白の世界で
「いないぞ・・・おい俺どうした俺。」
傍から見たら変人だが、呟かないとやっていけない。そもそも人自体居ないのだ。
防寒用に二重になった扉を押し開け目に見えるのは雪。雪とはいえ、どか雪と表現してもおかしくない量が降っていた。
幸い風はない。
だが、視界は白い固まりにて埋め尽くされぶっちゃけ何も見えない。
そしてもう一つ。
迎えが来ない。
以上・一時間前の状況。
「寒い。」
駅前の円形広場をぐるぐる徘徊するのも飽きた。
駅構内に戻るが、これから先はあまり乗客が来ないとのことと貴重な人工石油の節約のため暖房が切られていた。
暇な上寒いがやることが無い。
命令書でも読み返そう。
『篠山 雅殿
陸上自衛軍第七師団戦車・戦車護衛兵混成団所属の特務を解き、兵籍を学兵へと返還。210中隊指揮官として転任を命ずる。』
雅は先の九州撤退戦にて壊滅した第十七中隊の生き残りだ。
百翼長なんて中途半端に位置だったことが災いして、強制というか推薦されたというか自衛軍に入隊してしまった。単に軍に勝る就職先が無かっただけだが。
何の因果か二十歳のくせに教官職になってしまった。そして増えた学徒兵を片っ端から編成していった結果、小隊数がバカに増えてそれをまとめ上げる中隊の数も比例して跳ね上がった。
貴重な実践経験を伝授したのだからそう簡単にくたばる部隊にはなっていないな、と親心を持つ一方、貴重な学生という時間を奪った自衛軍を憎んでもいた。
香織や紫苑は死ななければそれなりに幸せな生活を後れただろうに・・・・・・
―ぐぅぅぅ
柄にも無い考え事をしていたせいか、腹が減った。
時計は十一時頃。
後で出迎えをたっぷり絞ってやるとして今は食欲に従おう。
駅前の立ち食いそば屋。
温まる。たぬきそば卵付きネギ多め320円を啜りつつ左の小窓を眺めた。
未だに白い固まりが窓にぶつかり続けている。
「時間を勘違いしているのか?」
『相手』がだ。
田舎とはいえここまで時間にルーズなのは困る。
「ご馳走様。」
「あいよ。あんた学生かい?」
「・・・ええ、まあ。」
『学生かい?』
ぐさりと来た。
自衛軍は姑息なことに、激戦地にいる学兵の学籍を凍結した。つまり年齢に関わらず九州撤退戦に参加していた学兵はまだ学校に籍があり、学徒動員にてまた駆り出せることが可能なのだ。
事実、自衛軍の教官職をしていて二十歳にもかかわらず自分はまた学徒兵に籍が移されて徴兵扱いにされている。
「あんまり見ない制服だね。私立かい?」
「えっと、久しぶりに帰ってきたんです。」
「ほぉ、寒くて大変だったろうに。」
余談だが、一応『軍隊』としての制服は学徒兵にもある。何ら学生の制服と変わらないためこのそば屋の親父のようによく勘違いされてしまうが。
「じゃああの娘さんたちもあんたと同じなのかね?」
「あの女の子?」
「誰かを迎えに来たとか何とか言ってたなぁ。」
間違いない。
親父さんの言う女の子たちとは自分の転任先の学校の生徒達だ。
「あのー・・・彼女等はどこに?」
「そうだなあ、探しに行くよりは待ってたほうがあえるんじゃないか。行き違いになったらまずいだろ?」
―ガラガラガラ
「おっちゃん寒いよっ!」
「いらっしゃいませ!」
ガラスの引き戸が開き、頭に付いた雪を手で払いながら二人の人影が入ってきた。
一人は茶髪のショートボブに釣り目でキツい印象がある。
もう一人は黒髪を赤いリボンでツインテールに纏めたなんともまぁ幼く見える。
間違いないあいつらだ。
やれやれとため息一つついてから話し掛ける。
「あの〜、学徒軍の方で宜しいでしょうか?」
「そうよ?何か。」
きつい一言。指導のしがいがあるねまったく。
「日本国陸上自衛軍戦車混成団より中隊指揮官として転任してまいりました篠塚雅と申します。」
腹に力を入れやや大きめな声で名乗った。
ワンテンポ後れてから相手の顔がみるみる青くなっていったのは言うまでもない。
「ほんっとーにすみませんでしたぁ!」
揺れる四人乗り軽装甲車の中で先程の黒髪の女に謝られていた。
外見通り、普通の素直な中学生と言ったところか。
「だから言ったじゃない。さっさと冬季迷彩外した方がいいって。」
こちらは見た目どおりキツく、かなりツンツンしている。反抗期真っ只中みたいなものか。
「だってしーちゃんが『女は用意に時間が掛かるの』とか言ってたじゃない。私一人じゃ喚装無理だもん。」
「なっ!余計な事言わないでよねっ!?」
訂正。クールぶったツンデレだ。
「はは、まぁいいさ。しかし、まさか装甲板を付けたままだとはさすがに気付けなかったよ。」
「実はこれ車体に白の塗料をベタ塗りしただけなんです。」
「自衛軍が金をくれないからね。」
迷彩装甲板かと思ったが、金の無い地方では創意工夫されているようだ。
地方まで回す金が無いのも自衛軍の現状ではあるが。
「そう言えば、何で女子だけなんだい?男子に任せれば楽だろうに。」
「え?」
「はぁ?」
なんだその反応。
「知らなかったんですかぁ?私たちは女子校ですよ?」
指令書を読み返す。
「転任地 白百合学園・共学」
「男子学生が優先して徴兵されたから女子だけになったの。まさか、本当に知らなかったの?」
「・・・知らなかった。」
書類不備とは泣ける
さらに女子校とはさらに泣ける。
前途多難だなまったく。 |