ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
ストリート
作者:3007
 夜の都会には様々な人がいる。道路一つ挟んだだけで別世界になってしまう、そんな十人十色なこの世界。
 空を見上げりゃ大きな月が見えるだけ。お星様なんてとっくの昔に消えてしまった。ましてやこれ程大きな月だって都会の人には見知らぬ存在。そんな都会で今日も一人曲を奏でる。



 人間は勝ち組と負け組の二種類に分けれる。人によって価値観は違うが要するに金があったら勝ち組で貧乏人は負け組という事だ。「貧乏でも幸せ」こんな事を言ってみても勝ち組の人達は毎晩肉をおかずにワインを飲んでいる。そんな勝ち組の人間は今日も両手に花で夜の都会を闊歩している。
 
 色鮮やかな光でコーティングされたこの街。そんな高級な香りがするこの場所で一人雑巾を巻いた様な格好で地べたに座り曲を奏でる一人の青年。そんな青年と目があった勝ち組の人。

「何や兄ちゃん。こんな所で弾き語りか? 仰山儲けているな」

 その声は街中の人に聞こえ周りの人達は彼の貧相な姿とギターケースに入ってる数枚の小銭を軽蔑な眼差しで見て嘲笑うかの如く上品に笑っている。

「どうですか、一曲聴いていきませんか」

 青年の低姿勢な態度に気分を良くした勝ち組の人。

「よしっ、ここで会ったのも縁だ。兄ちゃんの曲を聴いてやろう。ついでにセンスがあったら俺が良いプロダクション紹介してやる」

 勝ち組の人がそう言うと青年は立ってギターのチューニングを始めた。

「おっ。本気を出すのか?これは見物だな」

 勝ち組の人がそう言うと両手に抱えられた蝶達も彼の曲を聴こうとニヤニヤと笑い出した。

「この曲はある人の奥さんの気持ちを歌った曲です。聴いてください」

 そう言うと小ばかにする様な拍手と共に一曲限りのコンサートが始まった。

「あなたが言ったあの一言『お前を幸せにする』不器用なあなたが言ったあの一言。
私はそれを信じていた。でも、あなたは同じ言葉を沢山の蝶に掛けていた。最初はあなたも隠そうとした。だけど、いつしかその気も無くなり毎日仕事が忙しくなった。あなたが帰ってきてくれる様に私は頑張った。だけど、あなたは鮮やかな蝶から貰う蜜の方が好きだったのね。いつしか寝る時には薬指の指輪を外すようになった。ダイヤモンドの光は私の目には眩しすぎた。最近ではあなたの帰りを待つのも疲れました。だけどあなたの事を愛しています。こんな気持ちを知らずに指輪は光っています。だから外します。私はあなたの言葉を信じています。
裏切られたくないから私はあなたの事を一生待ちます。だから最後に言います。さようなら」



 歌い終わると青年は何も言わずギターをしまって歩きだした。

「おい。この歌は何だ」

 勝ち組の人から妙に冷たい汗が流れている。

「最初に言いました。ある人の奥さんです」

 青年は立ち止まり背中を向けたまま答えた。

「だから、誰の事を言ってるんだ」

 勝ち組の人は震えながら青年の肩を掴んだ。

「自分は歌を歌っただけですから」

 青年がそう言うと勝ち組の人は掴んでいた手を外して携帯電話をポケットから出して急いで連絡を取り始めた。そして、青年はその場から姿を消した。

「只今電話に出れません。すいませんが改めて連絡を下さるかピーという発信音の後にメッセージをどうぞ」

 勝ち組の人はこの声を聞くと二匹の蝶をほったらかしにして自分の自宅へと走り始めた。

 高級マンションの最上階。勝ち組の人が急いで自分の部屋の玄関を開けてリビングに行くとそこには一人の女性が首を吊っていた。そして、床には左手の薬指と真っ二つに割れた指輪が赤く光ながら落っこちている。

 この光景を見た勝ち組の人はすぐに救急車を呼んだ。

「私は人を殺しました」

 この一言を言うと勝ち組の人は電話を切った。そして、リビングへと行きこの金と銀で塗りたくられた街から消え去る事を決めた。
 
 
 そんな愛する人を間違ってしまったこの男性。一人の女を必死に愛するよりも複数の女を愛した方が男として鼻が高かったのだろう。しかし、夜の都会にはこの男と間逆な人間も歩いている。



 同じ靴に同じネックレス、右腕には同じ模様のタトゥー。
 見ただけで好きな者同士何だと分かる男と女。容姿を見たら夫婦というよりカップルだと間違えてしまうぐらい若い二人。高校の同級生で高校1年生の時から付き合っており卒業と共に結婚をした。
 
 現在19歳とまだまだ遊び足りない時期なのか夫婦二人で夜の都会を遊び歩くのが日課となっている。二人共働いているとは言え、毎日の様に遊び歩ける程裕福な生活が出来ているという訳では無い。しかし、衣食住のどれかを切り詰めてでも夜の街に出掛けてしまう。それぐらい二人にとって夜の街とは中毒的な存在だった。

 午前2時。だいたいこの時間になると明日の仕事の為に家へと帰り始める。
 この時間の住宅街は全く光が無く妙な明るさをはなつ電灯を頼りに進んでいく。こういう気味の悪い道も二人にとっては何とも無く普段通り手を繋いで歩いている。すると2個先の電灯に一人の青年が座っていた。

「ねぇ、こんな時間に誰か居るよ」

 そう言うと女の手を握る力が強くなった。

「心配するなって。ただの酔っ払いだよ」

 男が言うと女は少し安心した表情をして歩き出した。
 そして、二人が電灯の前まで来ると青年は喋りかけてきた。

「どうですか、一曲聴いていきませんか」

 青年が二人に言うと通り際に男が「いらねえよ」と一言いって二人は青年の方を見向きもせず自宅へと向った。そして、二人が5歩ぐらい進むと青年が口を開いた。

「だったら強制的に聞いて貰います」

 青年が二人に聞こえるぐらいの小さな声で言うと二人は歩くのをやめた。というより二人は止まった。
 男は必死に動こうとするが全く動かず大声をあげようとするが声すら出ない。その状況は女も一緒で女は恐怖で泣きそうになるが涙すら出ない。
 
「少しの時間なので安心して下さい」

 この状況で冷静に喋る青年が余計に恐怖を感じさせる。
 そして、青年はギターを担いで立ち上がり段々と二人の方へと近づく。そして、青年が二人の前に来た。

「これはある赤ん坊の気持ちを歌った曲です。聴いてください」

 そう言うと沈黙の中、一曲限りのコンサートが始まった。

「好きな人と結婚出来て幸せな毎日を過ごしているお父さん、お母さん。
僕はあなた達の幸せの為に利用された道具なんだよね。僕が出しているSOSも無視されて気が向いた時だけ育児をしている。
あなた達の周りでは鴛鴦夫婦で尊敬されているけども、所詮は世間を知らない馬鹿な集団。世間であなた達を認めている人は一人も居ないんだよ。
色々不満はあるけども僕に暴力を振るう事はしなかった。だけど、そこに愛があった訳じゃない、それも自分達の幸せの為だった。今の自分には泣いて気持ちを伝える事しか出来ない。だから毎晩泣いています。あなた二人に届くことの無い、一生分の恨みの涙を今日も一人で流しています」

 

 歌い終わると青年は何も言わずギターをしまって歩きだした。

 そして、青年が見えなくなった頃、女だけが膝から崩れて溢れてくる涙と共に恐怖と絶望感を感じた。そして、電灯が点かなくなって暗闇となった道を女は一人で歩き始めた。「これは夢だ」と何度も言って自分の家へと向った。そんな光景を見て固まったまま涙を流した一人の男。

 そして、ボロボロなアパートのボロボロな階段を上がりボロボロな部屋に入るとそこには幸せそうな笑顔の赤ん坊が一人で眠っていた。その赤ん坊を見て女は又、泣いた。夜鳴きする赤ちゃんの如く号泣した。
 
 

 翌日、19歳の男性が道端で死んでいるのを発見された。そして、その現場の片隅で一人の青年が曲を奏でていた。

「自分達の幸せの為に我が子を犠牲にした愚かな二人。
多くの人間はこの夫婦を外道だと批判をするが、この夫婦の様に幸せの為に何かを犠牲にするという事は程度の強弱はあるが誰しもが経験する事だ。しかし、人間は自分が幸せになると全世界が幸せ何だと錯覚を起こして犠牲にした物の事など考えなくなる。
そんな凶悪な考えを持つ人間。全ての人間が居なくなるまで『幸せ』という言葉は生まれてはいけなかったのではないのか」

 この曲を歌い終わると青年はギターをしまって歩き出した。

 そんな十人十色なこの世界で今日も一人曲を奏でる。
今回はお読みいただきまことにありがとうございます。この作品夏のホラー2009に出した作品です。他の作者様の作品も是非お読み下さい。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。