嫌いな愛と不思議なあいつ
『愛』、それは僕が最も嫌っていた言葉
理由は母さんが最後に僕に言った言葉が「愛してる」だったからだ
母さんは僕を愛してるがゆえ死んでしまった
ずっとそう考え、母さんが僕を愛してさえいなければ良かった、ただそれだけを後悔していた
だけど僕はそれを自分の中だけに留めておけなかった
いつの間にかその事を口に出していた
それを聞いたあいつは
「愛が嫌いなの? だったら私が好きにさせてあげるよ! 」
そう言って僕につきまとって来た、僕には訳が分からなかった
だから、どうせ可哀想だなんて言うくだらない感情だろうそう思っていた、だって大人はみんなそうだったんだ
大人達は哀れみの目を僕に向け可哀想に……、それだけを繰り返し言ってきた
だけどあいつはそんな素振りを見せなかった
毎日毎日僕の家の戸を叩き
「またろくな物食べて無いんでしょ」
そう言いながらドアノブにいろいろな食べ物を置いていく
ある時は肉じゃが、ある時はおでん
最初は無視していた僕だったけれど、自然とそれを口に運んでいた
理由は分からない
けれどいつの間にかそれを食べるのが日常となっていた
するとある日、あいつはいきなり僕の家の中に押し掛けてきた
驚いて声も出なかった僕にあいつは
「鍵が開いてたからね」
そう言ってヘヘヘと顔を真っ赤にして笑っていた
すると今度はあいつが僕の家に勝手に上がり込んでご飯を作って一緒に食べるのが日常になっていた
僕も気付いた時には驚いた"なんでこいつとご飯を食べてるんだ"ってね
でもそんなに気にしなかった、今考えると驚きだけどね
またいくらかたった後あいつは突如
「どう?」
と、聞いてきた
僕が困惑しているとあいつは
「忘れたの愛を好きにしてあげるって約束したの? 」
そんな事もあったな、って思い出に浸っていると
「私ねあなたの事が好きなんだ、でも『好き』だけじゃ伝わらない物もあるでしょ
だからね、私あなたに言いたいの『愛してる』って」
僕は一気に昔の事を思い出した僕をかばって死んでしまった母さんの最後の言葉が『愛してる』……
でもあいつが言った『愛してる』には母さんの『愛してる』とは違った暖かさがあった
あれほど嫌いだった愛って言葉がいまならすんなりと口に出せる気がした
なんの抵抗も無く僕の口からスルッと飛び出た言葉
それは
『僕も愛してる』
ちゃんと笑顔にできたか不安ですがこれが精一杯です
笑顔に出来れば幸いです!