だから、俺なんっすよ
「あ〜あ」
何故か、酒の弱い艶子はそれまでのようには酔わなかった。
「どーしたんっすか?艶子さんらしくないな〜。 もっと酔ってくださいよ〜。 僕に刺激を〜!」
ギロリと睨める艶子。
「それ!それ、すんごーくいいっすよ、艶子さん。 艶子さんって、超美人なわけじゃないでしょ? そこそこ可愛いっすよ、そこそこね。 派手じゃないし、口下手だから奥ゆかしく見えるじゃないっすか。 それなのに、その俺に向ける鋭い目!! ぜーんぜん鋭くないくせに、鋭い視線を向けた瞬間。 ゾクゾクもんっすよ〜。」
おかしいでしょ、だから。
そんなのにゾクゾクするやつぁーいないっす!
あーーー!
シュータの首に、艶子、決めた〜〜〜
「ぐぁ〜!! づ、づやござーん」
一応、腕を緩めた艶子。
「はーはー、ぜーぜー。 さいこ・・・」
そんなことされてもかい!
完璧どMだろ、シュータ。
「どこでこんなワザ覚えたんっすか〜? 侮れないな〜。もう。」
きゅんとしてるよ〜。 やばいやばい。
「ごめん。」
ん?やけに素直?
どーした?艶子?
「えー? 駄目っすよ〜、ごめんなんて言っちゃ。 適材適所ですって〜。」
「私、いけてなくないの?」
「いけてなくないっすよ。本当に言いたかったのは、そんなだから、声かけやすいんですよ。『この人なら、大丈夫かも?』って。 超美人だったり、ちょっと派手目だったりすると、もしNO!を言われたら、どうしよう・・・とか思っちゃうんじゃないかな? でも、艶子さんだったらOKを言ってもらえそうって思うんですよ、きっと。」
「ふうん。それって、あんまり良くないよね。」
「はい。良くないです。 それで艶子さん、OKしちゃうでしょ?」
「うん・・・なんだかね、『そんなもんなのかな・・・』って、思ってた気がする。私ね、ちゃんと自分の気持ちとか言ったことなかったみたい。・・・って、このー! なんなの?なんだか腹立ってきた!」
「あ〜、快感。それでなくちゃ〜艶子さん、あれ?あれれ?」
艶子は、リモコンの画面を細いペンで弄っている。
行っちゃうんだ・・・
やっぱり、そうなんだね。
「ほ〜ほさすぅぅぅ〜〜あさのやまてどーりぃぃぃ♪」
熱唱じゃん。
いっちばん、気合入ってんじゃん。
だめだ、こりゃ。
[やっぱり、いい。 艶子さんの林檎・・・]
だめだこりゃ、二人して。
唄い終わったよ〜。
あー、よかった。
「じゃー、どうすりゃいいのよ・・・」
やっぱりいつもの艶子じゃないのね。 連続して唄わないけど、とりあえず一曲唄いたかったんだ。
「え?! どーすりゃ・・・・どうしましょう、艶子さん。」
「艶子艶子言うな! あたしゃー『つ・や・こ』って名前がだいっきらいなんだよー!部署でもみんな『艶子さん、艶子さん』ってさ。他はみんな苗字で呼び合ってるくせに!」
ごっつん。
げんこつ行っちゃったよ〜。 あわわわ・・・
「いってー。 グーは、他の人には駄目っすよ〜、艶子さん。僕は、3度目で嬉しいけど。」
そーなんだ。
シュータはもう3度目だったんだ。 哀れだな・・・
「ごめん。 艶子って名前、嫌いなんだもん。それに・・・シュータくん以外、人を殴ったことなんてない。 動物もだけど。」
「うそ!! すんげー好き、俺! 艶子って名前!」
タメ口聞いていいのか? シュータ。
「古臭いでしょ? なんで親はこんな名前付けたんだろって、ずーっと思ってたよ。」
「・・・・・ふうん。でもきっと、ご両親は艶子さんに何かを託して付けたんじゃないっすかね。僕は、マジで好きっすけどね。 確かに今時いないっすもんね。 でも、だから好きかも。」
[ん? ちょっと、心の奥のほうで『ずきん』って音がしたぞ? ナンだ?これは?]
「艶子さんは、もっと自由になった方がいいっすよ。」
[あれれ?また『ずきん』ってした。 心臓疾患? お酒のせい? なんだ?]
「だから、艶子さんには、俺なんっすよ!」
[あれれれ? 『ずきん、ずきん』がどんどん大きくなる! なんなのー? 誰か教えて〜!] |