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第七話 俺、ゴブリンなのに堂々と漁村に入れるようになりました!


『では、村内を歩く際は、必ずこの布を目立つところに付けるように』


 外での会話を終えた俺たちは、村の門の前で説明を聞いた。

 隊長と呼ばれてたおっさんが言うには、俺とオクデラが罪を犯したら、軽いものでもすぐ村から追放されるらしい。

 そりゃそうだ、そうでもしないとニンゲンじゃない種族を村に入れないだろう。


 ノリのいい若い男は、村にはいま人魚とサハギンとリザードマン、その他にも従魔として鳥や犬系のモンスターがいるって言ってた。

 従魔が何かしたら、ニンゲンの主が責任を取るそうで。

 俺とオクデラは従魔じゃなくて、リザードマンとかと同じ扱いだそうだ。

 シニョンちゃんの従魔、シニョンちゃんのペット扱い……それもちょっと惹かれ……いやいや惹かれないゴブ! ゴブリオそんな趣味はないからね! ペット扱いされて下から見上げる景色とか、下乳についてとか考えてないゴブ! ほんとゴブよ?


 一通り説明が終わると、警備隊の隊長から赤い布が渡された。

 これが「入ることを許可してる」って目印らしい。

 そうだね、こういうのがないと村に侵入したゴブリンと見分けがつかないもんね! つまり漁村にいる時は、これが俺の身を守る大事なアイテムってわけだ!


 赤い布を細く折ってバンダナっぽく頭に巻く俺。


『え、そこにつけるの? ダ、ダサい……やっぱりおもしろいなこのゴブリン!』


 若い方の警備員がなんか言ってるけど無視だ無視。

 この印を目立たせないと、こちとらただの雑魚ゴブゴブ! ゴブ即斬されかねないからね! オクデラも頭に巻いとけ! ファッション? そんなことより命が大事ゴブ! まあ俺死んでも復活できるけど! ハハッ!


『隊長さん、私が村を案内しますね。冒険者ギルドにも伝えておいた方がいいでしょうし』


『女将、ありがたい』


『あっ、じゃあ俺も行きます! 村のみんなの反応がめっちゃ気になるし!』


『お前はダメだ。生き残りのオオカミがいないか見まわって、仕留めてこい』


『ええー?』


『さっさと行け!』


『ういーっす』


 隊長に言われて、イヤそうな顔で外に向かう若い男。

 え? そりゃオオカミは雑魚だったけど、一人で大丈夫なん? 俺一回死んだよ?


『オオカミ、まだ、たくさん。一人、問題、ない?』


『心配は無用だ。アイツはああ見えて、警備隊の中で一番武器スキルのレベルが高い』


 なにそれすっげえ気になる! スキルレベルいくつぐらいなんだろ? 武器を見ると【槍術】か【剣術】あたりゴブか? ゴブリオまだ【短剣術】取ったばっかりだから気になるゴブ!


『さあ行きましょう。村の人は賢いゴブリンとオークに慣れてませんから、私からはぐれないでくださいね』


『あの、どこへ行くんですか?』


『まずは冒険者ギルドですね。それから……みなさんは宿を取ってないでしょう? 助けていただいたお礼に、よければウチの宿に泊まってください』


 シニョンちゃんの質問に、ニッコリ笑う女の人。

 この人、マジで呼ばれてた通り女将らしい。

 色っぽい人妻で若女将……そんなの反則ゴブなあ! だめだめ、ゴブリオはシニョンちゃん一筋だから! そんな流し目にぜんぜんまったくドキドキしたりなんかしないから!


 そんなことを考えながら、俺たちは女将について村を歩く。

 倒した四匹のオオカミは、ここで処理しないで俺とオクデラがそれぞれ担いでいる。


 隠れてコッソリじゃなくて、堂々と入る初めての人里。

 俺はゴブ生で初めてで、オクデラなんて人里自体がはじめてだ。

 オクデラはなにもかも珍しいのかキョロキョロしてる。


 漁村・ペシェール。

 建物はほとんどが土壁で、屋根はなんかの植物を使ってるっぽい。

 海に向かってなだらかに下ってて、海の方に石造りの建物がいくつかあるみたいだ。コッソリ入った街で見たより小さい建物だけど。

 たぶん一つは教会だろう。

 シニョンちゃんは巡礼者なわけで、後で挨拶に行った方がいいのかもしれない。


 というかアレだ、スキルレベル上がってないか確認に行きたいゴブ! 忍び込むんじゃなくて俺もオクデラも堂々と入れるしね!

 ほかの石造りの建物は……役所とか村長の屋敷とか? ああ、漁村だし倉庫とかもあり得るゴブな! あとは冒険者ギルドとか!


 興奮してるのが自分でもわかる。

 まあ道ですれ違う村人は、俺とオクデラを見てギョッとして、赤い布を見てホッとして、また俺とオクデラの顔を見てるけど。

 おうおう、見せ物じゃないゴブよ? この赤い布が目に入らぬか! 俺ちゃんと街に入ることを許されてるからね! ゴブリンだけど! ゲギャギャッ!


 漁村・ペシェールは思ったより小さい。

 たぶん人口にしたら200人ぐらい? よくわからないけど! 俺ゴブリンだから! おバカな雑魚モンスターだから! 元人間? なんのことゴブ?


 すれ違う村人は俺たちを先導する女将に話しかけようとして、俺たちを見てやめる。

 おうおう、そんなにゴブリンとオークに近づきたくないゴブか? まあ俺がニンゲンだったら近づきたくないけど! 「男は殺せ! 女は犯せ!」のゴブリンとオークだし!


 やがて、俺たちは海にたどり着いた。

 砂浜には何艘も小舟が引き上げられてて、端の桟橋には小さな帆船が繋がれてる。

 なんかくすんだ色の砂浜ゴブ……小舟も多くてぜんぜんキレイな景色じゃないし……これじゃお金貯めて水着買ってもシニョンちゃんは白い砂浜を走れないゴブ……。


 ちょっとテンションが落ちた俺をよそに、若女将はそのまま海ぞいを歩く。

 すぐ先に見える石造りの建物が目的地らしい。


『ここが冒険者ギルドですよ。その、お二人はゴブリンとオークですから、いくら印があるとはいえ、早めに話をしておいた方がいいと思いまして』


 ありがとう若女将! そうゴブな、ゴブリオゴブリンだから! 赤い布外したらただのゴブリンだから! 討伐証明部位とか言って耳を切り取られるのとか勘弁ゴブ! そんなのあるか知らないけど!


 案内されるがまま、俺はついにゴブ生初の冒険者ギルドに足を踏み入れた。

 くっそ緊張してきたゴブ! おっと、油断しちゃダメだ! こう、ガラの悪い冒険者が絡んでくるかもしれ……ない……から?


『おう女将。こんな時間にどうした?』


 冒険者ギルドは閑散としてた。

 というか小さい。

 イメージより小さい。

 これ、学校の教室よりも狭いゴブよ?


『今日は珍しいお客様を連れてきました。警備隊から入村の許可は出たんですけど、こちらにも伝えておいた方がいいかと』


『あん? この村じゃ当たり前なんだ、印があるならそんなことしねえで……は?』


 カウンターごしに女将と話してるのはギルド職員らしい。

 くっ、ギルドの美人受付嬢はどこ行ったゴブか! ハゲでヒゲ面でいかつい感じのおっさんとかぜんぜんうれしくないゴブ! というか冒険者! 冒険者のみなさんは!? 誰もいないんですけど!


『巡礼者はわかる。路銀を稼ぐってんでたまに冒険者にもいるからな。だが女将、ちょっと待て。ゴブリンに、オークだと?』


『ええ。お二人はいいゴブリンといいオークで、私と娘は助けてもらったんです』


『はあ? ゴブリンとオークなのに?』


『ゴブリン、なのに! オーク、なのに!』


 ついつい話に割って入っちゃった俺。

 俺の【人族語】に驚くギルド職員のおっさん。

 これもう定番パターンになってるゴブな! ちょっと楽しくなってきたゴブ!


『おいゴブリン、おまえ【人族語】を話せるのか?』


『話せる。俺、ゴブリオ。悪いゴブリン、違う』


『かーっ、マジかよ! そんで印が出たのか! そうだな、こりゃ伝えた方がいいだろ。おうゴブリン、おまえその赤い布、村の中じゃぜったい外すなよ』


『わかった。いま、冒険者、いない?』


『ん? ああ、何しろここは漁村だからな。新しく依頼を貼り出すのも冒険者が集まるのも明け方よ。ってことで、おまえらのことは明日の明け方に伝えとく。今日はあんまり出歩かねえ方がいいんじゃねえか? ん? そのオオカミはこっちで剥ぎ取るか?』


 あ、ゴブリオ納得したゴブ。

 いまは午後遅めで、漁師はもう仕事終わってるゴブな。

 日本の漁港だってこの時間に行ったら人がいなくて閑散としてるもんだ。

 なるほど、なるほど。


『オオカミ渡す、いま。処理、まかせる。交渉、明日。できる?』


『渡して剥ぎ取りは任せるけど、買い取りの交渉は明日ってか。ああいいぞ。……賢いゴブリンだなおい』


 冒険者も見てみたいし明日なら外出しても大丈夫っぽいし、俺は出直すことにした。

 あとオオカミの価格交渉もね! 剥ぎ取りはプロがやった方が上手そうだから任せるけど、買い取り交渉はまた明日で! 長居してゴブ即斬な冒険者に見つかったら大変だから! この村にはあの鉄兜みたいなヤツはいないゴブな? な?


『話はまとまったようですね。でしたらみなさん、宿へ行きませんか? 私もそろそろ夕食の仕込みがありますし』


『任せる、ゴブ』


 ゴブ生初の冒険者ギルドは、絡まれるどころか誰もいなかった。

 受付嬢は美人どころかいかついおっさんだった。


 とぼとぼと冒険者ギルドを出る俺。

 シニョンちゃんは、人がいなくてむしろほっとしたみたいだ。

 オクデラは無言で後ろをついてきてる。

 おおう、コレあらためてポンコツすぎるパーティゴブな! 俺もだけど!


 冒険者ギルドから女将の宿は近かった。

 どうもこの辺りは小さな漁港を中心に、市場や行商人のための宿、冒険者ギルドがまとまってるらしい。

 どれも小さい建物だけど。

 案内された女将の宿もこじんまりしてる。


『あれが私の宿です。と言っても私たちの家に何組かお客様を泊められるようになっているだけですけれど。あら?』


 ふむふむ、民宿みたいなものゴブな。そういえば港の近くにはだいたい民宿があるものゴブ。なんでかわからないけど。船宿的な?

 そんなことを考えてる俺の耳に、聞き覚えのある声が届く。


『おかーさーんっ!』


『あらあら、外で待ってたの?』


『うん! あっ、さっきのゴブリンさんだ!』


『そうよ。私たちのことを助けてくれたんだもの、今日はお客様として泊まってもらうの』


『わかった! プティ、お手伝いする!』


 さっき助けた女の子だ。

 たぶんプティっていうのが名前なんだろう。

 女の子はオオカミに襲われたばっかりなのに、元気いっぱいだった。

 強い幼女ゴブなあ。


『えっと、ようこそ、斧槍亭へ!』


 笑顔の幼女が口にしたのはこの宿の名前だろう。

 宿っぽくない名前だけど、この世界じゃこんなものゴブか?


『斧槍亭、ですか?』


 違ったみたいゴブ! そりゃそうだ、斧槍、ハルバードじゃ武器屋っぽいもんね!

 シニョンちゃんの質問に答えたのは、幼女ではなく女将だった。


『ええ。冒険者だった主人の形見の斧槍を飾っていたら、いつの間にかそう呼ばれるようになりまして』


 …………。

 おいいいいい! 色っぽい若女将でシニョンちゃんほどじゃないけどなかなかのおっぱいの持ち主で未亡人て! 属性盛りすぎィ! エロゲか、エロゲゴブか? だめだめ、俺はシニョンちゃん一筋ゴブ! そんな流し目で見られてもゴブリオ惑わされないゴブよ!


 ところで一泊いくらゴブか? 手頃な値段ならここを拠点にするのも悪くないゴブなあ。

 ほら、ゴブリンとオークを泊めてくれる宿があるか微妙だし! 手間とコスト的にね? ゴブリオぜんぜん惑わされてなんかないゴブよ? 本当ゴブ!



幼女の名前は「子供」を意味するフランス語の一つですね!安直!

女性形?なんのことでしょう?w

懐かしのフランス人サッカー選手ではありません。あれは名字なので。

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