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スマイリング

作者:芹沢 忍
 時間がやってくる。ドキドキしながら待つこの瞬間は、デートに行く前の気持ちに良く似ている。テレビの前に陣取りチャンネルを合わせ、彼が出てくるのをひたすら待つ楽しい時間。受験生の私にとっては貴重な息抜きの時間だ。
「この世に闇を招くファントム! 俺たちは決して負けない!」
 やや長めの茶髪。隊員服に身を包んだ姿形の整ったアイドルのような青年が、お決まりのポーズで、敵に定番の台詞を言い放つ。
 今日は確か勇士ゆうじの見せ場。次々と周りの人間が消えていく。ついに仲間までもが消え、最後に勇士だけが残る。ファントムの配下が襲いかかり、勇士は怪我を負ってしまうが闘志は捨てない。痛みに歯を食いしばりながら、毅然と敵を見据えての台詞。
「例え……例え独りきりになっても、貴様を倒してみせる!」
 勇士ってばカッコイイ〜! それに比べて一弥いちやときたら何てだらしが無いんだろうか。弟のことを考えると溜息と一緒についつい声が出た。
「顔は一緒なのに……」
「ボヤいてんじゃねぇよ」
 いつの間にか私の背後に一弥が来ていた。風呂上りらしく、ぼさぼさの頭にタオルを引っ掛け、ジーンズを穿き、上半身は裸のまま。秋口の寒い時期なのに、風邪でもひいたら仕事に差し支えるじゃない! そんな事ことになったら勇士の出番が減る! 私は一弥を睨み付けた。
 弟の一弥は幼少から児童劇団に在籍している。ちょこちょこテレビや舞台に出演していて、高校に入って役者の勉強に本腰を入れ始めていた。そんな矢先、戦隊物のオーディションの話しがやって来た。結果は見事に合格。そうしてもらった役が勇士だった。
 姉の私が言うのもなんだが、この役になりきった一弥はとてもカッコいい。普段がどうしようもなく生意気でムカツク奴であっても、勇士となった彼からは目が離せない。
 リーダーシップがあり、自分を犠牲にしても仲間や弱者を護る。顔や姿は姉の欲目もあるがかなり良い。あとは声。甘いテノール。普段とはまるで違う。キャラとしては、天然ボケな部分が愛おしい。真面目にボケる部分に仲間が突っ込んでくる、そんなキャラだ。そう、どことなく弄り倒したい感じの男の子。台本を読ませてもらって、ドラマの展開が面白そうだったから見てみたら、これがどストライクにハマった。以来、毎週録画をしているにも関わらず、日曜の朝に早起きをしている。
「ね−ちゃん、そんなに勇士が好きなのかよ」
 こくこくと頷きながら私は画面の勇士を追っていた。一弥の様子が何だかぎこちない? 何でかなぁと思っていると、ぶっきら棒に何かを手渡された。リボンのかかった小さな小箱だ。
「誕生日だから。ギャラも入ったからくれてやる」
 何様な渡し方だ? 嬉しいけど何だか微妙だぞ。
 やや不満げに小箱を開けると小洒落たブローチが入っていた。手に取り、一弥にしてはセンスがいいなと思っていると、一弥が姿勢を正した気配がした。それに気付いて顔を上げる。
「それから――」
 コホンと咳払いをしてから一弥が私の目の前に立つ。目を閉じて小さく息を吸い込んでから、息を整え静かに目を開ける。変化する気配。それを見て心臓が跳ねた。
「誕生日おめでとう。ファントムからは、俺が、必ず護ってやる!」
 勇士の目だ。発声方法も一弥とは違う。せがんでも今まで目の前では絶対に演じてくれなかった勇士の姿。ヤバい、ドキドキする! そう感じている自分を追い払うように、頭の中でコイツは一弥、コイツは一弥と唱える。しかし顔の火照りは隠せない。
「お、お前、何て恥ずかしい事をするんだ!!」
 動揺して口にしたのはそんな言葉だった。その言葉で一弥の勇士の仮面が外れる。
「ひでぇ! せっかく俺が恥ずかしいのを堪えて演じたのに!」
 真っ赤になる一弥は弟として愛おしかった。さっきとは全然ちがう気持ち。その差に少し淋しさを感じる。ああ、こいつは段々と自分の世界を築いてるんだなぁというのが判ったからだ。
 ぶつぶつと文句を言いながら拗ねる一弥は、まだまだ幼い感じが抜けない。でも、自分の道を見極めて前に進んで歩いている。そんな姿に私は何だか嫉妬した。
 自分の中には何があるんだろうか。そう考えると、何だか落ち付かなくなってきた。
 目の前に自分の道を歩く弟。私が惚れこむような男性を演じてしまう、そんな弟が自慢であり憎らしい。複雑な気分で拗ねた弟を見ていたら、無意識に恥ずかしい本音を言ってしまっていた。
「ずっと勇士でいろ!!」
 気付いて赤面する。そうだよ、お前の演じる勇士が本気で好きで堪らないんだよ! などと思う自分は危険かなと少し思った。
 一弥が驚いた目で私を見た。そうして真っ赤になってる私を見て嬉しそうに笑った。どんな気持ちで笑ったのかはとても気になるけど、その笑顔に勇士の影を見つけて、私ははにかんだ笑みを返した。
私なりのエールです! 少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。

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