花見の夜
「まあまあ艶子さん、飲んで、飲んで。」
艶子より3つ下のシュータが傍に寄ってきた。
艶子はあまり酒が得意ではない。
すぐに紅くなってしまうし、必ずと言っていいほど飲んだその夜にはトイレから出られなくなってしまうぐらい・・・・・・敢えて言いませんがね。
そして翌日は決まって二日酔い。
それが不快なので、こういった会以外では全く口にしない。
こういった会でも、勧められなければ自ら口にすることは、ない。
勧められたなら・・・
断れない艶子なのだ。
「私はあまりいらないわ。知ってるでしょう?シュータくん。」
「まあまあ。艶子さん酔っ払うと面白いんだもん。いいじゃないっすか、こういう日ぐらい。」
「うーん・・・明日が怖いなあ。」
「明日土曜っすよ。 ね、ね。 じゃんじゃん行きましょうよ!」
「しょうがないなあ。」
くい。
[うん、まずくないな]
それもそのはず、誰がチョイスしたのか、その酒はかの有名な銘柄の碧寿。まずいわけがない。
どこからその経費は出ているの?
まさか・・・・部署からじゃないでしょうね?
そんなことしてると、マスコミに叩かれちゃうからね。
「シュータ!! 早く注げ!」
飲み口の良い碧寿の一升瓶はいつの間にか艶子の前で空になって寝転んでいた。
そして、艶子はいつの間にか出来上がっていた。
「艶子さん、飲みすぎですって。」
飲ませたあんたが悪いんでしょ。
でも・・・
確かに・・・
艶子は飲みすぎた。
「艶子さん、お開きですよ。二次会・・・行かないですよね?」
恐る恐るシュータが訊ねた。
「行くに決まってんだろー。 シュータ、連れていけ!二人でカラオケ行くぞ!」
シュータはすっかり酔いも覚め、艶子を抱えてカラオケに行く羽目になってしまった。
まったくシュータは学習能力がない。
昨年も、一昨年も艶子さんに飲ませて、カラオケに行く羽目になったのに。
また今年も同じことをやらかした。
「ぎゅっとしててね〜ダーリン♪」
[椎名林檎だよ、今年も。そうだ、そうだった。俺はまた同じことを・・・・]
反省しながらも、艶子が熱唱している姿を眺めるのは案外面白い。
だからやめられないのだろう。
「また四月が来たよ〜 同じ日のことを思い出して〜♪」
[はいはい、思い出しましたよ。そうですね、四月ですね。同じ日です。]
「ちょっと、拍手! あと、美味しいお酒!さっき飲んだ酒!頼んで!!早く!!!さっさと動く!あんたは、仕事も鈍いけどこういうことも鈍いんだから。」
[え〜。そんなこと思ってたの?艶子さん? ひ、ひどい・・・・・しかも、さっきの酒頼んだらその金誰が払うんだよ。いくらするかわかってんの?]
「あ、すいません。ふつーの日本酒下さい。 あ。 いや、徳利に水入れてくれます? はい、はいそうです。 お願いしまーす。」
[どうせ酒か水かもわかんないだろ?艶子さん]
ヒソヒソ声で注文する。
「何をヒソヒソ言ってるんだよ! 愚図! 間抜け!」
[ひ、ひどい・・・・・愚図なんて艶子さんにしか言われたことない。 あ。 そうだ。 去年も同じこと言われた。]
でも何故かシュータは楽しんでいる自分に気付いていた。
「おい!シュータ。 アイスクリームが食べたい。 頼め!」
[いっぺんに言えよ。 ったく、大トラめ!]
「なんだと〜? 今文句言っただろ?」
「え? な、何も言ってませんよ〜つよこさん、あ、艶子さん。」
[危ない危ない、声が洩れたか? つい噛んじゃったよ。つよこさんだって。 つよこでもいいよな。]
「何を笑ってるんだよ、今度は。早く!早くしろ!」
そして艶子は唄う。 泣く。 笑う。 完全な酔っ払いだ。
「頬〜〜〜を刺すぅ〜朝の山手通り〜〜♪」
林檎を熱唱する艶子であった。
夜は更けていく。
シュータはやつれていく。
朝は来るのか。
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