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第十三話 帰ってきたら漁村が襲われた後らしくてこれ俺たちヤバすぎるでしょ!


『群れの討伐だったけど楽勝だったゴブ。おいしい依頼だったゴブなあ』


 冒険者ギルドから依頼を受けたゴブリンの巣の討伐を終えて、漁村・ペシェールへの帰り道を歩く俺たち。


 俺がかついだ布袋には31匹分のゴブリンの右耳が入ってる。

 ゴブリンの耳を詰め込んだ袋を持ってるゴブリンとか、ちょっと猟奇的な感じがするけどしょうがない。

 右耳が討伐証明部位だっていうし、お金になるからね。


 オクデラがかついだ布袋には、ニンゲンの物だったっぽい服とナタ、あと布とか皮袋とか使えそうな物が入ってる。

 やっぱり盗賊と違って死体漁りしても、おっと、ゴブリンの巣穴にあった宝箱はしょぼかったゴブ! 追加の収入はいまいちっぽいゴブなあ!


 金銭的な稼ぎはいまいちだけど、俺はライフポイントをたくさんゲットできた。

 それに倒したボスゴブリンは普通の雑魚ゴブリンじゃなかったっぽい。

 ってことは次に俺が死んだ時、雑魚ゴブリン以外を選べるかもしれないってことだ。

 ゴブリン系はほかの種族よりコスパいいし、どうせすぐニンゲンにはなれないし。

 あんまりライフポイントを消費しないで強くなれるなら、ゴブリンの上位種を選んだ方がいいだろう。


 雑魚ゴブリンのまま100万ライフポイントとかいつまで経っても溜まらなそうゴブ! 強ゴブになってもっと強敵を倒したり無双しないと、いつまで経ってもニンゲンになれなそう! シニョンちゃんがおばあちゃんになっちゃうゴブなあ! ダメダメ、垂れちゃう! なにがって? 教えないゴブゥ!


 鼻歌まじりにどうでもいいことを考えながら歩く俺。

 後ろにはシニョンちゃんとオクデラがついてきてる。

 混乱中の雑魚ゴブリンが相手だったけど、あっさり倒せるなんてオクデラも成長したもんだ。

 ちょっとずつ自信がついてできることが増えてるねオクデラ! その調子でいけばいつかEDも治るってきっと! 治ったら治ったでまわりがニンゲンだらけでヤバいけど!


 俺は冒険者になった時にアニキの捜索依頼を出したけど、その後も見つかったって報告はない。

 成長した俺とオクデラをアニキに見せたいけど……。

 アニキ、いまどこで何してるゴブか。

 俺、アニキは死んでないって信じてるゴブ!

 あとニンゲンに悪さしてないって信じてるゴブよ? 今回のゴブリンの巣だって、別にアニキがいるかもって思って中を確かめたわけじゃないからね? ホントだよ?


 でもアニキ、シニョンちゃんを助けた時「犯して孕ませて強い群れを作れ!」って言ってたしなあ……。

 ゴブリンのリンチからは助かったけどニンゲンに討伐されてましたとかないゴブな? ゴブリオそんなの笑えないゴブよ?

 うだうだ考えながら歩く俺。

 と、シニョンちゃんの慌てた声が聞こえてきた。


『ゴブリオさん、あれ、あれ見てください! 村から煙が!』


『……え? 料理の煙、じゃなさそうゴブ。火事? 襲撃!?』


『ゴブリオ、オデ、走ル! プティ!』


 俺たちが拠点にしていた、ゴブリンの俺とオークのオクデラでも入れる漁村。

 帰り道を歩く俺たちが見たのは、煙を上げる漁村だった。

 白い煙が何本か、空に立ち上ってる。


 オクデラが走り出して、すぐに俺も続く。

 イヤな予感がする。

 走り出したシニョンちゃんがばいんばいんってなってるのを見てる場合じゃない。

 ないったらない。


 走りながら、遠いところが見えるようになった【覗き見LV2】を発動するけど、モンスターの姿は見えない。

 というかニンゲンの姿も見えない。

 門の前にも誰もいない。

 家が燃えているのに。


 イヤな予感がする。

 俺たちは、漁村・ペシェールに向けて走った。

 ゴブリンの俺とオークのオクデラ、『ストレンジャーズ』を受け入れてくれた漁村へ。


  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □


『ゴブリオ、誰モ、誰モ、イナイ!』


『これはどういうことでしょう!?』


『落ち着けオクデラ、シニョンちゃん! 大丈夫だ、大丈夫。とにかく冒険者ギルドへ! 何があったかわかるはずゴブ!』


 漁村の入り口の門には誰もいなかった。

 初めて村に入る時に許可を出してくれた隊長も、ちょっと軽い感じの若いヤツも。

 それどころか、村を囲っていた柵は一部が壊されてた。

 まるで何者かが侵入したかのように。


 門が閉まってたから、俺たちは柵の壊れた場所から漁村に入る。

 でも誰もいない。

 ニンゲンも、村に入れる種族も、モンスターもいない。

 ときどき燃えている家を見かけるけど、その近くにも誰もいない。


 俺たちは海の方へ走る。

 教会、小さな市場、冒険者ギルド、それに斧槍亭。

 俺たちと関わりが深い場所は海ぞいにあるし、もし村人のみんなが何かから避難したなら、頑丈な石造りの建物はぜんぶ海の近くにあるから。


 俺たちは走る。

 やがて海が見えた。

 開けた視界いっぱいに広がる海。

 海には何艘もの小舟とありったけの帆船が浮かんでいた。

 いっぱいに人を乗せて。


『ゴブリオさん、あれは!』


『村人が乗ってるっぽい! 何かに襲われて避難した? 事情を知ってそうな冒険者ギルドに行くゴブ!』


 いくつかの小舟は、冒険者ギルドのテラスに繋がれているのが見えた。

 俺たちは冒険者ギルドへ走る。


 遠くまで見える俺の【覗き見LV2】は、舟に乗ってる村人たちの涙や暗い顔を捉えていたけど。

 いまオクデラとシニョンちゃんに言うことはない。


 冒険者ギルドへ。

 扉を開けて駆け込む。

 そこにはヒゲ面のおっさんがいた。

 いつも俺たちを相手してくれる、ギルド職員のおっさんが。


『何があったゴブ!?』


『おまえらか。村がゴブリンとオークの群れに襲われた。その様子じゃ知らなかったみたいだな』


『そんな! みなさんは無事ですか!?』


『ああ、心配ねえよ巡礼者さん。ゴブリンとオークは泳げないからな。勝てそうにない数だし、村人を船に乗せて海に避難させたんだ。水棲種族の冒険者を船の護衛につけてな』


 漁村がゴブリンとオークに襲われた。

 被害がないか確認するシニョンちゃんは、やっぱり優しい女の子なんだろう。

 でも。


『ゴブリンと、オーク。被害は、物だけ? いや、物に、被害が出た?』


『……ああ。いまわかってる限りな。被害は出ちまってるよ』


 俺が本当に聞きたかったことを理解したんだろう。

 ヒゲ面のおっさん職員は俺と目を合わせずに、ぼそっと教えてくれた。


『大変ですお父さん! 斧槍亭のプティちゃんと女将さんがゴブリンとオークに連れていかれたって! サハギンさんが海から見たって! あっ!?』


『マジか! くそ、最悪ゴブ……』


『プティ! ゴブリオ、オデ、オデ!』


『ああ、わかってるオクデラ。おっさん、ゴブリンとオークの数は?』


『オークは10ってとこで、ゴブリンは100を超えてただろう。この街には200人ちょっとしか人がいねえし、住人っても水棲種族は陸上じゃ戦えねえヤツらもいる。だから海に避難したんだが……行くのか?』


『女将、プティ、俺たちによくしてくれたゴブ。それに……おっさんもわかってるゴブな? いま行かなきゃ、俺たちは。俺と、オクデラは』


『……ああ。ヤツらは南西から来て、南西に帰っていった』


『おっさん、感謝するゴブ。俺たちを信じてくれたこと。行くぞオクデラ!』


 おっさん職員に討伐証明のゴブリンの耳が詰まった布袋を投げ渡して、オクデラの足を叩いて冒険者ギルドを出ようとする俺。

 途中でシニョンちゃんが目に入った。


『シニョン、すまないゴブ。俺たちと、一緒に来て欲しい。じゃないと……』


『私、行きます! 女将さんとプティちゃんにお世話になってますから! 早く行きましょう!』


 そう言って走り出したシニョンちゃん。

 おっさん職員と違って、シニョンちゃんは俺が何を言いたいかわからなかったらしい。

 シニョンちゃんもオクデラも、純粋だから。


『頼むぞ『ストレンジャーズ』! なんとか女将とプティちゃんを助けてきてくれ! そうすりゃ人の被害はゼロだ! それなら俺がなんとかしてやる!』


『ありがとう、おっさん!』


 飛び出した俺たちに叫ぶヒゲ面のおっさん職員の言葉に、俺の胸が熱くなる。

 おっさんは、俺とオクデラを信じてくれたんだって。

 ほんと、俺たちの担当がおっさんでよかったゴブ! 美人受付嬢の娘さんの方に担当変えてくれとか思ってごめんなさい! おっさんはコワモテだけどいいヤツゴブな!


 おっさんがわかって、オクデラとシニョンちゃんはわからなかったこと。

 漁村はゴブリンとオークに襲われた。

 そして俺はゴブリンで、オクデラはオークだ。


 きっといま、村人はこう考えているだろう。

 最近この漁村に居着いたゴブリンとオークが、群れに指示したんじゃないかって。

 情報を流したスパイだったんじゃないかって。


 そこまでいかなくてもいい。

 海に避難して人の被害がゼロだったとしても、俺たちが漁村を襲ったヤツらの仲間じゃないってわかってくれたとしても、俺たちに向けられる目は厳しくなるだろう。

 というか多分、追い出されるだろう。

 俺がニンゲンだったらそうする。

 俺はゴブリンで、オクデラはオークだから。


 だから俺は、俺たちは、せめて連れ去られたニンゲンを助けなきゃいけない。

 そうすれば、ゴブリンとオークでも俺たちは違うんだって証明できる。

 オクデラもシニョンちゃんも気付いてなかったけど、俺とおっさんはわかってた。

 だからおっさんは、100以上の群れ相手に三人の俺たちを送り出したんだろう。


 でも。

 俺が、俺とオクデラとシニョンちゃんが走ってるのは打算だけが理由じゃない。

 斧槍亭の若女将とプティちゃんが連れてかれた。

 ゴブリンとオークにニンゲンが連れてかれたら、結末は二つだ。

 アイツらの標語通り、男は殺せ、女は犯せ、の二つだけ。

 幼女のプティちゃんがどっちになるかわからないけどそんなん知りたくないゴブ!


『急ぐぞ! きっとまだ間に合うゴブ!』


『プティ、オデニ、優シイ! オデニ、オヤツ、クレタ! オデ、助ケル!』


『私も戦います! それに私、治癒の魔法を使えますから! 新しい魔法だって使えるようになったんです!』


 100以上の群れ相手に三人で、しかも捕まったニンゲンを助けなきゃいけない。

 条件は厳しいし、きっとスゴ腕の冒険者じゃなきゃ達成できないだろう。

 俺たち『ストレンジャーズ』以外は。


 でも俺たちなら、ゴブリンな俺とオークなオクデラなら、やりようはある。

 いま助けるから待っててねプティちゃん! それと流し目が色っぽい未亡人な若女将! 助けたら若女将がご褒美くれるかもなんて思ってないゴブよ? 本当ゴブ!


 あとこれひょっとして、シニョンちゃんの【受難LV2】は関係ないゴブな? いままでの【受難】っぷりからめっちゃ難易度上がってるけど! 関係ないゴブな? 関係ないって信じてるよ神様ァ!


 ……アニキもいないよね? なんかゴブリンとオークの集団にしちゃ賢い動きだけど、頭が良かったアニキも関係ないよね? ちょっとコレには関係してないで欲しいゴブ! お願いします神様ァ!



※村の人口(200ちょっと)と冒険者の数(50ぐらい)とモンスターの群れの数(100オーバー)、

 後日調整するかもしれません。

 でも小さな漁村ってもこれでも少ないぐらいだろうし、だからってモンスターを増やしてもなあ。

 非戦闘員の数と陸上で戦闘可能な人数と防衛施設の貧弱さを考えたらまあおかしくはない、のか。

 話の流れは変えませんが、数はもうちょっと検討します。

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― 新着の感想 ―
[一言] オーク10とゴブリン100。 冒険者の数(50ぐらい)ならば、オークに2人ずつ、残りの30人でゴブリン200位行けるでしょ? 村人も居るんだし、、、 そもそも、逐次戦闘できるだろうし、、、
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