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艶子
作:春晴秋明



ほおですよ


「シュータくん・・・」

「はい?」

「私、飲みすぎたかも。 なんだか、心臓がおかしい。」

「大丈夫ですか? でも、そんなに呑んでないですよ? まだ、2合徳利しか空いてないもん。しかも、僕も呑んでるし。」

「そっか。 じゃ、興奮しすぎたかな?」

「あれ? エッチ〜 艶子さん!」
調子に乗りすぎだ、シュータ。

「そういう興奮じゃないだろ!」

ごつん。

ほらー。
またぐーで殴られるじゃん。

「頭じゃなくて、お尻とか蹴って。 艶子さん。」

そういう問題なのか。
艶子、どうする? 蹴る? ん?

リモコン弄ってる〜!
あー。 マイク持って・・・・・・

「しかし何〜故にこんな〜にも眼〜が乾く気〜がする〜のかしらね〜〜♪」

あれれ?いつものアレじゃないんだ。
もう、唄い済みだしね。

「あたーーーしは何時も〜何時もボロボロで生きる〜♪」

なんだか、切ないぞ・・・ 艶子、その歌詞。

「き〜みは〜常に常にギリギリで生きる〜 あたしは〜何時も君を想っているのに〜♪」

うんうん、確かにシュータはギリギリで生きてるかもしれない。
何しろ、言葉と肉体の暴力の危険に曝されているのだから。
艶子、グッ・チョイス!


「艶子さん、初ですね、これ。 僕、聴いたことないな。」

「アルバムの曲。」

「艶子さん。一つ、言わなければいけないことがあります。お伝えにくいのですが・・・」
言い難そうに言うシュータ。


「何?」
珍しくちょっとびびりながら耳を傾ける艶子。

「ほほじゃなく、『ほお』です。」

「ん?」

「林檎の曲、『ほほさす』じゃなくて、『ほおさす』です。 細かくてごめんね。」

ぽかーんと口を空けて、シュータを見つめてるぞ。
大丈夫なのか? 何が起こるんだ? シュータ、受ける準備をしろ!

「初めて知った・・・・ 私、ずーっと『ほほ』で唄ってた。 は、恥ずかしい・・・」

ええ〜〜〜!たったそれだけのことが?
大丈夫?艶子さん?
大したことじゃないよ? あれれ? どこ行くの? ん? インターフォン?

「お酒お願いします。」

呑んじゃうんだ〜!
心臓、大丈夫なの?
そもそも、なんだったの? あの『ズキン』は。
ん? リモコン? またまた唄っちゃうの〜?!


「ほ〜〜〜おさすぅ〜〜〜あさのやまてどおりぃ〜〜〜〜♪」

唄いなおしたかったんだ〜!

[可愛い。 艶子さん。]


だから、おかしいだろう〜二人とも〜。


「ふう。わかって良かったわ。 他の人の前で唄う前にね。 シュータくんの前でしか唄ったことないの。」

どーでもいいような気もするんだけど・・・

「よかったっすね! じゃ、僕に何かご褒美ちょうだい、艶子さん! ほおにチュ!とか。」

艶子に頬を近寄せるシュータ。

『パシッ!』

それがされたかったんでしょ? シュータ。

「あ〜、サイコー。 チュッも欲しかったけどな〜。 でも、いいや。 平手打ちもいい。これから、グーやめてパーにしてね。 艶子さん。」

「注げ! シュータ!」

え〜、何時の間にまたそんなに酔ってんの〜?
知らないよ〜。 また、変なことになっても。

「はいはい、注ぎますとも〜」

「シュータ!」

「はい!」

「あたし、シュータといると、ラクかもしれない。 一人でいるみたいに、ラクかも・・・」

バタ!
寝ちゃった。


シュータは、ソファーに艶子を寝かせて、横に座り、艶子の髪を撫でていた。














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