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MHzボイス

作者:みくも
 私には、こっちが勝手に天敵だと決めた人がいた。

 電話が鳴る。
 電話を取る。
 私はぐっと眉間を意識して、受話器から聞こえる天敵の声に耐えた。

「河西君の事が、苦手みたいだね」
 電話を切った途端、少し離れた席から課長が言った。完全に面白がった色合いで。
「いえ……、苦手と言う訳では」
「だって、凄く嫌そうな顔するでしょう。電話の相手が河西君だと」
 そんなふうに見えるらしい。
 むきになって違うんですと主張するのも妙な気がして、私は曖昧に笑って済ませた。
 そうしていたらいつの間にか、私は内線2番、つまり営業部からの電話には出なくて良い事になっていた。
「仕事ですから、大丈夫です」
「いいから、いいから」
 おおらかそうな顔でパタパタを手を振る課長は、意外と思い込みの激しいタイプだ。違うっつってんのに。
 私はそっとため息を吐く。まさかこんな事で同僚に迷惑を掛けるとは、思いもしなかった。
「課長がああ言うんだから、紺野さんは気にしないで」
 隣の席から、女の人が柔らかな慰めをくれる。ああ、藤谷先輩にまでそんな気遣いを……。何で、こんな事になったんだか。
 私は自分の席でパソコンに向かい、カタカタとキーボードを叩きながら申し訳なさで小さくなる。気持ち的に。百六十八センチの身長は、女にしては小さいどころか実際ちょっと邪魔なくらいだ。
 とにかく、いつもより居心地の悪い思いをしながら、それでも私は「くそう、河西め」と言う気持ちにはならなかった。
 だって今回の事は、全面的に私が悪い。電話くらい、普通の顔で取れる様になりたい。人として。
 でもまあ、一方ではラッキーだったと言えなくもない。河西さんの電話と、そして自分との戦いから開放されたと言う面においてだけは。

 こんな事を考えていたから、罰でも当たったのだろうか。
 その日、私は大量の書類を抱えてヨタヨタと社内をさまよっていた。いや、あてもなく歩き回っている訳ではない。目的地は解っている。たどり着ける気がしないだけで。
 たかが紙でも量が量だと凶器だね。億劫がらず、台車使えば良かった。くそう。
 無意識の内に、頭の中身が口から零れていた様だ。よれよれの女がブツブツと独り言を呟く姿は、さすがに同情を呼んだらしい。
 スーツに包まれた逞しい腕がさっと伸び、手の中から紙の束を軽々と取り上げた。それは良かったんだけど、私は急に荷物を失ったためにバランスを崩し、とっさに手近の男にしがみつく事になった。
 書類だけでなく、私まで抱える事になるとは思っていなかったのだろう。その男の人は、とても驚いた表情でこちらを見た。その、少し高い位置にある顔を見上げながら、ちょっと内心で感嘆する。
 身長は高く、肩幅も広い。凛とした黒髪が、明晰そうな雰囲気に良く合っていた。
 つい、性格に重大な問題でもあるのでは、と疑いたくなる様な良い男だ。
 しかも親切。
「どこのどなたとは存じませんが、有り難うございます。ついでに、第三会議室までお願いします」
 私は深々と頭を下げて、礼を述べる。
 すると彼は顔に浮かべた驚きを、更に深くして口を開いた。
「ちょっと待ってよ、紺野さん。俺の顔も知らないくせに、避けてるワケ?」
 今度は、私が驚かされる番だった。
「そ、その声は、河西……!」
「呼び捨てかぁ」
「い、今のは確認。確認です」
 怒っているのとも、違う様だ。慌てて言い訳する私に、彼はにやにやと笑っている。
 こんな人だったのか。
 ずっと、声でしか知らなかった存在が普通に目の前にいるって、何か変だ。
 正直、逃げたい。でも私の仕事は、書類を会議室まで運ぶ事。そしてその書類は、今や敵の手中に。これじゃ、離れるに離れられない。
「まあいいや。ちょっと一回、話したかったんだよね」
 その一言にはっとした。まさか、それでわざわざ私の荷物を。
「策士! やり手!」
「……誉めてる?」
「大絶賛です」
「……」
 河西さんは疲れた様な間を置いて、諦めた感じでスタスタと先に行く。
「第三会議室って、上だよな」
 確認しながら、書類を抱えた手の甲でエレベーターのボタンを押した。器用だ。
 少し走ってそれに追い付き、ドアの上で点滅するエレベーターの現在位置を見上げて待った。すると、同じ様に並んで、同じ様に点滅する光を見上げたままの横顔に問われる。
「あのさ、俺、何かした?」
 気遣わしげな声。どうしよう、この人、性格まで良いんじゃないの。
「いえ……別に……」
「……ふうん」
 その眼が、ちらりとこちらに向いた。何だろうと見返すと、彼はすでに元通り前を向いていた。
「そう言う顔、するワケね」
 一瞬、意味が解らなかった。
 が、恐らく皆が言うところの、「嫌そうな」顔をしていたのだろう。
 言い訳を、した方が良いのだろうか。
 ためらった瞬間に、エレベーターのドアが呑気な音を立てて開いた。
 珍しい。エレベーターの中に、誰もいない。
 いつもなら広いなー、くらいのもんだけど、今日は別。
 二人で密室? うん、無理。私は即座に職務を捨て、逃亡を図る決意を固めた。
「乗らないの?」
「階段で行きます」
 先に乗り込んだ河西さんが、呆れ果てた顔になる。
「……襲ったりしないよ?」
「階段で行きます!」
 私は高らかに宣言したが、そんな訳はなく。ドアが閉まって河西さんの姿が見えなくなると同時に、その場から全力で逃げ出した。

 結局、仕事を放棄した訳だから、叱責は覚悟していた。
 だが同僚は誰も特に気にしておらず、課長に至っては本気で心配されて、むしろ困った。
 まあね。
 私が届けるべき書類を、よりにもよって河西さんが届ければ、何事かとは思うよね。
 勝手だが、これでますます河西さんに会いたくない気持ちが強くなった。ちゃんと謝るべき、だとは思う。でもあの人が悪い訳じゃないのに、どうしてだか悪者にしてしまう。そして私はやっぱり同じ様に、逃げる事しかできないと思うのだ。
 こんなふうに落ち込んでいると、同じ職場の女の子たちはさり気なく気遣ってくれる。何を話した訳でもないから、大丈夫だよ、と言う言葉に根拠なんかない。でも何だか本当に、そんな気持ちになるから不思議だ。
 女同士って、良いもんだなぁ。
 彼女たちのお陰か、最初は気落ちしていた私も日々元気を取り戻した。
「紺野さん、今日、大丈夫?」
 給湯室から戻った藤谷先輩が、お盆の湯飲みを差し出しながらそっと問う。
「今日、ですか?」
「前から言ってたでしょう? 飲み会、今夜なんだけど。できたら、来て?」
 控え目に微笑んだ彼女の肩で、長い髪がさらりと揺れる。
 気を、遣ってくれているのかも知れない。
 普段は職場の飲み会なんて行かないけど、行ってみようかって気になった。

 場所は居酒屋。
 参加人数は課内の希望者と、余分に一人。
「先輩のうそつき」
 困った様に微笑む藤谷先輩を、私は恨みがましい眼で見詰めた。
 うそつき、と言うのは正しくない。先輩は嘘は言ってない。ただ、最も伝えるべき情報を言わなかっただけで。
「まあまあ、怒んないで。この人は紺野さん連れて来てって、俺に頼まれただけだから」
「同期なのよー」
 お酒が入っているせいか、二人はへらへらとして笑う。
 藤谷先輩と、もう一人。
「大体、何でいるんですか河西さん」
「だって、来ていいって言われたもん」
 言われたもん、じゃねぇ。
 誰だ、そんな無責任な事を言ったのは。
 本気で犯人を捜そうと思った訳ではないが、周囲を見回すと、この辺りだけ妙に人口密度が高かった。女の。しかも皆、妙に眼がウルウルだ。
 嫌な予感が、じんわりと芽生える。
「まさか……」
「みんな、河西くんのファンだからー」
 藤谷先輩がおっとりと、恐ろしい事を口にした。
 え、じゃあまさかあれですか?
 私が営業の内線を取らなくて良くなったのは、ほかの皆が対応をしたかったからですか?
 私が河西さんに仕事任せてバックレちゃった時、怒られなかったのは書類届けにきた河西さんと、うちの女子がちょっと仲良くお喋りできたからですか?
 今日、確実に嫌がる私が同席している上で河西さんの参加を歓迎しているのは、私よりそっちが大事だから、ですか……?
「……女の友情だと、思いたかった……!」
 居酒屋の座敷で世の中の世知辛さを噛み締める私に、先輩は声を掛ける代りにそっと背中に手を置いてくれました。
 優しさって、無力だよね。
 打ちのめされた私の目の前に、どん、と日本酒の瓶が現れる。
 顔を上げると、営業で鍛えたのであろう河西さんの笑顔にぶつかった。
「ま、今日はとことん話、聞かせて貰いましょ?」
 無理です。
 語れるものなど、私の中に何一つとして存在しません。
 誰か、助けて。
「紺野君、気分が悪いんじゃないの」
 眼をキラキラさせたうちの女子たちに河西さんを押付けて、しばらく逃げ回っているとそんな天の声が降って来た。課長だ。
「僕はお酒が得意じゃないから先に失礼しようと思うけど、よかったら送ろうか?」
「お願いします!」
 正直、記憶が怪しくなる事はあっても、お酒なんか幾ら飲んでも全然平気だ。だが今は非常事態。私は今日一番くらいの生きの良い返事で、課長の助け船に飛び乗った。
「ありがとうございました。飲み会って、ちょっと苦手で」
 居酒屋を出て、まず課長に頭を下げた。
「お酒は好きそうだったけど?」
「あ……、はは」
 見られてたか。日本酒からカクテルまで、手当たり次第にカパカパ飲んでたもんね。でもできれば、お酒はもっと静かに飲む方が好きなのは本当だ。
「あれ?」
 課長が私の手を引っ張って、歩き出した。そんなに酔っ払って見えるんだろうか。
「大丈夫ですよ?」
「うん。けど、送るよ」
「はぁ、でもまだ電車もあるし。一人で平気です」
「心配だから」
 ゆずらないなぁ、課長。
「でもー」
「ねえ、紺野さん」
「はい」
「会社の居心地が悪いなら、結婚しちゃったらどうかな」
「……はい?」
 何を言っているのか、意味が解りません。
 課長は前を歩いているから、私からは背中しか見えない。それから声に合わせて、わずかに動く頬のラインと。
 そのままの状態で歩きながら、課長はなおも続ける。
「あくまで、選択肢の一つだけどね。割りと、有力な道ではあると思うんだ。寿退社は珍しくないし、考えた事くらいあるでしょう?」
 あれ、寿退社を勧められているのか、これは。もしかして、辞めろって事? 遠回しに、クビ切られかけてんの?
 さっきとは別の意味でショックを受ける私を、足を止めた課長が振り返る。
「もちろん、いきなりとは言わないよ。だから、試してみようよ」
 この言葉だけでは通じない。
 でも意識を周りに向けて見れば、これはもしやホテル街。わぁ。日本にもこんなにお城がいっぱいあったとは。
 ……いや、違う。違います。
 私が今、衝撃を受けるべきなのは。
 まさか。
 課長が。
 人畜無害がチャームポイントの、うちの課長が!
 あれ。課長って、何歳だっけ。恋愛対照になる感じ? 私、あんまり年上だと駄目なんですけど。思い出せない……って言うか、多分、元々知らねぇ。
 興味なかったもんなー。
 そもそも課長、独身だっけ?
 軽いパニックになりながらぐちゃぐちゃの思考でそこまでたどり着くと、私はハッと足を踏ん張った。
 やばいやばい。手を引かれるから、うっかりホテルに入りそうになっちゃった。気をしっかり、私。
「あの、課長。無理です」
「どうして?」
 確かに課長は良い人です。仕事できるし、おおらかだし。好きな上司です。
 でも、そゆんじゃないんです。
「すいません、嫌です」
「そう。でも、チャンスが欲しいな。くれない? 一度だけ」
 課長は何も変わらない。様に見える。ただ手を握る力が、ぎゅっと強い束縛になった。
 恐い。
 腕を掴まれている訳じゃない。手の平に指を絡ませ、繋がれているだけなのに。それが、どうしてもほどけない。男の人って、こんなに力が強いんだっけ。
 その様子を見て、課長が言う。
「女の子は、もっとお酒に気を付けないとね。自分で思うより、酔っているものだよ」
 あぁ、そっか。私が酔ってるせいもあるんだ。
 だがこれほど、女と言う性別が歯痒かった事はない。
 自分の意志ははっきりしているのに、それを通す事もままならない。女と言うだけで、ただ単純に力の差において自分を曲げなきゃいけないなんて。そんな馬鹿な話、受け入れられない。
 絶対に認めないぞ、と言う意志を込めて課長を睨み付ける。
「嫌です。課長、離して下さい」
「と言う事なんで、紺野さんはこっちで預かります。あ、ちゃんと藤谷に送らせますんで。安心して下さい」
 何だそりゃ。
 と思う間もなく、背後からの声と共に私は物凄い力で課長から引き剥がされていた。代りに、颯爽と登場した河西さんに何故か首根っこを掴まれている。
 何でだ。
「君、ちょっと危なっかしいから。おとなしくしてなさい」
 扱いの不満が、顔に現れていたのだろう。河西さんは、ため息混じりに言葉を吐き出した。
 課長が少し、首を傾げる。
「僕は駄目で、河西君ならいいの?」
「課長、もしもこの拘束についての事なら、私は全く納得してません」
「そう言うなって。俺に会えて嬉しいだろ?」
 自信ありげな言い草に、首根っこを押えられたままグッと詰まる。確かに、嬉しかった。救世主。でもその言い方は、語弊が激しい。
「女の人は、難しいなあ」
 なぁんだ、とでも言う感じで、課長が訳知り顔に少し笑う。
「そんな事ないですよ、課長。女のダメは本当はよくて、嫌って言うのは本当に怒ってる時です」
「へえ、そうなんだ」
 いいえ、課長。
 それは女の私も初耳です。

 何を納得したのかは知らないが、課長は拍子抜けするくらいあっさりと引き下がった。
 別れ際、「紺野さんには、嫌って言われちゃったもんね」などと、頭の痛い事を言いながら。
 課長と分かれ、藤谷先輩を待たせてあると言う店に二人で向かっている途中。
「ありがとう、ごめんなさい、もうしません。は?」
 幼稚園児を諭す様に、河西さんは言った。
 どうせ、飲み会から私が抜け出した事に気が付いて、捕まえにきただけのくせに。結果オーライで偉そうに言う。
 でも、助けられた事実は事実だ。
「……どうお礼を申し上げたら良いか、解りません。申し訳ありませんでした。以後、気を付けます」
「ひねくれてるなあ」
「お陰さまで」
「恩人の質問には、正直に答えてよ」
 改まった声。嫌な感じだ。
「どうして俺を避けるんだ?」
「避けてない。ただちょっと……」
「ちょっと?」
 言葉尻を取られて、ギクリとした。一体私は何を言おうと?
 うわ、駄目だ。今夜は口が滑りそう。
 慌てて別の話題を探す。
「そんなに、嫌がって見えますか? 私の顔」
「嫌がるって言うか……。俺には、泣きそうに見えるよ」
「泣きそう……」
 あぁ、本当に、そうかも知れない。いつだって、どうして良いか解らなくて、泣きたいのに似た気持ちだから。
「だから余計、気になる」
「あの、もう帰ります」
「解ってる。藤谷も待ってるから」
「一人で大丈夫です」
 もう駄目だ。早くこの人から離れたい。
「気分でも悪いのか?」
 心配そうに伸ばされた手を、私は振り払った。ぱちん、と小さな音を立てた拒絶に、弾け飛んだのは河西さんの忍耐だ。
「いい加減にしろよ」
 普段よりも声が低い。
「何なんだ? 嫌いなら、それでいい。でも紺野、お前は避けるくせに、顔を合わせたら普通に話すだろ? そう言う時は、俺達ちょっと気が合いそうだって思うのに、次はまた避けられる。それが解らない。どうして欲しいのか、俺には解らない」
 私は耳を塞いで、うずくまった。道を歩く人たちが、奇妙な物を見る様に、それでいて興味なさそうに通り過ぎる。
「紺野」
 すぐ傍で呼ぶ。
 河西さんの屈んだ足が、すぐ近くにあるのが見えた。呼吸音すら聞こえるほどの、ほとんど耳元みたいな所でその唇が動いている。
「どうした? 本当に具合でも」
「もうやだ……。もう駄目。本当に駄目」
「何だ?」
 私は、すぐ傍にいる男を睨み付けて顔を上げる。それを見て、河西さんは反射的に身体を強張らせた。私が泣いていたからだ。
 実は単に、お酒のせいで色んなものが緩みに緩んだだけなんだけど。
 夜の繁華街、道端で女を泣かせている。男としては、中々に焦る状況かも知れない。
「ちょっと待て。何で泣くんだ? 俺そんなにキツかったか? 悪かった。ごめん。頼むから」
 困り果てた様子で次々に謝罪の言葉を聞かせてくれるが、解ってない。これでは逆効果と言うものだ。
 もう無理。
 これ以上は、本当に聞いてらんない。
「河西さん……」
「うん?」
 意を決し、口を開く。
 決して言うまいと、誓っていた事。
「河西さんの声が、エロいぃー……!」

 有能な人間と言うものは、いついかなる状況においても有能なのだ。
 私は今夜、それを知った。
「耳がっ! 耳から妊娠するぅ!」
 などと口走る私を片手に抱え、もう一方の手で口を塞ぐと、河西さんはそのまま気合いで止めたタクシーに急いで乗り込んだ。口を塞いだ手は車内でも油断なく決して緩めず、片手だけで携帯電話を操って、待ち合わせ場所にいるはずの藤谷先輩に行けなくなった旨を伝えた。そして私に免許証を提出させると、その住所を運転手さんに指示する。
 有能だ。悲しいほど。
 そして善人。別に一緒に乗らなくても、私をタクシーに放り込むだけで済んだのに。
 この同乗したタクシーの中だけで、「何なんだお前は!」と言う罵りをどれだけ浴びせられたか解らない。
 だから、解んないかなぁ。逆効果だって。
 そう、私は河西さんを嫌ってはいない。て言うかむしろ、愛しちゃってる。主に、声を。て言うか、声を。
 良い声してるんだよね、ほんと。電話越しに初めて声を聴いた時、ちょっと涙が出そうになったものだ。
 河西さんの電話や、本人を前にした時、私の表情が歪むのは努力の結果。そうしないと、とても会社の人たちにはお見せできない顔になるので。
 まさか真っ昼間のオフィスで、人目もはばからず腰砕けに蕩ける訳には行かないし。
 声さえ聞かなきゃ別に平気だって思ってたら、原因からわざわざ近付いてくるんだもんなぁ。逃げたくもなると言うものだ。
 今、タクシーの後部座席に並んで座る河西さんは、深い後悔の中にいる。知らなきゃ良かったって、思ってるはずだ。
 そうでないと、いまだに私の口を塞いだままの理由にならない。
 冷静さを取り繕って、黙り込んだりしないで良いのに。
 タクシーが、目的のマンションを間近にして速度を下げる。さて、どうしよう。私の大好きな人が、私のテリトリーにいる訳だが。
 車を下りる段になって、やっと自由になった口で私は言う。
「河西さん、ちょっと寄って、私の目覚まし時計に声吹き込んでくれません?」
 この声で目が覚めたら、最高だって思うんだけど。

(MHzボイス/了)

無断転載不可
Copyright(C) 2009 mikumo. All rights reserved.
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
個人的には紺野さんを愛してやみませんが、この作品以降、私との付き合いをお考えになったとしても、責めはしません。えぇ。わかります。
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