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第十二話 俺ゴブリンだけどゴブリンの巣を潰してやったゴブ!


「おまえこの群れのガキじゃないゴブ?」


「俺、よそから来た。これ、ボスにあげるから群れに入れてほしいゴブ」


 討伐依頼が出たゴブリンの群れは洞窟を巣にしていた。

 オクデラとシニョンちゃんと別れた俺は、さっそく見張りのゴブリンに見つかる。

 でも問題ない。

 群れに入れてほしくて手土産を持って来たんだ、と近くで狩ったウサギを見せる俺。

 見張りのゴブリンはジュルリとヨダレを垂らす。


「よし、入れ。ボスは奥にいるゴブ」


 あっさり許可出ました! さすがゴブリン、くっそ単純ゴブ!


 見張りのゴブリンは、ボロ布で体を隠してる俺の武装解除さえしなかった。

 まあ見た目ゴブリンだし、仲間だと思ったんだろうけど。


 洞窟に入って奥に進む俺。

 たまにゴブリンとすれ違うけど、俺が怪しまれることもない。

 そりゃそうだ、同じゴブリンなんだから。

 こちらゴブリオ、潜入に成功した! 指示はいらないゴブ!


 洞窟はけっこう奥まで続いてるみたいだ。

 横道がないかチェックしながら歩く。

 ゴブ目がなくなったところで、俺はいくつか簡単な罠を仕掛けた。


 冒険者ギルドのヒゲ面おっさんに聞いてた通り、この洞窟にいるゴブリンは30匹ぐらいっぽい。

 見張り、すれ違ったゴブリン、奥の広間にいるゴブリンを数えて頭の中で計算した俺、賢いゴブリンことゴブリオ。

 奥の広間にいるゴブリンたちは、俺のことを見てくる。

 俺は近くで狩ったウサギを見せつけて、ボスと思われるゴブリンに話しかけた。


「俺、よそから来た。これ、ボスにあげるから群れに入れてほしいゴブ」


「ああん? おう、俺んとこまで持ってくるゴブ」


 ほかのゴブリンより一回りでかいゴブリンは、偉そうに俺に指示を出す。

 やっぱりコイツがボスみたいだ。

 俺は言われた通り、ノコノコとボスゴブリンに近づく。


「ボス、これをどうぞ。足りなかったらまた仕留めてくるゴブ」


「おう、やるじゃねえかガキ。ん? お前いいもん着てるゴブな」


「これ、ニンゲンから。近くにニンゲンの巣があったゴブ」


「おお、やるじゃねえか! こないだ食った一匹だけじゃ足りねえからな。よーしお前ら、準備するゴブ! ニンゲンの巣を襲うぞ!」


 ニンゲンから『買った』ってことをボカして伝えたら、ボスゴブリンはすぐ食いついた。

 ……ここのボスもしょせんゴブリン、やっぱりバカゴブなあ!

 ニンゲンの住処を見つけたと知って、ボスゴブリンは殺る気満々だ。


「男は殺せ、女は犯せ! 今夜は俺たちが初めてニンゲンの女を捕らえた記念のお祭りゴブ!」


 ……この群れも同じ標語なのかよ! なにこれゴブ界で流行ってんの? しかも捕まえる前からお祭りする気になってるし!


 一瞬フリーズしちゃったけど、とりあえずボスゴブリンには近づけた。

 おまけに俺のことを信じたゴブリンどもは、ニンゲン狩りに行くって騒がしくなった。

 あと、ニンゲンは行方不明の一人が犠牲になっただけで、ニンゲンの女を捕らえようとするのも初めてらしい。

 ゴブリンどもはそれぞれ自分の武器を探したり、仲間のゴブリンとゲギャグギャ話し合ったりしてる。


 つまり。

 俺への注目は、薄くなった。


「あの、ボス、これ」


「よーし、戦いの前の腹ごしらえゴブな! お前のことは覚えといてやるゴブ!」


 俺が差し出したウサギを、生のままガブッと口にするボスゴブリン。

 両手でウサギを掴んでそのまま食ってる。

 武装解除されていない俺の前で。


 俺はそっと短剣を抜いて、ボスゴブリンのむき出しの腹に短剣を突き込んだ。


 はい油断してたゴブなあ! ほーら、ウサギが邪魔で悲鳴も上げられないところで短剣をひねってっと! さすがスキル【短剣術】持ちな俺、短剣で一撃ゴブ! おっと、腰に手をまわしてるから倒れさせないゴブよ?


 すぐに短剣を隠して、ついでにボロ布でボスゴブリンの傷を隠して、壁に体をもたれさせる俺。

 一瞬の出来事で、戦いの準備でバタバタしてるゴブリンたちはボスが死んだことに気付いてない。

 血の臭いが強くなったけど、ボスゴブリンがウサギをくわえてるのを見て、おバカなゴブリンたちは気にしてない。


 たしかにウサギの血をまき散らして来たけど、ゴブリオここまで上手くいくとは思ってなかったゴブ! やっぱりゴブリンはバカゴブなあ! まあいまは俺もゴブリンなんだけど! ゲギャギャッ!


 そんなことを考えているうちに、俺が仕掛けた罠が発動したみたいだ。

 時間差で煙が出る簡単な罠。


 白い煙が広間の中に流れ込んでくる。

 ゴブリンたちはそれだけでパニックだ。

 ボスが死んだいま、指示を出すゴブリンはいない。

 しかも群れはボスが死んだことに気付いてないから、パニックが収まる気配はない。


 煙で視界が悪くなる中、俺は口を布で隠して一匹ずつゴブリンを仕留めていく。

 煙は上にいくタイプだから、ときどき地面に口を近づけて息を吸う。


 この罠は俺も危ないけど、俺は死んでも復活するからできる作戦だ。

 ゴブリンどもはやっと仲間の死に気付いたのか、さらにゲギャグギャ騒がしくなる。

 そこで俺は叫んでやった。


「ニンゲンだ! ニンゲンが入ってきてゴブリンを殺してる! ニンゲンを探すゴブ!」


「くそニンゲンめ! 返り討ちにして食ってやるゴブ!」

「ニンゲン! 女、女がいいゴブ」

「わざわざ犯されに来るなんてバカなニンゲンゴブ!」


 ニンゲンがいるって俺の叫びを真に受けて、ニンゲンを探すゴブリンたち。

 バカめ! お前らの敵はニンゲンじゃなくて俺ゴブ! しかもやっぱり「男は殺せ、女は犯せ」だから罪悪感もわかないゴブなあ!


 煙で視界が悪くなる中を【覗き見】して、遭遇したゴブリンを【短剣術】で仕留めていく俺。

 俺を見て「なんだゴブリンか」って目を離したら即殺ゴブ! 正々堂々? 俺ゴブリンだから何のことかよくわからないゴブ! さすがゴブリン、鬼畜生!


 広間にはボスゴブリンを入れて20匹ぐらいいたけど、もう10匹は倒しただろう。

 ボスも含めた主力は倒したし、煙が濃くなってきたから俺は広間をあとにする。

 姿勢を低くして、できるだけ煙を吸わないように気をつけながら進む俺。

 途中、燃えて煙を出す罠を通り過ぎる。

 入り口が近づいて。


『オクデラ、ゴブリオだ! いまから出るゴブ!』


『ゴブリオ! ワカッタ!』


 わざと【人族語】で声をかけてから、俺はできるだけ横から外に出る。

 入り口の前には、長柄のメイスとタワーシールドを構えたオクデラが仁王立ちしていた。

 オクデラの足下には横にまっすぐ地面を掘った溝があって、慌てて出てきたゴブリンが足を取られるようになってる。

 俺が潜入した後、オクデラとシニョンちゃんが掘った溝だ。

 深さは50センチもないけど、慌てたゴブリンを転ばせるには充分。

 実際、オクデラの足下には死んだゴブリンが転がってる。


『ゴブリオ、オデ、5匹、殺ッタ!』


『ゴブリオさん、ケガはありませんか!? 大丈夫ですか!?』


『よくやったオクデラ! シニョンちゃん、俺、無事ゴブ』


 誇らしげに胸を張るオクデラ、俺を心配してペタペタ体を触るシニョンちゃん。


『横穴はなかったから、出口はここだけっぽい。罠を追加しておくゴブ』


 オクデラに伝えて、洞窟の入り口の低い位置にロープを張る俺。

 ついでに入り口にも罠を仕掛けて煙を追加する。


 これで、煙に慌てたゴブリンが巣穴から出てきたらロープか地面の溝で転んで、簡単にライフポイントを稼ぐボーナスステージの完成だ。

 もし転ばなくても、雑魚ゴブリンの一匹や二匹、【投擲術】と【短剣術】を持ってる俺の相手にならない。

 タワーシールドと長柄のメイスって凶悪な装備を持ったオクデラもいる。

 万が一ケガしても、シニョンちゃんが【光魔法】おっと、【神聖魔法】で治してくれる。

 万全ゴブなあ! 危なかったのは潜入してボスを殺る時ぐらいゴブ! いちおうニンゲンがいるかもしれないから潜入したけど!


 ちなみに今回の煙みたいに罠で倒した場合、俺が罠を仕掛けてればライフポイントが手に入る。

 つまりオクデラが倒したゴブリン以外は俺の総取りだ。

 やっぱりゴブリン討伐はおいしいライフポイント稼ぎゴブな! 始まる前は34だったのに、もう50超えてるし! ところでボスゴブリンは上位種だったのかな? だったら次死んだら俺また強くなれそうゴブ! ついに雑魚ゴブリン卒業かも!


 俺はゴブリンだけど元人間だし、ニンゲンの村で暮らしてるから、ニンゲンを襲おうとするゴブリンを殺すことに罪悪感はない。

 コイツらも「男は殺せ! 女は犯せ!」って言ってたし。

 というかボスゴブリン、ニンゲン食ったとか言ってたし。

 シニョンちゃんはとうぜんニンゲンの味方で、オクデラは……。

 あれ? オクデラなんでためらいなくゴブリン殺してるの? やっぱり俺が殺そうとしてるから? 俺が言ったから?


 …………。

 ……よし、いま考えるのはやめやめ! アレだよね、ニンゲンと暮らしてるうちにオクデラもニンゲン側になったってことだよね? もしくは襲ってきたから返り討ちにしたとかだよね? 俺が言ったから命を奪ったってわけじゃないよねオクデラ? それちょっと重すぎんよォ!


 心の動揺をよそに、洞窟から出てきたゴブリンを淡々と殺す俺、ゴブリオ。

 投剣はもったいないから石を投げまくってます。

 取っててよかったスキル【投擲術】!


 そのうちゴブリンが出てこなくなったので、俺たちは外で倒したゴブリンどもの処理をはじめる。

 討伐証明部位の右耳を切り取って、使えそうな物をいただいて、死体は落とし穴がわりの溝に投げ入れる。

 あとは仕掛けた罠の煙がなくなるまで待機だ。

 煙がなくなったら、洞窟の中のゴブリンも同じように処理する。

 つまり毎度おなじみ死体漁りタイムってことゴブな! さーて、今回は使える物や売れる物はどれぐらいあるかな? でもコイツらゴブリンだし、この洞窟はあんまり宝箱が充実してなさそうゴブ!


 そこまでやって依頼は終了。

 あとは漁村の冒険者ギルドに戻って、討伐証明を渡して報告するだけだ。


 いやあ、ラクな仕事だったゴブ! オオカミ30匹よりゴブリン30匹の方がラクなんじゃない? 俺ゴブリンだけどこれからもゴブリンを狙っていきたいところゴブなあ! やっぱりゴブリン殺し(キラー)かゴブリンスレイヤーを目指すゴブか? 俺ゴブリンなのに! ゲギャギャッ!


■ ゴブリオ(ゴブリン)

 【ライフポイント】

  34 → 61


※2/15 18時頃、誤字修正。

 話は変わっていませんが、あわせて読みづらかった箇所やわかりにくかった箇所を修正しています。

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