東北地方の冬。夜は本当に寒い。外は吹雪がものすごい。ゴォゴォと鳴っている。
こういう時、ばっちゃは囲炉裏を囲んで近所の童たちに昔話をしてあげる。昔話といってもばっちゃの口からこぼれた嘘八百物語なのだが、外で遊べない童たちにとっちゃ滅法面白い。げらげら笑いながらばっちゃの話に耳を傾けていた。
でも一人、笑いの通じないごっつマジメな童がいた。
「ばっちゃ。本当なの、その話」
「いや、本当というわけではないのじゃが。そのあのう」
「ないのじゃが? ふざけないでよ!」
「す、すまん。しかしじゃな。これはフィクション」
「もう! うざい!」
女の子が立ち上げって中央の鍋を蹴飛ばそうとしたので、まわりの童があわてて止めに入った。
「やめるべ、よっちゃん。おもしろいとこなんだから黙るべ」
「そうだそうだ。ばっちゃも困ってるべ」
「なによ! あたいとやる気!?」
ばっちゃはうろたえてしもうた。せっかく楽しいステキな夜を童たちに提供しようと必死にでたらめ話をひねり出していたのに、こんなに殺伐としてしまうとは!
しかも自分のトークが原因で・・・・。
ばっちゃは自分に対して腹が立った。まだまだわしのトークも未熟だな。やるせなく、すっかり落ち込んでしまった。
「ばっちゃ元気出すべ」
「んだ。んだ。よっちゃんも謝るべ」
「うるさい!」
よっちゃんはばっちゃの頭に自分の足をものすごいスピードで落とした。まるでキックボクサーの選手だ。
「ぐはっ」
ばっちゃの鼻からプシューと血が出た。
ばっちゃは顔を床にぶつけ、気絶してしまった。
「しまった! 殺してしまった!」
よっちゃんはあわてにあわてた。殺すつもりはなかったのに。何ということだ。
とはいうものの、あまり気にしないのがよっちゃんのいいところ。
「まぁいいや。こういうこともあるべ。長い人生だもの」
ごっつ前向きで涙が出る。
しかしながら、周りの客たちは許さない。せっかく高いチケット代を払ってばっちゃの落語独演会を観に来たというのに、こんなしょうもないオチでは納得するものかっ!
しかし、よっちゃんは観客の恨みの視線も気にせずに、ばっちゃの死体を持ち上げると、すごいパワーで窓に向かって放り投げた。
外の川にどっぽーん。
ばっちゃの死体は下流に向かってどんどん流されていく。
「さてと」
よっちゃんは腹がへってきたので、なにか食べようと思った。
しかし、冷蔵庫には何もない。しかたないので、とりあえず外に出て、川に味噌とだしを入れ、それを飲むことにした。
味噌スープ川、つまり、ミソ・スープ・リバー(miso soup river)というわけである。
しかしながら、その野望は失敗に終わった。
なぜなら、飲みきれない。多すぎる! しかもしかも、具も最悪だ。空き缶やら煙草の吸殻やら水でパンパンのダッチワイフやら、最近の日本人は本当に川を大事にしない。こんなmiso soup river飲んだことねえ!
よっちゃんは何が何やら日本の環境破壊に絶望し、やるせない気分になってきた。
「もうねる!」
街に飛び出し、駅前の広場の噴水の前に蒲団を敷くと、もぐってすぐに眠りこけてしまった。周りの人たちはあまり気にしてない。忙しいのだ。
しかし、すぐに起き上がった。
「ああ! あかん。ねむれん!」
周りの通行人が足を止め、しばしよっちゃんに注目した。でもすぐに歩き始めた。
実は、二時間ほど前にコーヒーを飲んでいて、それが効いてきたのである。
おそるべきコーヒーの魔力!
よっちゃんは仕方がないから蒲団を片付けて駅前交番のおわまりさんに預け、街をぶらぶら散歩することにした。
夜風が当たって気持ちがいい。
犬が遠くでわぉーんと鳴いた。
線路に沿って歩いてみた。
すると、前方、線路の上に、倒れてる女の人を発見した。女の人はあお向けになり腹を押さえている。
声をかけてみた。
「もしもし、おねえさん。どうしたんですか?」
倒れてる女の人は今にも死にそうな声で答えた。
「は、腹がへって動けないんです。うぅ」
「ふーん。かわいそうに。それじゃあ」
よっちゃんは、死にそうな女の人に頭を下げた後、どんどん進んでいった。そのすぐ後、列車が時速100キロでやって来た。「ぐぎゃあああああああああああああああああああああ」
坂道に来た。
「ラララぁー。いい天気ね。うわ」
前方から大きな岩が転がってきた!(了)
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