もう新しい恋なんていらないの!
「艶子さんは、どMじゃなくて、どSですよ、きっと。うん、うん。」
確信を得たような言い方をするシュータ。
「なんで、シュータくんがここにいるわけ?」
艶子は毎日お弁当を持参し、部署内の女の子がランチに出かけるのを余所目に一人休憩室で食べている。
他には、幼稚園児を抱えるお母さん、高校生の子を持つお母さん、何れもお弁当を否応なしに作らざるを得ない働く母が利用する、そこだ。
ちょうど文彦と付き合いだした頃に父親の本社への転勤話しが持ち上がったのを機に、一人暮らしをしようかどうか迷っていたのだが、文彦から同棲の話しを貰ってすぐにその気になったのも束の間、実家に留まろうかとも考えたのだが・・・・
「あなたがここに住まないのならば、人様にお貸しするのよ。」
という、母親の一言で一人暮らしを決めた。
もう、一人で暮らしてみようと。
一人暮らしをし出すと、案外自炊も嫌いではない自分にも気付き、ランチに並んでまでお昼の時間を費やすのもダルい・・・
で、お弁当持参。
「だって僕、艶子さんとランチしたいんだもん。」
つらっと言う。
思い耽る艶子の思考をばっさり中断できるシュータ。
「シュータくんさ、エイト・トエンティーのコンビニ弁当じゃん! だったら、同じ金額出して、ランチ行けるんじゃないの?」
「だから〜。艶子さんとランチしたいんだもん、コンビニ弁当するしかないっしょ!」
[こ〜い〜つ〜は〜。何を企んでいるかわからん。油断なら無いな、さてはおぬし。]
「艶子さんは、お酒をばんばん飲んだほうがいいっすよ、きっと。その方が、男は惹かれるかもよ。」
「声が大きいんだよ。」
低ーい、怖ーい声で艶子が言葉を放った。
ビク!っとしながら、シュータはゾクゾクしていた。
[艶子さん、もっと言って・・・]
と。
そして、小さい低い声で、
「艶子さん、適材適所っすよ。適材適所。」
すっかり弁当を平らげたシュータが、その言葉だけ残して逃げるように立ち去った。
[あ〜の〜やろう〜!]
拳はぎりぎりと握っていたが、如何せん周りは子を持つお母様方。ここで、
「てめ〜!」
などと言う勇気は全くない。
拳を下げ、弁当を黙々と食べ始めた。
[シュータの野郎、覚えとけ!]
そう、心に誓いながら。
5時少し前。
もうまもなくチャイムは鳴るだろう時刻。
艶子は、シュータの横に仁王立ちになって言葉を放った。
「シュータくん。今日は付き合ってくれる? 今日は、よ。」
「ハイ! 艶子さん。 ワンワン」
ワンワンは、言っていないのだが・・・
まさにニュアンスを伝えようと思ったら、それがバッチリ!ぐらいな態度だった。
「つ、艶子さん、速いっす。歩くの・・・」
「いいから! 付いてきな!」
行き着く先は・・・・・・
カラオケだ〜。
「行くよ!」
「ハイ!」 ワンワン。
「ほ〜ほさすぅ〜朝の山手どおり〜〜・・・・♪」
[また、林檎だ。 嬉しい。]
シュータもおかしいだろ。
艶子もおかしいが。
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