「えっと、おい、だいじょぶか?」
けど答えはなくて、もうひとつぶ涙が落ちた。
それからやっと、こいつが口を開く。
「ルーフェイア=グレイスは無事、同行した兄さん……じゃない、ラヴェルは死亡。
――そう、おねがい」
それだけ言って、ルーフェイアのやつが膝に顔をうずめる。
気持ちは、想像ついた。
俺も親父が死んだって聞かされた時は――目の前で見たわけじゃねぇのに――こたえたなんてもんじゃ、なかった。
ましてやこいつは兄貴を、たぶん目の前で亡くしてる。
「ルーフェイア、一人のほうが……いいか?」
親兄弟の間にゃ、他人は立ち入れない。学院でも独りにしといてくれってヤツは、けっこういる。
けどこいつは、違うらしかった。
「ううん、ここにいて……」
辛すぎて、独りじゃダメなんだろう。
その辺の椅子を引っ張ってきて、かける。
でも俺は、何も言わなかった。こんなときにヘタになんか言っても、傷つけちまうだけだ。
死んじまったやつは、戻らねぇから……。
それからどんくらい経ったのか、やっとルーフェイアのやつが顔を上げた。
「なんか……ごめんね」
「気にすんなって。俺もさ、親父死んだときはそうだったし。
軍人だから覚悟してたはずだってのに、いざそうなるとすげーキツいんだよな」
答えながら立ち上がって、冷蔵庫を開ける。中には思ったとおり、薬と並んで幾つか缶ジュースが放り込まれてた。
「飲めよ」
放り投げる。
きれいな放物線を描いて缶が飛んで、上手いことルーフェイアの手の中に収まった。
「ありがと……」
夜の診療室に、缶をあける音が響く。
俺も自分のぶんを出して、今度はベッドの脇に腰掛けた。
「これ飲んだら、寝ろよ?」
「……うん」
そのあとはどっちも何にも言わなくて、ただ夜だけが過ぎてった。
翌朝。
「おーい、起きられっか?」
俺は時間を見計らって、診療室に声かけてみた。
「ん……?
あ、うん、大丈夫」
驚いたことに、ルーフェイアのやつが即座に目を覚ます。戦場で育っただってだけあって、抜群に寝起きがいいらしい。
「シャワーでも浴びてこいよ。着替え、叔母さんが夕べ出してってたし」
実は朝浴びに行って、始めて気が付いただけだったりするけど。
てか、そこまで用意しといて言い忘れる辺りが、さすがあの叔母さんらしい。
「いいの?」
「いいって」
別に、俺が水道代払うわけでもねーし。
「えっと……どこ?」
「こっちな」
二階へこいつを連れてく。なんせここんち一階は診療室だから、生活スペースは全部二階と三階だ。
幸いルーフェイアのヤツは一晩寝たせいか、動けるようになってた。
「そこの廊下の奥な。終わったら、メシあるぜ」
「ほんとに?」
信じてねぇし。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。