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第二十二話 オクデラ、俺、チート持ちだってよ。死んでからチートってちょっと遅いゴブ!


 視界がだんだん暗くなって、音も聞こえなくなってく。

 頭もぼんやりして……。


 俺は死んだ。

 オクデラと、おっぱいちゃんに見送られて。


 ……あれ? んじゃいま考えてる俺は誰なわけ? 考える、ゆえに(われ)ゴブ?


 そう思って、俺は目を開ける。

 俺は真っ暗な場所にいた。

 たぶん目は開いている。

 仕事しろよスキル【夜目】! あ、死んでるからスキルとか関係ないか! 俺、死んでるから! ハハッ!


 俺はたしかに死んだと思う。

 だからここは、死後の世界ってヤツなんだろう。


 さて。

 ニンゲンは死んだらどうなるのか、ついにそれを知る瞬間がやってまいりました!

 まあ俺、最期はゴブリンだったけど! ついでに異世界っぽい場所だったけど! こまけえこたあいいんだよ!


 俺はむっくりと起き上がる。

 暗闇の中だけど、たぶん立ったと思う。

 これから天国とか地獄とかに送られるのか、それとも黄泉の国か、それか輪廻転生的な、リインカーネーション的なアレがはじまるのか。


 あ、やべ、俺けっこう外道なことやってたわ! 盗みと殺しなんてたいがいの宗教で禁じられてるゴブ! き、緊急避難だから! それに俺が殺らなかったら善良なおっぱいちゃんがヤラれてたし! 餓鬼道も畜生道も勘弁してください! あ、俺ゴブリンでしたわ! もう鬼畜生でしたわ! ゲギャギャ!


 いまさらジタバタする俺は、気がついた。

 ジタバタする足も、俺の手も、緑色の肌だってことに。


 ……ゴブリンじゃんね。

 これファンタジーに出てくるゴブリンじゃんね。

 あれ? こういう魂だけの空間って、本来の姿になるもんじゃないの? 俺、元ニンゲンゴブ? ゴブリンじゃないゴブよ?


 そこまで考えて、また気づいた。

 真っ暗だったはずなのに、手も足も見えてる。

 どこかに光源があるらしい。

 振り返った俺が見たものは。


 ステージみたいな円形の床だった。

 円のフチと、内側の線がぼんやり薄緑に光ってる。

 なんかグリッドみたいに。

 ステージの中央には透明のスクリーンが浮いていた。


 ……。

 …………。

 なんすかコレ……。


 おそるおそるステージに上がってみる俺。

 何の反応もない。

 覚悟を決めて、ステージの中央に向かう。

 ゴブリオオンステージゴブ! ゲギャギャッ!


 空元気が虚しい。

 目の前にはタブレットサイズのスクリーンが二つ。


 スクリーンの下を見る。

 うん、台座はない。

 スクリーンの後ろを見る。

 宙に浮いてる。

 ハンドパワーゴブ! あ、そもそもよくわからない空間でした!


 おそるおそる、スクリーンに指先を伸ばす。

 と。


『種族を選んでください』


 無機質な女性の声が聞こえてきた。


 ……。

 …………。


「え? はい? パードン?」


『種族を選んでください』


 あ、パードンに反応してもう一回言ってくれたんすかね。ありがとうございます。


 ……。

 …………。

 ちげえし! そういうことじゃねえし!

 え、なにコレ! 最近の輪廻転生は種族を選べるんですね! うわあ、便利だなあ! 今度はどんな種族にしようかなあ、ずいぶん悪いことしたし、次はやっぱり虫かなあ。


「ってちげえし! そんなわけねえし! え、マジで、なにコレ?」


 俺の疑問に答える声はない。


 あの世界でゴブリンとして生きてきて、おかしいとは思ってた。

 スキルとか称号なんてものがあるし、しかも日本語表記だし。

 森にいたけど不快な虫はいなかったし、食物連鎖だって変だった。


 まるでゲームみたいな世界だなって思ったことは確かだ。

 VRMMOみたいだって。

 でも、うん、生理現象はあるし、それはないだろって考えたわけだ。

 どんなにおかしな世界でも、ここで生きてることは間違いないだろうって。

 で、コレだ。


 あの、コレ……。

 キャラメイキングじゃないすか?

 ゲームスタート時の。


 ……。

 …………。

 ヒャッハー! 次はゴブリン以外を選んでやるぜ! やっぱりニンゲン、あ、でもエルフとかファンタジー種族も捨てがたい! あるかどうかまだわからないけど!


 これがゲームかどうかって?

 考えたってわからないんだし、答えが出ないことを考えたってしょうがないんだよ! わかってんのは種族を選べるってことだけ! 切り替え大事! レッツポジティブ!


 俺は半透明のスクリーンにタッチする。

 左側には種族がずらっと並んでいた。

 右にはご丁寧にその種族の姿形が映っている。

 おおおおお! ハイテクゥ! これマジでゲームなんじゃないの? 俺、気づいたら異世界じゃなくて近未来にいた? とりあえずデスゲームじゃないっぽいから問題ないゴブ! 復活復活!


 左側の種族を見る。

 ゴブリンベイブ1、ゴブリン1、ゴブリンリーダー10、ゴブリンシャーマン20、ゴブリンヒーラー20、ゴブリンジェネラル200……。


 ゴブリン地獄ゴブ! いやいやいやそんなわけないから! 俺がゴブリンにしかなれないなんてそんなことあるわけないゴブ! だって俺、体はゴブリンでも心は立派なニンゲンゴブよ!


 ゴブリンの種族名っぽいものがずらっと並ぶ。

 ゴブリンベイブとゴブリン以外はグレーの文字だ。

 横には、数字が入っていた。


 コレ、何ゴブ?

 半透明のスクリーンの上の方を見る。

 種族の欄の一番上には、《種族名》と書いてあった。日本語で。

 うん、さっきっから言葉も文字も日本語だけどね! マジコレどうなってるゴブ!


 数字の欄の上にあったのは、《必要ライフポイント:LP》の文字。

 は? ライフポイント? 何のことゴブ?


 左右のスクリーンをじっくり眺める。

 種族の姿形が映る右側のスクリーンの一番上に、その数字があった。

 ライフポイント:11。


 ……。

 …………。

 死んだらここに来た。

 わーい、生まれ変われるんだー、とか思ってた。


 でも。

 ライフポイント? え、なにその残機っぽい響き。これ、ひょっとしてゼロになったら死ぬ感じ? それで、必要ライフポイントってことは種族選ぶのに必要な感じ?


 あー、はいはい、弱い種族ほど必要ライフポイントが少ないゴブな。

 強いのを選んでもいいけど、そうすると残機が少なくなる感じゴブな。

 はいはい、なるほど。


「って納得するかおいいいいい! ライフポイントってなにゴブ! え、これマジでゲームゴブか! こういうのは神様的な存在とか妖精っぽい説明キャラとか必須ゴブゥ! チュートリアル、マジでチュートリアルをしてください! 無機質な人、答え、答えください!」


 ジタバタ地団駄を踏んで、ゴロゴロ転がる。

 変化はない。

 無機質な声の答えもない。


 うん、ひとしきり暴れて落ち着いたゴブ。

 切り替え切り替え。レッツポジティブ!

 だいたいまだあわてるような時間じゃないゴブ!

 この左の種族一覧、ゴブリンだけで終わるわけないゴブ! 終わらないって信じてるゴブ!


 左の画面をスクロールしていく。

 うん、スワイプしたら普通に動いたゴブ。

 もうコレ何なんだよ……オクデラ、ボクもうツッコミ疲れたゴブ……。

 天使は現れない。

 うん、知ってた。オクデラもいないし。ペット扱いしてすまん。


 ずらっと並んだゴブリンの欄が終わる。チラッと目に入ったゴブ神とかはスルーする。

 次に現れたのは、スライムだった。

 例によってずらっと。


 でも、ゴブリン同様に、ベビースライムとスライム以外は文字がグレーになっている。

 試しにイエロースライムをタップしても、右側に姿は映らない。

 グレーなのは選択不可ってことなんだろう。

 ゴブリンリーダー10も試してみるけど、右側に姿は映らない。

 ライフポイントは足りてても選べない。


 考えられるのは……。

 俺は、種族の欄をどんどんスクロールしていく。

 あった! ってことは、やっぱりそれが有力っぽいゴブなあ。


 白い文字で書かれたモンスターが見つかった。

 ホーンラビットと、ソードディア。

 俺が、一角ウサギと剣シカって呼んでたモンスターだと思う。

 コイツらは白い文字。

 これたぶん……俺が、倒したモンスターだけ選べるゴブ? ライフポイントってのが足りてるかどうかは別として。


 じゃあ。

 じゃあ!


 種族欄をガンガンスクロールしていく。

 ゴブリンになった俺が倒したのは、スライム、一角ウサギ、剣シカ。

 うん、剣シカは倒れてるところにトドメさしただけだけど。

 でも、倒したのはそれだけじゃない。


 そして俺は、見つけた。

 それを。

 なりたくてしょうがなかった、その種族を。


 普人族。


 たぶんこれが、ニンゲンだ。


「よっしゃああああああ!」


 これでニンゲンになれるゴブ! 文明的な生活もできるゴブ! 知りたいことはニンゲンに聞けるゴブ! あの街にも入れるゴブ! おっぱいちゃんと話せるゴブ! は、話すどころかあんなことやこんなことをしちゃったりなんかしたりして……ゲギャッ。

 ああうん、スタート地点がどこになるか、何才になるかもよくわからないけどね!


 俺は、必要ライフポイントを確かめる。


 1,000,000。

 100万ライフポイント。


 いまの俺のライフポイント、11。


 ……。

 …………。

 いやあ、惜しかったゴブなあ! あと999,989ライフポイント足りないゴブ! 残念残念! あれ? コレひょっとして、死んだらまたこの場所に来られるゴブか? じゃあ次はニンゲンになれるようにがんばらないと! いやあ、惜しかった! 今回は残念ゴブ!


「ってなるか! 100万って何ゴブ! 5ケタ違うゴブよ! ライフポイントってどうやって溜めるゴブ! 目標遠すぎゴブゥ……」


 がっくりとひざまづく俺。

 期待してただけにショックはデカい。


 それと、気づいてたけど考えないようにしてたことがある。

 スライム20、ホーンラビット50、ソードディア200、ニンゲン100万。


 うん、選択肢がベビースライム10かゴブリンベイブ1かゴブリン1しかないゴブ!

 そうだ、ゴブリンリーダーは10だった!

 と思ったけど、ゴブリンリーダーを押しても反応しない。

 グレーの文字の種族は選べないらしい。

 ベビースライムってきっとアレゴブ、森で俺が蹂躙したくっそ雑魚ゴブ! ……ひょっとしてチート生物な可能性も? いやいやたっぷり蹂躙したゴブ! そんなことないはず! たぶん! ビュッ、ビュッ、ビュッ!


 あとなんすかコレ! ゴブリン系の必要LP少なすぎませんか! あっ、ライフポイントのことLPって略しちゃった! 俺もうこの謎システムにすっかり馴染んでるゴブ! ハハッ!


 ……ゴブリンじゃんね。

 これもうゴブリンしかないじゃんね。

 俺、次の人生でもゴブリン一択じゃんね。

 ああうん、人生じゃなくてゴブ生だけどね! ハハッ! おっと間違えた、ゲギャギャッ!


 あ、とりあえずゴブリン1を選択しました。

 ゴブリンベイブってぜったい赤ちゃんゴブ! だいたいなんでスライムはベビーでゴブリンはベイブなんだよ! 統一しとけ!


 ……はあ、また雑魚ゴブスタートゴブ。

 でも! 気を取り直して! ゴブリオ知ってるゴブ! 次はお待ちかねのステータスとスキルでしょ? この選択でチートしてやる! 強ゴブゴブ! ゲギャギャッ!


■ ゴブリオ

 【種族】

  ゴブリン

 【ライフポイント】

  10

 【スキル】

  夜目、ゴブリン語:LV2

 【称号】

  森の臆病者(チキン)


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