都合のいい女 エピソード3の1
《農家の倅》
文彦との恋愛とも思えぬ失恋に傷心した艶子は、少々やけっぱちになっていた。
艶子23歳。
まだまだ若い。
若いのだから、拘らずに自由に恋愛をしていこう。
たまたま徹と文彦があんなだっただけで、世の中の男性全てがそうとは限らない。
2人目の恋愛を経験した艶子は、楽観的に考えることにした。
未だに言い寄って来る職場の先輩。
未だに言い寄って来るシステムエンジニアの彼。
未だに言い寄って来る同じ電車に乗る大学生と思しき男性。
その中の誰かに、OKを出そうかしら?
そんなことも考え出していた。
それにしても、何故艶子に言い寄って来るのか?
艶子自身不思議でならなかった。
メイクはナチュラルメイク。
服装はシンプル。
髪型も、派手ではない。
性格は、大人しい。
・・・酒が入ると変貌するが。
もっと世の中には、声を掛け易い女性がごろごろしているだろうに。 しかも、綺麗でオシャレで、お話上手な。
何故?
そこに、この男運の無さのようなものの秘密が隠れているのかしら?などと考えてみてもわからず。
友人のミナミに尋ねると、
「艶子は自分を出さずに、言いなりになるからさ〜。それが悪いんだよ。駄目は駄目!それで去っていくのならばそれまでなんじゃないの? よく考えて男選びなよ!」
と、言われる。
「でも・・・駄目とか、嫌とかの感情が・・・・ない?」
「はー。 じゃ、勝手におし!」
で、終わってしまう。
「ね〜、答えになってない。お願い、何かアドバイスしてよ。 もう、辛い恋愛は嫌だよ。」
「じゃーね〜。 純朴っぽい人でも選んでみれば?案外いいかもよ。」
[ふうん]
と、心に留めておくことにした。
[純朴っぽい人、ね。]
艶子が所属するのは、農林水産部、生産振興課だ。
考えてみると、農業を真剣に営む青年は純朴そうな人が多かったような・・・・
それまで、徹だけを見て徹との失恋に月日を費やし、その後文彦との失恋と立て続けに他を見る余裕などなかったのだが、友人の一言で視野を拡げることができたように感じた。
タイミングはいいときにやってくるもので、その日訪ねて来た果樹園を営む農家の息子さんが父親の代わりにやってきた。
「すみません、この書類をお願いします。」
深々と頭を下げる。
年のころ、同年代か少し上ぐらいだろうか。
「お預かりいたします。」
釣られて艶子も深々と頭を下げた。
顔を上げると、その目の前で青年は艶子を凝視している。
「あの・・・どうかされましたか?」
「い、いえ。何でも。 あの・・・えっと・・・・また来ます。」
逃げ足早く去って行ってしまった。
逃げたわけではないだろうが。
「純朴そう・・・・」
艶子は思わず声に出して呟いた。
翌日、大した用事も無いようだが書類一枚を手に持ち昨日の青年が訪れた。
「あの・・・あの・・・昨日の方いらっしゃいますか?」
生憎艶子は席を外していた。
「席を外しておりますが・・・私でよろしければ代わりにお伺いいたしますけど・・・」
代わりを買って出たのは入庁して間もないシュータだ。
「いえ、あの・・・じゃ、これを渡して下さい。」
ぴゅー!
逃げ足が速い。
「艶子さん、はい。」
トイレから帰ってきた艶子にシュータは紙切れ一枚を渡した。
その紙切れは、フツーのコピー用紙。
デカデカとど真ん中に、
『tetsuo-*******@*****.ne.jp』
と、携帯のメールアドレスが書かれていた。
その下に小さく、
「メールいただけますか?」
と遠慮がちな文字で書かれていた。
シュータは「ひゅ〜」と口笛を吹き、自分のデスクに戻った。
艶子は・・・
案外嬉しかった。
何しろ・・・
純朴そうな青年からのメールアドレスなのだから。
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