いつからこの場所にいたのか、それは私にも分からなかった。何故この場所にいるかも分からなかった。
それでも、私はこの場所に立っていた。私は神を信じている。だから、私がこの場所に立っている事にも意味が有ると思っていた。
私は名前を持っていなかった。誰も私に名前を付けてはくれなかった。しかし、私にとってその事は、気にする事の無い些細な事だった。何故なら、この場所には私以外に誰もいなかった。誰もいないから、私に名前を付けてくれる人はいなかった。
この場所に立ち始めてから、いくつもの刻がたった。
晴れた日の太陽は、私に明るい光をくれた。晴れた日の月と星は、私に広い心をくれた。雨の日は自分の足下にできた水溜まりを見て楽しんだ。でも、一番楽しみだったのは、雨の次の日の朝に、自分の体についた露の美しさを見る事だった。毎日の陽射し、月光、暖かさ、冷たさそして天気が私の友達だった。
この場所に立っている事が、私の当たり前になってきた。この場所に立っていると、私は色々な事が理解できるようになった。自分の体が成長していると実感できた。私の体は、少しずつ太陽と月と星がいる所へと、近づいていった。
太陽は、近づいて行く私を見て、元気な光を注いでくれた。
月は、近づいて行く私を見て、優しい光をくれた。
星達は、近づいて行く私を見て、心の安らぎをくれた。
ある日、前よりも近い所にある太陽が、私に話しかけてきた。
「そこの貴方、貴方の御名前は何とおっしゃるのですか。」
この日、初めて太陽が話せると知った。
私は太陽に向かって言った。
「私に名前はございません。何故なら、この場所には私以外誰もいないからです。太陽様、話せるのでしたら私に名前を下さいませんか。」
すると太陽はこう言った。
「私に名前など付けられません。私の役目は、この場所に光を注いで、生き物を育てる事ですから。貴方は、私が産んだ生き物の、ひとつ目なのですよ。」
私はこう返した。
「知っています。だからこそ私は、父である貴方に名前を頂きたいのです。」
すると太陽は、
「私を父と呼んでくれるのですか。有難う。ですが、やはり私には無理です。貴方に名前を付けるのは、後に生まれる新たな命達でしょうから。」
私は、
「わかりました。」
と返し、会話を止めた。
それからしばらく、私はずっと一人だった。太陽は、もう私に話しかけてはくれなくなった。私は、今だ名前を持っていなかった。しかし、太陽が言った、
「この場所に新たに生まれる命」
を信じて待つ事にした。
どれくらいの時間がたっただろうか。そんな事も感じ初めたある日の事………。
自分の体に、小さな緑の物体があった。私は驚いた。この物体がもし生命なら、これこそが私に名前を付けてくれる存在だからだ。私は物体が生きているかどうか確かめるため、声をかけた。
「もし、そこの貴方、貴方のお名前は何と言うのですか。」
すると、その物体から若い声がした。
「ごめんなさい。僕は生まれたばかりで、名前を持っていないのです。よろしければ、僕に名前を下さいませんか。」
私は戸惑いながらも、こう答えた。
「すまない。実は私も、貴方が生まれるまでずっと一人だったから、名前を持っていないんだ。名前を持たないヤツが、新たな命に名前を付けてあげる訳にはいかない。」
すると、彼も驚いてこう言った。
「あなた様も名前が無いのですか。でしたら僕と一緒ですね。」
[一緒]
この言葉を聞いて、私は理解した。もう自分は一人では無い事。
「何なら、僕達で名前を付け合うのはどうでしょうか。」
「あぁ、それもいいかもしれないな。」
それから、私達は一人では無かった。今では彼のような緑が、私の体に沢山生い茂った。彼らは季節によって色を変え、私を楽しませてくれた。
彼自身は、風に流されて私の体からいなくなった。しかし、彼の友達たちが毎日私を笑わせてくれた。だから寂しくは無かった。
最後に、二人で付け合った名前を教えよう。
私は【木】
彼は【葉】
私達の名は、今も沢山の兄弟に受け継がれている。 |