第4話 海鳴の雪や
とある管理局が《第97管理外世界》と呼ぶ、平行宇宙の地球にウルトラマンゼロが流れ着いてから、4ヶ月の時が経っていた。
季節は既に10月に入っていた。夏の暑さもようやく落ち着き、過ごしやすい気候である。涼やかな秋の空気の中で、色付いてきた木々や、紅く色付き始めた紅葉の葉が、気持ち良さげに揺れている。
此処は、海鳴市の中心から数十キロ離れた山の中だ。人が入れそうもない険しい森の中に、ポッカリと忘れ去られたような空地が在った。
たまに森の中に偶然こんな場所が出来る事がある。青々と野草が芝生のように繁り、ちょっとしたグランドのようであった。
『破ァッ!!』
山中に裂帛の気合いが木霊した。声の主はゼロである。丁度広場の中央にゼロが居た。等身大でウルトラマン形態をとっている。
訓練の真っ最中だ。どんな状況であろうが、己を鍛えるのは怠らない。しかし今日のゼロは、いつもと姿が違って見えた。銀色に輝く鎧を着こんでいる。
ゼロが身に付けている鎧は『テクターギア』という物で、頭部と上半身、腕部をすっぽり覆い、関節部には負担がかかるように仕掛けがしてある。
防御力を高める為というより、訓練の為のギブスである。重さも相当なものだ。人間が着けた場合、重さで圧死してしまうだろう。
ゼロは今でも鍛錬の為に、テクターギアをよく使っている。以前ウルトラの国を追放され、K76星でレオ兄弟にしごかれていた時は四六時中着けていたものだ。
この時は自分でギアを脱げなかった事もあり、ゼロは早く外しやがれと散々文句を言っていたものだが、結局また使っている所を見ると、結構気に入っているのだろう。
そんなゼロをはやては、少し離れた倒木にちょこんと座って見学している。この場所はゼロが偶然見つけた場所で、よく訓練に使っているのだ。
今回は、はやてに一度訓練を見せて欲しいとお願いされ、朝早く彼女を抱えて飛んで来たのである。その時はやては大喜びだった。
そして今は、興味津々でゼロの訓練風景を見ている。好奇心旺盛な子なのである。ゼロは今空手の型に似た動作をしているところだ。
『ウルトラマンレオ』直伝のレオ拳法。元の宇宙拳法に、地球の空手などを融合させたレオ独自のものである。
空手と同じく、レオ拳法の型の中には攻撃、防御全てが含まれており、攻防一体のコンビネーションの練習にもなる。みっちりと叩き込まれたお陰で、格闘戦は強力無比そのものだ。
しかもそのスピードは人間の比ではない。凄まじい風斬り音が鳴り、回し蹴りの衝撃波で数十メートル先の大木が強風に煽られたように震える。
かと思うと一気に天高く飛び上がり、まるでワイヤーアクションのように空中で独楽の如く回転し、次の瞬間大砲のような蹴りを放つ
足が空気との摩擦で赤熱化する程の一撃。そして同時にキックの速度が音速を超え、鼓膜を震わせるソニック・ムーヴの凄まじい轟音が山中に木霊した。
訓練を終えたゼロは人間形態に戻り、はやてからタオルと飲み物を受け取り休憩していた。そんなゼロに、はやては目を輝かせている。
「凄いわゼロ兄~CG無しの本物や~、ホンマに超人なんやなあ……」
まずお目にかかれない本物の超人の訓練に、彼女は興奮を隠しきれない。ちょっと照れてしまうゼロである。
飲み物を一気に飲み干し、タオルで汗を拭う。スポーツドリンクは体に染み込むようで、タオルで汗を拭くのは気持ちが良かった。
こういった生理現象も悪くは無いと思うゼロである。するとはやてが、デジタルカメラを取り出し、
「ゼロ兄、ここは景色もええし写真撮ろ?おじさんにも送ろ思うし…」
「ああ…親父さんの友達で、援助してくれてる人だったな…」
ゼロは何度か聞いた話を思い出した。その人のお陰ではやては不自由無く暮らせ、ゼロも路頭に迷わずに済んでいる。
「会った事は無えんだったか?」
「うん…会った事は無いんや、外国暮らしやし」
はやては特に気にした風も無い。もちろん感謝しているが、会った事が無いのだから反応の仕様がないようだ。
ゼロはカメラを手前の倒木にセットし、はやての隣に座る。カメラに向かいながら、
(グレアムのおじさん、ありがとな…はやての事気にかけてくれて…)
まだ見ぬ人物に、心の中で礼を言った…
ーーーーーーーーーーー
数日後、ゼロはコンビニに買い物に来ていた。
足りなくなった物の買い出しである。その時たまたま手にした雑誌の記事を見て、ゼロは?と首を捻った。その記事には…
{人間のクズ、ヒモ男の実態}
とあり、ゼロは人間のクズか…どういう人間なんだろうと続きを読んでみる。
{女性に生活資金から、全ての金銭面の補助を受け、働かずに暮らしている人間のクズ、死ね!}
「……………」
死ねはあんまりではないかなあ…?と、顔が引きつるのを感じながらも、恐る恐る続きを読む。
{ヒモの定義、自分の住居を持たず、女の家に転がり込んでいる。 働いていない}
ゼロは雑誌を手にしたまま、斜めに傾いてしまっていた。器用なものである。
(こいつは…どう考えても俺の事だよな!? そうだよな!?)
心の中で叫んでいた。一通りの衝撃が過ぎ去ると、今度は何だかとても落ち込んでしまった。
(やべえ…何かこのままじゃ駄目な気がする…これじゃあウルトラマンゼロじゃなく ヒモトラマンゼロだ……)
混乱してしまい、そんなしょうもない事を考えてしまう。先ほどから斜めになったり、ぶつぶつ独り言を呟いているので、端から見ているととっても挙動不審である。
「このままじゃ、いかん!!」
ゼロは何とか体勢を立て直すと、ダッシュで店を出て行った。その後姿を、他の客達が可哀想な人を見る目で見ていた……
「はやて、俺はヒモだな?ヒモだよな!?」
買い物から帰るなり、訳の分からない質問をするゼロに、はやてはぽかんとしてしまった。
「ゼロ兄、いったい何の話や?全然話が見えへんのやけど……」
そう言いながら、今まで作っていた物をさりげなく後ろに隠す。ゼロは気付いていないようだ。
「あっ、あれだ…働かないヒモだ!」
それを聞いてはやてはピンときた。どうやらまた妙な事を知って、勘違いしたのだな…とおかしくなる。
たまにゼロは変な勘違いをする。まあ全然違う環境なのだから、無理も無いのだが…
はやてはそんなゼロを、可愛いと思ってしまう。まあそれは置いといて、誤解を解いてあげる事にした。
「ゼロ兄はヒモさんなんかやあらへんよ?今は家の事沢山やってもろてるやない?」
ゼロは今家の家事などをしている。はやては足が不自由なので、今までは週何回かハウスキーパーを頼んで、洗濯や掃除などをしてもらっていたのを、全て代わりにやっているのだ。
「だからゼロ兄は、何も気にする事は無いんよ? お小遣いだって、そのお礼みたいなモンや…」
「そ…そうか…ヒモじゃねえんだな…」
はやての説明にゼロは、安堵の表情を浮かべた。流石にウルトラマンが、ただ飯食らいと書いて居候なのは不味いと思ったようだ。
(そんなに気にする事あらへんのに…)
ほっと肩を撫で下ろすゼロを見て、ちょっと寂しいはやてであった。
ソファーに座ったゼロは、はやてに煎れて貰ったお茶を飲んで一息吐きながらふと、
「そういや、もうクリスマス関係のモンを売り出し始めてたな…。そんなに大掛かりな祭りなのか?クリスマスってヤツは…」
「人にもよるんやけど…みんな祝うんや、今年は張り切って準備せんと」
はやては、ほっこり笑って腕まくりして見せる。とても気合いが入っている様だ。何しろ、誰かとクリスマスを祝うなど久しぶりなのである。
石田先生が食事に連れて行ってくれる時もあったが、仕事の都合で何時もという訳にはいかない。クリスマスに家に独りという事が大抵だった。
だから今のはやては気合いが入っている。そんな彼女に、ゼロは気になっていた事を尋ねてみた。
「地球って宗教が重要だよな? それで戦争になっちまったりしてるみてえだし…なのに日本て他の宗教の行事を平気で祝うんだよな…テキトーなのか?」
異星人の素朴な疑問だった。他の国と比べても、こう節操の無い国は無い。はやては少し考えていたようだったが、
「適当というより、おおらかなんやないかな? 日本に入ってきたら、もう仲間やみたいな感じで。喧嘩になるよりよっぽどええよ、何しろ日本には八百万の神様がおるから、今さら増えても気にしないんやない?」
流石に読書家のはやてである。小学生の意見とは思えない。ゼロも何だか、そっちの方が気楽そうでいいなと思った。
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次の日、とりあえずクリスマスの知識を一通り頭に叩き込んだゼロは、クリスマスプレゼントなる物が大事だという事が分かった。
それは子供が何より楽しみにしている、正にクリスマスの花形であると。サンタクロースに関して、はやてに聞いた所、
「私の所には長い事来てくれへんな…」
寂しそうに笑うので、ゼロは後でサンタ締めると誓いながら。
(よし!なら俺がクリスマスプレゼントをやればいいんだな!!)
という結論に達した。さてどんなプレゼントがいいのか… ?ゼロはと悩んだ。こういう場合、本人には秘密にするものだというくらいは分かっている。
プレゼントに関する事は、光の国と変わらないなと思い。こうなれば自分で考えるしか無い。
*
買い物ついでにゼロは、商店街などを見て回っていた。しかしなかなかコレというものが見つからない。
「はやての欲しがりそうな物か… ぬいぐるみ…?本…? 犬が飼いたいとか聞いた気がするが… そういうのはプレゼントじゃ無えし…第一 はやてと相談しねえと駄目だし……」
ブツブツ言いながら人通りの多い中を歩いていると、アクセサリーショップを見かけた。ショーウインドを覗いて見ると、綺麗なブローチや指輪などが、こ洒落た感じで可愛らしく飾られている。
店に入り、しばらく店内を見て回っていたが、ふとガラスケースの中のペンダントが目に入った。
それは金色の十字架を型どったペンダントだった。はやての部屋に有る、鎖が掛かった本の表紙デザインに偶然にも似ている。
「これだっ!!」
ゼロは思わず叫んでいた。一目見て即決である。これ以外はもう考えられなかった。周りのお客から少々変な目で見られてしまい慌てたが、気を取り直し値札を見てみた。
「………」
自分の名前と同じ0の数を見て表情が強張る。 財布を取り出し中を確認した。
「…無念なり……」
まったく足りなかったようである。
ゼロはガラスケースの前でしばらく考え込んだ。かなり高価な物らしい。
( どうすっか…足りない分は、はやてから貰うか……?)
そんな風に考えていたゼロの頭の中で、ヒモを持ってラインダンスを踊りながら手招きする、スーパーなサイヤ人の人や、金髪つんつん頭の英雄王が浮かんだ。
その意味は解らなかったが、あっちに行ってはいけないという事だけは分かった。携帯電話も買って貰ったばかりである。(買って貰ったのか…)
(よし!それなら金を稼いで、こいつをはやてにプレゼントしてやる!!)
拳を握り締め、固く決意するのだった。
*
家に戻ったゼロは色々調べた上で、はやてにバレない。短い時間で稼げる。自分で日にちを選べるという、いささか虫のいいバイトを探してみる事にした。
意外にも仕事内容はキツイが、結構割のいいバイト先がある。体力には自信があった。こうしてゼロのバイト生活が始まったのである。
*
昼間は何時も通り家の仕事をこなし、はやてが図書館に行っている時や、病院での検査の間にバイトに行く。更に夜中にやっている仕事をこなした。戸籍上未成年なので書類はいじくった。
そんな慌ただしい日々が過ぎて、クリスマスまで後10日、目標金額までもう少しというある日。
ゼロは図書館にはやてを迎えに来ていた。はやての車椅子を押し、夕暮れの中を家に帰る。
「ゼロ兄ィ、何か最近疲れとらん?今も疲れた顔しとるよ…」
はやてが心配して声を掛けて来た。何故ならゼロが、ひどく疲れた表情をしていたからである。
「いや…近道しようとしたら、また迷っちまってな……」
とりあえずゼロは苦笑いを浮かべ、誤魔化しておく。
「なあんや、また迷ったん?気ィ付けなあかんよ」
はやては、笑いたいのを堪えながらも、保護者のように注意した。今までも何回もあったからだ。
人間よりもはるかに知能指数が高いゼロだが、コンピューターではないので忘れる事もあるし、行った事のない所は当然分からない。
それに本人の性格上早く目的地に着きたくて、近道しようと適当な道に入ってしまい帰れなくなるのだ。せっかくの頭脳が台無しである。
しかし今日の理由は違った。隠れてのバイト漬けの日々は確かにキツイが、体力には自信があるのでまだもつ筈である。原因は今日のバイトであった。
割のいいバイトだった。2時間座っているだけで数万になる、結婚式の出席者代理という変わった仕事だった。居心地の悪さを我慢すれば楽なものだったのだが…
式の途中、新郎のモトカノ達が大挙して押しかけ(6人)更には新郎の父と新婦の母の不倫が発覚し地獄絵図と変してしまった。
あの後どうなったのか考えたくもないゼロである。だが楽しそうに笑うはやての顔を見て、
(もう少しだ!)
自分を奮い立たせるのだった。
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クリスマス・イブ当日。ゼロとはやての2人は、クリスマスの買い物に商店街にやって来ていた。
予約していたケーキを取りに行き、パーティー料理の材料を買い込む。はやてはよほど楽しいのか、朝からテンションが高い。
ゼロも華やいだ街の雰囲気と、楽しそうなはやてを見て何だか嬉しくなった。
買い物を終え、沢山の買い物袋を抱えたゼロと、膝にケーキを乗せたはやては帰路に着いた。
はやては歩きながら、飾り付けはどうするだの料理はどうなど、段取りに余念がないようだ。そんな少女を微笑ましく思うゼロの前に、白いものが舞い落ちた。
「雪や…」
はやてが気付いて空を見上げた。ゼロも空を見上げる。灰色に曇った空から、はらはらと真っ白な雪が舞い落りてくる。
「これが雪か… 綺麗なもんだな……」
初めて見る本物の雪に、ゼロも魅せられたように見惚れる。星の輝きとはまた違った美しさだと思う。何処か懐かしい気もした。
「今年は、ホワイトクリスマスや… 明日には積もるかもしれんなあ…さあゼロ兄帰って準備や、濡れん内に家に帰ろ」
はやての声で我に還ったゼロは、舞い降ちる雪の中を歩き出した。
家に戻った2人は早速準備を始めた。ゼロはツリーを準備し、はやては腕によりをかけて鳥の丸焼きや、目に鮮やかな冷菜やオードブルなどのクリスマス料理を作った。
はやてが張り切り過ぎて、料理の量がハンパない事になってしまったが、ゼロはペロリと平らげてしまった。そんなゼロを見てはやては、満足気にコロコロと笑う。本当に楽しそうであった。
「本当に、ゼロ兄には食べさせ甲斐があって、ええなあ…」
はやては食後のケーキを食べながら、しみじみした調子でゼロを見詰めている。
「はやての料理が、スゲエ美味いから、いくらでも入るんだよ」
そう言いつつ、本日4切れ目のケーキを食べるゼロである。甘い物もすっかり気に入ってしまったようだ。
「そ…そんな…上手いんやから…ゼロ兄は……」
はやては照れて真っ赤になっている。しかし気を取り直したようで、後ろに隠してあった紙袋を取り出した。
綺麗なリボンを掛け、可愛らしくラッピングしてある。
「ゼロ兄に、クリスマスプレゼントや」
はやては少し照れくさそうに両手でプレゼントをゼロに手渡した。
「す…すまねえな…」
受け取ったゼロはちょっと焦ってしまう。ようやく買えたプレゼントを、いつ渡すかタイミングを掴めずにいたのである。
更にはやてにプレゼントを渡す事で頭がいっぱいで、自分が貰うとは夢にも思っていなかったのだ。
「開けてもいいか…?」
「うん……」
ゼロは少し自信無さげなはやての許可を貰って包みを開ける。中には赤と青のツートンカラーのマフラーと手袋が入っていた。アルファベットで〔ZERO〕の文字も入っている。
「はやて… これ、はやてが作ったのか…?」
明らかに、ゼロをイメージして編まれたものだった。
(そういや、前に何か隠したりしてた事があったな…)
あの辺りから、コツコツ編み始めていたのだろう。はやては俯き加減にもじもじし、
「あ…あんまり上手く出来なかったんやけど…ゼロ兄寒いのとか、あんまり得意やないみたいやし……」
しどろもどろになっている。ゼロは胸の辺りが温かくなった気がした。マフラーをそっと撫でてみる。もっと胸の内が温かくなったようだった。
「ありがとな、はやて… 作るの大変だったろ… ?俺は最初からはやてに、世話かけてばっかりだな…」
「何言ってるん?世話なんてかけられとらんよ、そんなん難しくも無かったし… 気にせんどって……」
はやては慌てて、何でもないかのように振る舞おうとしているが、あまり成功したとは言えなかった。そんな少女を見てゼロは、
(そう…はやてはこういう子なんだよな……)
自然に、テーブルの下に隠していた包みを取り出していた。まだ照れ隠しでもじもじしている少女に、細長いプレゼントの箱を差し出し、
「はやてにクリスマスプレゼントだ」
はやては驚きながらも、プレゼントの箱を両手でしっかり受け取った。
「あ…ありがとうゼロ兄っ」
華やいだ笑顔を浮かべる。花が咲いたようだった。壊れ物を扱うようにして、箱をそっと抱き締めている。
ゼロが開けてみろと促すと、はやては丁寧に包装紙を剥がして箱を開けた。中に入っていた金色の剣十字のペンダントが照明に照らされ、キラリと光る。
「うわあー 綺麗なペンダントやなあ… あっ、この形って…」
「ああ、はやての部屋にある本みたいなペンダントだろ?何か、はやてが気に入るかと思ってな…」
はやてはペンダントをそっと取り出し、愛おしそうに触るが少し心配そうにゼロを見て、
「でも、これって高かったんやないの?とても良いものに見えるんやけど…」
そこではやては思い当たった。最近のゼロの行動などで、これをどうやって買ったのか容易に想像出来てしまった。
「…ゼロ兄こそ無理したんやろ…?」
ゼロは頭を掻いて、悪戯がばれた時の子供の様な表情を浮かべ、
「いやな… どうしても、プレゼントは自分で稼いだ金で買ってやりたかったんだよ……」
するとはやては、ペンダントを両手でしっかりと握り締めると、一瞬泣き笑いのような表情を浮かべ、
「こんなん反則や…」
ポツリと呟いた後、黙り込んでしまった。
*
その後もはやては黙ったままだった。話し掛けても元気が無い。ゼロは何か不味かったのだろうか?と焦ったが、彼女は部屋に引っ込んでしまった。
諦めて寝室に引っ込もうとした時、パジャマ姿のはやてがやって来た。俯いたままでゼロの服の裾をぎゅっと握り、
「今日は…ゼロ兄といっしょに寝てええ…?」
「ああ、構わねえぞ」
ゼロは怒らせてしまったのか?と思っていたので、ホッとし即答していた。
ゼロのベッドの中、はやてはまるで母親に甘える赤子のように、ゼロの胸に顔をうずめていた。
手にはゼロに貰ったペンダントを、しっかりと握り締めている。
ゼロは元気の無いはやての好きにさせておく事にした。
しばらく無音の時間が流れる。雪も積もってきたのだろう。外からの音もまるで聞こえない…
まるで世界に2人しか存在しないかのようだった。
沈黙が続くが重苦しいものでは無い。安らかな空気。しんしんと降る雪の音まで聴こえて来るような気がした。
それからしばらく経ち、はやては口を開いた。消え入りそうな声で、
「…ゼロ兄は…居なくならないよね……」
「?」
真意を計りかねるゼロだが、はやては言葉を続ける。
「…父さん母さんみたいに…急に居なくなったりせえへんよね…?」
声が震えていた。ひどく弱々しく消え入りそうに…
(そういう事か…)
ゼロにも分かった。大事な人達を全て無くし、たった1人で生きてきた少女の思いを…
ずっと1人だったはやてに、思いがけず家族が出来た。ゼロとの日々は彼女にとって、宝物以上のものなのだ。
しかしそれを素直に受け入れるには、あまりにはやては不幸慣れしていた。それ故に幸せを感じる程、無くなるのではないかと恐れてしまい、怖くなってしまったのだ。
それはとても哀しい事だとゼロは思った。胸で震えるはやての頭を、慈しむように優しく撫でてやる。
「ばかやろう…俺の寿命がどれだけあると思ってやがるんだ……」
言葉使いは相変わらず乱暴だが、温かみが伝わる声にはやては顔を上げた。ゼロの普段はあまり表に出さない、ひどく優しい瞳が見ている。
「はやてが、ばあちゃんになって死ぬ時もこうしていてやる… だから安心しろ…ずっと隣にいる……」
それは誓いであった。
今まで故郷に帰れるのなら帰りたいと思っていたゼロだが、この優しい少女を1人置いて行く事など出来なかった。
この子が天に召されるまで傍に居よう。決して一人にしないように…そして必ず守り抜くと固く心に誓った。
「ありがとう… ゼロ兄……。」
はやては再びゼロの胸に顔をうずめ、再び赤子のようにしっかりとしがみ着いた。ゼロもしっかりと少女を抱き締めてやる。
(ゼロ兄の匂いがする… お日さまの匂いや…温かいなあ…… )
閉じたはやての目から、光るものが溢れていた。
雪が降りしきる無音の世界の中、少女は何時の間にか心地好い眠りに落ちていた……
***********
その部屋はかなりの広さがあった。調度品があまり無い所を見ると、どこかの高官の執務室のように見える。
その部屋にはテーブルを囲んで4人の男女が座っていた。テーブルの上には、一通の手紙と添えられた写真が置かれている。写真に写っているのはゼロとはやてであった。
何処と無くぴりぴりした空気の中、白髪に髭を蓄えた初老の男は、対面に座っている青年に問い掛けた。
「では君は、この少年がそれ程危険だと言うのかね…?」
「はい… この少年は本来、この世界に存在してはならない者… まさか『闇の書』の主の所に居るとは……」
青年は静かに頷き、写真のゼロを険しい眼差しで見据える。
「それじゃあ、あたしらに今出来る事はないのかい?」
初老の男の後ろに立っていた、双子らしい若い女性の片割れが、幾分困惑した様子で聞いて来た。青年は頷き、
「今の所は…でも このまま行けば 『闇の書』覚醒の前に一波乱あるかもしれない……」
「分かった…君の言う通り、今は静観しよう 孤門君……」
初老の男は青年に、そう呼びかけた。
つづく
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