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第十九話 つまり俺は、奴らにとってのゴブリンだ。うん、知ってた!


 準備は整った。

 準備っていうほどのこともないんだけど! 森で作った原始的な道具しかないし! 俺の武器なんて小石を布でくるんだブラックジャックと一角ウサギの角の槍と錆をとったナイフだけだし!


 森から、崖の裂け目の前にいるニンゲンを【覗き見】する。

 見張り役のニンゲンは、陽が落ちてきて薄暗くなる森を退屈そうにぼーっと見てた。


 うん、コイツらもバカだと思う。

 もしニンゲンを警戒してるなら、見える場所に見張りを置くのはおかしい。

 裂け目の中に隠れて外を覗いてれば、ニンゲンは気づかないで素通りするかもしれないのに。

 モンスターとか獣だったら、隠れてても気づかれる時は気づかれるだろうし。


 どっちにしろ他から見える場所に見張りを置く意味はない。

 たぶん。

 ホントのところはわかんないけどね! 俺ゴブリンだし! こっちの常識とか知らないゴブ! バカだろうって希望ゴブ!


 仲間を呼ばれないように見張りを倒す手段も考えた。

 あとは、俺の覚悟だけ。

 元人間が、ニンゲンを殺すKAKUGOだけ。

 ……まったくためらいありませんわ! だってコイツ、さっき田舎の若者にガンガン矢を射ってたもの! ゲラゲラ笑ってたクソニンゲンですもの!


 だいたい、ゴブリンはニンゲンの男を見つけたら殺そうとするのが当然だ。

 逆にニンゲンは、ゴブリンを見つけたら殺そうとしてくる。


 つまり奴ら(ニンゲン)は、(ゴブリン)にとってのゴブリンだ。

 そして(ゴブリン)は、奴ら(ニンゲン)にとってのゴブリンだ。


 うん、当然ゴブ! 俺ゴブリンだからね! 決め台詞っぽく言おうとしてよくわからなくなってきたゴブ! こまけえこたあいいんだよ!


 【覗き見】するのを止めて、俺はガサガサ音を立てて森を歩く。

 見張りのニンゲンに見つかるように。

 はぐれゴブリンが、ふらふら一匹でいると見つかるように。

 うん、だいたい合ってるゴブ! でも俺ぼっちじゃないから! オクデラがいるから! オークだけど!


『**、******。*****……********』


 ぼそっと呟いて、ニンゲンがこっちを向く。

 右手で剣を持って。


「ゲギャギャッ! こんなところにニンゲンがいるゴブ! 男は殺せ! ヒャッハー、お祭りゴブ!」


 演技! これ演技だから! バカなゴブリンっぽいフリしてるだけゴブ! ほーら、ぼくかしこいごぶりんじゃないよ! ゲギャギャ!


 右手にはわざと細い木の棒を持ってる。

 叩いたら折れそうで、武器にもならなさそうな木の棒を。

 そんで、わざとたどたどしく見張りのニンゲンに向かっていく。


 頭が悪そうなはぐれゴブリンが一匹。

 こんなヤツを見かけたからってニンゲンが仲間を呼ぶわけない。

 これで助けを求めたら味方なはずの盗賊たちはぜったい爆笑するゴブなあ!


 バカなゴブリンのフリをして、細い木の棒を持って近づいてく。

 ニンゲンは、やれやれ、と面倒そうな様子で剣を振りかざした。


 いまだ!

 わざとドタバタ走ってた俺は一気に加速する。

 うん、普通に走っただけなんだけど! でも元人間が本気出したらバカな雑魚ゴブリンより足が速いゴブ! 俺を舐めてたなニンゲン! 俺ゴブリンだけど中身はゴブリンじゃないゴブ!


 はぐれゴブリンをナナメに斬ろうと、振りかぶったニンゲンのすぐ横を駆け抜ける。

 途中で、剣を振りかぶってたニンゲンの脇の下を、左手に隠し持ってたナイフで斬って。


『***、******!』


 うん、思ったより深く入ったゴブ! たしかに皮鎧で守られてないところを狙ったけど! ありがとう元錆びたナイフ! やっぱり死体漁りはするものゴブ!


 突然変わった俺の動きと、けっこう勢いよく出る血に驚いたのか、動揺するニンゲン。


 はいチャーンス!

 横を駆け抜けた俺は、剣を落として斬られた腕をおさえるニンゲンに向けて、ブラックジャックを構える。


『**、**!』


 ニンゲンは腕で頭を守ろうとしてるけど、甘いゴブ!


 小石をくるんだ布を長く持って、思いっきり振り下ろす。

 ニンゲンが顔の前に掲げた腕より、はるかに上から頭を襲うブラックジャック。


 俺の狙い通り、ニンゲンの頭にヒットする。

 ニンゲンが倒れて。


 俺は、ナイフを首に突き刺した。


 一匹だけのはぐれゴブリンだと思って油断してるからこうなるゴブ! まあ油断して当然か、バカなゴブリンだと思わせてたし! 俺マジ初見殺し! モンスターと獣には通じなさそうだけど!


 ……あれ、そういえば。

 ニンゲンを殺したのに、思ってたよりショックがないんですけど。


 ……俺マジで心までゴブったゴブか!


 うん、まあショックを受けないのは良しとしよう。

 まだ目的を果たしたわけじゃないから。


 よし、この剣は使えるな。

 弓矢もゲット! コイツが矢をケチらなかったらめんどくさいことになってたゴブ! ちゃんとプランBもあったけどね! 俺が気を引いて、後ろからオクデラが突っ込んでくる感じの!

 それにしても俺、自然に死体漁りしてんな! 前にゲットした物が役立ちまくってるからしょうがないよね! お、デカめのナイフもゲット!


 やっぱりニンゲンを殺したことで動揺してるんだろうか。

 いつになくテンションが高……あ、いつもこんな感じだった気がするゴブ! ハハッ!


 ニンゲンの死体を脇に寄せて、横目でチラチラ崖の裂け目を【覗き見】ながら死体漁りをする俺。

 といってもいつもみたいに身ぐるみは剥がないゴブ! 俺、優しいからね! ホントは時間がもったいないだけだけど!


 崖の裂け目から、盗賊もヒゲ面のおっさんも出てくる様子はない。

 俺は森に隠れてたオクデラに合図を送って呼び寄せる。


「オクデラ、ホントにいいんだな? この先は危ないぞ?」


「オデモ、行ク。サッキモ、言ッタ。ゴブリオ、仲間ダカラ」


 おおう……ニンゲンを殺した俺をそんなピュアな目で見てくれるのね……ありがとうオクデラ! あ、でも俺たちゴブリンとオークだったゴブ! むしろ雑魚ゴブリンが一対一でニンゲン殺したら尊敬されるか! ハハッ!


 武器にできそうな物は俺がいただいて。

 時間があれば皮鎧を改造して俺の防具にしたり、オクデラの盾を強化できそうだったけど、それは諦めて。



 俺とオクデラは崖の裂け目に足を踏み入れた。


 日は暮れて森はだいぶ暗くなってきた。

 裂け目の中は暗い。


 でも。

 俺とオクデラにとってはその方がいい。

 こっちはスキル【夜目】があるからね! そういえばゴブリンより格上のニンゲンを倒したのにスキルも称号も変わってないんですけど! そこんとこどうなってるんですかねえ神様!


 崖の裂け目、もう洞窟でいいや。

 洞窟は入り口だけが狭かった。

 俺はちょっと狭いぐらいで、オクデラは体を横にして何とか通れるぐらい。


 狭い入り口を抜けると、中は通路のようだ。

 通路はオクデラも普通に歩けるぐらいの広さだった。


「下の方に置いてある明るい石は何なんだろ……アニキがいれば教えてくれたかもしれないのに」


 通路には光る石が点々と置かれていた。

 うん、ファンタジー! あれかな、なんか魔法的なアレで光ってるのかな? 文明の利器! くっ、ニンゲンの知識が欲しいゴブ! せめてスキル【ニンゲン語】があれば!


 洞窟の奥からは、バカみたいな笑い声と若者の悲鳴が聞こえてくる。

 それでも焦らないように、音を立てないように、ゆっくり進む俺とオクデラ。

 もちろん光る石は壊していく。

 意外ともろいのか、木の棒で軽く叩くだけで、カシャッと小さな音を立てて壊れる光る石。

 何個か、持ってきた皮袋の中にしまったのはナイショだ。立派な窃盗犯ゴブな!


 通路は徐々に暗くなっていく。

 スキル【夜目】がある俺とオクデラには問題ないゴブ! ニンゲンたちに【夜目】がないことを祈ってるゴブ! でも明かりを使ってるってことはないっぽいゴブなあ! チャンスゴブ! ゲギャギャッ!


 ゆっくり、静かに洞窟を進む俺とオクデラ。

 ゆるやかなカーブの先に明かりが漏れていた。


 手を上げてオクデラを止める。

 あの先に残り五人の盗賊とヒゲ面のおっさん、捕まった二人がいるんだろう。


 身を低くして、そろりそろりと進む俺。

 カーブの先をそっと覗き込む。

 覗きなら任せておけ! こちとら覗き魔特化のスキル構成ゴブよ! 役立ちまくりだぞスキル【覗き見】!


 そこで俺が見たものは。


 手を縛られてそれぞれ岩に繋がれた、田舎の若者と聖職者の女の子だった。


 若者は、体にナイフが二本突き立っている。

 下にナイフが落ちてるのは、外したんだろう。

 たぶん、ナイフを投げて遊ぶゲームで。


 う、うわあ、コイツらどん引きゴブ! ゴブリンより鬼畜ゴブ! おっぱいちゃん号泣ゴブよ! これじゃどっちがモンスターかわからないゴブ!

 目にした光景に引く俺。

 この世界のニンゲン、ちょっとタチ悪すぎませんかねえ。鬼畜ゴブ! 鬼畜はゴブリンな俺だけど! ハハッ!


 動揺を抑えて、視線をちょっと横に向ける。

 そこにいた盗賊の男は投擲の準備をしていた。

 ナイフ、ではない。

 手斧を。


 えっ、それ当たったらシャレにならなくない? え、マジで? は?

 目を丸くする俺の前で、手斧は投げられた。

 盗賊どもはめっちゃ盛り上がって、女の子の悲鳴が響いて。


 手斧は、田舎の若者の頭を割った。


『****、*****!』

『**、***!』


 ゲラゲラと盗賊とヒゲ面たちが騒ぎ出す。

 いま手斧をヒットさせた男が立ち上がる。

 スタスタとおっぱいちゃんの前に行って。

 襟口に手をかけて、ビリッ! と服を破った。


 あらわになる白い肌。

 破れた服がバッと左右に開かれてむき出しになるおっぱいちゃんのおっぱいちゃん。

 悲鳴を上げるおっぱいちゃん。


 考えてた作戦はどこかに飛んでいった。

 気づけば俺は、開けた空間に侵入して、真ん中に重ねてあった光る石にブラックジャックを叩き付けていた。


 部屋が暗くなる。

 状況を確かめたら、本当は音でも立てて何人か釣り出して、各個撃破するつもりだったんだけど。

 作戦が台無しだ。


 でも。

 後悔は、していない。


 男は殺せ! 女は犯せ! ヒャッハー、今日はお祭りゴブ!

 あ、間違えた、コレじゃないゴブ! いまのなし、なしで! セーフ、口に出してないからセーフゴブ!


 助けに来たよ、おっぱいちゃん!





序盤の決め台詞とサブタイで悪ノリすいません……

あ、タイトルの『サバイバー』からして悪ノリでしたわ!w

許してください!ちゃんとぜんぶ買ってますから!

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― 新着の感想 ―
あいつらはオレたちにとってのゴブリンで、オレたちはあいつらにとってのゴブリンで、つまりゴブリンゴブと、ゴブゴブリンってことゴブ!!そういうことゴブ!!
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