第十四の国 「目覚め」
目覚めれば、そこはベットの上だった。重い瞼を開け、辺りを見回すとそこは自分の部屋、ようやく意識が戻ってきたのか吾吏須はベットから起き上がった。
戻ってきたのだ、現実に。自分の服を確認すれば、それは薬を飲んだ時と一緒の姿だった、近くには小瓶が転がっている。時計を見てみると、時間は9時10分を示している。薬を飲んでからまだ10分程度しか時間が経っていない。
「そうだ、啓太は!」
此処が現実の世界ならば啓太は入院しているはずだ、帽子屋は二人とも現実に帰してくれると言ったのだから、啓太は目覚めているはず。
吾吏須はすぐに、制服も着ないまま家を飛び出した。風邪をひくかもしれないと思ったが、そんなことを気にしている場合ではない、この目であの夢が真実だったのか確かめなければ。
病院に着いた頃は、すっかり疲れなど忘れていた。夢での苦痛がそのまま身体に出なくてよかったと思っている、もしもそのまま身体に出ていようものならば腰の痛みで走れなかっただろう。
啓太の病室は2階の内科病棟の213号室の窓側だったはず、夜遅いのに廊下を走るのはよくないと思っていたものの、そんなことは気にせず啓太の眠る病室へと走った。
「啓太ッ!」
扉を開けると、啓太のベットには数人の看護士と医者らしき人が立っていた。
「あ、夢原さんですよね」
「啓太は! 啓太は大丈夫ですか!」
看護士の中を掻き分け、吾吏須は啓太の眠るベットへと駆け寄った。そこには長い夢から目覚めた啓太の姿があった。
「吾吏須……、ただいま」
ようやく、本当に啓太が戻ってきた。ようやく現実へ一緒に戻ってこれた。
「馬鹿野朗、心配させんじゃねーよ。おかえりなさいだよ、こんちきょうが……」
そう、涙交じりで喋りながら吾吏須は啓太の体に抱きついた。その温もりが啓太のものだと思うと、安心してこのまま眠ってしまいそうになる。
その後、医者からの説明もいろいろあり、どうやらこのままの調子で回復すれば1週間程度で退院できてしまうらしい。それくらいならば、現実での桜花祭にも間に合うだろう。
啓太はまた、松山に怒られるのかと考えると気分が悪くなったが、啓太と一緒ならばどうだっていいと思えてきた。これからは、たくさん啓太の愛情に素直に喜ぶことができるのだから。
「それじゃあ、もうすぐお母さん達が来ると思うから。待っててね」
そう言って看護士と医者は全員、病室から出ていく。他のベットには誰も居ないので、この病室には吾吏須と啓太の二人っきりしか居ない。
すると、啓太の口が開いた。
「吾吏須、あのさ……ちょっと鞄取ってくれないか?」
「いいけど」
近くの啓太の私物が置いてある棚を見ると、そこには学校指定の学生鞄があった。それを取り啓太に渡す。
「たぶん……この中に入ってると思うんだけど、あった」
すると、啓太は鞄の中から少し萎れた四葉のクローバーを取り出した。その葉は微かに萎びていたが、色はとても綺麗な緑色をしている。
「先に吾吏須に告白されちゃって、俺からの告白まだしてないだろ」
「い、いいよ! そんな改めて」
吾吏須が顔を赤めながら言う。
「いや、これだけはちゃんと言わないと。吾吏須、愛してる」
啓太がその言葉を言うと、吾吏須の顔はまた赤く染まっていく。やはり改めて言われると恥ずかしいものがある。
すると、啓太は吾吏須にクローバーを差し出した。
「あのさ、四葉のクローバーの花言葉って知ってるか?」
それは、あの大きな樹の下でしたキスの時と同じ台詞だった。あの時は吾吏須が啓太に聞いたので立場は逆転しているのだが、シロツメ草の花言葉は『約束』吾吏須が図鑑やネットで調べた時にはたしかにそう出ていた。
「当たり前だろ、花言葉は『約束』それがどうした」
「残念! 吾吏須もまだまだ勉強不足だな」
まさか啓太の口から勉強不足などという言葉を聞く日がこようとは、さすがの吾吏須も予想していなかった。勉強の成績は吾吏須はトップクラス、啓太は下から数えた方が早いというのに。
「で、なんだよ。その四葉のクローバーの花言葉は」
「えっとな、四葉のクローバーの花言葉は、一つは『幸福』そんでもう一つが――『私のものになって』だ」
その言葉に、吾吏須は固まった。どうして固まってしまったのか、その理由は啓太が自分よりも知識を持っていたことではない。あまりにもその言葉が嬉しかったからだ。
そういえば、と吾吏須は思いだす。たしかにシロツメ草の花言葉は『約束』だ。しかし、四葉の場合は
そして、啓太は優しく吾吏須の身体を抱きしめる、その啓太の胸に顔を埋めながら吾吏須は顔を赤めていた。
「吾吏須、俺のものになってくれるか?」
それは、普段あまり強気な姿勢に出ない啓太の独占宣言だった。吾吏須の身も心も全て私にくださいと、このクローバーにはそんな想いが込められている。
まるでプロポーズのようだ。否、啓太にとってこれはプロポーズなのかもしれない。
「――ッ! あたりまえだろ!」
なるにきまっている、何処までも自分を独占していてほしい。そして自分も啓太を独占して、愛し続けるだろう。
「それじゃあ『約束』しよう」
それはきっと、あの時した、ずっと一緒に居ようという約束の仕方だろう。吾吏須は顔を上げ、啓太の顔を見ながら微笑んだ。
「そうだな、ひさしぶりにやろうか……」
「あぁ、それじゃあ……ごっほん! えーと、夢原吾吏須は白兎啓太のものになると誓いますか?」
「誓います」
その言葉に、啓太もまた顔を赤めた。次は吾吏須の番だ。
「それじゃあ、白兎啓太は夢原吾吏須のものになると誓いますか?」
「誓います」
「どれだけナイスボディな姉ちゃんに告白されても絶対に浮気しませんか?」
「誓います」
そのやり取りに、吾吏須と啓太は少し笑った。そして、またお互いに相手の顔を見る。二人とも、すごく幸せそうな顔をしながら。
「それでは」
「誓いのキスを」
そうして、二人は唇を重ねあった。それは思い出のとても優しい約束のキス。
夢の世界で再会を果たし、ようやく想いが伝わった喜び。
まだ、物語は始まったばかり。想いを伝えあった二人は、これら二人だけの物語を紡いでいくだろう。
これは、夢の国で再会を果たした。とても幸せな二人の物語。
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