第二十三話 ついに俺ことゴブリオは雑魚ゴブから強ゴブに生まれ変わ……あれ?
『種族を選択してください』
無機質な女性の声に導かれて、俺は謎の空間で種族を選んだ。
ライフポイント、というヤツを消費して。
選べる種族は、ゴブリンと俺が倒したモンスターだけっぽい。
しかも倒したモンスターの方は必要ライフポイントが多くて、ノーマルな雑魚ゴブリンぐらいしか選べなかった。
ああうん、ゴブリンベイブとかベビースライムとかあったけどね! 雑魚ゴブより弱くなるとか生きていける気がしないゴブ! だいたいベイブかベビーかどっちかに統一しろよ! せめてゴブリンリーダーが選べれば! グレーな文字はなんで選べないゴブ! 倒してないから? ハードル高すぎィ!
薄暗い空間に俺のツッコミが虚しく響く。
気を取り直してタブレットみたいなスクリーンを見る俺。
左側にはゴブリンの文字が輝き、右にはリアルな姿形が映ってる。
うーん、いまの俺とあんまり変わらない? そりゃそうだ、ただのゴブリンだからね! いまの俺と同じ雑魚ゴブゴブ! 鬼畜生!
ゴブリンの文字をタップしたら、画面にはYES・NOの選択肢が出てきた。
迷うことなくYESを押す俺。
画面が一瞬暗くなる。
さあ次だ! まさかこれで終わりじゃないゴブな? ステータスとかスキル選択があるはずゴブ! あるって信じてる! チート、チートくれえ!
薄暗い空間に、また無機質な女性の声が響く。
『スキルを選択してください』
……。
…………。
ヒャッハー! スキルセレクトゴブ! ステータスの数字をイジれないのかちょっと気になるけど、それよりこっちの方が大事ゴブ!
きっとあるよねチートでおなじみ【鑑定】様! それともシンプルに【獲得経験値倍増】系ゴブか? それか強キャラになるってことで【獲得ライフポイント倍増】かも! おっと、【暴食】とか七つの大罪的なスキルも捨てがたい!
ワクワクしながらスクリーンに目を向ける。
ついに俺の時代が来るゴブ! チートゴブリン! 王国でも作るゴブか? ゲギャギャッ!
そこには、ずらりとスキルが並んでいた。
目を輝かせながらスクロールする俺。
剣術、槍術、弓術、棍術、杖術、盾術なんかの武器系スキル。
うん、アニキは棍術持ってたゴブなあ! モンスターもニンゲンも倒した俺はけっきょく獲得できなかったけど!
あれ、スキルってひょっとして生まれつき?
いつからスキルがあったかアニキに聞いとけば……あ、アニキがスキル見られるようになったのって俺と会ってからだわ。うん、聞いても意味なかったわ。
画面をスワイプしてスクロールを続ける俺。
とりあえずざっとぜんぶ見てから何を取るか考えるゴブ! どうせまたライフポイントとか消費して……あ、残り10しかない。
こうなったらチートスキルを見つけ出してやる! 一見使えなさそうなスキルでも、工夫次第でスライムもゴブリンもスケルトンも蜘蛛も何だって最強になれるゴブよ!
さあ来い【鑑定】! あるゴブな倍増系スキル! 大罪とか美徳系のスキルもいいゴブなあ!
スクロールを続ける俺。
スキルは膨大な数があるみたいだ。
スクロールを続ける俺。
武器系スキルのほかに、俺も持ってる【夜目】もあった。
スクロールを続ける俺。
おっ、耐性系スキルもあるゴブ。余裕があったら取りたいけど、チートスキルが先ゴブ!
スクロールを続ける俺。
おお! 【魔力感知】とか【魔力操作】に各種属性魔法! 魔法系もいいゴブなあ!
スクロールを続け……止まった。
……。
…………。
鑑定も倍増系も七つの大罪みたいなヤツもないゴブ! これちょっとどうなってるんですかねえ神様! チート、俺にチートをください!
ステージみたいな場所にヒザをついてうなだれる俺。
スキルに期待してた分、ショックはデカい。
あと、気づいてたけど考えないようにしてたことがある。
スクリーンの左側がスキル一覧。
右側はほとんど空欄で、上の方にいくつかスキルが書かれていた。
たぶんゴブリンが元々持ってる種族的なスキルだろう。
【夜目】【ゴブリン語LV2】。
それだけ。
……神様ァ! 大変お世話になってきた【覗き見】と【逃げ足】どうなったんすか! 覗き魔特化のスキル構成とか言ってごめんなさい! これじゃ弱体化しちゃうゴブ!
頭を抱えてゴロゴロ転がる俺。
しばらく転がって、立ち上がった。
うん、切り替え切り替え! なければ取ればいいゴブ! レッツポジティブ!
一番下に来ていたスキル欄をまたスクロールする俺。
あった、【逃げ足】! あれ?
その隣の《必要ライフポイント:LP》には、数字が入っていなかった。
これ、ひょっとして。
スキル【逃げ足】を選択する俺。
ゴブリンを選んで10になってたライフポイントは減らなかった。
これ、もしかして。
続けてスキル【覗き見】を探し出して選択する俺。
やっぱりライフポイントは減らない。
他のスキルだと減るか、そもそもライフポイントが足りなくて選べない。
おおおおお! わからない、まだわからないけど! ひょっとして俺、一度取ったスキルは次回持ち越しできるのか!? だとしたらめっちゃチートだろコレ! ライフポイント溜めていろいろスキル取ればどんどん強くなっていくゴブ!
……いやまだ油断できないよ?
ゲームなんだか神様なんだかわからないけど、今まであんまり俺に優しくなかったからなあ。
必要ライフポイントから考えると俺の基本種族ゴブリンっぽいし! どういうことだよ! そんなに俺をゴブリンにしたいゴブか!? ゴブリンがお似合いゴブか!?
考えても答えは出ない。
無機質な女の人の声も答えてくれない。
たぶん、もう一回死んだらわかるけど。
……と見せかけて、次は本当に死んだり? そんな鬼畜なことはないって信じてるゴブよ? 鬼畜は俺だけど! ゴブリンだからね! 鬼畜生!
考えてもわからないし、質問しても無機質な声は反応しない。
これほんとクソゲーゴブ。
あとスキル取るのに必要ライフポイント多すぎゴブ。
武器スキルはどれも10LPいるってどういうことすか。
というか武器も耐性系も魔法も10LP以上ってどうなってるゴブ。
他のスキルも基本10LPからって……。
これじゃ一つ選んだらライフポイント0ゴブ!
どんな意味があるかわからないし、溜め方もわからないしゼロは避けたい。
せっかくスキルは次回持ち越しっぽいのに、テンション下がるゴブゥ……。
スキル欄をスクロールしながら、片っ端から数字をチェックする。
そもそもスキルLVもイジれないんすか。
これじゃいままでと同じゴブリンで、いままでと同じスキル構成ゴブ……。
と、俺の目に、必要LPが10以下のスキルが目に入った。
とあるジャンルのスキルは、一つ5LPで取れる。
……そうだ! これ系のスキルはLV1じゃたいしたことないって俺知ってるゴブ! 10いらなくても当然かも! でも、でも! これがあれば!
俺は、迷わずそのスキルを選択した。
ライフポイントを5消費して。
【人族語LV1】。
これが、これがあれば! ニンゲンと会話できるゴブ! オクデラみたいに上手くしゃべれない感じかもしれないけど、そんなことどうでもいい! ニンゲンと会話できれば! おっぱいちゃんと会話できれば!
そこまで考えて、気がついた。
これ、どこからはじまるゴブ?
種族はゴブリンだし、また森の中から?
そもそも前と同じ世界なのか?
それかセーブポイントっぽい場所? そんなのなかったけど。
それともひょっとして、俺が死んだ場所から?
考えたところでわからない。
わからないことだらけだ。
でも。
もし、さっきまで俺がいた世界と同じなら。
もし、時系列にあんまり違いがないなら。
たとえ遠く離れてても、俺は。
ぜったいに、会いに行こう。
オクデラに。
……も、もちろんゴブ! 純情ぼっち弱気オークで【鈍感】で【ED】なオクデラを放っておけないゴブ! 合流して一緒にアニキを探したり帰りを待とうなオクデラ! 本当にそう思ってるゴブ! 本当ゴブよ?
うん、またゴブリンになるなら、やっぱりオクデラにもアニキにも会いたいなあ。
それと……。
待っててねおっぱいちゃん! 俺、【人族語LV1】ゲットしたから! これでおっぱいちゃんにありがとうを言えるゴブ! 謝らなくていいんだって言えるゴブ! あ、やべ、いまから緊張してきた! そうだね俺って【森の臆病者】だからね!
あ、称号ってどうなるんだ?
とりあえずスキル選択画面に出ていたYESをタップする。
続けて、スキル選択を終了しますか? YES・NO、と出てきたのでまたYESを押す。
ライフポイント残り5だからね! 他の言語スキルなら取れるけどLPゼロになっちゃうから! スキルセレクトはこれで終了! さあ次ゴブ! ステータスかな? 称号も選べるゴブな?
スクリーンと、ステージの光がだんだん暗くなっていく。
「え、ちょっと、称号の件はどうなってるゴブ! ステータスは! STRとかINTとかないゴブか!? INTは期待できなさそうだけど! 俺ゴブリンだから! いまそれはどうでもよかったゴブ! あとほらスタート地点を選んだりとか!」
俺の叫びも虚しく、薄暗い空間はどんどん暗くなっていく。
死んだ時みたいに、だんだん頭もぼんやりしてくる。
え、ちょっと、無機質な女の人、なんか合図ないゴブか! 「リンクスタート!」とか! 「さあ、旅立ちなさい!」とか! なんかもうちょっと欲しいゴブ! 味気ないゴブ!
……俺、次もただのゴブリンゴブ。
せめてちょっと強いゴブリンになれると思ったのに……。
儚い夢だったゴブなあ。
人の夢と書いて儚いゴブなあ。
俺ゴブリンだけど! 人じゃないけど! 鬼畜生! ゲギャギャッ!
■ ゴブリオ
【種族】
ゴブリン
【ライフポイント】
5
【スキル】
夜目、ゴブリン語:LV2、覗き見、逃げ足、人族語:LV1
【称号】
森の臆病者