第六の国 「苦痛の優しさ」
次の日、深夜1時まで起きて全ての課題を終わらせた吾吏須に松山が言った言葉は。
「全国模試でかなりの成績だった君が、この程度だったとは残念だな」
松山に嫌味を言われないようにと必死にやったのも虚しく、こんな言葉を言われてしまえば、それはそれはガッカリする。そして同時に殺意が芽生えてしまう。
念の為、愛に見てもらったらそれなりに良いと言われたのだが。それに客観的に見てもかなりの出来だったはずだ。
「あんの、陰険根暗オールバック以下略があぁ!」
とうとう全てを言うのがメンドクサクなってきてしまった為、以下略で済ますことにした吾吏須は現在啓太と一緒に処罰を受けていた。
その理由は、本日から桜花祭までの間は4時間目から6時間目まで全て準備の時間となる。それに運悪く遅れてしまった為、当然松山は二人に罰を与えた。
内容は、桜花祭に関する資料を持ってこいというものだった。しかし、この資料というのがかなりの量でダンボール3箱分はある。
ちなみに遅れた原因は、吾吏須が昼食の後そのまま寝てしまい、啓太はそれに付き添っていただけだ。
「まぁ、吾吏須! あの課題はよく出来てたと思うし、それに今回のは仕方ないさ」
「分かってるけどさ、松山の野朗……何時か絶対に殺すッ!」
寝坊して授業に遅れてしまったのは仕方ない、だがどうしても課題のことは納得できない。
「受理してもらえたんだし、あんまり苛々するなよ」
「うーまぁ、な」
たしかに受理されたのは奇跡的かもしれない、普段ならば何故か吾吏須だけやり直しと言われるのだから。
ようやく倉庫から目的の資料を見つけ出した二人は、そのダンボールを持つ、しかし
「重ッ!」
まったく筋力が無いに等しい吾吏須にとっては、いくら紙といっても重い。隣に視線を移せば、そこには軽々しくダンボール二箱を軽々しく持ち上げる啓太の姿があった。
いくら陸上部だからといえ、これはいくらなんでも差がありすぎなのではないだろうか。それか単に吾吏須に筋肉が無いせいか、きっと両方だろう。
たしかに、吾吏須は17歳の一般的な体系よりも痩せていて、しかも体育の成績は毎年2という恐ろしく低い。それに比べて啓太は他の科目はたいして上ではないが、体育だけは5だ。
「吾吏須、重かったら俺が持つけど」
「大丈夫だって、それにお前も三箱なんて無理だろ? それにこれで持っていかなかったら松山が『おやおや夢原、どうやら君は友人に荷物を持たせ自分は楽をするような卑怯者なのだな』って嫌味言うに決まってる」
松山の声を真似しながら言った吾吏須に、啓太は少し笑った。
しかし、今回この処罰を受けるのは吾吏須だけで充分なはずなのに、一緒に居たという理由で啓太までも巻き込まれてしまった。そう考えると、なんだかとても申しわけない気がしてきた。
本来ならば啓太はこんな重たい荷物を持たなくてもいいのに、教室で楽な作業ができる立場なはずなのにだ。
「そのさ……俺と一緒に居て大変じゃないのか?」
「へ、どうしたの?」
「今回のだって、俺と一緒に居たせいで処罰受けることになってさ。それにこういうのって一回だけじゃないだろ、なんか申し訳なくて」
自分のせいで啓太が迷惑をしている、要らない苦労をしている。しかし、そんな暗い思考の吾吏須とは裏腹に啓太は笑った。
「あっはっは! どうしたんだよ吾吏須、お前らしくないな」
「何で笑うんだよ! そりゃたしかに俺らしくはないとは思うけどさ」
「たしかにそうだけど、俺は大変だとか迷惑だとか思ったことは一度も無い」
「だって、迷惑だとか思わないのか?」
「親友って、そういうものだろ? 相手に迷惑かけたり、助け合ったり、想いを分かち合ったり。だから何も気にすることないって。それに俺は吾吏須と一緒ならこういう処罰も楽しい」
その時の啓太は、とても活き活きしていた。その笑顔を見れば全ての悩みが吹っ飛んでしまいそうなほど、すごく人に元気を与えるような。
そして何より、嬉しかった。啓太がそう想ってくれていたことが、てっきり迷惑だとか大変だという返事だと思った吾吏須にとって、本当にこの答えは希望に満ちたものだった。
「それとも、吾吏須は俺が処罰を受ける時に迷惑だって思ったりしたのか?」
「そんなわけないだろ!」
これだけは堂々と言えることだった、啓太が処罰を受けて、たとえそれに巻き込まれても吾吏須は迷惑だとは思わないだろう。きっと啓太と同じく『それも楽しい』と思えた。
「よかった、此処で迷惑だって言われたらショックで立ち直れない」
しかし啓太の想いは嬉しくもあり、同時に少し悲しくもあった。何故なら吾吏須が啓太に求めるのは『恋愛感情』
だが、啓太が吾吏須に求めるのは『友情』なのだから。
もしも此処で吾吏須が啓太に告白すれば、それはきっと裏切り行為なのだろう。本来ならば吾吏須が啓太に求めるのは『友情』でなければならない。
――俺、啓太を裏切るのか?
伝えたい、何万回でも何億回でも啓太に『好き』だと言いたい。しかし、それは啓太の想いを裏切り、この関係を終わらせてしまうことになるから。
「吾吏須?」
優しく問いかける啓太、その優しさもきっと『友情』からきているのだろう。初めてかもしれない、優しさが此処まで辛いと感じたのは。
啓太が意識不明になってからその大切さに気付き、以前より一層啓太を欲しいと願ってしまう。だからここまで優しさが辛く感じてしまうのだろう。
「何でもない……」
意思を持たないで呟いた言葉は、まるで泡沫のように消えてしまった。考え事のせいで、あまり元気の無い吾吏須を啓太は心配して声をかける。
「吾吏須……どうしたんだよ、最近元気ないし、何時もの吾吏須らしくない」
「ち、違うって! ほら寝不足だよ、昨日徹夜したから疲れ溜まってんのかも」
「無理するなよ、辛くなったら俺に言ってくれよ!」
――その辛くなる原因が、お前の優しさなんだけどな。
「あぁ、そうだな。ありがとう啓太」
そう言った時、丁度4時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
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