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ライブダンジョン!  作者: dy冷凍
第一章
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因果応報

 その後はエイミーがミルルと話している中、他の者たちで議事録をお互いに確認しつつ補償内容が明記された書類を作成し、双方の合意を示したサインを記入した。捏造記事の回収に修正とお詫び。賠償金は努に五千万G。カミーユ、エイミー、ガルムに一千万G支払われる。そしてミルルの顔写真と彼女が捏造記事を書いたことを公表することを確約させた。


 その書面の控えを取って五人へ最後に挨拶をしたちょび髭の男は、厳しい顔つきのまま早足で退室した。それを編集長が慌ててミルルを引きずりながら追いかけていく。その三人がいなくなると努は脱力するように背もたれへ寄りかかった。


 隣のカミーユはぱきぱきと関節を鳴らし、副ギルド長は何度も確認した書類を未だ入念にチェックしていた。



「ツトム。大丈夫?」

「ん? あぁ」



 無表情で凝り固まった顔をほぐすように両手で揉んでいる努は、エイミーの問いかけに顔を押さえながらも答えた。



「あんな感じで良かったかな?」

「んー、いい感じでしたね。少しびっくりしましたけど、結果良ければ全て良しです」



 努がエイミーにサムズアップを送ると彼女は安心したように胸へ手を当てて息を吐いた。ミルルのあの様子からして凶行を起こすことは考えにくいだろうと、努は結論づけていた。



 努は昨日のソリット社対談の打ち合わせの際にエイミーからミルルの人物像を聞き、彼女を理屈で黙らせて行動を抑制することは難しいと考えていた。ソリット社に乗り込んだエイミーへミルルが発した言葉を聞くに、彼女は感情で動くタイプ。なので自分がいくら正論を申し立てても意味がないと努は感じていた。


 それを感じた努は一先ず情に訴える策を考えた。まず努が、エイミーに代わる者さえいれば火竜を討伐出来るという結果を述べる。それを聞いてエイミーがミルルに貴方の記事さえなければ私も火竜討伐が出来たのに、と涙ながらに訴えつつも彼女に寄り添って説得するという策を提案した。


 その策を努に聞いたエイミーは明らかに嫌な顔をしていた。実際彼女はその記事のせいでPTを外れることとなって火竜討伐を逃している。それにミルルに対しては大した情もないのでエイミーにしてみればむしろ罵声を浴びせたい気分だ。


 しかしミルルはエイミーの信者であると想定している努は、もし彼女がそのエイミーに否定されようものなら何を仕出かすか。エイミーに嫌われたのは努のせいと考えて凶行に出ることは容易に予想が出来た。


 なので努としてはエイミーにはミルルの感情を損なわないようにしながらも、彼女を説得してほしかった。もしそれでミルルが壊れてしまえば努は命を狙われる身となる。その前にミルルを終わらせることも努の頭には浮かんだが、それだけは避けたかった。


 そして肝心のエイミーはミルルに関わることなど真っ平御免であったが、彼女は努に対して罪悪感を抱いている。なので努の策に渋々了承した。そして努は自身の不安定な作戦にはあまり自信を持っていなかったので、ある程度は彼女の裁量にも任せていた。


 その打ち合わせを下に努が話を進めているとエイミーがいきなりミルルにビンタをかまし、彼は内心ヒヤヒヤとしていた。しかしその後はミルルがエイミーに縋っていいお話のような雰囲気となり、何でそうなるのかあまり理解は出来なかったがホッとしていた。


 結果的にその後エイミーに説得されたこともあって、ミルルはエイミーに嫌われてしまったとは感じなかった。そして粛々と罪を受け止めて異議も申し立てることはなく、努に対しても過剰な恨みを持つこともなかった。


 その翌日。ソリット社の社員が総出で新聞を街へ配った。一面にはミルルの顔写真。そして彼女の捏造記事の修正がつらつらと書かれ、最高責任者である男を先頭に街中でソリット社員の謝罪運動が実施された。


 その男の誠実な態度に既に購読している者の乗り換えをある程度防げたものの、ソリット社の新聞売上は間違いなく下がるだろう。そして多額の賠償金も翌日に各自のギルド口座に振り込まれた。長年編集長を務めていた男もミルルの自白によってその記事を容認したことが露見し、本当に新人社員と変わらない扱いに降格した。


 しかしそれでもなお、ソリット社は寡占状態を保っていた。確かに規模を以前に比べて縮小したものの、他の二社の新聞社がソリット社と並べるほど成長出来ていない。ソリット社の寡占状態を防ぐには、その二社の成長が必要であった。


 その二社の成長材料として努はまず、火竜討伐の三人PTインタビューを両社に無料で提供することにした。そして今後二社がソリット社の対抗勢力になるまで成長するまでは、ソリット社の取材を一切拒否する方針だ。


 ミルルはソリット社を懲戒解雇となり、ソリット社が発表した記事によって悪名が街中に広まることとなった。ソリット社のコネも消失した彼女を雇い入れる新聞社はもうこの迷宮都市には存在しない。しかしミルルの目は腐っていなかった。彼女にはまだエイミーという希望が存在するからだ。


 エイミーに見捨てられていないという希望と、その彼女の傍にいる努。何の職に就くか迷っていたミルルは彼の座を正式に奪ってやろうという考えの下、晴れて探索者となった。


 神のダンジョンには神に見捨てられた者以外は誰でも入ることが出来ることを、神は平等である考えの下、貴族に保証されている。なので資産をほとんど没収されたミルルでもなけなしの金さえ払えば探索者になることは出来る。


 そして奇しくもミルルのジョブは、努と同じ白魔道士であった。彼女はすぐに努を追い越してやると内心で息巻いていた。


 しかしミルルが努に対して行った悪名を広めるということ。それがいかに残酷なことであるかを、彼女は今後自分自身で知ることになる。


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