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足跡のない旅人
作:緋水 カノン



なんばー49  謝る子


「ほう・・・君、この右目はいつ頃に、どうやって見えなくなったか覚えているかね?」
「ち・・・小さい頃に・・・・・・確か、森の中で木の枝が目にかすって・・・・・・見えなくなったと思います・・・・・・」
「治療は? その時、君の父親にしてもらったのかね?」
「え・・・いえ、お父さんの話では、僕が怪我した時にはただ包帯を巻いただけなのに・・・いつの間にか、誰かに綺麗に治療されてたって・・・・・・。あの・・・どうかしたんですか?」
 治療室に入ってすぐ1人の医者の元へ連れて行かれ、わけも分からないまま右目に常に巻き付けている包帯を剥ぎ取られた。
 細かな怪我や土で薄汚れた顔を丁寧に拭われると、その意外にも整った美しいクラウドの顔立ちに医者はため息を漏らすが、常に悲しげな様子で目を伏せているその後ろで睨むグレイに気圧されて大人しく右目の様子を診始めた。
「君の・・・この右目は、恐らく傷付いて段々腐っていったんだろう、元あったはずの眼球がないな。だが、代わりにガラス玉が入れられている」
「ガラス玉? ・・・随分本格的な治療がされていますね」
 医者の言葉に声を上げたのは、グレイ。
 不思議に思ってクラウドの前に回り、その頬に手を添えて右目を見る。
「ああ、本当ですね。・・・恐らくですが、これは・・・・・・」
 グレイは身を屈めて、クラウドに聞かれぬようそっと医者に耳打ちをする。
「・・・多分、当時この子達を追って実験塔を脱走したNo,0117が治療したのではないですか? この子とその父親は、家族ではありますが、No,0117の絶対記憶の抗剤を投薬されていません。私の予想ではありますが、No,0117が治療したのを記憶していないんじゃないですか?」
「確かに・・・その可能性もなくはないですね・・・・・・。・・・君、他に体に異常はあるかい?」
「い、いえっ・・・特には・・・・・・、ない、と思います・・・・・・」
 問われた瞬間にわたわたと慌てるクラウドの様子を見て、グレイは迷わず握り拳をその頭に振り下ろす。
『ゴンッ』
「あ痛っ! えっ、何・・・・・・!? 僕・・・ごめんなさ・・・・・・」
 何が起こったのかも分からず涙を滲ませながら謝るクラウドに、グレイは呆れたようにため息を吐く。
「歩くのもやっとの事なのに、何言ってるんですか! いいですか、実験塔では無駄な嘘は吐いてはいけません! 分かりましたか!?」
「・・・・・・」
「聞いてますか!? 返事は!?」
「はっはいっ・・・ご、ごめんなさい・・・・・・」
「声が小さいですよ!! もっと大きな声で!!」
「はっ、はい!!」
 怒鳴るグレイに呆けるが、それをも恐れて返事もとい約束を強要される。
 脅えながらもはっきりと返事をすると、今度は2度目のため息を吐いて腕を組み、椅子に腰掛けて身を縮こませているクラウドを威厳たっぷりに見下ろす。
「そうですよ、その返事です! 貴方は普段から誰に対してもおどおどして自分の意見をしっかり持たないで・・・・・・。クラウドさん、貴方ももう15歳くらいでしょう? いくら頼れる父親と兄がいるからといって頼り過ぎてはいけません。いつまでも目を伏せてないで、まずはちゃんと人と顔をあわせるように・・・・・・」
「・・・っく・・・は、ははは!」
 不意に、2人の横で笑い出す医者。
 訝るグレイと更に脅えるクラウドを尻目に、尚も笑いつづける医者に小さく声をかけてもみるが、それでもさも可笑しそうに笑い続ける。
「ちょっとドクター、さっきから何を笑っているんですか?」
 ようやく笑いがおさまった頃に多少不機嫌になったグレイが話し掛けると、医者は眦を押さえながら顔を上げて快活に口を開く。
「いやあ、No,0118様が人に説教しているのは初めて見たものでして。その時の様子がいつもと全く違うので思わず・・・・・・」
「・・・そんな下らない事で・・・・・・」
 グレイは疲れたようにクシャリと前髪を掻き揚げ、この日3度目のため息を吐く。
「端から見れば、立派な保護者でしたよ」
「私はこの子の親でもなければ保護者でもありませんよ。・・・それでドクター、この子の右目はどうですか?」
 グレイはその場の話題をさっさと切り替え、医者に結果を促す。
「ああ、怪我してすぐにこれは治療されているので、特にここで治療を受ける必要はないと思いますよ。だが、治療してから今まであまり清潔にはしていなかったようですね、これからはちゃんと清潔に保つようにして下さい」
「・・・なぜ私に言うんですか。この子ですよ、この子」
「あ、すみません。本当に保護者のような雰囲気を纏っていたので、つい」
「・・・・・・」
 全く偽りの様子もなく真剣に言う医者の言葉に、グレイはどう返していいのかも分からず口を噤む。
「で、分かったかい? 君」
「は・・・はい・・・・・・。・・・って、わぁ!?」
 未だ俯いているクラウドの肩を、不意に般若のような形相をしたグレイがガッシリと掴む。
「だから・・・おどおどするなと・・・先程から・・・・・・」
「ごっ、ごめんなさいっ・・・・・・!!」
「・・・まあいいでしょう。さ、右目の検査も終わりましたし、次は身体検査ですよ。さっさと行きましょう」
 そう言うと、グレイは医者に頭を下げながら、未だに縛られているクラウドの両手首の縄を引っ張って立たせた。












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