完成したPT
四人PTで五十九階層を達成した翌日の午後過ぎ。いつもの集合時間より遅い時間に努がモニター前に行くと、エイミーとガルムは既に集合していた。
ガルムは新調してから使い慣れてきた大盾を背負い、いつもの銀鎧を着込んでいる。エイミーは半甲冑に腰にある双剣の鞘。その双剣はモンスターの素材を使った業物で彼女が三年前から愛用しているものである。
「こんにちは。準備は大丈夫そうですね」
「うむ」
「もち!」
ガルムは頷きエイミーは片拳を突き上げる。気合充分のエイミーに努も満足そうに頷くと三人で受付に向かった。
受付でステータス更新を行って三人でPTを組む。努は一日半の効率的なレベリングのおかげで現在のレベルは四十五となっている。DEXとMNDが一段階上がっているので、更に回復、支援スキルが運用しやすくなっている。
ガルムは六十五。エイミーも六十の壁を越えて六十二へと上昇し、AGIとSTRが一段階ずつ上昇。エイミーは昨日の火竜対策を兼ねた練習でAGI、STRによる感覚の変化を慣らしているので問題なく動ける。
「ん」
魔法陣の前に三人が向かうとエイミーが努に向かって唐突に手を差し出した。努は一瞬彼女が何をしているのかわからなかったが、すぐに察して微笑したままその手を取った。
「何だか最初の頃を思い出しますね」
「ツトム、最初凄い怖がってたよね!」
「そりゃ人が粒子化するところなんて生で見たことなかったですしね」
左にいるガルムに努は手招きすると彼も努の手を握った。
「でも今は逆ですね。あれ? 手繋ぎはもういいかな?」
「……いじわるよくない」
「あいたたた」
エイミーに長めの爪を立てられてぎりぎりと手を握られた努は顔を歪めた。つんと視線を逸らして手を緩めたエイミーは努を引いて魔法陣に入った。
「血が出るかと思いましたよ……。それでは、五十九階層へ転移」
三人の身体が光の粒子に包まれていきその場から消失する。努の視界が暗転し、すぐに赤茶色の大地が飛び込んでくる。すとんと努たち三人は着地した。
「よし、それじゃあ一時間を目標に黒門を探しましょう。フライ」
「行ってくるねー」
フライをかけられたエイミーはすいーっと空中を駆け上がるようにして遠くへと消えていった。努もいつものようにポーションの管理を始めてガルムは準備運動をしている。その際に爪痕が残されている手の平を見て努は苦笑いした。
最近のPTでは緑ポーションをほぼ使っていないので入れ替えるのは青ポーションのみ。これでもう半分くらいかと努は青ポーションの入った大きい瓶を見やりつつ、細瓶に青ポーションを詰めていく。
帰って来たエイミーが周囲の地形情報を言うと努は一先ず黒門がよく見つかる高所を目指そうと提案。ポーションを受け取った二人はすぐに同意して五十九階層の探索が始まった。
火竜攻略の作戦は既にエイミーにも伝わっているので時偶閃光やブレスの合図を努は送る。エイミーがブレスという言葉を聞いて反射的に動けるようになってきたことを努は確認しつつ、閃光瓶を惜しみなく使って練習していく。
そして最後の練習を重ねながらも二箇所ほど高所を巡り三箇所目に向かう最中、ガルムとエイミーの頭の上に付いている耳が異常を察知するようにピクリと動いた。
エイミーが崖から下を覗くと豆粒のように小さい人影が五つに、ワイバーンの影が四体。それは金狼人率いる金色の調べというクランの一軍PTであった。
「げ、下からこっちに来てる」
「……競争になりそうですね。早く行きましょう」
努たちはここまで二箇所ほど高所を回ってきているし、時間もそろそろ一時間を過ぎる。ここで他のPTに黒門を取られるのは面倒だったので努はすぐに上に向かった。
「ツトム。一人こっちに先行してきてるよ。多分確保しに来てる。私も出ていい?」
「そうですね……。じゃあ、任せます」
「おっけー! 絶対取ってくるから! あ、ヘイスト貰っていい?」
「あ、すみません。ヘイスト」
黒門はPTメンバーの誰かが開けばその黒門の所有権はそのPTに移る。努は今まで黒門への競争ということをしたことがなかったので、エイミーの判断に任せた。
エイミーは努にヘイストをかけられた後に乾いた唇を舐めた後、一気に加速した。AGIが一番高いエイミーが本気で空を駆ける速さは物凄い速さだ。
しかし金色の調べのクランリーダーである金狼人はエイミーとAGIのステータスは同じ。更に彼の持つユニークスキルでAGIは二段階上昇する。
努とガルムを一瞬で横切った金髪の男。身体が仰け反るほどの風圧に襲われて努は少し体勢を崩し、すぐに立て直した。まるで金色の隼のように過ぎ去っていった男を見て、エイミーは追いつかれそうだなと内心思いながらも二人は自身のペースで崖上を目指す。
そして五分ほどで努とガルムが崖上に到達してしばらく走ると、自然の景色に編集ソフトで無理やり入れたかのような黒門が見えた。その近くには息を荒らげて地面に突っ伏しているエイミー。そして金色の髪を刈り上げている男が岩場に座っていた。その男は努とガルムを見ると軽々と手を上げた。
「よう、完敗だよ。エイミーちゃんいつの間にかにあんな早くなってたのな」
「…………」
気軽に声をかけてきた彼に努は会釈した後に地面へ倒れているエイミーに駆け寄る。あの短時間でここまで息を乱していることからしてエイミーは全力で崖を登りきった後、ここまで全力疾走でもしたのだろうなと努は思った。
「や、やったよ、ツトム……。確保、したよ」
息も絶え絶えの様子で顔を上げて努にそう伝えたエイミーは、燃え尽きたようにがっくりと顔を下ろした。一応メディックをかけた努は腰を上げると金色の調べPTも追いついたのか男に駆け寄っている。
そして男が笑いながらも頭に手を当てて黒門を取られてしまったことを告げると、他の女性PTメンバーたちは恨めしそうに努たちを見てきた。相変わらずおっかないなと努は感じながらも息が整い始めたエイミーを起こす。
そして金色の調べのクランリーダーである男は大声で遠くから努たちに頑張れよー、と告げると今日はもう諦めたのか崖を降り始めた。何もトラブルが起きずにホッと努は息を吐く。
そしてエイミーが息を整えて努が精神力を完全に回復した後、作戦を再確認した後に三人は赤装束を着込んで六十階層に続く黒門へと入っていった。
――▽▽――
中央がへこんだすり鉢状の地形。その中心からは渦巻くように砂塵が舞っている。努が白杖を振るって遠くに見える大きな崖を睨んでいるガルムと、緊張したように片耳をちょこちょこさせているエイミーに支援スキルをかける。
「フライ、プロテク、ヘイスト」
風が三人を包んで二つの気がガルムとエイミーの身体を纏う。そしてガルムが睨みつけていた崖から火竜がその長大な身体を揺らめかせて空へ上がる。火竜の咆哮。生物の生存本能に直接響くような咆哮。
それを受けた努は相変わらずうるさいなと片耳を塞ぎ、ガルムは少し怖気づいたもののすぐに立て直した。火竜を一度倒している実績がある彼ならばもう恐怖で身を固めることもない。
だがエイミーは違う。モニター越しではない。自身の足でこの地に立ち、直接殺意の乗った火竜の咆哮を聞いたエイミー。彼女は猫耳を完全に後ろへ伏せて身体をがくがくと震わせていた。
「大丈夫」
エイミーの肩が努の言葉へ過剰に反応して跳ねる。エイミーが隣の努を見上げると彼はいつもと変わらない微笑を顔に浮かべていた。
「この三人なら、大丈夫ですよ。エイミー」
「……うん!」
エイミーの力強い返事に努はよしと彼女の肩を叩いた。ガルムはそのエイミーの様子を見た後に鼻を鳴らした。
「ふん、精々足を引っ張らないことだな」
「あんたこそすぐ死なないでよね! 私が攻撃出来なくなるんだから!」
「私は死なん。それよりも貴様の攻撃だけで火竜を倒せるかどうかが私は心配している」
「なんだとぉ!?」
「はいはい二人共。ブレス来ますよ。火装束被って。閃光瓶も投げるんで準備」
いつもの調子で言い合いを始めた二人を諌めた努は向かう火竜に指を差しつつも、マジックバッグから閃光瓶を取り出す。いそいそと火装束のフードを被って尻尾をしまい始めた二人。努は口に火を溜めて向かってくる火竜を見据えた。
(……少し小さいか。ラッキーだな)
ゲームと違いモンスターには個体差が存在する。同じモンスターでも大きさや筋肉のつき方が違っていたりするものがいる。前回よりも全長が小さい火竜に努は安心した後に叫ぶ。
「閃光いきます!」
努は閃光瓶を振った後に向かってくる火竜の前に閃光瓶を放り投げた。そして火装束を被って身を伏せる。
みるみるうちに光を放ち始めて爆発した閃光瓶と共に火竜のブレスが三人を襲う。だがそのブレスは赤糸の火装束によってほぼ無効化される。そして火竜の視界は白に染まった。
ブレスが終わり火装束のフードを取った努は金槌を持ってフライで浮かび上がる。努がガルムと視線を合わせると彼は頷いてその場を離れた。
「ウォーリアーハウル」
ガルムが少し離れた場所で大盾と鎧を打ち鳴らすと、視界が真っ白になりその場で滞空している火竜がガルムの方を向いた。その固定された顔目掛けて努はフライで迫る。
火竜の顔を横からすれ違いざま、額の水晶に努は金槌を叩きつけた。中心からパックリと割れた水晶。火竜は激昂するような叫び声を上げた。
翼を横に広げて空からガルムの放っているウォーリアーハウルの鳴る方角に進んでいく火竜。努は悠々と地面に着地するとその二人の行動をじっと見ていたエイミーに声をかける。
「それじゃ、お願いしますね。最初は尻尾中心。後は――」
「わかってる。いつも通りね」
「はい。ヘイト危なくなったら声かけますんで。ヘイスト」
双剣を鞘から抜いたエイミーは努へ少し無理矢理に笑みを浮かべた後に火竜へと向かっていった。近づけば近づくほど火竜の大きさ、威圧感にエイミーは圧倒される。火竜。こんなものにたった三人で勝てるのかという疑心。
エイミーはいつもと比べ少しだけ遅い足取りのまま、まずはスキルを使わずに尻尾の鱗に刃を突き立てる。
火竜の鱗はしっかりとした硬さもあるが同時に柔軟さも兼ね備えている。エイミーの攻撃は鱗に防がれて彼女はすぐに引いた。まずはその強靭な鱗を削がない限り火竜にダメージは与えられない。
だが更に一撃、二撃当てようとも火竜はエイミーに振り返らない。まだ視力が回復していない火竜は音をわざと鳴らしているガルムに目標を定めている。
そしてエイミーが感覚的にそろそろかな、と思い動きを緩めるとすぐに努のヘイストが飛んでくる。ヘイストによって一段階上昇しているAGIが継続する。
(本当に、いつも通りだね)
エイミーはふとそんなことを思いつつもいつも通りの動きで尻尾の鱗に双剣を振るう。火竜の動向、ヘイストの効果時間に気を配りながら両腕を振るう。火竜の赤い鱗が段々と削れていく。
「エイミー! 他の場所攻撃して緩めて!」
空からガルムにプロテクやヒールを飛ばしている努からエイミーに指示が飛ぶ。エイミーは鱗が柔らかくなってきた尻尾部分から次は足の鱗を剥ぎにいった。鱗が剥げるまでダメージがあまり通らない分、鱗を剥いでいる間はさほどヘイトを稼ぐことはない。
その継続的で地道な攻撃はカミーユには出来ない芸当だ。カミーユの大剣での一撃は確かに強烈であるし運用次第では間違いなくトップアタッカーになれる。しかし三人PTでのカミーユは些か攻撃力が大きすぎた。
それに比べてエイミーは手数が多い分攻撃力は少なめであり、その分ヘイト管理もしやすい。なので一撃離脱のカミーユとは違い継続して火竜に攻撃を与え続けることが出来る。それは火竜の鱗を剥ぐには丁度良かった。
「バリア」
三十分が経過し努がバリアを張って火竜の動きを少しだけ止め、その十秒ほどの間にガルムへメディックや水分補給を行わせる。それを二回繰り返す頃には火竜の足回りや尻尾の鱗は剥げてきていた。
「エイミー。尻尾お願い。時間かけて斬っていって」
「りょーかい」
革靴のつま先で地面を軽く叩いたエイミーは努の指示を聞いて火竜へと向かう。エイミーの双剣が空いた鱗の隙間にねじ込まれる。火竜にとっては虫にでも刺されたような掠り傷。しかしその掠り傷はどんどん積み重なり、いずれ切り傷となる。
その足元でちょこまかと動きながら尻尾に切り傷をつけたエイミーに火竜が首をもたげた瞬間。
「コンバットクライ」
ガルムの赤い闘気が火竜を包む。地を這い回る虫よりもこの不快な小動物が先とでも言わんばかりに、火竜は長い首を縮めてガルムへと噛み付こうとした。
しかしガルムはその予備動作を八時間近く見て、噛み付きを見切ってきた。まだまだ余力のあるガルムがその噛み付きを食らうわけもなく、更にはカウンターに大盾で火竜の顔を殴りつけている。ヘイトを稼ぐスキルに通常攻撃も弱点の顔に当てられ、火竜は延々とガルムを付け狙う。
尻尾での振り払うような一撃。ガルムは大盾でそれを防ぐも吹き飛ばされる。地面を削りながら減速するガルム。しかしガルムは吹き飛ばされても倒れない。すぐに火竜へ向かって走り出す。
そんな彼に努は効果時間の少なくなってきたプロテクを飛ばし、しばらくした後にヒールで彼の身体を癒していく。そろそろヘイストの効果時間が十秒を切る頃だとエイミーに視線を向けると、彼女は火竜から少し離れて動きの速さを緩めている。
その気遣いは努にとってとてもありがたいことだ。努はカミーユをアタッカーで運用する際、彼女のヘイストが万が一にでも切れないように安全マージンを取っていた。それに置くスキルはまだ慣れていないこともあって飛ぶスキルと同じ精神力を込めても効果時間が低い。
しかしエイミーには使い慣れた飛ぶスキルを使うことができ、更に効果時間の安全マージンも取る必要がない。それは努の精神力消費やモンスターへのヘイトを抑える効果がある。なので努は精神力もヘイトにも以前に比べて余裕がある。
「エアブレイズ」
なので努が攻撃に加わることも可能である。努が飛ばした風の刃が火竜の後ろ足に当たって鱗へと傷を付ける。火竜はガルムに釘付けで振り向かない。
バリアを張ってガルムのボロボロになった大盾を交換させ、またガルムを送り出す。その頃には火竜の後ろ半身の鱗は大分削れてきていて、尻尾付近は鱗が剥げて表面が剥き出しになっている。エイミーは小さく傷を付けては他の鱗を削ってヘイトを調整。尻尾から流れる火竜の血が数滴地面へと落ちる。
それを繰り返していくうちに火竜の血が流れる量が増えてくる。尻尾、後ろ足、背中から火竜の血が流れている。状態異常に数えられている出血状態に火竜はなっていた。
カミーユの攻撃は一撃が重い分、火竜が自身へブレスを一度放つだけで傷口を焼いて出血を止めることが出来ていた。しかし血が流れている場所は三箇所。一度その全てを焼こうとした火竜はその隙にエイミーに頭へ飛び乗られ、額に傷を付けられていた。
それに焼いたところでエイミーの攻撃は常に続いている。焼いた先からまたすぐに傷を付けて血を流させる。遂に長い尻尾も切断され、火竜は戦闘が行われて二時間後に発狂状態となった。
ほぼ全ての階層主が起こす発狂状態。この時だけはヘイトの概念が薄くなり、火竜は目に付いた者へ無差別に攻撃を仕掛けるようになる。
発狂状態に陥った火竜を見た努はさっと上空に上がった。その動きを見た火竜が努にブレスを放つも彼は赤装束で身を包んでブレスを無効化。地面にいるガルムとエイミーは上空にいる努から支援スキルを受け取りつつも火竜へ攻撃を仕掛けていく。
発狂状態といえどヘイトという概念を完全に無視しているわけではない。ただ薄くはなるので努が被弾する危険性があるために彼は上空へと逃げていた。
たまに崖に登って努に噛み付こうと火竜が滑空してくることがあったが、努は難なく回避。一時間ほどで発狂状態は収まってまたヘイトが通用するようになる。ガルムがコンバットクライを放つ。
常に細かい攻撃を続けて火竜の出血状態を維持しているエイミー。火竜の視線を釘付けにし、何度攻撃を受けても立ち上がるガルム。回復、支援スキルを飛ばしつつ二人に指示を送る努。
努は青ポーションを飲みながら下の戦況を見守る。つつがなく回っている戦況。努は空になった瓶を腰にしまいながら口角を上げた。
(これが僕たちの、完成形だ)
ガルムとエイミーと自分。これがこの三人PTで行える最高効率の戦闘であると、努は確信した。つつがなく回る戦闘状況を空から見て、回復、支援スキルを行う。努はゲームに熟れてきて楽しくなってきた記憶を思い出しながらも、最善の行動を取り続けた。
戦闘開始から四時間後。ふらついてきた火竜の顔にエイミーが取り付き、その黄金の瞳に双剣を突き立てた。顔を振り乱して暴れる火竜。その二十分後、もう片方の視界も真っ暗になった火竜。その後は成すすべもなかった。
そして戦闘から五時間半。火竜はその長大な身体を地面へ静かに下ろした。火竜の血で赤黒く染まった地。その地面から光の粒子が漏れ始めた。
エイミーはその粒子を見ても油断なく双剣を構えていたが、その粒子が大きくなり火竜の顔を包み始めると双剣の血を払って鞘に収めた。ガルムも疲れを払うように大きく息を吐くと大盾を背負って努へと近づく。無言でガルムは手を上げた。
努はガルムと片手でハイタッチをした後、彼はエイミーにも笑顔で駆け寄って片手を上げた。エイミーは努の上げた手をじっと見つめる。
モニターの前で努がガルムやカミーユと楽しそうにハイタッチをする姿をエイミーは見ていた。あそこに私もいたら、と彼女は思いギルド宿舎で唇を噛んでいた。
その手が今は自分の目の前に掲げられている。そのことがエイミーはどうしようもなく嬉しくなった。
「いぇい!」
「いっ!」
努の差し出された片手にエイミーは思いっきりハイタッチした。努は彼女のあまりの力強さに思わず仰け反った。まるで巨漢の男にでも叩かれたようにひりひりしている手を痛そうに振っている努。
「ほ、ほら、ガルムとエイミーも、ハイタッチ」
努が言うとガルムが苦虫を噛み潰したような顔をした後に渋々といった様子で片手を上げる。エイミーはガルムが片手を上げたことに物凄い驚いた。
「なにあんた? 気でも触れた?」
「……ふん。私と努の攻撃もあったおかげでここまで早く倒せただけだ。貴様だけのおかげではない」
「あぁ、はいはい、いぇーい」
何とも気の入っていない声でエイミーがそう言ってガルムとハイタッチする。ガルムは神妙な顔つきのまま言葉を続ける。
「だがここまで早く火竜を倒せたことは、やはり貴様が活躍したということも一因ではある」
「……え、なに気持ち悪っ。頭打った?」
「…………」
ドン引きしたようにガルムから距離を離して努の影に隠れたエイミーにガルムは目を閉じて黙り込み、努は苦笑いした。
その後赤の大魔石を回収した三人は手を繋いでギルドへと帰還した。