第一の国 「アリスと帽子屋」
一昨日、とある少年にとって一番大切な人が交通事故にあった。
通学を浮かない顔で歩いている少年、夢原吾吏須は、ふと空を見上げため息を零した。空は黄昏に輝いており、この町一体を黄金に包んでいた。空はとても綺麗な色の赤をしている。
「お前の血の色もこんな感じに赤かったっけ」
真っ赤な空をただただ黒い瞳で無表情で眺めながら、少し震えた声で吾吏須はそう呟いた。
一昨日の夕方、この通学路に飲酒運転をしていたトラックが桜花学園の通学路に突っ込んできた。ちょうどそこに居た一人の高校生にトラックは激突し、高校生は重体で病院に運ばれ、なんとか一命は取り留めたものの意識が回復する見込みはないとのこと。
そして、その高校生こそが吾吏須の一番の友人で幼馴染の白兎啓太だった。
忘れ物をして取りに戻っている間に起きた出来事に吾吏須はかなりのショックを受けていた。自分の知らない間に親友が死にそうになっていたということ。
啓太が待っていたはずの場所には人だかりができており、そこには頭から真っ赤な血を流し倒れている啓太の姿と衝突の衝撃で正面がへこんでいた大型トラック。
『おい、啓太! 大丈夫かよ? おい、啓太……啓太ってば!』
そう叫びながら啓太の傍に駆け寄った時には、すでに啓太は意識が無く血を流しながらピクリとも動かなかった。もしかしたら死んでしまうのではないのか、もうすでに死んでいるのではないのかと思ってしまうほど、啓太の傷は酷かった。
しばらくして救急車が来た。啓太が病院に運ばれる途中、救急車の中で吾吏須は啓太の手を握りながら、啓太が無事であるようにと、必死に祈っていた。
しかし、吾吏須の願いも虚しく手術後、担当した医師から啓太は昏睡状態に、回復の見込みは1%にも満たないと宣言された。
その絶望的な医師の言葉に、吾吏須はただ泣くことしが出来ず、一生分の涙を流したのではないかと思うくらい一晩中啓太の眠る病室で、吾吏須は啓太の少し温かい手を握りながら泣いていた。
「啓太……」
まるで水が全て無くなってしまった水槽のような逸脱間。空っぽのような感覚。それだけ吾吏須にとって啓太の存在は大きかった。
今さら、どんなに願っても、祈っても一番の友人は戻ってはこない。吾吏須本人も、そのことはよく分かっていた。
手術後の啓太にいくら呼びかけても、名前を呼んでも啓太が起きることはけっして無かったのだから。
吾吏須がここまで、啓太のことを想う理由は幼稚園の頃からの親友だということもある。だがそれ以外の感情が吾吏須にはあったのだ。
――そう『恋愛感情』というものが。
可笑しいとは分かっている、幼馴染にしかも同性に恋愛感情を抱くだなんて、分かっていたからこそ吾吏須は啓太に想いを告げなかった。
もしも、この想いを告げたのならば、きっと二度と笑顔は見れないと、もう今までの関係には戻れないと、自分は軽蔑されるのではないのかという不安があったからだ。
吾吏須がこの感情に気付いたのは15歳の時、普通以上に啓太のことばかりを考えていて、そして触れてみたいと思ってしまったのが始まり。
それから、毎晩悩んで眠れない夜もあったりした、何故自分は啓太のことがこんなに気になるのだろう。どうして、啓太にもっと近付きたいと願ってしまうのか。
そしてようやく出た答えが『夢原吾吏須は白兎啓太のことが好き』というものだった。
「なんで、啓太のこと好きになっちまったんだろう」
もしも啓太のことを忘れられるのならば、忘れてしまいたい。そして、普通に女の子を好きになって付き合って結婚して幸せな家庭を築きたい。
だけど、忘れることなんてできなかった。それだけ吾吏須にとって啓太との思いでは大切で、啓太のことが好きで、それにきっと啓太は吾吏須の初恋の人なのだから。
初恋が男だなんて、人生半分くらい終わっているなと思ってしまうのだが。
記憶を消す薬があれば、吾吏須は喜んでその薬を買うだろう。そして辛いことなんて綺麗さっぱり忘れて、新しいことを見つける。
だけど、現実にはそんな便利な薬は無い。
ここまで啓太の存在が自分にとって大きいとは思っていなかった。こんなに辛くなるとは吾吏須も予想していなかった。
もしも、時間が戻るのならば啓太と会いたい。そして自分の本当の気持ちを話したい。そうすれば、この胸の喪失感も埋められるのかもしれない。
ふと、学生鞄から取り出した写真には笑顔の吾吏須と啓太が写っている。その写真から分かるように二人はとても仲が良かった。
腕を組みながら、元気いっぱいの笑顔でカメラに向ってピースをしている姿は、とても微笑ましく心が和む写真だ。
しかし、もうこうやって二人で笑ったり高校生らしく話しをしたり、じゃれ合ったり、喧嘩したりすることも無いのだろうか。そう考えると、吾吏須の心は押しつぶされてしまいそうなくらい辛くなる。
「どうして……ッ!」
吾吏須の瞼から大粒の涙が零れ落ち、頬を伝い地面に染みを作っていく。
写真を持っている手は、強く握りしめられている。もう、啓太には会えないのだという真実に、吾吏須は耐えられなかった。
一番大切な人がもう自分の前には居ないということ。それは吾吏須にとっては苦痛でしかなかった。いくら現実逃避をしても現実は容赦無く吾吏須の心を痛めつけていく。
「会いたいよ……啓太」
そんな悲痛の悲鳴に似た声は、この赤い空に煙のように消えていってしまった。
すると強い風が吾吏須の体を震わせた。9月の冷たい風はブレザーの下がシャツだけの体にはさすがに少しキツイ。
その風の冷たさに、手がまるで作り物のように固まってしまった。また大きな風が吹く、すると。
「あっ! 写真……が!」
吾吏須の握っていた写真が空に舞い、まるで何かに操られているかのように普段あまり吾吏須が行かない路地裏の方に飛んでいってしまった。あの写真だけは失うわけにはいかない、そう思い風に飛ばされてしまった写真を橋って追いかける。
しかし、吾吏須は普段学校では天然記念物に指定されてもいいほど体育の成績が悪い。他の科目は何時も上位に居るのだが、体育だけは持久力もなければ50メートル短距離走10秒という女子と同じくらいの速さだ。
当然なかなか写真を掴めずさらに裏路地の奥まで走っていく。
「くそう、俺の写真……っ! よし掴んだ! って……へ?」
ようやく写真を掴んだかと思ったらドテというものすごい音と共に吾吏須は地面に顔を打ち付けた。どうやら地面に倒れていたゴミ箱で躓いてしまったらしい。
「うぅぅ……痛ってぇ、マジで痛い」
手元を確認してみると、どうやら写真だけはどうやら死守できたらしい。その感動に吾吏須はとても笑顔になる。その笑顔はとても可愛らしく、そしてとても喜びに満ちたものだった。
起き上がり、制服についた砂を払うとため息をつき写真を鞄の中に大切に入れる。
そして、顔をあげるとそこには古いアンティーク風潮のお店があった。
裏路地に不自然にあるこの店は、まるで何かの魔法の薬でも売っているのではないのかと思ってしまうほど、不気味とまではいかないが、とてもファンタジーな雰囲気があった。
こんなところに店などあったかと思考をめぐらせている吾吏須は、その店の看板を見てみた。
「夢屋…?」
洋風な店なのに、何故か漢字でお店の看板には『夢屋』と書かれていた。多少ミスマッチな看板を眺めているとまた大きな風が吹いた。
その風はまるでこの通路に吸い込まれていくかのように、倒れたゴミ箱が動くほど大きなものだった。すると吾吏須はまるで何かに呼ばれているような感覚になる。
実際、声はもちろん風の音しか聞えないはずなのに夢屋を見ていると、何故かその店に呼ばれているかのような不思議な感覚。
吾吏須は一歩づつゆっくりと夢屋のある場所に、まるで魔法か何か言葉では説明できないような力で引き寄せられているかのようにフラフラと歩いていく。
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと押していく。その感覚はまるで宝箱を開けるかのような好奇心と、この先にあるのは闇なのかもしれないという不安と、もしかしたら光かもしれないという希望。
そんな思いを抱きながら空けた扉の先は。
「すごい……」
――まさにファンタジーという言葉はこの為だけにあるのだと言われてしまえば素直に納得してしまう世界だった。
この不思議な空間を表現するのならば『ファンタジー』かもしくは『異世界』という言葉が相応しいだろう。
昔、母親に読んでもらったおとぎ話を思い出すような空間に、吾吏須は思わず息を飲んだ。雑貨屋なのだろうか、棚の上にはたくさんの小瓶に液体のようなものが入っていたり、飴のような直径1センチほどの円形の塊が入っているもの。それだけならばまだ普通だ、しかしこの液体や球体は普通ではなかった。
まるで、魔女の作った魔法の薬のような緑色や赤い色の液体は、最初は赤なのだが段々と黄色い色に変化していく。青い飴玉のような球体だって色がピンクへと変化していく。
他にも沢山の煌びやかなアクセサリーや、全て針の一が違う時計に、中央のテーブルには大きなケーキのような形をしているキャンドルまである。
そんな今の日本では少しどころかとても不思議な空間を見ていると奥のカウンターに座っている人間が誰かが入って来たことに気付いたのか声を上げた。
「おやおや、めずらしいお客さんだ」
そう言って出てきたのは、これもまたこの店と見事にマッチしている成人男性の姿だった。きっとこの店の主人なのだろう。
黒く、60センチはあるのではないのかと思うほど長いシルクハットに沢山の飾り。飾りといっても普通に見かける飾りとはまったく違った。薔薇やらトランプやらキャンドルやらと子供に上げたら大喜びするようなほど豪華な帽子だった。
服は、真っ白なコートに赤黒いラインがとても印象的で、裾が膝下まで届くほど長いのでスーツと言うべきかコートと言うべきか悩んでしまう。その服にもとても豪華な飾りつけがしてあった。
しかし、豪華と言っても仮装パーティの時に着ればいいという意味で、どこかの普通のパーティには場違いな格好だ。
銀色の綺麗な髪は肩より少し下ほどの長さの髪はとてもサラサラとしていた。どう考えてもその髪の色は染色した色ではない、ということは外人なんだろうか。
眼鏡の向こうには少し恐いと思ってしまう赤い瞳が吾吏須の方をじっと見ている。
「ようこそ、子猫ちゃん」
「こ、子猫ちゃんて……」
主人は笑顔でそう言うと、吾吏須はとても微妙な気分になった。きっと女性ならばこの笑顔で『子猫ちゃん』などと言われれば惚れてしまうだろう、それは男である吾吏須でも分かるほど魅力的だった。
しかし、生憎吾吏須の性別は男性であってこの主人の笑顔にときめかなければ『子猫ちゃん』などと言われて嬉しいわけでも、むしろ気持ち悪いと思ってしまう。
このことから、きっと吾吏須は同性愛者な訳ではなく、啓太限定で同性愛者なのだろう。吾吏須も啓太意外の男性と一緒に居るのと女性と一緒に居るのどちらが嬉しいかと問われれば迷いなく女性だと答えるだろう。
啓太限定だなんて可笑しいと思っていたのは最初の時期だけで、今ではそこまで気にすることは無くなっていた。
「何か欲しいものがありますか?」
「あ、いや……たまたま立ち寄っただけで。此処は『夢屋』って言うんですよね。何を売っているんですか?」
見回してみても、ファンタジーな世界と小物がおいてあるだけで、これだけでは此処がどんな店なのか分からない。主人は『あぁ』と呟き笑顔で答えた。
「此処は名前のとおり『夢』を売っているんですよ」
「ゆめ……?」
「そうです『夢』を売っているんです、たとえば……」
すると、主人は近くにあった飴玉のようなものが入っている袋を指差した。
「この飴玉は『自分の願った夢が見れる』薬です。その左側にあるのが『夢の続きが見れる』薬ですね」
「それって本当に見れるんですか?」
さすがに、薬の効果を説明されてもすぐに信じられるわけでもなく。さすがに疑ってしまう、そんな便利な薬がこの世界にあるのかと。いくらなんでも普通の人間は信じられないだろう。
すると、吾吏須の問いに主人は先ほどの笑顔を絶やさずにこやかな表情で。
「はい、効果は保障いたします」
と、自信高々に言った。
「保障……見れなかったらどうするんですか?」
「それはありえません、この薬は本物で効果も抜群です。決して効かないなどということはありません」
よくまぁ、そんな自信たっぷりに言えるものだと吾吏須は思いながら、主人の顔を見た。しかしその顔は先ほどとまったく変わらない笑顔。
「何か気になる商品がございましたらお申し付けください」
主人はお辞儀をしカウンターに置いてあった紅茶を飲み始めた。綺麗な花柄のカップは、何故か主人が手にすると輝かしさが増しているような気がする。
カッコイイ人間は何をしても似合うのだなと、少し忌々しいかもしれないと思いながら吾吏須は少し店内を見て回ろうとカウンターの近くにある棚の方へと向おうとした。
「あ、その辺の棚は少し危険な薬が置いてあるので注意してくださいね」
主人が注意しようと、吾吏須の近くに行こうとした、すると。
「あ……っ」
主人の持っていたカップに入っていた紅茶が、主人が吾吏須に注意しようとした時に零れてしまった。あまりたいした量でなかったのが幸いだった。
「すみません、熱くありませんでしたか?」
すぐにカウンターの上にあった布巾で制服の紅茶を拭う。
「だ、大丈夫です」
紅茶は少し冷めていたのか、それほど熱くはなかった。
「もうしわけありません、すぐにクリーニングに……」
「大丈夫ですから……そんなたいしたことじゃないですし」
安心してくださいと言う吾吏須に、主人はかなり申し訳無さそうな顔をしていた。格好は少し普通ではないが、性格は普通なのだなと密かに思ったことはそのまま心の中に溜めておくことにする。
「そうですか……でもそれでは申し訳ありません。そうです、店の薬を一つ貴方に差し上げましょう!」
名案だといわんばかりに主人は少し嬉しそうな声で言った。すると先ほど吾吏須が見てみようと思った棚に置いてあった小さな小瓶を吾吏須に差し出した。
小瓶の中には、綺麗なピンク色の液体が入っていた。
「この薬は?」
「これは『幸福と悪夢』の薬です」
「幸福と……悪夢? なんで悪夢なんだ」
幸福な夢ならば、何故『悪夢』までついてくるのだろうか。それならば最初から悪夢と書いておけばいだろう。
「それはこれを飲んだら分かると思うのですが、そうですね……今言えることは幸せな夢は時として悪夢になるものです」
主人の説明に、吾吏須は意味が分からず首を傾げた。それに飲めば分かるというのは少し酷いのではないだろうか。普通ならば薬の効果をちきんと説明するべきだろう。
「いいですか、これは少々危険な薬でもあります……ですが、貴方の想いを叶えるのには最適な代物だと思いますよ」
「俺の願い……?」
すると、主人は笑顔のまま吾吏須に顔を近づけた。そして耳元で囁く。
「貴方のお友達、白兎啓太との想いを結ぶ為に……ね」
主人の言葉に、吾吏須は一瞬固まってしまった。何故この人間は自分のことや啓太のことを知っているのだろう、そして何故自分が啓太に恋をしていたことを知っているのか。
吾吏須は啓太が好きだということを誰にも、ましてやこんな妖しい主人にも言っていない。ずっと心の中だけに入れておいたし、そんなそぶりを見せたことだって一度と無い。
目を見開いている吾吏須を見ながら主人は笑った。きっと主人も何故吾吏須が固まっているのか分かっているのだろう。
「どうして……」
「それは秘密です、ですが保障いたします。それは貴方に幸福を与えてくれるでしょう。ただそこから悪夢になるかは貴方次第です」
笑顔が恐いと感じたのは始めてだった。
主人は一番最初吾吏須に見せた笑顔とまったく変わらない表情だ。しかし、吾吏須にはその笑顔が恐怖に感じる。この人物は自分の全てを知っているのではないのかと思ってしまう、全てを見抜かしているような。
「そろそろお帰りにならないと、夜が訪れてしまいますよ。夜は全てを闇へと飲み込みます。急がないと帰れなくなってしまうかもしれませんよ?」
「……ッ!」
その言葉が恐くて、吾吏須はすぐさま主人に渡された薬を持ちすぐさま扉を乱暴に開け外に飛び出した。何故、あんなに綺麗な笑顔の主人の言葉が恐いと感じたのかは吾吏須本人も分からなかった。
しかし、何故か帰らなくては、早くあの場から……否、あの主人から離れなければならないと五感全てが訴えた気がしたのだ。
裏路地を出ると、どうやらもう夜らしく外灯が付いていた。空もこの裏路地に入った時のような赤い空ではなく、漆黒の空となっていた。
「なんなんだよ……あのオッサン、何で俺のこと知ってんだよ」
呟きながら走ってきた裏路地を見たが、あの店の姿は見えなかった。
☆
家に帰ると、何時もどうり誰も居なかった。吾吏須の両親は現在共働きで今は二人とも長期の出張中で家には居ない。
吾吏須が高校に上がった頃からで、今この大きな家には吾吏須一人しか住んでいない。だが、その方が吾吏須も気楽でいいし、なにより昔から両親は忙しいから慣れてしまった。
二階にある自分の部屋へと向かい、扉を開ける。鞄は机の上に置き、ブレザーを脱ぎベットに投げ捨てると、自分もベットに大きな音を立てて倒れこんだ。
「なんだったんだろうな……」
吾吏須はうつ伏せになりながら、今日起きた不可解な出来事を思い出していた。
不思議な店に妖しい薬、そして自分のことを知っていた主人。今思うと、あの店は幻ではなかったのかと考えてしまう。
しかし、手で握っている小瓶が、あれは幻などではなかったと語っていた。手に持っている小瓶を見ながら吾吏須は呟く。
「これが、俺の望みを叶えてくれる薬……そんなこと、あるわけ」
自分と啓太との想いを結ぶ、それはつまり啓太が目覚めなければならない。だけど啓太が目覚める可能性は0に限りなく近い、それなのにどうやって啓太を目覚めさせるのか、吾吏須は不思議でならなかった。
だけど
「これで、啓太に会えるなら……」
少しの可能性にかけてみたい、啓太にもう一度会って想いを告げたい。
「啓太……」
一番好きな人間の名前を呟き、吾吏須は身体を起こしベットの上に座る。そして、持っていた小瓶の蓋を開けた。
「どーせ、偽物だろうし。別に大丈夫だよな!」
そう自分に言い聞かせ、自分の中にあった微かな不安をかき消した。そんな不安よりも啓太に会えるかもしれないという希望の方が吾吏須の中では大きかったが、やはり変な主人から貰ったのだから不安がある。
決意が固まっているうちに瓶の中に入っていたピンク色の液体を一気に飲み干す。すると、まるで苺のような甘い味が口の中に広がり、色のわりには意外と飲みやすかったことに少し驚く。
飲み終わった小瓶を近くの机に置こうと手を伸ばした時、急に視界がぼやけた。
「え……ッ!」
身体に力が入らなくなり、急に睡魔に襲われベットに倒れこむ。さっきまでまったく眠くなどなかったのに何故、もしかしてこの薬は本物だったのだろうか。
瞼が重くなり、視界が真っ暗な世界へと包まれていく。そこで吾吏須の意識は途絶えた。 |