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足跡のない旅人
作:緋水 カノン



なんばー43  リナルート


 ロバートの話した内容は、こうだった。



 リナルートは、元は小さな少数民族だった。
 その民族は集団で各地を点々としていたが、とある土地・・・今のリナルートに定住し始めた。
 当然その地で農業を始めはするが、その民族での農作物の作り方はでたらめで、その周辺の薬草は薬草としての働きを失っていた。
 民族はそれに気付かずそれを打撲やかすり傷などに使っていたが、1人、事故に巻き込まれて大怪我を負った。
 元々大掛かりな治療などする機会の少なかった民族の者達はその時にいつもの薬草を使い、その怪我人をショック死させてしまった。
 その話はすぐに民族中に広まりその薬草への不安は高まるが、時が経つにつれてそれも静まっていった。
 だが、そのうちまた怪我人が出てしまい、民族の者達は不安に思いながらもあの薬草を使った。
 そして結果は、またも死亡。
 その1人の死亡をきっかけに、民族の者達は本格的にその薬草を怪しみだした。
 そして実験という名目で1人に怪我を負わせて薬草を使い、またもその者が死亡すると、民族の者達は数々の原因が薬草だと断定してしまった。
 だが、実際にはそうではなかった。
 本当の原因は薬草の効果にあったのではなく、付いていた雑菌のせいだったのだ。
――もう、小さな治療さえも出来ない――
 絶望、とまではいかないが、民族の中では小さな不安が募っていった。
 そんな不安定になってしまっている民族の前に頃合い良く現れたのが、自らを予言者と名乗る男だった。
 そんな予言者は1度民族の者達1人1人と顔を合わせ、こう予言した。
『薬草などと人間の生の時間や運命を変える物体を凝りもせずに使用した愚か者共よ。主等はどうせ助からぬ命を長らえさせようとした為、現在になってその罪が降りたのだ。神の手によって薬草が使えなくなった主等に、これから1人1人、制裁が下るだろう』
 予言者のその言葉に、民族の者達は初めて絶望した。
 いつかは自分が死ぬかも知れない。
『生贄を』
 そんな声が、民族の中で出始めた。
 そんな民族を笑い飛ばして、予言者は言う。
『そんな事をしても神の制裁は避けられやしない。もっと確かなものを我の前に示すのだ。さすれば主等の民族は繁栄し、そのようなちっぽけな民族から豊かな国へと変わるだろう』

 豊かな国。

 民族の誰もがその言葉に驚き、そして喜んだ。
 そして出た意見。
『この地域、周辺に生える薬草を刈れ、燃やせ。そしてそれを、予言者様へと示すのだ』
 それはとても無難でもっとも。そして生贄という名の犠牲が出ない為、民族の者の多くの賛成を勝ち取った。
 だが、少数ではまた別の意見も。
『この地域から少し離れた場所にある薬草は、まだ生きている。だから、みんなでそこへ移動して生きていこう。薬草を使わないなど、馬鹿げている』
 その意見は真実を表したものであり、正論。
 だが今の民族はその意見に耳を傾けはしない。
 真実を見ようとしない者の頭にあるのは、自分の身の安全と豊かな国。
 自然と、正論を謳う者達は煙たがられて小さな存在へとなってしまった。
『わかった。神などという不確かな存在を信じるのなら、好きにするがいい。我等は我等の信じる道を、治療で人を救う道を選ぼう。・・・いつか我等に頼るような事が起これば、いつでも訪ねてくるがいい。多少不躾だろうが、快く歓迎しよう』
 そう言い残して、正論を述べた者達は民族の中から出て行った。当然それを引き止める人もなく。
 残った民族達は、それからは淡々と良い方向へと流れていった。
 治療はしないという誓いと引き換えに与えられたのは、確かに神の制裁ではなく、豊かな国、人、食料。
 あの予言者はいつの間にか神と崇められ、王として国に居続けた。
 そして国の名前をリナルートと名付けた王は、子孫を残す事なく息絶えた。
 リナルートは民族だった頃と比べて、色々変わった。
 だが、現在までに変わらなかった事が1つ。
 リナルートの国民は、治療をしない、薬草を使わない事を誓い守ってきた。
 だが、国民のその法に近い約束事は、いつか破られるのか・・・・・・。












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