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艶子
作:春晴秋明



愛とはゆがみのつえ


「艶子さーん、これコピー300部お願い〜!」

上司からコピーの仕事。

艶子は延々と続く打ち込み作業をしていたが、周りを360度見廻しても暇そうな人はおらず・・・・
ということで、席を立ちコピー機に向かった。

デスクより離れた場所に置いてある数台のコピー機の一台でコピーを始めた。


「艶子さん!」

シュータだ。

「何?」

「コピー手伝いますよ。」

「自分の仕事は?」

「ほら、僕仕事超できる男だから!」

呆れ顔で艶子がシュータを見る。すぐ振り返り背中を向けたまま、

「コピーの何を手伝うのよ。」

「だって・・・ホチキス留めとかあるでしょ?」

「・・・しょうがないなぁ、そんなにやりたいならやれば?」

本当は嬉しいくせに。
コピー早く終わらせて、打ち込み作業しなきゃでしょ?

300部のコピーは、二人で作業するとあっという間に終了した。

「艶子さん、今日金曜日だよ!」

「そうね。」

「今日も行かない?」

マイクを持つ仕草をするシュータ。 また〜? どうせ、林檎だよ〜?

「うーん・・・どーしょっかな・・・」

何もすることないんでしょ、艶子さん!

「行くか・・・」

もったいぶっちゃって。


あの日から、毎週末カラオケに通う艶子とシュータ。
毎回、林檎を唄う艶子にときどき蹴りを入れられたり、平手打ちをくらったり、頬をつねられたりと散々な思いしかしていないはずのシュータは、それがたまらなく幸せだった。

・・・らしい。
どうにも、おかしい。
完全などMだ。
艶子は潜在的などS。
なぜなら、自分ではどSということを認めていないから。 でも、きっと・・・
シュータの言うのは正しいと思われる。



「ほ〜ほうつ〜あさのやまてどおりぃ〜〜♪」

「艶子さん、艶子さん、ほお、ほお」

ぴっ!
演奏停止!

「ほ〜おうつ〜あさのやまてどおりぃ〜〜♪」

唄い直すんかい!


「シュータくんもさ、よく私に付き合ってるよね? 彼女とかつくんなよ。 もう、先に進めるんじゃないの? 飽きない?私と毎週毎週カラオケ来てさ」

「えー! 俺、毎週の楽しみなんっすけど。 これが無くなったら、寂しくて仕方ないな〜。」

「ふうん。 だって私、毎週毎週『椎名林檎』しか唄わないんだよ? しかも、シュータくん唄わないで飲んでるだけじゃん」

「そうっすね。 確かに僕、唄ってないっすね。 唄おうかな・・・ だって・・・艶子さんずーっと曲入れてるから、入れる間なかったし。」

「・・・・・・・・・ごめん」

「冗談っすよ〜。 聴いてるのが楽しいの!でも、今日は入れちゃおう! 艶子さんにも!」

蹴りが飛んだ。



イントロが流れた。
艶子は驚いていた。

「なんでこうもっといろいろ すんなりサラっとできない・・・・・」

[奥田民生だ。何で? シュータくんも好きなの? ]

「あ〜いとは〜 ゆがみ〜のつえ〜 す〜べて〜のバ〜ランス〜♪」

何故か艶子の目からは、ポロポロ涙が零れていた。


唄い終わったシュータが艶子を見てびっくり!!

「どーしたんっすか?! 艶子さん! 何かあった?・・・って、あるわけないよね? ね、ね、どうしたの?」
オロオロ、オロオロ・・・・・

「・・・・わかんないわよ。 なんだか泣けてきた。」

「僕の歌が上手すぎて? そんなに感動したの?」

エルボーが入った! 鳩尾みぞおちに。
バカだねぇ。 シュータは・・・

「私さ、好きなんだ。 この曲。 アルバム久しぶりに買ってさ、この曲にはまったんだ。何度も何度も聴いたんだ。 ぐすん、ぐすん・・・」

「あ、同じ。 僕も。 歌詞読むとね、自分のことみたい、って。 体の力を抜いて楽にやれとおそわって、体の力を抜いたら手からポロリとこぼれちゃった・・・みたいな。 そんなことばっかだったな〜って。 それから少しして花見があったんっすよ。 で、艶子さんとそうなって、こうなって。」

「ちょっとー! あれは事故よ! そうもこうもなってないでしょ?」

まだジタバタするの?艶子さん?

「うん、あの時はね。 でも、あの日からきっと僕は艶子さんのこと好きなんだと思う。 ずっとずっと一緒にいたいって思っちゃったんだ。 僕が守るよ、なんて僕は言わないよ。 だって、艶子さんはもう十分強さを持ってるもんね。」

「強くなんかないよ。ちっとも。 私が『なんでもっと』を好きなのも、同じよシュータくんと。 バランス悪いんだよね。 なんていうのか、生きてくのが下手くそなのよね。」

グスングスン泣きながら、シュータの胸に顔を埋めた。
心地よい安堵感を否定するなんて、到底無理!

「シュータくん・・・」

「はい!」

「一緒にいて。 ずっと。」

「は〜い、はいはい!!」

「はいは一回でよろしい」

「はい!!!」

そう言うと、ぎゅうっと艶子を抱きしめた。 

「絶対離さないんだ〜。 艶子さんも離れちゃだめだよ。」

「うん。」


「私ね、いつかカラオケ来たときに寝てしまったでしょ? あの時、心臓がドキンドキンしたのね。 病気かと思ったぐらい。 でも・・・・・・後から、あれは恋なんだって気付いたんだ。 多分・・・・・初めて恋したんだね。 わからなかったんだもん、あの感覚を」

「艶子さーん!」

もっかい、ギュウっと抱きしめた。

「でね、ずっとシュータくんが髪を撫でてくれてたの途中で気付いたんだけど、勿体無いから寝たふりしてたの。」

そうなるとどうなるの?シュータ!
あ・・・やっぱり。


シュータの唇が艶子の唇に・・・・・

って、カラオケでそんなことしていいの?
その先はぜーったい駄目だからね!

後は、外出てからご自由に。

艶子、幸せにね。






椎名林檎さんと奥田民生さんの曲を引用させていただきました。 アウトかな?











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