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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第一章
46/410

迫り来る契約期限

 五十七階層に転移した後はすぐにギルドへ帰還した努たち四人PT。努はモニターに映るアルドレットクロウが試している即席PTを微笑ましそうに見つめつつも、受付でステータス更新を終えて報酬分配を完了する。



「ツトム。いかないか?」

「あ、すみません。今日はちょっと……」



 ちょいちょいとお猪口ちょこを傾けるような仕草をしながら誘ってきたカミーユに努は前に両手を合わせた。残念とカミーユが肩を落とすと、彼女の隣からエイミーがにゅっと出てきた。



「それじゃわたしと魚住食堂いこ!」

「いや、カミーユだから断ってるとかじゃないですからね。別にカミーユのことは嫌いではないので」

「そ、そうか」



 少し照れたように口を閉じて赤い前髪を払ったカミーユに、エイミーはぷくっと頬を膨らませた。努はエイミーの責めるような視線を受けて取り敢えず頭を下げた。



「僕はそろそろ荷物をまとめる準備をしなければいけませんからね。なので今日はすみません。ではお疲れ様でした。また明日いつもの時間で」



 恐らく明後日には火竜を討伐出来ると努は算段がついているので、ギルド宿舎も出る準備をしなければならない。ガルムと一緒に歩いていく努の背中にエイミーは手を伸ばしかけたが、カミーユにそっと押さえられるとすぐに引っ込めた。



「たまには二人で飲みに行くか?」

「……魚住食堂。奢りね」

「わかったわかった」



 エイミーのふくれっ面の頬を指で押して空気を抜けさせたカミーユは、エイミーの返事へ適当に返しつつも魚住食堂へと向かう。それをエイミーは後ろから追いかけた。


 ガルムと一緒にギルド宿舎へ帰った努は彼に鍵を開けてもらい部屋に入ると、早速片付けを始めた。そこまで部屋の内装などは変えていないが日用品やダンジョンに関するメモ用紙などは多く置いてある。努はまずメモ用紙の整理に手をつけ始めた。


 一週間ほどしかこの宿舎に泊まっていないがそれでも努の記したメモ用紙はずいぶんと多い。彼はダンジョンに潜っていない時は大抵外でライブ配信を見ながらメモを取っているので、大分メモ用紙は溜まっていた。


 日本とは文明から違うこの世界。ゲーム、インターネット、テレビと同様に努が楽しめるものはライブ配信しか存在しない。なので努は暇な時は大抵ライブ配信を見てメモを取っている。それは百階層攻略のためでもあるが、大半は娯楽目的だった。


 モニターの数はギルドと街中を合わせると百近くある。一番台から十番台は攻略の階層順に並ぶため定番の大手クランや中堅クランが映ることが多く、渓谷や峡谷が映し出されることが多い。その下は神が個別に選定しているのかは不明だが、モンスターと熾烈しれつな戦いを繰り広げているものやPTがピンチに陥っている状況が映し出されることが多い。


 その様々な番台のモニターを見歩くことを努は飽きることなく続けている。ゲームと同じであるかと思えば違う行動をするモンスターの情報。スキルの運用にも人によって差が生じ、その者たちが何を考えてスキルを行っているかなどを推測。


 モンスターの素材を使った最高級の紙へ丁寧に書かれている努が見聞きしたダンジョンの情報。そのメモ用紙をまとめ終わった努は続いて日用品を纏め始めた。


 服は日本と違いかなり割高であったが毎日同じ服を着ることは真っ平ごめんだったので、努はガルムから貴族と疑われるほどの量の服を買い込んでいた。最初はどの服もごわごわしていて着心地が悪かったが、幸いモンスターの素材を使った服ならば着心地は良く努はそれを中心に買い込んでいた。


 なので日用品の中でも服が一番多く、努はせっせと服を畳んでは籠に入れてを繰り返していた。マジックバックの方はもうダンジョン関連の道具や装備で一杯で、ギルドに物を預けるにも量に応じてG(ゴールド)を払わなければならない。


 Gはソリット社の賠償金で相当余裕があるのだが、努は自身の軽い苦労で節約が出来るならする性格だった。大量の服を整理し終わった努が一息ついていると扉が叩かれた。努が扉を開くと大きい紙袋に大量の屋台料理を抱えているガルムがいた。



「適当に買ってきた。そろそろ夜飯にしよう」

「そうですね。ありがとうございます」



 畳まれた服の入ったかごを横に置いた努はガルムに付いていく。扉の前で後ろを向いて大きい尻尾でドアノブを捻ったガルムは、大きい紙袋を抱えたままリビングに入った。


 机の上に紙袋を置いたガルムは軽く手を振った後に床へ静かに座ると、紙袋をごそごそと探って菓子パンを食べ始める。努も紙袋を漁ってお気に入りの串焼きを見つけたのでそれを食べ始めた。


 少しの間、食べ物を食す音だけが広めのリビングに響く。固めの肉を噛みちぎって飲み込み終わった努はガルムが食べ物を飲み下した途端に話し始める。



「今日も菓子パンなんですね」

「うむ」



 大して表情も変えずに紙袋に手を入れてはパクパクと菓子パンを食べ進めているガルム。民衆にかなりの人気がある菓子パンは並ばないと手に入らない物なのだが、ガルムは菓子パンを孤児たちに並ばさせて買っていた。


 それだけ聞くとガルムの硬い表情も相まって彼が孤児を顎で使っているのではないか、と思うかもしれない。しかし彼は孤児にその列へ並ばせることで多めのお釣りを渡している。いわばおつかいのようなものだ。


 長身で筋肉質の身体は燃費が悪いのかガルムの食べ進める速度は速い。菓子パン七個をペロリとたいらげたガルムはまだまだ紙袋に手を入れる。もう見慣れた彼の健啖けんたんぶりに努は串を折って袋に入れながら苦笑いする。


 努はこの世界に来る以前は三年ほど一人暮らしをしていたおかげか、家事全般はこなせる。と言っても家電に頼っているところが多かったのでここで出来ることと言えば多少料理が出来るくらいなのだが、一度屋台料理に飽きた際に努が食材を買って料理を作ったことがあった。そしてガルムは努が引くぐらい彼の作った料理を無心で食べていた。


 その翌日、ガルムが少し目を輝かせながら大量に食材を買い込んできて努を困らせたことがあった。当然大量の食材は冷蔵庫などもガルムの部屋には無いので使い切れるわけもなく、大部分は彼が支援している孤児院に送られるということとなった。


 それ以降は彼も遠慮しているのか努に料理を作ってくれとせがむことはなくなって、屋台料理がまたメインとなった。努が洗い物をする時に台所へ立つと彼の犬耳がピンと立ってそわそわし出すことを彼は見て見ぬ振りをしている。



「あ、もう僕はいいので」

「そうか」



 努が串に刺されたハンバーガーを取り出した後にガルムへそう言うと、彼は紙袋の中身を確認した後に色とりどりの野菜サラダをもしゃもしゃと食べ始める。


 ガルムは基本的に食事中はあまり喋らない。そのことをここへ来て初日で理解した努は、気を利かせたつもりで二日目の食事中は黙っていた時があった。


 しかし基本仏頂面のガルムだが犬耳と尻尾で大体の機嫌が察してしまえることがあった。努が喋ると大きい尻尾が横にぱたぱたと動き、喋らなければ静まる。わかりやすかったので努は黙ることをすぐに止めた。



「明日はもう少し狩りたいですね。僕のレベルがそろそろ四十五いきそうなので」

「うむ」



 返事こそ無愛想だが後ろの尻尾はぱたぱたと揺れて床を叩いている。もう少し愛想がよくなれば皆近づきやすくなるんじゃないかな、と努は思いながらも机のゴミをまとめると外へ捨てに行った。



 ――▽▽――



「うげぇ……」

「…………」



 集合時間にエイミーとカミーユが一時間遅れていて流石に心配になった努は、ギルド宿舎に行ってまずはエイミーの部屋の呼び鈴を鳴らした。そして扉から出てきたのは寝不足で目の下に隈を作り、二日酔いで顔を真っ青にしたエイミーだった。


 その人前に出れないような形相のエイミーを見て努は、背負っていたマジックバッグから二日酔いによく効く薬を渡した。



「二日酔いですか? ならこれをどうぞ。しばらく休んだらギルドに来てください」

「……あう」



 喋る余裕もないのか努からその薬を貰うとエイミーはぱたんと扉を閉めた。昨日の解散後カミーユと女子トークで盛り上がって夜が明けるまで酒場を巡っていたエイミー。ちなみにカミーユもエイミーの部屋でダウンしていた。



「もう、あいつはこのまま放っておいていいのではないか?」

「まぁあと一月はこのPT契約続くらしいのでね。のんびり行きましょう」

「……そうだな」



 憎まれ口を叩くガルムにのほほんとした表情で返す努。ガルムは努のPT契約という言葉を聞いて尻尾を少しだけ下げた。


 それからは四時間ほどは二人が寝ていて戻らなかったので、努はギルドや街をぶらぶらとした。ガルムは孤児院に顔を出しにいった。


 ギルドの掲示板へ乱雑に貼られている臨時PT募集、いわゆる野良PTの募集文を努は探索者の合間を縫ってそれを確認。それから外のダンジョンモンスターの遠征依頼などを努は見ていた。


 クランに所属していない者や初心者の探索者が基本的に利用するPT募集掲示板では、まだ火力を出せるジョブ限定のPT募集が多い。アルドレットクロウが最近努のPT構成を試しているとはいえ、まだ目立った結果は出ていない。それに他の大手クラン二つは未だに火力PT一色である。


 探索者なりたての者たちは大抵派手な一番台などを見て入ってくる者が多く、そのため初心者帯の者たちは大手クランの影響を受けやすい。なので初心者帯のヒーラーの地位を上げるためにはまず大手クランに努のPT構成へ興味を持ってもらわなければならない。


 そのための方法はやはり実際に一番台でそのPTの有用性を見せることが手っ取り早い。二回目の火竜攻略。今度はきちんと観衆に時間を合わせて行う予定である火竜攻略を成し遂げれば、少なくとも金色の調べは探りに来るはず。そして金色の調べやアルドレットクロウに努のPT案を教えて一桁台にそれを映させる。


 そうすることで一桁台にアタッカー以外のジョブが露出することが増え、初心者帯の意識も次第に変わっていくはず。なので努は火竜攻略後はまずアルドレットクロウや金色の調べと接触を図るつもりだった。


 紅魔団に関しては既に火竜を越えてアタッカー4人ヒーラー1人構成で六十三階層を更新している。一応接触は図ってはみるが努は紅魔団にはあまり期待はしていなかった。


 紅魔団は実際にあの構成で火竜を突破している。ヒーラーの使い捨ては気に入らないが、それはあくまで努個人の意識。もしヒーラーが自分の意思でやっているのだとしたら努が口を挟む余地はない。


 それに迷宮制覇隊という主に外のダンジョン制覇を専門としているクランも、半年に一度の遠征を終えてそろそろ帰ってくると努は聞いている。迷宮制覇隊も大手クランの一つではあるので、努は一度接触しておきたかった。


 神のダンジョンと違い外の迷宮は現実だ。人は死ぬ。黒門は無い。モンスターが死んでも粒子になって消えることもない。代わりに人数制限がない、モンスターの素材が丸々残るというメリットはあるにはあるが、やはり死のデメリットが大きすぎる。


 しかし死と隣り合わせであるにもかかわらず長年生き残っている迷宮制覇隊のクランリーダー、副クランリーダー。そして幹部の者たちは強者揃いだ。もし彼らが神のダンジョンへ本格的に潜ったのだとしたら、紅魔団はすぐに最高階層の座を譲り渡すことになるだろう。



(しかもクランリーダーは白魔道士みたいだしな。会うのが楽しみだ)



 掲示板の遠征依頼を見ながら努が迷宮制覇隊のリーダーはどんな戦略を持っているのかを楽しみにしていると、ようやくエイミーとカミーユが合流。ガルムを孤児院から呼び戻して昼過ぎから五十九階層を目指しての探索が始まった。


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