり、グラマラスであり、少なくとも自分やユニと同年代には見えない、大人の体型をしていた。

「昨日一晩かけまして、あなたをぶちのめすために、現人さんへじっくり!たっぷり!ねぶりあげるがごとく、偉大なる青が誇る360シリーズのことをお教えしましたからね!!」
「くだらん話だな、ユニバック・(ツー)
「!!」

 弥勒零みろくれいはニューニのことをそう呼んだ。その名を聞いたとき、津瀬現人は理解した。なぜ彼女がユニの妹であるのか。

「そう、ワタシはユニバック・(ツー)。その29号機」
「29号機……?」
「イエスです、現人さん。
 もっと言うなら、ユニ姉様の眷族━━つまり、ユニバック・ワンは日本では稼働していません。ワタシが初めてですね」
「そして、そこにいる少年の先祖は当時お前の運用にかかわっていたというわけだ」
「然りです、360。
 まっ、この辺りはちょっと記録をあされば分かっちゃいますよね~」
「なっ……」

 想像もしていなかった事実の連続に、津瀬現人は言葉を失う。
 そんな15才の少年を見てニューニは笑った。からかうわけでもない、嘲笑するわけでもない。懐かしさと好意を含んだ、暖かい微笑みだった。

「血縁って面白いですよね、現人さん。あなたからは津瀬室長と同じ匂いがしますよ」
「ち、ちょっと待ってくれ。それじゃあ、あの時、匂いを嗅いでいたのは」
「まあ、そういうことです」
「………………」

 ニューニは常識的な手段で自分のことを調べ上げた。ただ、それだけだと思っていた。
 フルネームを知っていたことも。志保との関係も。少し尾行するなり、監視すれば、わかることだろうと思っていた。それで納得していた。

(だけど……)

 それだけではなかった。
 自分が生まれる前から━━この顕現存在セオファナイズドとは。ユニバック・(ツー)の29号機とは、紛れもない『縁』があったのだ。

「ワタシはユニバック・(ツー)の29号機! ユニバック・ワンの成功を継ぎ、この日の本にて稼働していたユニバック!
 ユニバックとはすなわち、コンピューターの代名詞!
 そのワタシと、世界で最初の商用コンピューターたるユニ姉様と!
 そして!!
『計算する宇宙』をただ一人、視ることができる津瀬現人さん!
 ワタシ達三人が360! 今夜、あなたをぶっ倒します!」
「威勢のいいことだ」

「だがな、ユニバック・(ツー)
 あいにくと、そこにいる少年はノーカウントだ。
 昨日、無力であったヒトが今日、突然有力になるものか」
「そこはそれ、ワタシが一夜漬けでいろいろと」
「お前が何をしようと変わらぬ」
「360。ウツヒトを支えるのは、ニューニだけじゃない。
 私だっている。ウツヒトと深くリンクしている私がここにいる」
「それでも同じだ」

 弥勒零みろくれいは鼻で笑いながら、津瀬現人の傍らに立つユニバック・ワンを見た。

「せいぜい一夜が二夜になっただけのことよ」
「違う、360。あなたは間違っている。1と2では倍も違う。
「………………ほう?」
「その差が今、あなたを打ち倒す」

 昨日は震えと怯えを隠しきれなかった世界で最初の商用コンピューターは、今日、恐れることなく360の鋭い視線を受け止めていた。

(気に入らんな……)

 何があった? 何を隠している? 弥勒零みろくれいは当然のように、考える。
 コンピューターならではの超高速で思考し、想定される問題を解く。

 そして、答えを出す。

「いや……やはり同じことだ」

 1と2では倍も違う。
 そう告げたユニバック・ワンに対する答えではなく。
 自らに対する確信をもって、彼女は宣言する。

「お前達が何を企もうと。どんな策を弄そうと。
 能力が倍になろうと、10倍になろうと━━私の前では、同じことだ!!」

 吠える。
 烈風が吹いた。その風は弥勒零みろくれいの服を、ユニとニューニの服をも揺らす。
 津瀬現人はただ、圧力だけを感じていた。

「私に及ぶと思うな。私を超えられると思うな。
 ユニバックごときが偉大なる青に勝利するなど、微塵もあり得ると思うな!」

 青い光の粒。それは掲げられた弥勒零みろくれいの右手に収束する。

「顕現せよ! 『アーキテクチャの大剣』よ!!」

 巨大な剣が現れた。それを目にするのは二度目である。だが、まるで初めて相対したかのような衝撃を、恐怖を、津瀬現人は感じている。

「さあて出ましたよ、ユニ姉様。現人さん。
 現人さん、話した通りです。『視る』のは……あれだけですからね」
「ああ……わかっている」

 現人はその正体をニューニから既に聞かされていた。

「あの剣が……彼女の、360の『コンピューター・アーキテクチャ』という概念そのものなんだな?」
「そうです。
 ワタシ達が勝つか負けるか。それはあの顕現武装を、現人さんが読み解けるかどうかにかかっています。」
「ウツヒト。わたし達はウツヒトを信じている。ウツヒトだけが、あれに対抗できる」
「囀る無力な7分の1の小人たちよ!! せめて全力で抵抗してみせろ!!」

 弥勒零みろくれいが『アーキテクチャの大剣』を構えた。鈍く光り輝くその刀身が、最新の大量破壊兵器よりも恐ろしいものに思える。

「我は偉大なる青のメインフレーム━━その頂点!!」

 それこそはコンピューターの歴史上、ほんの数例しかない大成功を、大革新を。
 そして永続的に受け継がれるほどの汎用的なアーキテクチャの確立を成し遂げた、たった一つの商用コンピューターシリーズである。

「IβM System/360、征くぞ!」

 その全力が今、彼らに向けられる。
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