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ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜  作者: 坂東太郎
『第三章 漁村 ペシェール』

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第十一話 順調に生活してるけどゴブリンの巣が見つかったらしいんで潰しに行ってきます!


 漁村・ペシェールの宿屋『斧槍亭』に荷物を置いて、冒険者ギルドに向かう俺とシニョンちゃん。

 潮風が気持ちよくて、生活が充実してて、自分がゴブリンであることを忘れてしまいそうになる。


 でもやっぱり俺はゴブリンだから、シニョンちゃんとは手を繋がない。

 シニョンちゃんがゴブリンを飼ってる変態女みたいになっちゃうからね! 最初の頃はまわりの目つきがヒドかったから! 俺とオクデラが知性あるって理解されてやっとそんなことなくなってきたけど!


 隣を歩くシニョンちゃんと俺の間には、わずかに距離がある。

 きっと、俺がニンゲンにならなきゃ埋められない距離が。


 もしゴブリンのままこの距離を縮めたら……。

 体が触れ合って俺が自分を止められなくなってゴブっちゃうかもしれない。

 そしたらもしかして、シニョンちゃんは妊娠しちゃうかもしれない。

 ゴブリンの繁殖力スゴイらしいし。

 俺は元人間だけど、生まれてくる俺の子はたぶんただのゴブリンだ。

 「男は殺せ! 女は犯せ!」でおなじみのゴブリンだ。


 だから俺は、シニョンちゃんと距離を縮めるわけにはいかない。

 初めてニンゲンの街の宿に泊まったあの日、『ゴブリオさんならいいですよ』って言われたけどほいほいゴブるわけにはいかないゴブ! くっ、はやくニンゲンになりたい!


 そんな考えはシニョンちゃんに隠して、海ぞいを歩く俺たち。

 すぐに冒険者ギルドが見えてきて、短いデートは終わりだ。

 俺はためらうことなくギルドの扉を押し開ける。


 いっせいにこっちを向く冒険者たち。

 ニンゲン、サハギン、リザードマン、人魚、ニンゲンが連れた犬系の従魔、鳥系の従魔。

 俺と目が合うと、すぐに仲間うちの会話に戻る。

 俺、これでも30日もこのギルドで活動してるからね! もうみんな慣れたもんゴブ! 初めてゴブリンの耳を討伐部位で持ってきた時はみんなギョッとしてたけど! そりゃそうだ、俺ゴブリンなのに!


『おう、『ストレンジャーズ』か。ちょうどいい、頼みてえ依頼があったんだ』


『お父さん、まずは報告を聞いてからよ。お帰りなさい、ゴブリオさん、シニョンさん』


 ギルドの受付のヒゲ面のおっさんも、その娘の美人受付嬢も、当たり前のように俺たちのことを受け入れてくれる。

 居心地よくなってきたゴブなあ! でも俺たち『ストレンジャーズ』の受付担当、美人な娘さんの方にならない? なんでいっつもヒゲ面のおっさんと会話しなくちゃいけないゴブか!


 そんな心の声は出さずにおっさんの方に向かう俺、大人の男ゴブリオ。

 今回の冒険の成果をドサリとカウンターの上に置く。

 モンスターじゃない普通のウサギが二匹、ゴブリンの耳が5つ。

 あれ? ウサギは一匹二匹じゃなくて一羽二羽? ……ゴブリオゴブリンだからよくわからないゴブ! 元人間だけど!


『ウサギ、一匹は皮だけで肉は持って帰る。残りのウサギは売却で、ゴブリンは討伐報酬が欲しいゴブ』


『了解だ。んじゃこっちで処理しておこう。肉は今日の斧槍亭のメシか?』


『そう。シチュー、おいしい』


『くっ、俺も斧槍亭でメシ食ってくかなあ。いや魚もうまいんだけどよ』


 この村は漁村だ。

 水棲種族が手伝うから、ほかの村や街に比べて安全に漁ができて、漁獲量もなかなからしい。

 一般の村人と冒険者の食卓に上るのは魚料理が多いとか。

 おかげで肉はいい値段で売れるから、俺たちでもそこそこ稼げてる。


『お父さん、いまは仕事中ですよ。それと今晩はお母さんから教わった特製ブイヤベースですからね!』


『よーし、報酬の計算だな! さっさと仕事片付けちまおう!』


 なにこの所帯じみた会話……。

 冒険者ギルドなのに夢がなさすぎゴブ! これじゃ田舎の役所ゴブなあ! あ、小さな漁村の冒険者ギルドって田舎の役所みたいなもんだったゴブ!


『このゴブリンどもは近くの森にいた。ほかに情報は入ってないゴブ?』


『ん? ああ、その話をしたくてな。ここいらじゃほかに見つかってねえんだが……北の村の近くでゴブリンの巣が見つかったんだ。30匹ぐらいなんだが、受けるか? 数は多いがお前らなら問題ねえだろ』


 手元の書類から、チラッと俺に目を向けるヒゲ面のおっさん職員。

 普通なら、俺たちみたいな駆け出し冒険者パーティじゃゴブリンでも30匹の集団はキツイ。

 うまく各個撃破できればいいけど、囲まれたらボコられて終わっちゃう。

 そう、普通ならキツイ。


『受けるゴブ。ニンゲンの被害は? 救助は必要ゴブか?』


『北の村の男が行方不明だ。薪拾いに出たらしいから、ゴブリンに殺られたんだろうって話になってる。まあその捜索のおかげでヤツらの巣が見つかったんだがな。とりあえず、捕まったって女はいねえ』


 おっさん職員が何気なく話す情報に、俺は思わず歯を食いしばってしまう。

 ニンゲンを殺して食らう。

 モンスターとしては当たり前かもしれないけど、ゴブリンとしては当たり前なんだけど。


『悪いゴブリンは潰す。善いゴブリンな俺に迷惑がかかるゴブ』

『まあなあ、あんまり被害が出るようだと、たしかにお前への風当たりも強くなるかもしれねえからな。気持ちはわか……すまん、わからねえわ』


『ニンゲンだから?』


『ニンゲンだからな! んじゃこれは『ストレンジャーズ』が受理っと。いつ出る?』


『今日は準備にあてるから、明日の早朝。この場所なら……明日か、明後日に殺れそうゴブな』


 おっさんからだいたいの地図を見せてもらって、俺は予定を立てる。

 場所はそんなに遠くない。


『シニョン』


『もちろん、一緒に行きます』


 帰ってきたばっかりで明日すぐ出発するのは大変だしシニョンちゃんにもオクデラにも申し訳ないけど、こればっかりはあんまり先延ばしにするわけにもいかない。

 この村でも近隣でもゴブリンの集団が大暴れしたら、ゴブリンな俺なんてニンゲンの村を追い出されてもおかしくないから。


『うっし、んじゃ期待してるぞゴブリン殺し(キラー)!』


『その呼び方は止めるゴブ!』


『ゴブリンだから?』


『ゴブリンだから!』


 くう、こんな軽口はヒゲ面のおっさんじゃなくて美人受付嬢としたかったゴブ!

 カウンターから離れる俺とシニョンちゃんを、冒険者たちが見てくる。

 おい、アイツまたゴブリン討伐の依頼受けやがった、みたいにざわつきながら。


 おうおう、こちとら見せ物じゃないゴブよ? 元人間な俺と野良ゴブは同じゴブでも別モノゴブ! 同族殺しとかゴブリン殺し(キラー)とかそんな二つ名は止めるゴブ! とりあえずまだキラーだけでスレイヤー呼ばわりされないでよかったゴブ! ゴブリンのゴブリンスレイヤーとか怒られそうゴブな! どこかから! ゲギャギャッ!


 シニョンちゃんと冒険者ギルドを出て、斧槍亭に向かう。


『ゴブリオさん、買い物して行きませんか? その、二人で出かけたいってことじゃなくて、明日の準備で』


 シニョンちゃんと斧槍亭に向かうのを止めて、お店がある方に向かう。


 ふ、二人っきりでデデデデートの続きゴブな! オクデラのことを頼んだよプティちゃん! ゴブリオ、帰りは遅くなるかもしれないゴブ! でも宿には帰るから! きっと遅くなっちゃうと思うけど!


 大丈夫、大丈夫。

 俺ゴブリンだけどシニョンちゃんにもほかのニンゲンにも何もしないから。

 じゃないとえらいことになっちゃうから。


 でもとりあえず今日のデートはまだ終わらないゴブ!


  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □


『ゴブリオ、ドウスル?』


『いつも通りだ。俺が仲間かはぐれゴブのフリして潜入して、中を確かめてくる。捕まったニンゲンがいなければ罠を仕掛けてコッソリ倒してくゴブ』


『そんな、それじゃまたゴブリオさんが危なくて』


『ソウダ、危ナイ』


『いや二人が一緒な方が危ないから。俺ゴブリンだから、ゴブリンに見つかっても問題ないし。それにほら、【隠密】も【逃げ足LV2】もあるゴブよ!』


『それはそうですけど……』


『オクデラはシニョンちゃんを守っててくれ。オクデラにしか頼めないゴブ』


『……ワカッタ』


 漁村・ペシェールを出た俺たちは、いまゴブリンの巣穴の近くに隠れてる。

 陽が傾いて暗くなってきたけど、俺とオクデラとシニョンちゃんには関係ない。

 シニョンちゃんもスキル【夜目】持ちだから。


 モンスターの巣穴に潜入して内部を探り、破壊工作をしながら殲滅する。

 それだけ聞くと難易度高そうだけど、俺には問題ない。


 だってこれゴブリンの巣だし、アイツらから見たら俺もゴブリンだからね! 見つかったところで仲間のフリすれば問題ないし!

 同族殺しの罪悪感? うん、ないゴブな! アイツらニンゲンを襲って殺した集団だし! さっきも死体漁りしてゲットしたっぽい鉈を持って上機嫌でウロウロしてたし!


 おごれるゴブも久しからず、ただ夢見てるうちに俺が殲滅してやるゴブ!

 大人しく俺のライフポイントになるといいゴブなあ! ゴブリンの上位種がいてくれると生き直しで簡単に強くなれるし、期待してるゴブよ?

 おっと、これじゃ俺がおごれるゴブゴブ! 油断大敵ゴブな! フラグじゃないゴブよ?



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