都合のいい女 エピソード5の2
「ナイスショーット!」
インストラクターの正が言う。
「あ、どうもです。」
おずおずと、申し訳なさそうに艶子が言う。
正は勿論インストラクターだけあって、上手い。
ソツなく上手い。
でも、案外艶子も筋がいいらしい。 ドライバー捌きを見てもどうやらそうらしい。
それほどオーバーも嵩まずに、その日のラウンドが終わった。
「艶子さん、いいですね。 ゴルフはある意味一生ものですよ。 ずっとされたらいいと思いますよ。」
「そうですね。私、スポーツは殆ど駄目だと思っていたけれど、ゴルフは大丈夫みたいです。自分の性格に合って、ゆっくり進むからですかね。」
二人、お茶を飲みながら話していた。
「どうですか?艶子さん。 これから、ちょっと気の利いたバーがあるんですけど、飲みに行きませんか?」
「あ・・・。せっかくのコーチのお誘いですが、私、お酒あまり飲めないんです。」
「ちょっとでも駄目?」
「うーん・・・ちょっとなら飲めますけど。 でも、お付き合いできるほど強くないですよ?」
「ううん、いいんだ。 ちょっと、艶子さんと飲めたら。」
「じゃ、ちょっとだけ。」
二人は、インストラクターの行き付けである、とあるバーに向かった。
「乾杯!」
「あ、乾杯」
[何にだろう? 今日のラウンド?]
「艶子さんは、彼はいるの?」
直球だな〜。 結局そこかい!
「え? いませんけど?」
「ふうん。どうして? 全然いてもおかしくないのに。 結婚しててもおかしくないって思ってたけどな。」
「あー・・・ありがとうございます・・・ですかね?そう言われたら。」
二人で笑った。
それから雰囲気も良くなり、二件目まで付き合い別れた。
今日のゴルフが案外うまく行ったことに満足した艶子は、その日ぐっすり眠りについた。
『艶子さん、今日の夜はご予定はありますか?』
1週間後、正からメールが届いた。
『何もないですよ』
返信した。
そう、何もない。
2日後には、スクールに通う予定になっていたけど、それ以外、手帳はがら空きだもの。
『今日、ご飯食べに行きませんか?』
30分後、メールが届いた。
[ご、ご飯・・・・・]
ご飯と言われると、拒否反応を起こす艶子がそこにいた。
だって・・・
悉くそれで辛い思いをしてきたのだもの。
きっと、艶子は断るだろう。
断るはずだ。
断れ!
『いいですよ。 コーチのご都合のよろしい時間に』
送信!
してるじゃーん!
だめだめ、艶子さーん。
そろそろ学習能力のほうをコーチングしてもらってよ〜、誰かに〜
「こんばんは、艶子さん!」
「こんばんは」
正の行き付けのいろんな料理を食べられる隠れ家のようなお店で落ち合った。
多国籍料理ってやつなのかな。
「美味しい! 久しぶり、こんなに食べ物に感動するのって。」
「美味しいでしょ?」
他愛のない会話を交わして、2件目のバーに移った。
「艶子さん、僕と付き合ってもらえませんか?」
「え?」
早速かーい!
速すぎだよ〜、コーチ!
「あー・・・恋愛は今しばらく避けたいですねぇ。」
「どうして?」
「そういう気になれないっていうのが本心ですかね。」
「でも・・・ずっとそうはいられないでしょ?」
「まあ、そうですけど。」
「じゃ、気軽に行こうよ。 俺は、艶子さんが好きだよ?」
[好き? 私の何を? どこでどうなって私を?]
艶子は、一人考えた。
マティーニをちびりちびりと飲みながら。
「じゃ、ゴルフ繋がりで行きましょうか?」
なんじゃ、そりゃ!
結局そうなんじゃん!!
だから、さっきのタメはナンだったんだ〜!
どうせなら、『今は、やっぱり・・・』 ぐらい、言えんのかい!
そうして、二人のゴルフ繋がりの交際はスタートした。
それから、デートはゴルフ。
ゴルフは食事♪ ん? なんだか、何かの番組っぽいな。
まぁ、そんなこんなの付き合いも10ヶ月を迎えようとしていた。
良い感じの二人。
今度こそ、なんとか続くんじゃないの〜? って雰囲気だったわけ。
そんなある日、いつものようにスクールに向かうと、
「ねーねー、正コーチ、2人目が生まれるらしいよ。」
ちょっと小耳に挟んじゃったんだな〜、艶子が。
「え? それって・・・・」
それほど親しくないそのスピーカーさんに訊ねた。
「知らないの?艶子さん。 正コーチ、なかなかお二人目ができないんだ〜って、よく言ってらしたのよ。 で、6歳離れて、やっと次のお子さんができたみたいよ。」
さすがに・・・・
艶子がその場に崩れることはなかった。
これも、其れまでの経験なのだな。
それよりも・・・
自分が滑稽でならなかった。
絶対独身だと決めてかかっていたのだから。
[もう、ほんとにいいや]
哀しみとか、辛さとか、そういった感情はすっかりなかった。
「ゴルフ、やめよ」
そう言って、退会手続きを済ませ、スクールを出た。
艶子28歳。
疲れすぎるぐらい疲れていた。
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