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第二話 冒険者とかいうニンゲンが大量に森をうろつくようになったんですけど……これマズくね?

ちょっと長めですが、キリが悪かったので……


 シニョンちゃんからスキルの話を聞いた翌日。

 俺は、森で隠れていた。

 木の陰から、俺はそっと【覗き見】する。

 森に入ってきたニンゲンを。


 見つからないように、俺は「隠れる」ことを意識してる。

 シニョンちゃんが言うには、スキルは生まれつき持っているもの。

 でもめっちゃ努力すれば、後からスキルが身に付くことがあるらしい。


 そりゃそうだ、言語系スキルがあるんだから、後からでもスキルが生えなきゃおかしい。

 【オーク語】のスキルを持って生まれなかったオークのオクデラみたいなニンゲンもいるかもしれないし。

 ニンゲンが勉強しても【人族語】スキルが身に付かないってことはないだろう。

 オクデラは【オーク語】を勉強するチャンスがなかったけどね! オークに生まれたばっかりに不憫すぎるぞオクデラ! まあゴブリンもたぶん同じだけど!


 スキルは努力すれば身に付くことがある。

 ってことで、俺は「隠れる」ことを意識してニンゲンを覗き見てる。

 隠密系のスキル取得を狙って。

 いやストーキングしてるわけじゃないよ? 【夜目】と【覗き見】と【隠密】を揃えて、あとは【追跡】とかないのかな、とか思ってないよ? 俺ストーカーじゃないから! ただの【森の臆病者(チキン)】だから! だいたいストーキングしなくても【覗き見】しなくてもシニョンちゃん無防備だから谷間とか見え……おっと。


 今度死んだ時、俺はスキル一覧のめぼしいスキルをメモっとこうと思ってる。

 俺、よく考えたら死んだ時の格好で種族&スキルセレクトの空間にいたんだよね。

 だから、あの空間でメモれば持って帰れるんじゃないかと思って。

 もしムリでもほら、ニンゲンって書くことで覚えたりするから、いまより覚えてこれるはずゴブ! まあ俺ゴブリンなんだけど! でも元人間の記憶力に期待してるゴブ! がんばれ俺の脳細胞!


 はあ。

 二回も死んだのに、なんで俺は種族とスキルを覚えようって思いつかなかったんだろ。

 ひょっとして頭までゴブ化してるゴブか? 体だけじゃなくて知能までゴブリンになってくゴブ? どんどん頭が悪くなって、そのうち完全にゴブリンになったり……ホラーゴブ!


 おっと、いまはそんなこと考えてる場合じゃない。

 俺の視線の先には武装したニンゲンがいる。

 森に入ってきた、四人のニンゲンたち。

 たぶん近くの街から来たニンゲンで、シニョンちゃんが言う冒険者ってヤツだろう。


 そう、いるんだってさ冒険者! やっぱあるんだ冒険者ギルド!

 アレかな、新人が中に入ったら絡んでくる柄の悪い冒険者がいるのかな? それを叩きのめして「なんだこの新人……」ってなったり!

 あと美人受付嬢に「こ、これは……」とか言われちゃったり! 楽しみゴブなあ! まあ俺には関係ないんだけど! 俺ゴブリンだから! ゲギャギャッ!


 うん、冒険者ギルドには近づかないようにしようっと。

 この前ゴブリンの里を潰したのも冒険者だって話だし。

 つまりゴブリンを淡々と殺戮してたあの鉄兜も冒険者だろうし。

 ……俺、冒険者ギルドに行ったら受付嬢に「こ、これは……」って言われたり先輩冒険者から絡まれそうゴブなあ! 俺ゴブリンだから! 驚かれて当然だね! 絡まれるっていうか殺されるわ! ハハッ!


 森に入ってきた冒険者たち。

 このところ、何人もの冒険者が森を探索してる。

 だから俺はこうして見張ってるわけで。

 採取かな、ゴブリンの残党探しかな、とか最初は俺も暢気なことを考えてた。

 でも、ニンゲンたちの動きを見てて、やっと気づいたんだ。


 これ、捜してますわ。

 明らかにニンゲンを捜してる感じですわ。

 この前のゴブリンの里討伐以来、消息不明になったニンゲンを捜してますわ。

 ヒゲ面で実は盗賊と繋がってたヤツと、田舎の若者っぽい男と、おっぱいちゃんを。


 …………。

 そりゃそうだ、ゴブリンに殺されたんならともかく、ふと気づいたらいなくなってたんだろうしね! ヒゲ面は冒険者仲間に見つからないように動いただろうし!


 あと。

 俺、殺した盗賊とヒゲ面のおっさんの死体を丸裸にして川に流したし。

 街まで続く、川に。

 はいアウトー! 田舎の若者は埋めてあげたけど、盗賊とヒゲ面のおっさん、合わせて七つの死体を川に流してるゴブ! 街に届いて見つかっててもおかしくないゴブ! 田舎の若者とおっぱいちゃんが行方不明で、盗賊っぽい死体が川に流れてきたら何かあったって思われるの当然ゴブ!

 いやあ、うっかりうっかり! 河童の川流れゴブな! ゴブリンも木から落ちるゴブ!


 現実逃避気味な思考を戻す。

 森に入ったニンゲンたちは、盗賊のアジトだった洞窟や俺たちの痕跡を見つけた様子はない。

 でも……。


「だんだん捜索範囲が広がって、人も増えてるゴブ。これ、時間の問題ゴブなあ……」


 俺は致命的なミスをやらかしたらしい。

 いやあ、シニョンちゃんは、川に流されたアニキ、というか奇妙なゴブリンは街でも見つかってないって言うからさ。

 ニンゲンの死体も見つからないかなあって。

 あ、でももし死体が見つからなくてもシニョンちゃんが行方不明なのは変わらないゴブ! どっちにしろニンゲンは森に捜しに来たゴブな! オッケーオッケー、俺のせいじゃないゴブ!


 ほんとコレどうしよう。

 盗賊のアジトが見つかるのは別にかまわない。

 問題は俺たちの拠点なんだよなあ。


 考え込む俺。

 ほとぼりが冷めるまで、ちょっと遠くに離れておくか。

 それとも、ニンゲンが怖くなったシニョンちゃんにがんばってもらって街に帰らせるか。

 どっちかしかないだろうなあ。

 そんなことを思う俺に、ニンゲンたちの声が聞こえてきた。

 俺は「聞き取る」ことに集中する。


 めっちゃ努力すればスキルが取得できるらしいしね! あ、でも称号を得られたら同時にスキルをゲットすることがあるってシニョンちゃん言ってたゴブ! もういっそ【森の追跡者(ストーカー)】でもいいから称号ほしいゴブ! スキル取るのにライフポイント10かかるからなあ……。


『チッ、しけた依頼受けやがって。神官と護衛の冒険者二人? いまごろどっかで野垂れ死んでんじゃねえの?』


『まあそう言うなって。死体でも見つけりゃ金になるんだ』


『そうそう、それにほら、もしどこかで生きててみろ。神官は女だぞ? ゴブリンの巣を潰す時、おまえも見たろ?』


『あの女か』


『そうそう、だからよ、もし生きてて、しかもアイツらだけだったら……』


『ああん?』


『街まで送ってやる前に、ちょっとぐらい楽しんだっていいだろ?』


『チッ、そういうことかよ。腐ってんなオイ』


『おっ、そんなこと言っちゃう?』


『だからお前は三流なんだよ! 街に送ってやったらバレるじゃねえか! あの神官が生きてても、誰も見てねえ森の中で俺たちが見つけるのは死体だ、死体!』


 静かな森に、ゲラゲラと四人の冒険者の笑い声が響く。


 ……ニンゲンちょっとクズすぎませんかね! 俺まともなニンゲン見たことない気がするんですけど! ここひょっとしてファンタジー世界じゃなくて世紀末な世界ゴブか! おっぱいちゃん、ニンゲン怖くて当然ゴブ! むしろよくこれまで無事だったな!


 ニンゲンたちの会話にどん引きする俺。

 これじゃニンゲンもゴブリンも変わらないゴブ……。

 森じゃ冒険者も「男は殺せ、女は犯せ」っぽいゴブ……。

 あ、でもおっぱいちゃんがこれまで無事だったってことは、街ではそんなことないゴブな? ゴブリオ、元人間としてニンゲンが全部こうじゃないって信じてるゴブ! 信じてるゴブよ?


 とりあえず。

 ニンゲンたちが、俺たちのアジトとは違う方向に行ったことを確認して。

 俺は拠点に戻ることにした。

 シニョンちゃんとオクデラが待つ、拠点へ。



『ゴブリオさん、お帰りなさい』


「ゴブリオ、無事カ? ケガ、ナイカ?」


 木の上の拠点に帰った俺に声をかけてくるシニョンちゃんとオクデラ。

 ああうん、二人は純粋ゴブなあ。

 ほんと、そのままで生きていってほしいゴブ。


 思わず目を細める俺をキョトンと眺める二人。

 そんな二人はスルーして、俺はシニョンちゃんに話を切り出した。

 もう、延ばす余裕はなさそうだから。


『ニンゲン、捜す、ニンゲン、森、来る』


『えっと……ゴブリオさん?』


 通じなかったらしい。

 くっ、がんばれ、がんばれ俺!


『シ、シニョ、シニョン、捜す、ニンゲン、森に来る。たくさん』


 よし言えた!

 って名前呼ぶだけで緊張するってなんだよ! 俺、人間だった時はリア充じゃなかったのかよ!

 頭を抱えたくなるけど、そんな場合じゃない。


『そう、ですか……』


『シニョン、落ち着く、した。街帰る』


『……そうですよね、私がここにいたら、ゴブリオさんとオクデラさんに迷惑がかかりますもんね』


 俺が名前を教えて、シニョンちゃんはオクデラのことをオクデラって呼ぶようになった。

 オクデラは、尊敬するニンゲンに名前を呼ばれたってうれしそうにしてたっけ。

 シニョンちゃんが俺を治したって勘違いしてはじまった尊敬だけど。

 うつむいて手を震わせるシニョンちゃん。


『シニョン、街帰る。一緒いるなら、俺たちみんな、森出る』


『私のせいで、お二人が逃げることはないです……ここは、いい場所ですから』


 目のはじをそっと指で(ぬぐ)って、シニョンちゃんが言う。


『怖いです。怖いですけど、いつまでも、ゴブリオさんとオクデラさんに、甘えたままじゃ、ダメだって、迷惑、かけちゃいます、もんね』


 震えがひどくなって、シニョンちゃんは自分の両腕で自分を抱える。

 おっぱいがムギュッて潰されて谷間がヤバ……っていまはそれどころじゃなくて。


 俺は質問してみる。

 ずっと考えていたことを。


『シニョン。俺、【人族語】話せる。角隠す、街いる、おかしいか?』


 この世界は、剣と魔法のファンタジー世界だ。

 シニョンちゃんが言うにはエルフもドワーフも獣人も、ほかにもいろんな種族がいるらしい。


 だったら。

 だったら、ちょっとぐらいニンゲンと姿形が違っても、怪しくても、【人族語】が話せる俺は街に入れるんじゃないか。

 そう思ったんだ。


『俺、これかぶる。角と目、隠れて見えない。鼻と口だけ。【人族語】話せる。ニンゲンの子供』


 俺は、ニンゲンの服で作ったフード付きローブっぽいボロ布をまとった。

 シニョンちゃんとオクデラが寝静まった頃、こっそり作ってたものだ。

 出所はどこかって? うん、盗賊が着てた服をいただいてね! いやあ、死体の身ぐるみは剥がすもんだね! 今度は死体漁ったあとの処理に注意します! 目指せ完全犯罪! ヒュー、外道ゥー!


『ゴブリオさん、私を心配して、そこまで……ありがとうございます。でも、街には門番がいますから、顔を隠して入るのは難しくて』


 そう言って顔をあげるシニョンちゃん。

 一緒に行くって俺の言葉はうれしかったみたいだけど、目にはまだ涙が浮かんでる。


『川ある。俺、こっそり、街入る。シニョン、街で一緒なる』


 うまく説明できなくてもどかしい。

 でも、シニョンちゃんは俺の言いたいことがわかったみたいだ。


『それなら! 街に入っちゃえば大丈夫だと思います! 牙がある獣人さんもいますし、ゴブリオさんは清潔だから、鼻と口が見えててもゴブリンには見えません』


 シニョンちゃんは胸の前で手を組んで、目を輝かせる。

 清潔なら鼻と口が見えててもわからないって、ゴブリンどんだけ不潔なイメージなんですかねえ……。

 汚れてなくて臭いもしなくて清潔なゴブリンはいないってことか! そういえば里のゴブリンたちみんな薄汚れてましたわ! 顔を洗う習慣もないし歯も磨かないからヒドいもんでしたわ! しょせん鬼畜生! でもいまは感謝しとくゴブ!


『でも、でもゴブリオさんがゴブリンってバレたら、殺されるかも……人間は、怖くて、ヒドくて、わた、わたし、そんなことになったら』


 想像しちゃったのか、シニョンちゃんがまた震え出す。

 護衛のはずのヒゲ面のおっさんに騙されたことも、洞窟での盗賊たちの振る舞いも、シニョンちゃんにはよっぽどショックだったらしい。


『大丈夫。見つかる、ゴブリオ逃げる。俺、スキル【逃げ足】ある』


 優しい笑顔を浮かべて、いや優しいつもりなだけなんだけど、そっとシニョンちゃんの肩に手を置く俺。

 触っちゃったけどセーフだからね! エロい意味はないから! シニョンちゃんを元気づけるためでね? セクハラでもゴブったわけでもなくてね?

 シニョンちゃんはちょっと驚いたみたいだけど、俺を見上げて、うれしそうに微笑んだ。


『シニョン、街で言う。ニンゲン襲われた、怖い、故郷に帰る。シニョン、捜されない』


 冒険者たちが捜してるのは、シニョンちゃんが行方不明だからだ。

 無事だったってわかれば捜す必要はない。

 ついでにニンゲンに襲われて怖かったこと、信頼できる人がいる場所に帰るとでも伝えれば不自然じゃないし、街を出ても問題ないだろう。


『ゴブリオさんが一緒に来てくれる……私、がんばります。そうすれば、怖い人がいないところで、ゴブリオさんたちに迷惑をかけないで、生活できるんですから!』


 笑顔と上目遣いと組んだ手に潰されたおっぱい……あいかわらず破壊力高すぎゴブ! くっそ、よけい心配になるゴブ! お願いします運命神様、【受難】も称号も仕事しませんように! まあゴブリン連れて街を歩くだけでも【受難】っぽいけど!


 話は決まった。

 シニョンちゃんはまだニンゲンが怖いみたいだし、震えは止まってないけど。

 こればっかりはがんばってもらうしかない。


「ゴブリオ、ドウシタ? ニンゲン、怖ガッテル。何ガ怖イ?」


 あ、オクデラは留守番でお願いします。

 デカくて目立つし【人族語】喋れないからね。

 すまん、オクデラ!


 心配してついて来ようとするオクデラをなんとか説得して、拠点で隠れて留守番してもらえるよう納得してもらって。

 シニョンちゃんと俺は、街に行くことになった。


 ヒャッハー、異世界で初めての街! しかもシニョンちゃんのガイド付き! あ、あれ、これ、二人っきりで街を歩くって、これ、コレひょっとしてデートってヤツ?

 ゴブリオ緊張してきたゴブ! でもでも元人間の意地を見せてやるゴブ!

 違う違う、デートとか言って浮かれてる場合じゃないから! ファンタジー世界で初めての街でやることいっぱいあるから! ちゃんと気を引き締めろゴブリオ!


 目の前で、いまも微笑んでるシニョンちゃんを見つつ自分に言い聞かせる俺。

 ぐっと拳を握って気合いを入れる。


 ……と、ところで、初デートって何するものゴブ? て、手を繋いだりするゴブな? オシャレなお店で一緒に服を選んだり?

 あ、俺ゴブリンでした! 一緒に服を選ぶってローブ脱いだらすぐゴブリンってバレますわ! 緑色の肌もできるだけ隠した方がいいゴブな!

 あれ、すぐバレそうな気がするんだけど気のせい? シニョンちゃんこんなところで天然発言してないゴブな? ゴブリオ不安になってきたゴブ! 信じてるからねおっぱいちゃん!




説明回が続いてもアレですし、進めながら説明入れてくことにしました。

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