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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第二章
67/410

六十一階層 火山

 バッファーを教えることになる付与術士に関してはそもそも探索者を引退していて現在は実家に帰郷して家業を継いでいるという状況である。なのでその者を連れてくるところから始めるとのことで、努はまずアルドレットクロウの一軍ヒーラーの様子を見に行くこととなった。


 努はルークに一軍PTの構成を聞くと、火竜はタンク2アタッカー2ヒーラー1の構成で突破していて、火山はアタッカーを減らすことを考えているとのことだった。そして努はアルドレットクロウの一軍PTのメンバーと顔合わせすることになった。



「初めまして。わたくし、ヒーラーを務めさせて貰っています、ステファニーと申します。以後お見知りおきを」



 明るいピンク色の長髪を螺旋状に巻いている髪型が特徴的なステファニーという女性は、黄色いドレスのスカートの端を摘んで上げながらも仰々しく努へ礼をした。その後彼女は手を合わせて努を少し見上げた。



「ツトム様には是非直接お会いしてお礼がしたかったのです。ツトム様、飛ばすヒールにヒーラーという役割を広めてくださり誠に感謝申し上げます。おかげで私は一軍に返り咲くことが出来ました」

「そうなんですか。それは良かったですね」

「全てはツトム様の資料があってこそですわ。本当にありがとうございます」



 可憐な花を思わせる笑みを浮かべるステファニーに努は軽く礼をする。以前の説明会には見なかった人であるので、三軍辺りから返り咲けたのかなと努は思っていた。こんな縦ロールの派手な人があの説明会にいたら印象に残っているはずだからだ。



「……ソーヴァだ。アタッカーをしている」



 不機嫌そうな顔でぶっきらぼうに挨拶をした黒髪の男は、説明会の時にアタッカーとして努に意見していた者だ。彼は努の来訪をあまり喜んでいる様子ではなく、それ以上は何も語らなかった。



「アルドレットクロウ、タンクを務めている、ビットマンです。よろしくお願いします」



 坊主頭の男は努とそこまで変わらない平均的な身長であったが、何処か気圧されるような近寄りがたい雰囲気を放っていた。一番最初のガルムみたいだな、と努は思いながらも彼に差し出された手を握る。強く握手を返された後に努はビットマンの硬い手の平を離した。


 そして努がルークに視線を戻すと、彼はとぼけた顔で自分を指差した。



「あ、私もした方がいいかい? ……えっと、ルークだよ。今はタンク、かな? よろしくお願いするよ!」

「はい。よろしくお願いします」

「じゃあ顔合わせも済んだことだし、早速行ってみようか。場所は……六十一階層とか、どうだろう? あ、勿論ツトム君に手間は取らせないよ」

「いいですよ。そこならまだ安全でしょうしね」

「そうだね! いやぁ、もう峡谷は飽き飽きしてるからね! 一年くらいずっとあそこにいたからさ! 今は火山が楽しくてしょうがないや! 暑いけどね!」

「そうですね……」



 わくわくが身体から溢れ出ているようなルークを横目に努は何となしに返す。


 努も六十一階層に行くこと自体は初めてであるが、紅魔団が先に進んでいる映像で予習はしてあるので問題ないと判断した。努としては六十五階層までは安全と踏んでいる。


 ちなみに紅魔団は現在六十六階層まで到達している。火山の中ボスである溶岩を泳ぐドジョウのようなモンスターを紅魔団は倒し階層を更新し続けている。この調子なら六十九階層までは止まることがないだろう。


 アルドレットクロウの事務員が備品をマジックバッグから出して一つずつ再確認し、工房で見習いをしている者たちがPTの装備を持ってくる。一軍PTはそれに着替えた後にギルドへと向かった。


 一軍PTの装備を見るとルークはローブを着込み、ソーヴァは真っ黒に染色された鎧。ビットマンも一般的な革鎧を着込んでいる。そんな集団の中で紅一点のステファニーが装備している黄色いドレスは異彩を放っていた。一応黒いストッキングやロンググローブなどで素手素足ということにはなっていないが、明らかに防御性が欠けている装備だった。



(まぁ、人のことは言えないんだけど)



 努の着ている純白のローブもダンジョンの宝箱から発見される白魔道士専用の装備であり、白魔道士が装備すると精神力にプラス補正が入るという効果を持つローブである。防御性はほとんどないので自身のVIT頼りになっている。


 しかし努が鉄の鎧を着込んだところで重くて動けなくなってしまうし、普通の鉄程度の強度ならモンスターの攻撃を何度も受ければ壊れてしまうのでたかが知れている。VITの恩賜がない限り装備はあくまで保険程度の扱いだ。


 ギルドに着き受付でPT申請を済ませて魔法陣の順番待ちをしていると、ステファニーが努のことを横目でチラチラと見ては反らしたり視線を伏せていた。努が何か、と尋ねると彼女は恥ずかしそうに慌てた後に斜め下へ視線を落とした。



「いえ、少し緊張してしまって。ツトム様に比べられてしまうと私なんてゴブリンメイジのようなものですから」

「いやいや、あの資料にあることを出来ているのなら上出来ですよ。それに火竜を倒していますしね」

「私の力なんて些細なものでした。恐らくあれならば私でなくとも出来たでしょう。ルークさんとビットマンとソーヴァが凄かったのです」



 しゅんと顔を俯かせながら喋るステファニーとその後も努は会話を続け、彼女の行動や言動を観察した。しかし彼女の言葉に嘘や謙遜のような意思は見受けられず、本心でそれを言っているように努は感じた。


 その派手な髪型からステファニーは我が強い者であるものだと努は思っていたが、意外と彼女はその見た目に反して自己顕示欲などはあまり強くないようだった。


 ステファニーとの会話が終わり努はソーヴァに視線を向けると、彼は不機嫌そうに顔を反らして視線を合わせようとしなかった。その様子を見ていたルークが努に近づいてきて、ちょいちょいと片手を動かして努にしゃがむようせがんだ。


 努がしゃがむとルークは彼の耳に顔を近づけて手で口元を隠しながらもこしょこしょ声で喋った。



「ソーヴァ君は、あれだね。前回のことをまだ引きずってるらしくて、君とは気まずくて顔を合わせたくないみたいだね。実際火竜討伐出来ちゃったことが悔しいみたい」

「あぁ、そうですか。まぁ、連携に支障が出ないなら問題ないですよ」

「ごめんね。彼は紅魔団のリーダーに憧れてるからさ。それが拍車をかけてるんだと思う」

「そうですか。あ、だからあんな真っ黒装備なんですね」



 紅魔団のクランリーダーである男は黒い長髪に全身真っ黒の装備が印象的な人物である。言われてみればソーヴァの装備も真っ黒であるし髪も黒い。少し跳び跳ねている髪を見て努は夏によく出る黒い悪魔を想像していた。


 少し高い声と耳にかかる息に努はくすぐったくなって耳を掻いた後に立ち上がると、丁度列が進んで魔法陣が一つ空いた。ルークは皆を連れてそこに入ると宣言した。



「それじゃあ行ってみよう! 六十一階層へ転移!」



 五人の姿は粒子に包まれて六十一階層へと転移された。



 ――▽▽――



 転移した途端、目が痛くなるような赤い光が努の目に飛び込んできた。溶岩が上から下にだらだらと垂れ落ちている。辺りを囲む黒の岩には血管が走るように赤い光が漏れていて、その洞窟を明るく照らしていた。


 六十一階層の火山。洞窟内部に努たち五人PTは飛ばされていた。後ろで黒門が静かに閉じるとルークは大きい杖の先に緑の丸い珠をセットし、いの一番にスキルを唱えた。



召喚サモン――ゴブリン」



 太い銀色の杖をぐるぐるとルークは回すと地面に魔法陣が現れ、草原で良く見るゴブリンが召喚された。三匹ほど召喚されたゴブリンたちはルークの指示に従いバラバラに散って索敵を始めた。


 その間にルークは腰につけているポーチのようなマジックバッグをごそごそと漁ると、そこから小型の箱のような物を取り出した。それを開けると中から冷気が吹き出してくる。


 ルークはその中から黄色い小粒の塊を取り出して口の中に入れた。どうやら中身は氷菓子のようで、ルークはPTメンバーにそれらを配っていた。努も一つ赤い氷菓子を頂いたので口に放り込んだ。



「おいひひでひょ? ほれほくちゅうでふくらせへるんだよ?」



 口にレモン風味の氷を入れているルークの言葉は言葉になっていなかった。取り敢えず努は頷いておいてリンゴ味の氷を舐めながらもゴブリンの帰還を待った。


 洞窟内部は溶岩と岩のせいかかなり暑いため、努はじっとしているだけでも汗が出てきた。幸いにもこの洞窟がずっと続くわけでないので、外に出れば風があるため幾分かマシになるとルークも汗を拭きながら答える。



(ソーヴァって人は相当大変なんじゃないかな。この暑さだと)



 努は思ってソーヴァを見たが彼は平気な顔をして剥き出しのロングソードを背中に背負っている。何か鎧の内部に冷やすような機能でもあるのかな、と努が注意深く見ている間に斥候のゴブリンたちがぎゃぎゃっと鳴き声を上げて帰って来た。



「うんうん。取り敢えずこの洞窟を抜けるまでは大丈夫みたいだね。さ、おゆき」



 再びゴブリンたちを先行させたルークは銀の杖から緑色の珠を外して、ポーチから土色の珠を取り出してセット。



召喚サモン――ゴーレム」



 続いてスキルを唱えると先ほどよりも少し長く杖をぐるぐると回転させて魔法陣を展開させ、ルークは土色のゴーレムを召喚した。三メートルほどの大きさがあるゴーレムはルークに手を差し出す。彼はその腕をよじ登って肩に乗った。



「よし、行こうか」



 ゴーレムに肩車されているルークを努は見上げると、彼は不敵に笑った。そのドヤ顔に努は秘密基地でも自慢する子供が思い浮かんで思わず苦笑いした。


 そのままルークと召喚獣の先導の下進んで洞窟を抜けると、火山灰に包まれたような空模様が五人を出迎えた。灰色の空はそれが雲なのか灰なのか努には見分けはつかなかったが、黒い粒のようなものが散っているのが窺えた。


 所々には池のようにマグマが流動して薄黒い大地を侵食している。そして遠くに見える斥候のゴブリンたちが何かと戦っているところが見受けられた。何か岩のような形をしているそれは、ロックラブというモンスターであった。



「それじゃあみんな。いつも通りで頼むよ!」



 ゴーレムの肩にまたがっているルークの高い声に三人は頷いた。

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