第十四話 俺、強くなってまたまた復活！ さあさっきよりも無双する時間……ゴブ……？
『ゴブリオ、ゴブリオガ！』
『落ち着けオクデラ。ゴブリオは復活すると言っていただろう。ゴブリオを信じろ』
『そ、そうです。ゴブリオさんは大丈夫です。大丈夫です。大丈夫ですよね？ 神よ、いま一度ゴブリオさんに奇跡を』
ゲギャグギャ騒がしい中に、オクデラとアニキとシニョンちゃんの声が聞こえる。
どうやら今回もちゃんと復活できたみたいだ。
復活とはちょっと違うゴブな！ ほらゴブリオ種族変わってるし！ 生き直し的な！
体はまだ動かない。
いつも通り、意識だかタマシイ的なヤツが先に戻ってるんだろう。
まわりを【覗き見】する。
もふもふな毛並みと、ゴブリンの下半身が目に入った。
ちょっ、これ俺喰われてるじゃん！ ゴブリンどもは「裏切りゴブは喰わずに捨ててやるゴブ！」とか言ってるけどオオカミ、オオカミさん！ なんかグチュグチュ水っぽい音してるんですけど！ これ大丈夫ゴブか！？ 俺生き直しできるゴブ！？
焦ったところで、俺の体が光った。
至近距離で光を浴びたオオカミがギャンッ！ と悲鳴をあげて飛び退く。
光がおさまって、体を動かしてみる。というかすぐ立ち上がる。
死んだはずの俺が立ち上がったことに、ゴブリンもオオカミも驚いて近寄ってこない。
そのスキに俺は体を確かめた。
よーしよし、ケガはないゴブな！ オオカミに噛まれた太もも、いま喰われてた腹も傷はないゴブ！ いやあ、焦った焦った！ 光る前のダメージはノーカンっと！ ありがとう神様！
敵が動き出さないうちに、さっと革鎧のベルトを調節する。
俺が雑魚ゴブリンの時は、身長は130センチぐらいだった。
ゴブリンリーダーの時は150センチぐらいで、ゴブリンレンジャーになった今もそれぐらいだ。
前回の失敗を活かして調節しやすくしておいてよかったゴブ！ 初めてゴブリンリーダーになった時、鎧がちょっとキツくて動きづらかったからね！ さすがゴブリオ、油断も失敗もしない男！ おっとさっき油断して死んでたゴブな！ 俺じゃなかったらあそこで終わってたゴブな！ 危ない危ない！
『ああ、ああ……神の奇跡がまた……』
『ゴブリオ！ オデ、今度コソ、ゴブリオ守ル！』
『信じていたぞ、弟よ』
離れているのにみんなの声が聞こえる。
これひょっとしてスキル【聞き耳】の効果ゴブか？ 地味すぎィ！
でも、とりあえず。
『だから心配いらないって言ったゴブ！ それに俺、強くなったからね！ エリートゴブゴブ！』
予備の短剣を抜いて構える。
よーし、決まったゴブ！
あ、この短剣も普通のヤツです。ミスリルの短剣は切り札だしね？ なくしたら大変だから舟に置いてあるゴブ！ さーてっと！
一歩踏み出す。
身長が高くなって手足の長さが変わったけど、この身長なら俺はもう体験済みだ。
起き上がる時に掴んだ小石を投げてみる。
オークの頭を貫通した。
短剣を振ってみる。
予想以上に速い。
……あれ？ リーチの長さでまだちょっと殺りづらいけど、ひょっとしてゴブリンレンジャーって強い？
気付かないうちに殺して選択可能になってたからあんまり期待してなかったんだけど。
さすがゴブリンの20倍のLPが必要なだけあるゴブな！ ゴブリンリーダーの倍だし！ 倍は強くなったって信じてるゴブ！
走り出す。
すれ違いざまにゴブリンを斬りつけるけど、俺の狙いは別だ。
まわりを【覗き見】して、オオカミを狙う。
さっきはよくもやってくれたゴブな！ お前らさえいなければ無双タイムはもっと続いてたゴブ！
ゴブリンと比べてオオカミの数は少ない。
見る限りオークよりも少ない感じだ。
何匹か投石と棒手裏剣で仕留めたら、オオカミたちは狙われてることに気付いたんだろう。
敵ゴブリンと敵オークのうしろに隠れようと動き出す。
このへんにはあと二匹！ ゴブリオ逃がさないゴブ！
一匹にボーラを投げつけて転ばせて、もう一匹の後を追う。
ゴブリンやオークが襲いかかってくるけど、俺の動きにはついてこれない。
というか、オオカミを追いかけるついでに短剣で反撃してる。
オークは一発じゃ殺せないけど、動きが鈍るだけで充分ゴブ！ 雑魚ゴブリンはゴブ即斬できてるし！
逃げるオオカミを見失わないのは【追跡】の効果かなあ。
あっさり追いついて短剣でグサッとひと突き。
ついでにボーラが絡まってもがいてるオオカミに棒手裏剣を投げつけて始末する。
はいリベンジ終了！ もふもふでつぶらな瞳がキュートでも敵には容赦しないゴブ！ 鬼畜っぽいけどしょうがないよね俺ゴブリンだから！ 鬼畜生だから！ ゲギャギャッ！
そんでゴブリンレンジャー強すぎゴブ！ これで俺、〈ストレンジャーズ〉最弱じゃなくなったゴブな？ 新型アニキより覚醒オクデラより強いゴブな？ な？ そりゃ回復役のシニョンちゃんよりは強かったけど！
押し寄せるゴブリンとオークを倒しながら、川原をチラッと【覗き見】する。
俺が復活したのを見て落ち着いたのか、オクデラは〈聖域〉から出ないで戦ってる。
左手にはタワーシールド、右手にはハルバード。
近寄ってくるゴブリンとオークを、【腕力強化】を活かした力任せの攻撃で蹴散らしている。
ハルバードは〈斧槍〉だけに、オクデラのスキル【槍術】も【斧術】も効いてるっぽい。
オクデラ強すぎィ！ 一緒に考えた〈突進〉が必要なくなっちゃってるじゃん！ そもそも長柄の武器を片手で振りまわすってどうなってるゴブか！ 一発で二、三匹倒してるんですけど！
アニキは状況を見てこまめに動いてるみたいだ。
オクデラと同じで〈聖域〉の中にいて、向かってくるゴブリンを始末してる。
時にはオクデラの横に並んで、時にはちょっと離れて後ろに回り込もうとするヤツを倒して。
敵ゴブリンたちは泳げないけど、いちおう川に浮かんだ舟に近づけないようにしてくれてる。
アニキ有能すぎィ！ ほんとに元はゴブリンゴブか？ 中身に転生者入ってないゴブな？ ほら棍棒でクイってやってゴブリンを宙に飛ばすとかゴブリンにもリザードマンにもできる気しないんですけど！ さすがアニキ！
シニョンちゃんは小舟のうえで俺たちを見守ってる。
組んだ手がむぎゅっとおっぱいを潰してて、じゃなくて。
シニョンちゃんはぼーっとしてるわけでも、ただ祈ってるわけでもない。
〈聖域〉の中心点なのと、俺たち〈ストレンジャーズ〉の回復役だ。
いまのところ誰もケガしてないからシニョンちゃんの役目がないだけで。
誰もケガしてないっていうか俺は死んだけどね！ いつも通り！ ハハッ！
みんなの様子を確かめている間も、俺は動いていた。
【短剣術】や【投擲術】で、群がってくるゴブリンとオークを殺す。
エリートゴブになって余裕ができたから、死体の棍棒を奪って投擲してみたり、オークの死体にロープを引っ掛けて簡単な罠で敵を転ばせてみたり。
雑魚ゴブで苦労しながら戦ってきたけどゴブリンレンジャー強すぎゴブ！ 動きが速くなってるし手先も器用になってるっぽい！ 俺にはぴったりゴブな！
体が軽い！ ゴブリオ、こんな気持ちで戦うなんて初めてゴブ！ もう何も怖くないゴブゥ！
あ、ウソです怖いものはたくさんあるゴブ。
たとえばほら、重装歩兵みたいな装備で近づいてくるオークの団体様とか。
…………。
……え、アレなにゴブ？ オークが密集して、元は扉っぽい木の盾を持ってるゴブ。
数にして50匹ぐらい？ コレ最初に俺を追いかけてきたゴブリンの精鋭より精鋭じゃない？
俺のちっぽけな短剣とか【投擲術】で倒せる気がしないんですけど。
それに、港町に向かってたゴブリンたちもけっこうこっちに向かってない？
俺が混乱させたあとに三分の一、1000ぐらい来てて多いなーとか思ってたけど、いま半分ぐらいこっちに向かってるよね？ 2500？ え、マジ？
いきなり方針転換してどうしたゴブか！ しょせんゴブリンとオーク、やっぱり目の前の敵に向かってきちゃう的な？ それとも誰か指示してるゴブか？ 例えばあのボスオーガが、俺たちに気付いて、みたいな。
…………。
……そんなわけないゴブな！ 笑えない冗談ゴブ！ 冗談だよね？
オークの重装歩兵っぽい精鋭部隊、それにあの数の雑魚が来るなら逃げようかなーと思って、川原を振り返って。
俺は見た。聞いた。
【覗き見】も【聞き耳】も使うまでもなく、はっきりと。
『オデ、オーク殺ス！ オーク滅ボス！』
オクデラだ。
肌を赤くして、オクデラが叫んでる。
敵のオークの集団に気付いたんだろう。
とりあえず俺は〈聖域〉に戻ることにした。
逃げる気はなくなった。
あの時、俺は約束したから。
若女将とプティちゃんを助け出して、オークを滅ぼすんだと誓ったオクデラに、手伝ってほしいと頼まれて。
俺は、一緒に戦うと応えた。
目標がバラバラでも、俺たちは一人じゃないと宣言した。
だから俺は、逃げるのをやめてオクデラと並んで戦うことにする。
まあ勝てそうになかったら逃げるけどね！ 死んでも問題ないのは俺だけだし！ これだけ雑魚がいれば20LPなんてすぐ溜まるし、死んでもまたゴブリンレンジャーを選べるゴブな！ しんがりは俺に任せるゴブゥ！
あ、でもボスオーガはなしでお願いしますね？ フリじゃないゴブよ？
次話、7/21（金）18時更新予定です！
■ ゴブリオ（ゴブリンレンジャー）
【ライフポイント】
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